Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 ! -35ページ目

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

2022年の“リアルライブ”の締めと2023年の“リアル配信ライブ”の始まりはリクオだった。神の“差配”か――。リクオをちゃんと聞きだして、まだ数年しか経ってないが、知らぬ間に自分の中で重要なアーティストになっていた。同時にコロナ禍にも拘らず、自らの創意と工夫と意欲と努力と仲間の理解と協力で音を届け続けている。コラボレーションやバリエーションにも果敢に挑んだ。だから、いままで以上にその音に触れる機会も増えたのではないだろうか。

 

昨2022年12月26日(月)は高円寺の老舗ライブハウス「次郎吉」にリクオ、Dr.kyOn、伊東ミキオが集結。ピアノでロックンロールする3者の夢の競演「リクオ・プレゼンツ 〜 JIROKICHI HOBO CONNECTION 〜 第2夜 CRAZY PIANO NIGHT」を思い切り、堪能する。同ライブについて、彼のSNSには“3人のクレフィン・スタイル”と出ていた。「クレフィン・スタイル」の意味がわからず、散々、検索したところ、過去にリクオは伊東ミキオとのデュオライブで、“二人クレフィン!(CRAZY FINGERS)”という表現を使用している。クレフィンはクレイジー・フィンガーズの略だったのだ。ライブでは3人が揃って、掌を拡げてピアノを弾くポーズ(ちょっと、ゾンビみたいだった!)していた。漸く納得だ。お馴染みの方には何をいまさらかもしれないが、小さなことが気になってしまうのが私の悪い癖(!?)。今回は“Dr.kyOnが加わって、キョンさん、ミキオ君と一緒にピアノ3台クレフィン・スタイルで弾けまくり”という。

 

会場の高円寺「次郎吉」は新宿「ロフト」、渋谷「屋根裏」などとともに数多のアーティストが日本のロックの歴史に残る名演を繰り広げていた場所。ジャズやブルースの名演も数限りない。最近では山下達郎のアコースティックライブが行われ、話題になった。次郎吉を訪れるのは久しぶりだ。30年以上前に同所で山岸潤史や近藤房之介などのライブを見た記憶がある。会場に入ると、思っていたより、狭く、驚いてしまった。しかし、ライブハウス独特の“香り”が漂う。5年ほど前に池畑潤二のイベントで京都「磔磔」を訪れた時もそうだった。

 

枕が長くなったが、会場は立錐の余地もなく、多くの観客が詰めかけていた。年齢、性別を問わず、多彩な人達が詰めかける。意外と若い方(いい音楽を聞いていると若く見えるのか!?)が多かった。彼らの音楽の広がりを感じさせる。

 

ライブは休憩ありの2部構成だが、3人の揃い踏み、リクオと伊東ミキオ、伊東ミキオとDr.kyOn、Dr.kyOnとリクオのデュオ、3人のソロ……と、入れ替わり、立ち替わりでステージは目まぐるしい。しかし、「ミラクルマン」「(リクオ)、「try again」(伊東ミキオ)、「魚ごっこ」(Dr.kyOn)などのオリジナルから「Anarchy in the bayou」(セックス・ピストルズ)、「火の玉ロック」(ジェリー・リー・ルイス)、「Jesus on The Main Line」(トラディショナル)などのカバーまで、心と身体を躍らすナンバーがこれでもかという感じで繰り出される。ピアノでロックンロールすることを教え、2022年10月28日に亡くなったジェリー・リー・ルイスの「Whole Lotta Shakin' Goin' On」や「火の玉ロック」の披露は彼への愛あるトリビュートであり、同時に「ルイジアナ・ブレイクダウン」や「Jesus on The Main Line」(ライ・クーダーがカバーしている)などはドクター・ジョンやプロフェッサー・ロングヘアなどを彷彿させる。“祭り”の消えたこの街にそこだけニューオリンズのマルディグラの熱狂と興奮と祈りが出現したかのようだ。アンコールの最後に3人はリクオの「光」を演奏している。何かと、世知辛い世の中に一筋の光明が差したような瞬間だった。自分にとって、2022年がいい年だったか、悪い年だったか、よくわからないが、少なくともその年末はいい気分で過ごし、年明けを迎えたことは確かのようだ。

 

