Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

東京には魔物が棲む。先日、4月19日(土)は荻窪「TOP BEAT CLUB」で“百鬼夜行”を目撃する。出演は仲野茂バンド 、匕首蝮 、フーテン族という、イベントタイトル「MONSTERS!!!」通りの“夢の競演”(いや、“悪夢の競演”かもしれない)を見る。このところ、3月16日(日)に名古屋「RAD SEVEN」でアニマルズ、THE DISASTER POINTSと、4月5日(土)に大阪・堺「FANDANGO」でザ50回転ズと、“対バン”ライブで全国展開、武者修行しながら各地を回る仲野茂バンド。先日、4月19日(土)のライブは急に決まったらしく、突然の発表に驚いたが、そのラインナップが強烈である。これは見なければいけないライブだろう。

 

 

一番手は「匕首蝮」(ドスマムシと読む!)。ステージにはシルバーグレイのスーツを粋に着こなす4人の伊達男が登場する。2014年に岡山で結成されているというからキャリアは10年を超える。“現存する唯一の任侠ロックンロールバンド”だという彼ら、どこか、タランティーノの『レザボア・ドッグス』やブライアン・シンガーの『ユージュアル・サスペクツ』の登場人物を彷彿させる。歌そのものは「アタシほんまによう云わんわ」なんて、笠置シヅ子をカヴァーするなど、昭和歌謡のユーモアを取り入れつつ、匕首蝮独特のパンチ力が炸裂。聞くものを一発でノックダウンさせる。また、キャロルやクールズ、ダウンタウンブギウギバンドにも相通じるものがある。キャロルのライバル(と言ってもわかる人は少ないかもしれないが)、ファニーカンパニーを思い出す。かの桑名正博がヴォーカルを務めていたバンドで、かつて「東のキャロル、西のファニカン」と言われた。勿論、ファニカンそのものではなく、“セクシャルバイオレットNo.1”風味が漂い、色香漂うセクシー任侠ロックンロールに仕上がる。40分近く、一気に聞かせたが、その歌や音は中毒性があり、嵌る方も多いのではないだろうか。初めて聞いたと思しき仲野茂バンドファンをも虜にする。その伝染力、いや蝮の毒か。恐るべしだ。

 

 

■匕首蝮-DOSUMAMUSHI

https://x.com/dosumamushi

 

 

 

 

 

二番手に登場したのはフーテン族。2021年4月結成され、“高円寺”を中心に活動を始めたというからキャリアは浅いものの、このところ注目を浴びているバンドだ。昨2024年11月21日(木)に 渋谷「La.mama 」で、あがた森魚と共演するなど、その“三寺文化”を継承した昭和な音とサイケな佇まいが、いま来ている。あがたは既に日本のフォーク/ロックのレジェンドというべき存在だが、古典でありながらも前衛であり続ける。齢76にして、年齢、世代、性別を超え、多くのアーティストに刺激を与えている。同じく内田勘太郎(憂歌団)、又吉直樹(ピース)、オカモトレイジ(OKAMOTO'S)らも自らのSNSやYoutubeなどで取り上げている。バンド仲間からは2023年5月5日(金・祝)幡ヶ谷 「club HEAVY SICK」で暴動クラブとツーマンを開催、その後2024年5月11日(土)にも下北沢 「THREE」で開催された「BLAST JAMS!! 2024 」で暴動クラブと再び共演。メンバーからも絶賛されている。

 

