少し遅いクリスマスプレゼント、少し早いお年玉。井出靖、初の自伝的単行本が素敵なミニトートに包まれ、彼の「Grand Gallery」から届いた。
『Rolling On The Road 僕が体験した東京の1960年代から90年代まで』とタイトルされた同書は5年を掛けて制作したメモを下敷きにしてnoteに掲載した井出靖のブログをベースに大幅に加筆したもので、出来上がりは四六判で381Pになるという大部の著作である。
少学生時代の1960代から40歳を迎える2000年の誕生日まで――少年時代、学生時代に体験した東京のロックシーン、実際にプロデューサーやアーティストとして関わった日本の音楽シーンが東京生まれ、東京育ちの彼によってリアルな筆致で描かれる。歴史の本を紐解き、予断や偏見、偏向や創作を含む、“学究”に基づいて書かれたものではなく、リアルを体感し現場の空気を吸ったもののみが書けるものである。装飾や虚構ではなく、事実を書き記す。そして、そのシーンの渦中にいたものだけが書けるリアルな物語が同書の中で展開される。井出はそれらを「東京で体験した景色」と呼んだ。
具体的な内容は公開されている60の物語とでもいうべき、目次を参照していただき、実際、読んでいただきたいが、いままで与太話を書き散らしていた方には退散いただく、新たな日本の音楽史の教科書の誕生と言っていいだろう。はっぴいえんど史観(別に同史観を否定するつもりはないが、それ一辺倒には危惧を覚える)が横行する日本のロックヒストリーに辟易としていた方には、我が意を得たりと、溜飲を下げ、合点がいくものではないだろうか。
いずれにしろ、熱狂の誕生の瞬間が生々しく書き留められている。やはり、渦中にいたからこそ、また、時間が経ったからこそ、書けるものと言っていいだろう。東京生まれで東京育ち、それも3代続く江戸っ子となると、俺が俺がみたいな変な自己主張もない。それが井出の奥ゆかしいいところだが、そろそろ、彼が“俺達”の代弁して、その思いを解き放ってくれるのを待っていた方も多いだろう。
また、井出がその活動の原点になっている「TRA時代」を語り合った伊島薫×ミック・イタヤ×井出靖によるTRAをめぐる座談会、そして、牧村憲一×近藤雅信×井出靖という希代のプロデューサーとの約30年ぶりのよもやま話も収録されている。その2つの鼎談も見逃せない。
詳しい紹介は刊行された後にでも改めて書くつもりだが、同書は日本の音楽の歴史の教科書だけでなく、生き方の教科書にもなるのではないかと、勝手に思っている。“生き様”と書くと、彼のイメージに相応しくないので、“生き方”に留めるが、彼の決断や判断、行動や活動に触れると、不思議と胸騒ぎがして、手に汗握り、熱いものが込み上げる。こんな時代に勇気や元気を貰える。同書でも書かれているが、彼は大きな病を経験している。彼は諦めることなく、時間をかけ、病と付き合い、克服している。何者でもないものが何者かになる。そんな物語は夢や希望に溢れる。読めば、彼からたくさんの“力”を貰うはず。いまからでも遅くないと言っておく。
事実、井出の活動は同書に書かれた40代以降も続き、来る2023年には63歳になるが、日本のみならず、世界へと繋がる。40代から60代へは同書の“PART2”を楽しみに待つしかないが、むしろ、彼の存在感はいまや急激に増していると言っていいだろう。同書を手に取る方はわかっているので詳述しないが、「THE MILLION IMAGE ORCHESTRA」や「Cosmic Suite 2」など、このコロナ禍にあっても世界を股にかけ、その活動は活性化している。世界的ダンスシーンでは絶大な信頼を誇る『magazine mixmag』(インスタフォロワー80万人)、その「mixmag asia」の2022年ベストアルバムに井出の新作『Cosmic Suite2』が1位になっている。また、この6月にドミューンで放送されたYasushi Ide「COSMIC SUITE 2 - NEW BEGINNING」Release Special&「キャロルと1970年代 ジャパニーズロックの成長期」第二夜。同番組にZOOMで出演したドン・レッツの井出への共感と連帯の言葉も心に残る。それが共同作業を可能にした。
本のタイトルの「Rolling On The Road 」は内田裕也の同曲から取られている。同題を書名に冠する際には、井出は当然ながら内田也哉子に許諾を取り、同書の巻頭に感謝を捧げている。そんな律儀さも彼らしい。また、同書はすべてのROCK'N’ROLL ADULTに捧げていると書かれている。この本は単なる成功物語を有難く拝読するものではなく、年齢を問わず、いかした大人になるためには必読ではないだろうか。2023年はROCK'N’ROLL ADULTが増えることを祈る。
なお、同書の編集は井出とも関わりが深く縁があった故・川勝正幸の川勝プロダクションの辛島いづみが手掛けている。井出靖は出会いを大切にする男でもあるのだ。
「Rolling On The Road 僕が体験した東京の1960年代から90年代まで」井出 靖
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