ピアノという楽器の奥深さとアメリカの深南部の音楽の豊穣さを改めて、リアルで体験することができた。リクオには『リクオ&ピアノ』(2010年)、『リクオ & ピアノ2』(2021年)という“ピアノの弾き語りシリーズ”のアルバムがある。出来ればその拡大版として“クレフィン・シリーズ”のアルバムも出してもらいたいもの。

 

この日、会場ではリクオがこれまでSNSで呟いた言葉をピックアップし、新たな書下ろしを加えた初の書籍「流さない言葉① ピアノマンつぶやく』が販売されていた。本人自ら“行商”と言う通り、会場の入口(にして出口)のカウンターで実演販売(!?)も行われる。帰り際、誰もが彼と言葉を交わすことができる。私は既に彼のHPから購入済み(書籍とともにポストカードも封入されていて、そこには私の名前とともに「ありがとうございます」と書かれていた)、誇らしげ(笑)にそのことを告げた。彼の本は常にリュックに入れてある。つまみ読み状態だったが、帰りの電車の中で飛ばしていたところを一気に読んだ。

 

 

 

2023年の年が明けた。既にブログなどでも書いたが、正月は視聴チケットを購入したまま、見ていなかった配信ライブのアーカイブを「箱根駅伝」と「孤独のグルメ」の合間に一気に見ている。しかし、配信ながらアーカイブではなく、リアルタイムで視聴する“リアル配信ライブ”は、2023年1月8日(日)に京都「CAFE&BAR OBBLi」で行われた「~ リクオ初書籍「流さない言葉① ピアノマンつぶやく」出版記念ライブ(有観客&配信)from 京都一乗寺 ~」だった。だから2023年の“リアル配信ライブ”の始まりはリクオになる。勝手ながらいい幕開けではないだろうか。

 

出版記念ならば、まずは簡単にリクオの初書籍「流さない言葉① ピアノマンつぶやく」を紹介しなければならないだろう。彼のHPには“ツアー暮らし、震災、コロナ禍……この11年間の日々に書き留めた“備忘録”。(中略)東日本大震災と福島第一原発の事故が起きた2011年3月から、ロシアがウクライナに侵攻して半年が過ぎた2022年8月までの約11年間、自身のTwitterアカウント@Rikuo_officeに投稿した“つぶやき”から292をピックアップ。それらの言葉を振り返り、背景を伝えようと綴った25,000字の書き下ろしを加えました。”とある。山口県岩国市にあるショップ「himaal(ヒマール)」から出版されている。同店はクラフト、文具、雑貨、本、CD、レコード、焼き菓子などの販売から、読書会、企画展、トークイベント、ライブの開催、そして本の出版までしている。総ページ数は216。判型は文庫版。ページもサイズも旅のお供には最適である。表紙イラストはナカガワ暢。いい意味で質素な装丁は悪目立ちせず、しっとりと道中に寄り添ってくれる。

 

無造作に見えて、考えられて並べられた言葉たちはそのまま歌になる、そんな佇まいがある。人前では無理そうだが、人気のない海や山、広大な野原、沈黙に沈む街中で声を出して読んでみたくなる。残念ながら外では試していないが、家で一人、風呂に浸かりながら試したところ、自然にメロディーとリズムが喚起される。その言葉には不思議な力が宿っているのだ。

 

いろいろあったこの11年間。未曾有の出来事が起こり過ぎた。世の中の理不尽と自らの不甲斐なさに打ちのめされそうになるが、なんとか、引き留めてくれる。ここに書かれた彼の言葉すべてに共感することはないかもしれないが、圧倒的に頷くものばかり。心の奥底ではどこか、繋がっているような気さえする。怒りや憎しみ、拒絶や罵倒など、拙速に答えを出して声高に叫ぶことなく、沈思黙考しながらも言うべきことはちゃんと言う――そんな姿勢が貫かれる。見習いたいものである。

また、“つぶやき”に私の敬愛するたこ八郎の「迷惑かけてありがとう」やみうらじゅんの「生まれた瞬間から余生。だから人生自体を『グレイト余生』と呼んで生きていく。年齢を聞かれたら『小学五十二年生』と答えるなど、楽しく考える」、ニック・ロウの「平和と愛と相互理解について語ることの何がおかしいねん」などの“言葉”が引用されているのも嬉しい。

 