彼らのライブは昨年2月29日(木)に下北沢「CLUB Que」で、下山淳のユニット「貝生比良」(メンバーは下山淳<G>・武田康男<Vo>・岡本雅彦<B>・梶原幸嗣<Dr>)との共演を見ているが、そのサイケでグランジな音と歌、そして古の新宿西口駅前広場に屯しているようなヒッピー然とした風貌とGSを合体して現代に甦らせた佇まいに度肝を抜かれた。ところが、この日、見た彼らは少しこざっぱりしていた。気のせいかもしれないが、その音自体はいい意味で相変わらずで安心できる。激しく、轟くようなハードなサウンドながらどこか紗幕が掛かったような音色に驚愕させられる。この日、演奏した「真夜中の幼稚園」(2024年3月20日にリリースされたミニアルバムのタイトルトラック)は、ワルツからロックンロール、そしてブルースと転調する構成と、聞くものを“幽玄な世界”へと誘う幻想的な言葉たち。まるで寺山修司の「天井桟敷」か、ドアーズの『まぼろしの世界(STRANGE DAYS)』か。こけおどしやはったりではない、リアルな本物である。今後、シーンを席巻する可能性を感じさせる。まだまだ、未開発(いや未公開か!)のところも多く、その分の伸びしろも存分にありそうだ。

 

■フーテン族 Official

https://x.com/futenzoku

 

 

 

この日の最後に登場したのは仲野茂バンド。元亜名亜危異の仲野茂、元ルースターズの下山淳、元アンジーの岡本雅彦、元モッズの梶浦雅弘、現頭脳警察の竹内理恵(今回のライブは欠席)という、ロックの伝説にしてロックの歴史を彩る、最強の“元〇〇集結したオールドルーキー揃い”のパンクロックの親玉。仲野茂バンド こそ、「MONSTERS!!!」バンドだろう。

 

親玉の親玉である頭脳警察・永遠の名曲「万物流転」に乗って、彼らが登場する。仲野茂バンドは、この日も親玉たる威厳と貫禄のステージを展開。亜名亜危異の「東京イズバーニング」や仲野茂バンドの「遠くで火事をみている」、「プライド」、「Мの時代」など、80年代・90年代の名曲が最強のメンバーによって、アップデートされ、2025年の名曲として蘇る。

 

そしてこの日も「泣くんじゃねえ」が演奏された。いうまでもなくPANTAが仲野茂のために歌詞を書き、彼に託されたナンバーだ(PANTAは6曲分の歌詞を仲野のために書いている)。同曲は仲野茂と共演経験の多いOLEDICKFOGGYの伊藤雄和が曲をつけている。昨2024年12月22日(日) に渋谷「La.mama」で行われた「LAST UNTI X'mas PANTA is Reborn」で初披露されて以来、度々、演奏されているが、聞く度に仲野茂バンドの歌になっているのだ。歌や演奏が馴染んできている。PANTAの書いた歌詞が応援歌(というか、最後の最後まで“俺はお前の側にいる”や“お前と一緒にいる”――は仲野への率直な気持ちをぶつけたものだと思う)で、いままでの仲野茂バンドにはない世界だったかもしれないが、それが2025年の仲野茂バンドのメッセージとして成立する。むしろ、バンドとしての新たな表現の方法や手段が彼によってもたらされたといっていいだろう。仲野は、同曲は“PANTAが残してくれたとんでもない遺産”と告げ、“仲野茂バンドはPANTAからもらった6曲を完成させるプロジェクトでもある”と続けた。単なるバンドとして活動するだけではなく、壮大で崇高な目的と使命を背負い、ことを成し遂げようとしている。それがいつの日になるか、わからないが、PANTAの置き土産と仲野茂バンドの名曲達が出そろった時、この国のロックが新しい段階に入るかもしれない。そのため、彼らは切磋琢磨し、全国を同じ志を抱く者たちと野合を繰り返し、旅を続ける。

 

仲野茂バンド 、匕首蝮 、 フーテン族という、異形のバンド達による“まつろわぬものたちの競演(饗宴)”。「MONSTERS!!!」に心と身体を射抜かれたという方も多いはず。百物語の始まりだ。

 

 

なお、6月1日(日)に仲野茂バンドはホームグラウンドである渋谷「La.mama」で、2回目のワンマンライブ「仲野茂バンドワンマンライブ Lamama 2nd」を行う。そして7月7日(月)に渋谷「duo MUSIC EXCHANGE」で開催される『七夕忌』 PANTA三回忌追善ライブに出演する。

 

 

 

■仲野茂バンドオフィシャル

https://x.com/shigeruband2024

 

 

 

 

#仲野茂バンド #渋谷ラママ ワンマンライブ6月1日(日)決定!

https://x.com/shigeruband2024/status/1909146061182017577

 

 

 

仲野茂バンド 四国へ!高知襲来! 場所 高知ベイ5スクエア 日時2025、6月22日(日)

https://x.com/shigeruband2024/status/1915760139329736873

 

 

 

仲野茂バンド「LONDON NITE 河口湖」出演決定!

