はじめに

 みなさんこんにちは。本野鳥子です。今回は、前回に引き続き、十二国記の再読です。十二国記再読の初回はこちら。短編集「丕緒の鳥」に収録されている、「落照の獄」についてです。ネタバレございますので、未読の方はご注意ください。それでは、今回も壮大な十二国記の世界へ、参りましょう!

 

「落照の獄(「丕緒の鳥 十二国記 5」所収)」小野不由美(新潮文庫)

 舞台は、十二国の中の一つ、柳。法治国家として名高く、100年以上続く王の下、ある一つの裁判が展開されようとしていた。人を殺すこと、23人。かつてない凶悪犯の狩獺を裁くこととなった国官の瑛庚は、死刑を叫ぶ民衆と、慎重論を崩さない高官たちの間で葛藤する。死刑である大僻は用いないとした、劉王の方針を覆しても良いのか。国に死刑の乱用を許してしまっても良いのか。瑛庚の判決は一体どうなるのか。

 

 沈みゆく国と、回復に向かう国。その対比が「丕緒の鳥」と「落照の獄」に現れているような気がする。劉王の意思はどこにあるのか、判然としないまま裁判は容赦なく進んでいく。妖魔さえ出没し、悪天候が襲うようになった柳は、実はすでに滅亡への道を歩み始めているのかもしれない。

 

 そんな中、死刑の可否について、三人の国官が議論をぶつけあう。それはそのまま、現実の世界での死刑についての議論に被って見え、十二国記の世界のリアリティには相変わらず驚愕するばかりだ。

 

 そして、この短編では、裁判ばかりでなく、瑛庚の家族模様にも焦点が当たっている。8歳の李理に、妻の清花、孫の蒲月と瑛庚の周囲の人物を通して、柳の国情も見えてくる。

 

 柳に、何が起こっているのか。それは未だ謎のまま、十二国記の世界に暗い影を落としている。この問題が明かされる日が来ることを、切実に祈っている。

 

おわりに

 というわけで、「落照の獄」についてでした。

 ところで、「漂舶」というタイトルの十二国記の短編をご存じでしょうか。前に発売されて今は絶版となっている「東の海神 西の滄海」のドラマCDの付録として、書き下ろされた短編のようです。まだ読んだことがなく、いつか読みたいと思っているのですが、望み薄で……。次に新潮社から発売される短編集に収録されているといいなあ、と願うしかなさそうです。

 

 さて、次回は「丕緒の鳥」の「青条の蘭」です。またこのブログに来ていただけると嬉しいです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。