手に取りやすく、持ち運びしやすい。勿論、内容は時期的に重いものもあるが、全体としては軽やかである。読後は満足感と爽快感を抱く。いくつかの言葉は胸に突き刺さる。是非、手に取っていただきたい。ライブ会場での販売やリクオやhimaal(ヒマール)のHPでも購入可能だ。

 

その発売記念ライブは京都だけでく、岩国の「himaal(ヒマール)」でも1月14日(土)に開催されたが、その初日はリクオの配信ライブの始まりの場所である京都「CAFE&BAR OBBLi」だった。開演時間になると、同店の前に佇むリクオが風景とともに映し出され、店に入って来る。日はまだ、高く、明るい。ピアノ越しに街の景観を見ることができる。この日はリクオのソロ。ピアノに向かい、彼が弾き語る。配信チームはこの2年半、リクオと行動を共にした「一乗寺フェス配信チーム」改め、「PLANNING+DOP Inc.」、「studio tms あの三谷」が制作を担当している。彼らは、ライブを映すだけでなく、空気や風景も切り取る。そこに物語が生まれる。それだけで安心できるというもの。

 

第1部は「また会えてよかった」や「君を想うとき」など、お馴染みのオリジナルが披露される。中にはつぶやきの中から生まれたものもあるだろう。「流さない言葉① ピアノマンつぶやく」を副読本に彼の歌を聞くと、その景色もより鮮明に見えてくる。リクオはピアノを弾き語りながら初の書籍やこの配信ライブへの思いを言葉にする。歌われる言葉と書き留められた言葉と語れる言葉が共振していく。

 

第2部は『リクオ&ピアノ2』に収録された「新しい町」(カンザスシティバンド)や「実験4号」(Theピーズ)、「満月の夕」(中川敬&山口洋)などの他、井上陽水の「氷の世界」や小坂忠の「機関車」、遠藤ミチロウの「Just like a boy」などもカバーする。特に震災以降、自らの故郷、福島に拘り、ギターひとつで全国を回った遠藤ミチロウの曲を尊敬と愛情を込め、ピアノひとつで弾き語る。そしてリクオがウルフルケイスケらと結成したMAGICAL CHAIN CLUB BANDの「アリガトウ サヨナラ原子力発電所」を歌う。豊かさとは何かを考える。全国を旅する中で見えてきたものがあり、それが歌になる。“HOBO SONG”そのものだ。

 

後半から大団円へ向かって、「オマージュ - ブルーハーツが聴こえる」や「酔いどれ讃歌」など、リクオの名曲というだけでなく、私達にとって“アンセム”とでもいうべき大事な曲達を惜しげもなく観客へばら撒く。HONKY TONKを想い、HOBOに明け暮れるRAMBLING PIANO MANの面目躍如である。かつて、ランディー・ニューマンを聞いて、その深い沼に嵌ったのと同じ“MOJO”がある。ライブが終わると、外は日が暮れ、すっかり暗くなっていた。

 

このライブ、明日、1月22日(日)までアーカイブ視聴が可能だ。もし、お時間があれば是非、ご覧いただきたい。今回、同日の配信ライブだけでなく、これまでの配信ライブのスペシャルダイジェスト(40分)も視聴可能。同ダイジェストには既に伝説となっているこの6月に行われ、南三陸さんさん商店街に置かれたストリートピアノを急遽、使用することになったライブも収録されている(その顛末は初書籍のため、新たに書き下ろした「物語は続く――南三陸・月と昴の奇跡」に詳述されている)。これは必見だ。リクオがある人生とリクオがない人生、大差などないと思いがちだが、それは大間違いではないだろうか。

 

 

 

 

 

https://twitter.com/Rikuo_office/status/1615991465280425985

 

 

配信視聴は1/22(日)まで。

https://planningdop.hedgehog.live

 

 

リクオ・オンラインショップ 

http://rikuoshop.thebase.in

 

himmal(ヒマール)

himaar [ヒマール] – Something good. Something fun. ちょっといいもの。なにかたのしいこと。

 

先日、1月10日に発売された音楽プロデューサー、井出靖の自伝『Rolling On The Road 僕が体験した東京の1960年代から90年代まで』が話題になっている。内容に関しては昨年末、同書の小見出しを引用して、簡単に紹介した。彼が見たリアルな東京の風景が活写されている。また、“渋谷系”と呼ばれる、音楽とクラブのカルチャーなども彼の存在なくしてはいまのような形になっていなかったことを再確認させてくれた。プロフィールなどで「現在のシーンを形成する音楽的動勢に常に深く関わってきたプロデューサー、アーティスト」と紹介されているが、彼のしてきたことがすべていまへと繋がる。稀有な存在だろう。井出靖がどのようにして作られたか――それを探る鍵が同書にはある。