2025年6月28日(土)OPEN 18:00 STUDIO & HOTEL CAMELOT

https://x.com/shigeruband2024/status/1909862587317313638

 

 

 

#仲野茂 と #下山淳 によるアコースティックユニット「アコギなSS」が贈る新たなライブイベント「アコギな対バン」。1回目となる今回は #澤竜次 と #宮田岳 によるユニット「岳竜」を迎える7月 6日(日)18時30分開演  渋谷 La mama

https://x.com/shigeruband2024/status/1912509895989162022

 

 

 

仲野茂バンド参加決定!2025年7月7日(月) 『七夕忌』 PANTA三回忌追善ライブ開催!

https://x.com/shigeruband2024/status/1907811756384330144

 

 

 

 

 

 

 

先月は“大人な二連荘”。3月27日(木)に「ビルボードライブ東京」でヴァン・ダイク・パークス、28日(金)には「ビルボードライブ横浜」で大貫妙子&山弦を見ている。2日続けての“ビルボードライブ通い”はちょっと大人になった気分である。いうまでもなく、東京店は六本木(住所は港区赤坂。最寄り駅は「六本木」)、横浜店は横浜(住所は横浜市中区北仲通。最寄り駅はみなとみらい線「馬車道」、JR「桜木町」)。大都会の“大人のスポット”である。演奏を聞きながら優雅にお酒を飲んだり、食事をしたり……泉谷しげるや山下達郎に怒られそうだが、たまには、そんなシチエーションも悪くないだろう。

 

 

ヴァン・ダイク・パークスを書いてからすぐに大貫妙子&山弦を書こうと思っていたが、間が空いてしまった。既に全国“ビルボードライブツアー”は終了。そして、先日、4月12日(土)、13日(日)に長野県八ヶ岳高原ロッジにある「八ヶ岳高原音楽堂」で開催された大貫妙子 & 山弦アコースティックコンサート」も終わってしまった。大貫妙子のことを改めて調べていたら、自分が過去に関わった雑誌などを含め、いろいろ出てきて、思わず、読み更けてしまった。リポートも“二連荘”ではなく、申し訳ない。

 

 

3月28日(金)の「ビルボードライブ横浜」の大貫妙子&山弦のライブを見て、大貫妙子には多彩で多様な“絵筆”があり、様々な技法や手法を駆使して自からを表現してきたことを再確認する。

 

それは“伝説のバンド”シュガー・ベイブのメンバーとして、アルバム『SONGS』で1975年4月25日にデビューして50年(今年は50周年を記念して、この4月23日に『SONGS 50th Anniversary Edition』がリリースされる。ボーナス・ディスクには1994年に行われた「TATSURO YAMASHITA Sings SUGAR BABE Live」からの音源を収録。同公演は、1994年に『SONGS』が初めてオリジナル・マスターによりCD化されたことを記念して、大貫妙子をゲストに中野サンプラザで4日間だけ行われた、シュガー・ベイブ時代のナンバーやレパートリーで構成)というキャリアゆえのことだろう。彼女のこれまでの冒険や実験、経験、活動、交流のすべてが糧になっているのだ。

 

彼女自身は、あくまでもシュガー・ベイブは山下のバンド、自らの音楽の起点を1976年9月25日にリリースしたファーストアルバム『Grey Skies』に置いている。彼女のデビュー“50周年”は来年、2026年になるが、“ほぼ50周年”であることに間違いはない。彼女も度々、発言しているが、まさか、50年近くも音楽活動を続けているとは思っていなかったはず。しかし、各時代の作品が遍く、世代や年齢、性別を越え、愛され続けている。また、ここ数年は世界各国の音楽ファンに発見され、国境を超えて脚光を浴びている。特にセカンドアルバム『SUNSHOWER』(1977年7月25日)の収録曲「都会」は海外の“大貫妙子好きYOU達”の“活躍(!?)”で、シティポップを代表する楽曲として、世界中で愛されている。

