はじめに
みなさんこんにちは、本野鳥子です。前回予告した、「トムは真夜中の庭で」が、家に見当たらないので、十二国記の再読をしていきたいと思います。まずは、「魔性の子」から。十二国記の0巻とされる作品です。ネタバレが多少ございます。未読の方はご注意ください。それでは今回も、お楽しみください!
「魔性の子」小野不由美(新潮文庫)
私は、十二国記を読み始めようと思い立ったとき、「月の影、影の海」から手をつけた。そして、0巻であるこの作品は、当時刊行されていた最新刊「黄昏の岸 暁の天」まで読み終わってから、読んだのである。私は、ホラーを読まず嫌いしていたのだ。今もその傾向は失っていない。
全く、後悔してもしきれない! 十二国記を通読されたことがある方ならお分かりだと思うが、「魔性の子」で高里につきまとう影の謎が、十二国記、特に第2巻である「風の海 迷宮の岸」を読んだ後では、あっさりと分かってしまうからなのだ。これからお読みになる方のために詳述は避けるが、「魔性の子」を読むなら、十二国記の一番最初に読んでいただきたい。それでこそ、この作品のぞくぞくする恐怖が、存分に味わえるというものだ。本当に、単なるホラー嫌いなどで避けるのではなかったと、過去の自分を責め立てたい気分である。
ともかく、そんなホラー嫌いで、最初に読んだときは、「魔性の子」を後回しにした私も、今回はこの作品から読む。昨年刊行されたばかりの「白銀の墟 玄の月 一~四」も含めて再読するにあたって、また、十二国記を充分に楽しむためには、やはり刊行順で読むのが一番だと思うからだ。できることなら、一度十二国記の記憶を全部消して、この作品を読みたいところだが、あいにくそれはできないので、形だけでも「魔性の子」から読み始めた。
この作品の中で、教育実習のために母校で教えることとなった広瀬は、変わった生徒に出会う。それが、重要な登場人物となる、高里だ。高里は、幼いころ、一年間忽然と姿を消したことがあるという。まさに、「神隠し」としかいえない現象だった。その彼は、「祟る」とされて、周りから孤立していた。その噂通り、高里の身の回りに、次々と惨劇が引き起こされていく……という筋立てになっている。
しかし、あくまでもこの話の主人公は広瀬だ、と私は思っている。作品の中では、「故国喪失者」と呼ばれる広瀬だが、彼は昔に死にかけたことがあり、その間に見た世界を、ずっと追い求めている。そして、その世界に「帰りたい」と熱望しているのだ。広瀬は、高里に自身とよく似た境遇を見るのだ。
さて、教室で最初に広瀬が出席を取る際、
「タカサトと読んでいいんですか」
と広瀬は高里にたずねる。この言葉は、何気ないようでいて、私にとってはとても重く響いた。高里の読み。それは、高里にとって、広瀬の世界の「自分」と、幼いころに逢った神隠しの世界を分かつ要素のひとつなのだ。しかし、高里自身は神隠しの間の記憶を失ってしまった。だから、
「彼」はただごく短く、はい、とだけ答えた
のである。少々深読みしすぎな感も否めないが、私にはそのように感じられた。
また、誰しも、あるがままの自分を受容してくれる世界というのは、一度は夢見たことがあるかもしれない。私も、様々な作品の世界に触れ、この世界で暮らしてみたい、と思うことは多々ある。いわゆる「故国喪失者」の感情だ。
だが、この作品では、選ばれた者だけが帰る。故国に帰ることを夢見る私たちに、厳然たる事実を突きつけてくるという残酷さも、この作品の中には潜んでいるのだと思う。しかも、これはまた別の巻の話になってくるが、高里の世界も、高里をあるがままに受け入れてくれる世界ではなかったのだから……。
おわりに
ということで、「魔性の子」の再読でした。繰り返し読んだ本って、どんどん読むのが早くなってしまって、じっくり味わえる気がしませんね。
次回は、十二国記の一巻、「月の影 影の海」です。上下巻を分けるかは、ちょっと分かりませんが、またお越しください。最後までお読みくださり、ありがとうございました。