 

“奥田民生になりたいボーイ”という言葉があり、そんな漫画や映画(『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』)もあった。“井出靖になりたいボーイ”がいるかわからないが、同書を読んで彼の生き方に憧れるものも出てくるのではないだろうか。

 

彼の“ビルディングストーリー”の中でも“肝”になるのが、カセット・マガジン『TRA』での体験。同書では同時代を懐古するだけでなく、“TRA”を作ったデザイナー、ミック・イタヤ、写真家、伊島薫と、井出との鼎談も掲載されている。“TRA”の発足の契機や当時の活動などが手にとるようにわかるだけでなく、読んでいて、勇気付けられるものもあった。同プロジェクトの発起人であり、いまは亡き式田純の“むちゃぶり”や“お任せ”に翻弄されながらも“無理難題”をクリアしていき、井出靖は井出靖になっていった。

 

 

そんな“TRA”に興味を持って検索していたら、当時の記事が出てきた。それは「いま、カセットはおもしろくなってきている」という言葉から始まっている。当然、昨今のカセットブームを取り上げたものではない。これは30年近く前に私が編集した伝説の音楽雑誌(笑)である『MUSIC STEADY』の1983年12月・1984年1月合併号で「CASESET BOOKS AS NEW MEDIA『伝える道具』としての特性が確立されてきたカセット」という特集で、ライターの堀ひろかずが記事の巻頭に書いた言葉である。

 

改めて同誌を倉庫から探し出してきた。端正な容貌と洗練された音楽で人気を博したシンガーソングライター、山本達彦が表紙の号、合併号ということでサービスとして本誌と同じ表紙、サイズ、ヴォリュームのノートをつけていた。同記事は当時、注目を集めていたカセット・ブックやカセット・マガジン、自主制作カセットなどを特集したもので、“TRA”だけでなく、坂本龍一の『Avec Piano』やEP-4の『制服・肉体・複製』なども紹介している。同時にテレグラフやペヨトル工房にも取材している。“TRA”に関しては、誌面には“TRA PROJECT”とだけ記載されているが、堀ひろかずに改めて確認したところ、式田純だったそうだ。彼の西麻布のオフィスで取材をしているという。同特集をスキャンして、改めて公開する。当時の雰囲気を味わっていただけると思う。“TRA”はテキストに起こしたが、それ以外はスキャンに留めた。JPEGにしているので、スキャン原稿も読めるはず。楽しんでいただけたなら幸いである。改めて転載を快諾してくれた堀ひろかずには感謝である。

 

 

 

 

 

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Ⅲ カセット・マガジン“TRA”

 

ニューアーチスト・カタログと銘うたれたカセット・マガジン“TRA”は1982年の夏号からスタートしている。 ARTをひっくりかえしてTRA、 スタート時のメンバー3人の“トラ”イアングルにもひっかかるし、「トラ」と読んだ時に日本語の響きがあるのも気にいって名付けたそうだ。 ファースト・イシューに収録されたのは、立花ハジメ、ZAZOU、SPOIL、LIVE AT MONKBERY’S、これらの音楽と本の留守番電話テープと平野威馬雄氏へのインタビュー。特集中心のマカジン、といった仕上りだった。28ページのブックレットは大半が広告で占められている。制作のTRA PROJECTに話をうかがった。

 

 

「何かやりたいね、から始まった。ビデオをやろうか、とか言ってたんだけど、 カセットならできるんじゃないかってことでカセットを始めたんです。これから活躍するアーチストたちを、総合的に紹介するために、音とビジュアルが必要だった。音とビジュアルのカルャー・マガジンにしたかった」

 

 

確かに1号目の立花ハジメやSPOIL、2号目のメロンやサロン・ミュージック、3号目のヤン・トミタ、東京ブラボー、ワールド・スタンダードといった活きのいいアーティストをこの“TRA”で知った人も多いはずだ。さらに、CM入りテープ、凝ったアート・ワークなど、新しい試みや感覚も、ファンを惹きつけている。

 

 