 

 

大貫は、そのキャリアを反映するように様々なスタイルのコンサートを行っている。ここ数年でも普通のバンドセットでのライブ(小倉博和<G>、鈴⽊正⼈<Bass>、沼澤尚<Drums>、林 ⽴夫<Drums>、フェビアン・レザ・パネ<Acoustic Piano>、森俊之<Key>、網守将平<Key>が参加した「大貫妙子 コンサート 2023」)、オーケストラとの共演(出演:大貫妙子 指揮:佐々木新平 管弦楽:グランドフィルハーモニック東京による「大貫妙子 シンフォニックコンサート 2024」)、オリジナルマルチトラックからのサウンドや、シークェンサー、シンセサイザーなど、当時の打ち込み音源をベースに再構築したライブ(「ピーターと仲間たち2023年」、「ピーターと仲間たち2024年」、今年7月にも開催)、また、過去には坂本龍一(「UTAU日本ツアー」2010年)や小松亮太(「大貫妙子と小松亮太 コンサート・ツアー tint」2015年・2016年)との共演、 大貫妙子・奥田民生・鈴木慶一・宮沢和史・矢野顕子による「Beautiful Songs」(2000年7月に東京国際フォーラムなどで5人が集結して開催したコンサートのタイトル。同ライブを収録したアルバム『LIVE Beautiful Songs』を2000年10月18日にリリース)も行っている。いずれも多くの反響を得て、絶賛を浴びている。“シンフォニックコンサート”とともに“定番”なっているのが大貫妙子と、小倉博和と佐橋佳幸のユニット「山弦」との“アコースティックコンサート”だろう。毎年必ず開催されるというものではないが、その交流は途切れることなく続き、開催される度に通うという方も多い。

 

 

大貫妙子と山弦。小倉は大貫のバンドメンバーとして、佐橋は山下達郎“Sings SUGAR BABE”(1994年)など、個々に数々の共演経験はあるが、山弦との本格的なコラボレーションは2001年11月16日にリリースされたシングル「あなたを思うと」になる。山弦の「祇園の恋」に大貫が勝手(!?)に歌詞をつけたもの。大貫と山弦(大貫山弦妙子)は同作の発売日である2001年11月16日から30日にかけて、 「大貫山弦妙子 tabo 2001 tour 」と題された全国7か所を巡るコンサートツアーを開催した。

 

実は同ツアーの2001年11月26日に宮城県「仙台ビーブベースメントシアター」で開催されたライブを見ている。随分前のことなので、うろ覚えだが、そんな大きくない会場(キャパは200名に満たないライブハウス)で、すぐ目の前に3人がいるというシチエーション。最初は観客も緊張していたが、軽快な歌と演奏と軽妙な会話で会場が和んでいった。会場にいた誰もが笑顔だったのが印象に残っている。同時に通常のバンドでのライブやオーケストラとの共演などとは違うが、彼女の曲の普遍的な魅力を再確認する。どんな表現を施そうが、そこには確固たる大貫妙子の歌と曲がある。音数が少なくても聞くものの心を打ち、キュンとさせる。彼女の曲達は昔も今も聞くものを“胸キュン”にする。山下久美子やYMOともども当時から“胸キュンソング”なのだ。

 

 

 

と、前置きが長くなったが、大貫と山弦とのライブを見るのはおそらく先の2001年11月の仙台以来かもしれない。この3月10日(月)の「ビルボードライブ東京」から始まった“ビルボードライブツアー”も18日(火)の大阪を経て、3月28日(金)の横浜が大団円。ぎりぎり間に合った。各公演ともソールドアウト状態だったが、幸運にも空きが出て席が取れた。僥倖というものだろう。

 

会場のビルボードライブ横浜は横浜駅からみなとみらい線の「馬車道」駅まで、10分ほど。同店は改札を出て2a出口から直結の「KITANAKA BRICK&WHITE」という商業施設の1階にある。横浜から馬車道へ――地上に出て、散策してないので、港町気分を味わう間もない。ファーストステージの開演は午後5時30分からで、夜景を愛でるには勿論、早過ぎる。電車の遅延などもあり、到着したのは開演時間ぎりぎりだった。焦りながら客席に着く。会場は観客に溢れている。誰もがよそ行きでおしゃれをしていた。年齢層は大貫とともに青春時代を過ごした“大人の世代”。とりあえず、若い人ばかりで浮くなんていうことはないから安心できる(笑)。

 

 

 

開演時間の午後5時30分を10分ほど過ぎ、小倉博和と佐橋佳幸がステージに登場。山弦のデビューアルバム『JOY RIDE』(1998年8月5日)に収録された「春~Spring~」を披露する。可憐でいて軽快な二人のアコースティックギターの調べが“春の宴”の始まりに相応しく、期待感と高揚感を抱かせる。同曲を終えると、大貫を呼び込み、3人の共演ステージが始まる。いきなり「横顔」である。大貫妙子のサードアルバム『MIGNONNE(ミニオン)』(1978年9月21日)に収録された人気曲であると同時に皆に長年、愛されている曲の披露に客席は沸き返る。つかみはOKというところだろう。

 

同曲に続き、「森へ行こう」を披露する。大貫のベストアルバム『palette』(2009年4月29日)に収録された映画『劇場版 どうぶつの森』の主題歌である。サウンドトラックは2006年12月13日にリリースされている。『劇場版 どうぶつの森』は、任天堂より発売のゲームソフトシリーズ『どうぶつの森』の第4作『おいでよ どうぶつの森』を原作とするアニメーション映画作品。2006年12月16日より東宝系で公開された。元々、大貫はゲームソフト「どうぶつの森」を愛好者だったらしい。3人はゲームについて、楽しそうに語る。シューティングゲームでなく、コミュニケーションゲームというところが3人らしい。

 

 

 

この日は山弦との共演の契機になった山弦の「祇園の恋」に大貫が勝手(!?)に歌詞をつけ、大貫のアルバム『note』 (2002年2月20日)に収録された「あなたを思うと」も披露された。大貫は“この曲を聞いたら歌詞が自然と浮かんできた”という。そんな自然発生的に“大貫山弦妙子”は生まれた。当たり前だが、山弦らしく、かつ、大貫妙子らしい楽曲である。3人の共作によるオリジナルな世界だ。

 

 

同曲後、大貫が退場し、山弦のコーナーになる。山弦のアルバム『Island made』(2004年5月21日)に収録された「rise & shine」、同じくアルバム『JOY RIDE』(1998年8月5日)に収録されたタイトルトラック「JOY RIDE」を畳みかける。超絶技巧をひけらかす大仰な演奏ではなく、卓抜した技術と芳醇な音楽性をさりげなく披露する。こんな奥ゆかしさが山弦だろう。

 

大貫が再び、合流する。“ヨーロッパ三部作”の嚆矢にして白眉と言われるアルバム『ROMANTIQUE(ロマンティーク)』(1980年7月21日)に収録された「新しいシャツ」、アルバム『Shooting star in the blue sky』(1993年9月22日)に収録された「春の手紙」を披露する。「春の手紙」は2005年にリリースされたアルバム『One Fine Day』(2005年2月16日)に小倉博和(AG)、佐橋佳幸(AG)、有賀啓雄(B)、林立夫(Dr)というラインナップでリメイクされている。この日、演奏されたのは、当然、“2005年ヴァージョン”。同じ曲でもただ、演奏するのではなく、そこに大貫山弦妙子としての歴史や足跡が刻まれている。原曲は、シングルとして1993年2月3日に発売された。TBS系ドラマ『家栽の人』の主題歌として使用されている。『家裁の人』は家庭裁判所を舞台に主人公の桑田判事を片岡鶴太郎が演じた。いまはヨガの仙人的イメージが強いが、草花を愛する家庭裁判所の判事(だから「家“裁”」ではなく、「家“栽”」となっている)を好演している。ドラマの静謐さと大貫の曲が見事にマッチしていた。大貫は同主題歌を書くにあたり、台本を何度も読み込み、歌詞を書いたという。彼女らしいエピソードではないだろうか。