「要するに趣味でやってるんです(笑)。 今僕らがやってることが受け入れられて、拡がっていけば住みやすい世の中になるという(笑)。それが結果としてみれば芸術運動になってると思う。やり始めた時にはそんな気はなかったけど、聴いてくれる人がいて共鳴してくれる人がいて、“TRA”自体もどんどん登ってゆくから。ただ、それは今まであった“芸術”ではないし、今とり沙汰されている“アート”でもない。それが“TRA”の名前の由来でもありますけど。あと啓蒙でもないし。啓蒙なんてされたくないし、するのもイヤだ」

 

 

アーチストは“TRA”という発見の場をを中心にして、持ち込みで、スタッフがライヴを見て、また独自ルートによって海外からも集まってきている。そんなアーチストをより詳しく紹介するために“TRA SPECIAL”が始まった。ショコラータを第一弾とし、ドイツ音楽(『ドイツVOL.1』ベルリン特集)をリリース、さらにカセットや写真だけでは紹介できないアーチストの作品にじかに触れて、買ってもらえるためのアートショップ“TRA MART”へと、カセット・マガジンから始まった“TRA PROJECT”は発展しつつある。

 

 

「もっといろんなカセット・マガジンがあっていいと思う。“TRA”としては、あと何年かやって、その時点でほかに出てきてるか出てきてないかは関係なく、別のメディアを生みだせるのがいちばん望ましい。カセット・マガジンはその第一段階だね」

 

 

たしかに、 カセットはおもしろくなってきている。これからはさらにさまざまな人たちがさまざまな内容、方法でカセットにアプローチしてくることが考えられる。カセットは単に表現を伝達する「手段」でしかない以上、何を、どうやって、どのように表現してゆくか、送り手側の意志がはっきりとしていれば、音を中心に可能性はさらに拡がるはずである。自主制作カセットや、カセット・マガジン、カセット・ブック百花繚乱の時代は、 はたして訪れるのだろうか。

 

 

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なお、井出靖の自伝「Rolling On The Road 僕が体験した東京の1960年代から90年代まで」はアマゾンなど以外にも以下で購入可能。トートバックやオリジナルTシャツ付きのものもある。お勧めだ。

 

 

「Rolling On The Road 僕が体験した東京の1960年代から90年代まで」井出 靖

 

https://grandgallerystore.com/items/6381caf24292bf4ecdc42c88

 

 

 

 

 

Special Tanks To Junichi Yamada

 

2023年が明けた。昨2022年の正月は“ヒカシュー三昧”だったが、今年は「箱根駅伝」と「孤独のグルメ」と配信チケットを購入しながら視聴していなかった配信イベントをアーカイブ終了間際に駆け込み視聴。そんな積み残し達は追い追いリポートする予定だが、それ以前、昨年12月4日(日)に開催され、後日、配信で視聴して、そのままになっていたイベントをリポートしておく。トントンマクートやEli and The Deviantsなど、「穴山淳吉」(下山淳+穴井仁吉)を追いかけているものなら見逃せないライブがあった。

 

 

高橋浩司という“MUSIC MAN”がいる。下北沢の人気ライブハウス「Club Que」のブッキングマネージャーだ。一般の方にはPEALOUTの元ドラマーとして知られている。同バンドは1994年に結成され、1998年にはポニーキャニオンからメジャーデビューしている。その鋭角的な音と独自の活動で、90年代に一世風靡し、2005年の「FUJI ROCK」のステージで華々しく散った。“レジェンド”とでもいうべきバンドだ。PEALOUT解散後、高橋はHARISS、REVERSLOW、DQSなどのバンドでの活動のほか、矢沢洋子率いるPIGGY BANKSなど、様々なバンドのサポート。同時に前述通り、ブッキングマネージャー、プロデューサー、DJ、レーベルオーナーなど、“裏方”としても活躍。下北沢界隈では知らぬものはいない、隠れた(!?)大物である。

 

 

高橋は1967年12月4日、品川で誕生した。幼少期は約1年間、ソビエト連邦にて過ごしたらしい。昨2022年12月4日(日)に55歳になっている。その誕生日を祝うイベント『Go! Go! KOJI 55 ~高橋浩司ステージから降りません宣言!~』が同年12月4日に彼の“ホームグラウンド”である下北沢「CLUB Que 」で開催された。

 

 