 

 

大貫のセカンドアルバム『SUNSHOWER』(1977年)に収録された「都会」は坂本龍一が編曲を手掛け、演奏は坂本龍一(Kb)、大村憲司(G)、細野晴臣(B)、スタッフのクリス・パーカー(Dr)、斉藤ノブ(Perc)、清水靖晃(Sax)、大貫妙子と山下達郎(Cho)が参加している。前述通り、“シティポップを代表する曲”として脚光を浴びる同曲は、いまやレジェンドとでもいうべき国宝級のマエストロ達(勿論、当時から既に卓越した技術と感性でシーンを牽引していた)がバッキングしていた。小倉や佐橋は桑田佳祐や小田和正、藤井フミヤなどの数々の名曲を世に送り出し、既に現代の名匠といわれているが、それでもオリジナルに畏怖し、恐縮してしまうところもあるという。しかし、彼らはそこでひるまず、山弦の音を紡ぐ。大貫の歌と山弦の演奏で、2025年、いまの“都会”を描いてみせるのだ。

 

 

同曲に続き、本編の最後の曲(と、紹介されたの)は、「a life」。同曲は大貫妙子と坂本龍一がコラボレーションしたアルバム『UTAU』(2010年11月10日)に収録されている。同アルバムは1997年6月6日にリリースした坂本が編曲を手掛けているアルバム『LUCY』以来、13年ぶりの“共演”だった(大貫が2000年6月21日にリリースしたアルバム『アンサンブル』に坂本はストリングスアレンジで数曲参加しているものの、彼が全面的に参加した作品は久しぶりになる)。アルバム制作とともに2010年10月から12月にかけて『UTAU』日本ツアーも行われている。同ツアーの12月10、11日の東京国際フォーラム公演の模様を収録したDVD『UTAU LIVE IN TOKYO 2010 A PROJECT OF TAEKO ONUKI & RYUICHI SAKAMOTO』(2011年11月9日)もリリースされた。

 

『UTAU』には“ヨーロッパ三部作”をプロデュースした牧村憲一が制作に関わっている。牧村は「UTAUに寄せて」という文章を同作のライナーノートに寄稿もしている。“このアルバムのために書き下ろした『a life』 は語りかけてきます。「そして出会おう 素敵な人と 言葉をつかもう 生きた声を」これは間違いなくもう一つの、2010年の「色彩都市」です。”と解説している。人生はいろいろ、人は出会い、別れを繰り返す――いろんな人生が重なり合い、作品は呼吸するようにいまに蘇る。その瞬間を追体験できるのだ。

 

 

本編が終わると、3人はステージから消える。割れんばかりの拍手と歓声の中、数分後、小倉と佐橋が帰って来る。小倉はハープウクレレ、佐橋はアコースティックギターを抱え、「あなたを思うと」の原曲である「祇園の恋」を披露する。小倉のハープウクレレの音色がまるで民族楽器「コラ」(セネガル、ガンビア、マリ、ギニアなど、西アフリカが発祥のリュート型撥弦楽器。今井裕とも共演しているマリのトゥマニ・ジャパテなどの演奏がお馴染み)のように耳に心地良く響き、佐橋の流麗で可憐なギターの音色と混じり合うと、まるで異次元の世界へ誘うようだ。そして同曲を終えると、大貫が合流して、坂本龍一とジャン・ムジィが編曲をてがけたアルバム『Cliché(クリシェ)』(1982年9月21日)に収録された「ピーターラビットとわたし」が披露される。華麗なる春の宴の大団円に相応しい、見事な締めとなる。

 

 

 