実は5年前、2017年12月4日(月)、同年12月8日(金)の2日間に渡って、同じく下北沢「CLUB Que」でバースデーイベント『50祭!』が開催されている。同イベントにはPIGGY BANKS、TH eCOMMONS、THE TURN-TABLES[TARSHI,+近藤智洋,+RYOTA,+高橋浩司]、東京パンクス[仲野茂+ヤマジカズヒデ+百々和宏+市川勝也,+高橋浩司]、武藤昭平+清野セイジ+ウエノユウジ+高橋浩司……という豪華なメンバーが参加している。

 

 

この日、2022年年12月4日(日)のバースデーイベント『Go! Go! KOJI 55 ~高橋浩司ステージから降りません宣言!~』もHARISS[Guest Vo矢沢洋子]、KT&トントンマクート[延原達之+下山淳+穴井仁吉+高橋浩司]、沖野郷太と杉山[杉山正明+西寺郷太+沖野俊太郎+青木ケイタ+筒井朋哉+小里誠+高橋浩司]、keme……という前回同様、錚々たるメンバーが集まった。当初はイマイアキノブの出演が予定されていたが 体調不良のため、代わりにkemeが出演することになった。いずれも高橋と面識、交流のあるものばかり。“仲間”のために駆け付ける。いかに彼が愛され、慕われているか、わかるだろう。すべてのセッションにKTこと、高橋浩司がドラマーとして出演。文字通り、“高橋浩司ステージから降りません”という状態だ。

 

 

ステージには急遽、出演することになったトーキョーキラー、PIGGY BANKS のギターで頭脳警察関係のライブでもお馴染みのkemeが登場。突然のお誘いにも関わらず、喜んで出演させてもらったという。彼女のレトロでフォーキーなサウンドを高橋はシェアな演奏でサポートする。同セットにはPIGGY BANKSのヴォーカルの矢沢洋子も加わる。華やかな始まりである。

 

 

オープニングに続いて、筒井朋哉(G)、小里誠(B)、青木ケイタ(Sax)、そして高橋(Dr)というラインナップに下北スミスの杉山正明が加わり、スミスのナンバーを披露する。会社員生活をしながら音楽活動を続ける杉山だが、旧友との再会(!?)、手練れのメンバーをバックに思い切りくねくねする。モリッシーを彷彿させる落ち着きのなさで見事なカバーを聞かせてくれるのだ。

 

杉山の後はノーナ・リーブスの西寺郷太が登場。西寺と高橋はデビュー前からの知り合いで、ライブだけでなく、プライベートでも盟友(悪友!?)関係にあったという。ライブ終わりには高橋の車で家まで何度も送ってもらったそうだ。ドラムスで器材が多いのにも関わらず、小さな車で窮屈だったと述懐する。まだ、野望を抱えながら格闘していた時代の話を懐かしそうに語る。そんな下北沢の90年代のライブシーンとミュージシャンの交流の物語はこの1月25日に西寺が上梓する自伝的小説『90's ナインティーズ』(文藝春秋)に語られるという。ライブハウスやバンドなども実名で登場するらしい。勿論、高橋も出ているという。同書の惹句には「あらゆるメジャー・レコード会社のディレクターやスカウトマンが集まった1990年代後半の下北沢のライブハウス。すべてのミュージシャンの目前に巨大なルーレットが置かれていた。」と書かれている。

 

西寺は同イベントについて“君から誕生会に誘われ、小説に描いた95年の夢みたいなメンバーと共にデヴィッド・ボウイ二曲歌います!”と呟いている。そんな時代を再現してみせる。デヴィッド・ボウイがナイル・ロジャースと作ったアルバム『レッツ・ダンス』(1985年)のファンキーなナンバーをカバーする。きっと、当時もカバーを楽しみつつ、オリジナルを模索していたのではないだろうか。

 

西寺に続き、Venus Peterで活躍した沖野俊太郎が登場する。小山田圭吾との交流やトラットリアからのリリースで知られる彼は、1989年にストーンローゼスに刺激を受け、当時滞在していた米国ニューヨークから渡英、ロンドンに滞在している。同時代を席巻したダンスとロックの新しいムーブメント“Madchester”(マッドチェスター)に大いに影響を受けて日本に帰国している。沖野はストーンローゼスとクラッシュのナンバーをカバーする。90年代のマンチェスターのムーブメントと下北沢が重なる。こじつけめくか、マンチェスターの若者の発信を極東の島国、それも渋谷から京王井の頭線で5分ほどの下北沢で受信したものがいた。そんなことを改めて感じさせるのだ。

 

 

そして、KTこと、高橋浩司が参加するKT&トントンマクートである。佐々木茜や梶浦雅弘をドラマーに迎え、アカネ&トントンマクート、KJ&トントンマクートとしてライブしてきた下山淳、穴井仁吉、延原達之の3人。この日はドラムセットには高橋が座る。彼は下山や穴井、延原などとも関わりは深い。高橋は2012年に立ち上げた自らのインディーレーベル「LookHearRecords 」から2014年にTHE PRIVATESの結成30周年を記念したトリビュートアルバム『PRIVATE LESSON~THE PRIVATES Tribute~』をリリースしている。当然、同アルバムには高橋のHARISSを始め、THE NEATBEATS、OKAMOTOS、ウルフルケイスケ、武藤昭平withウエノコウジなどが参加している。また、高橋はSHINYA OE AND THE CUTTERなどにも参加していた。下北沢は鮎川誠にとって、久留米、若松に続く、第三の故郷になる。福岡出身のミュージシャンも鮎川を慕い、同所を訪ね。時にはここは親不孝通りかと思うようなライブも行われている。東京と福岡のビートシーンが交差する。高橋にとって彼らは憧れの先輩になるが、変な上下関係ではなく、しなやかに世代を繋ぐ。この日も自らのヒーローとの共演に気圧されることなく、すっかり、しっかりとバンドのメンバーとして収まる。いい意味で、バンドは通常営業。お馴染み穴井劇場もしっかり楽しませてくれる。トントンマクートらしいルーツロックを深掘りしながらもエンターティンメントを提供していく。これもパンク一色ではない、高橋の幅広い音楽性があってこそのことだろう。彼らをサポートするにはロックは当然として、ブルースやソウルなどの基礎教養も当然、必要である。本当のところは怖い先輩との共演で、緊張をしていたのかもしれないが、傍から見ると偉大なる先輩たちとの共演を思い切り、楽しんでいるようだ。勿論、そのキャリアを振りかざさない3人とのセッションだからこそだろう。最後は彼らの十八番の「DO THE BOOGIE」から「Mojo Walkin‘」へ。見事な締めだった。

 

 

最後の締め、トリを務めるのは高橋自らのバンド、HARISSである。伝説的なロカビリー・バンド「SIDE ONE」のAKIRA(Vo)とYUJI(Wood Bass)、元THE COLTSのSEIJI(G)、元PEALOUTのTAKAHASHI(高橋浩司)による“パワーポップとスウィングを融合させた独自のサウンドを追求する”と言われるHARISSは2006年に結成され、活動を開始。積極的なアルバムやDVDのリリースと精力的なライブ活動で、下北沢の人気者となる。2016年に活動を休止し、昨2022年9月に6年ぶりに復活。当初はONE NIGHT STANDの予定がこの日も再びの復活になった。

 

ファースト・アルバム『POP SAVE US』(2007年)から「LOVE SAVE US」、「LOOSER」、「LADY BIRD」、「内心ガール」、セカンド・アルバム『VIVIENNE』(2008年)から「VIVIENNE」、「SANFRANCISCO」、MUSIC TRACKとMOVE TRACKを収録したアルバム『BELIEVE US』(2012年)から「TWISTIN’ DISCOTHEQUE」、カバーコンピレーションアルバム『COVER TO THE PEOPLE』(2008年)から「HUSH」(DEEP PURPLEのカバーだが、KULA SHAKERもカバーしている。ちなみに元々はアメリカのシンガー&ギタリストのジョー・サウスの作品で、オリジナルはソウルシンガー、ビリー・ジョー・ロイヤルになる)……など、まさに“BEST OF HARISS”というセットリストである。矢沢洋子も加わり、スマートなロックンロールとスタイリッシュなロカビリーの野合とでもいうべきものを聞かせてくれる。そのオリジナルなサウンドが心と身体を心地良く揺らす。

 

6年の活動休止を経て、昨2022年は2回しかライブをしていないとは思えない、バンドとしての充実ぶりである。高橋を始め、メンバーは嬉しそうに演奏をし、それを見守る観客も笑顔になる(配信のため、客席が見えないので想像だが、間違いないだろう!)。高橋の誕生日であるとともに彼らの新しい誕生日のようにも感じる。最後のアンコールには出演者全員で「TWIST AND SHOUT」を“ツイスト”し“シャウト”する――と書くと、決め決めな感じになるが、いい意味で混沌として、ぐだぐだと言うか、緩いところがいかにも“らしい”のだ。かっこうをつけるだけでなく、無防備に素を曝け出す。それができる場所が下北沢なのかもしれない。

 

高橋浩司のバースデーイベントを体験するだけではなく、何か、90年代と2020年代が繋がる下北沢という街の物語を見たような気がする。この街は日々、新しく生まれ変わりつつ、変わらないものを奥底に抱く。そんな物語の重要な役どころを高橋浩司が担っている。このイベントを体験したものは誰もがそう感じるはずだ。彼が関わる新しい物語の誕生を心待ちにしている。

 

 

高橋浩司のことを長々とあれやこれや書いてきたが、私自身は彼とはちゃんとした面識や交流はない。実際に話したのは、昨年5月に下北沢「Club Que」にEli and The Deviantsのライブがあり、同所に井出靖の新作『Cosmic Suite2 - New Beginning -』のリリースを記念したドン・レッツのロゴがプリントされた限定Tシャツを着て行ったら下北沢「CLUB Que」の方に格好いいと誉められた。そのことを呟いたら彼からレスがあった。声を掛けてくれたのが高橋だったのだ。会った際にはお互いに自己紹介もせず、一言、二言だけだった。その後、彼が高橋浩司で、PEALOUTのメンバーだったことを知る。実際にライブを見たり、取材などをしたわけではないが、同バンドとは多少、縁があった。1997年にマーク・ボラン生誕50周年を記念してリリースされたT.REXのトリビュートアルバム『BOOGIE WITH THE WIZARD』(マーク・ボラン生誕70周年、没後40年というメモリアルイヤーになる2017年9月13日にリイシューされた)にコーディネイターとして関わっている。同アルバムにはちわきまゆみが参加し、「ザ・スライダー 」をカバーしている。そのバッキングを務めていたのがPEALOUTだった。“ちわきまゆみ sing with PEALOUT”とクレジットされている。同アルバムのレコーディングのすべてに立ち合ったわけではなく、中にはレコーディングした音源をいただくというものもあった。同曲に関しては後者である。当然のことながら事務所などには感謝を伝えても彼に直接、お礼をする機会はなかった。やはり、いつか、また、会う機会があれば、お礼を言いたい。そう遠くないかもしれない、そんな予感がするのだ。

 

 

 

『Go! Go! KOJI 55 ~高橋浩司ステージから降りません宣言!~』

2022年12月4日(日)

下北沢「CLUB Que」

 

kemeソロ

 

keme+矢沢洋子+高橋浩司

 

らんらんらん / PIGGY BANKS

I WANT CANDY / BOW WOW WOW

 

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G筒井朋哉+B小里誠+青木ケイタ+Dr高橋浩司

 

杉山正明(下北スミス・ex.KOGA)

 

ハンド・イン・グローヴ / ザ・スミス

ディス・チャーミング・マン / ザ・スミス

 

 

西寺郷太(ノーナ・リーヴス)

 

レッツダンス / ボウイ

モダンラブ / ボウイ

 

 

沖野俊太郎(VENUS PETER)

 

シーバングスザドラムス /ザ・ストーン・ ローゼズ

ステイ・オア・ゴー / ザ・クラッシュ

 

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KT&トントンマクート

 

G、Vo下山淳+B、Vo穴井仁吉+Vo、G延原達治+Dr高橋浩司

 

 

1 LIKE A HARRICANE

2 ロージー

3 GET FEEL SO GOOD

4 I WANNA BE LOVED

5 鼻からちょうらん

6 VIOLENT LOVE

7 DO THE BOOGIE

 

En

MOJO WALKIN'

 

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HARISS

 

 

1.LOSER

2. VIVIENNE

3. SANFRANCISCO

 

---with 矢沢洋子---

 

4. HEAT WAVE

5. BREAK AWAY

 

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6. LOVESAVEUS

7.TWISTI ‘DISCOTHEQUE

8 LADYBIRD

 

En

 

HUSH

内心ガール

 

全員

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https://officeque4.wixsite.com/koji-takahashi-50th/biography

 

 

 

HARISS LOVES YOU | UK.PROJECT (ukproject.com)

 

 

 

90's ナインティーズ 西寺郷太

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163916491