実はこの日、3月28日(金)は坂本龍一の「三回忌」でもあった。彼がレコーディングに参加し(YMOが全面参加。当時、大貫は“イエロー”と言っていた)、アレンジしたアルバム『ROMANTIQUE(ロマンティーク)』(1980年7月21日)に収録された「新しいシャツ」が演奏され、坂本と大貫の共演アルバム『UTAU』(2010年11月10日)に収録された「a life」も披露された。そのままだと、ある感情や思いにそれに引きずられるところだが、最後は同じく坂本が編曲した『Cliché(クリシェ)』に収録された「ピーターラビットとわたし」で締める。一昨年、昨年と、当時、坂本が作った打ち込みの音源を一部利用して、コンサート『ピーターラビットの仲間たち』を開催している。今年も7月に予定されている。自らのキャリアを否定せず、いい意味で引きずる。積み重ねの中、忘れてはいけないものがある。大貫妙子に神が授けたものは音楽的な才能だけでなく、魅力ある人達と出会う才能ではないだろうか。勿論、心に鎧を纏っていれば、その機会も失ってしまう。ちゃんと、神様は彼女の、その才能を見抜き、微笑んでくれるものだ。

 

 

基本的にファーストステージ、セカンドステージの2回構成、各ステージの演奏時間は60分から90分という“ビルビードライブのライブ方式”のため、80分ほどのステージで、あっけなくも感じたが、それは時間の長い、短いに関係なく、とてつもなく芳醇で優雅な時間だった。この日、アンコールで観客から大貫の赤い衣装が素敵と声を掛けられた。艶やかな赤の衣装を颯爽に可憐に着こなしていた。大貫は観客へ向け“私の色は赤です”ときっぱり言い切ったことが印象に残る。

 

 

生きざまなどという言葉は彼女に相応しくないが、生き方くらいなら許してもらえるだろう。何か、このライブを見ていると3人の関わりや披露される曲達にそれぞれに物語があり、同時に様々な景色が浮かび、それぞれのロックな生き方を見せてもらったようだ。

 

 

彼女のデビューアルバムは『Grey Skies』(1976年) 、そしてシュガー・ベイブの『SONGS』 (1975年4月21日)には「蜃気楼の街」を提供し、歌っている。“灰色の空”と“蜃気楼の街”から“赤”へ。そんな空や街に色をづける。こじつけくさくなるが、そんな色の移り変わりも大貫妙子の生き方らしい。長い歴史を重ねながら成熟しつつも初々しく、瑞々しい歌や音を披露する。

 

この3人のマエストロのコラボレーション、2025年の都市の風景に鮮やかで艶やかな色彩を描いてみせる。そんな彼らの生き方に触れ、その凛とした佇まいに、私達は襟元をただされるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

この7月には、コンサート「ピーターと仲間たち 2025」の東京、札幌公演の開催決定している。出演は大貫妙子、フェビアン・レザ・パネ(Piano)、鈴木正人(Bass)、坂田 学(Drums)、伏見 蛍(Guitar)、網守将平(Keyboards)、toshi808(Sequencer)。会場・日程は2025年7月10日(木)・18日(金) 東京・恵比寿ガーデンホール、7月15日(火) 札幌市教育文化会館 大ホールになる。

 

 

この日程を見て、あの日が空いていることに気づく。今年は7月の“FUJI ROCK(フジロック)”で大貫妙子&山弦を見たい。山弦は2003年7月27 (日)に「FIELD OF HEAVEN」へ出演、大貫はご存知、昨2024年7月26日(金)に「WHITE STAGE」へ出演している。今年は3人で7月26日(土)の「RED MARQUEE」か、「Gypsy Avalon」に出ていただき、その前後に山下達郎の「GREEN STAGE」に合流して、シュガー・ベイブの50周年を祝って欲しいもの。勿論、私の単なる妄想、願望でしかないが、実現したら、かなり嬉しいこと(笑)。

 

 

 

 

なお、大貫と山弦との共同作業の経緯や背景は、昨2024年に能地祐子さんが音楽サイト「リマインダー」で佐橋の音楽活動40周年、UGUISSのアナログ盤再発を記念した大河連載「佐橋佳幸の40曲」で詳しく解説されている。是非、ご覧いただきたい。

 

【佐橋佳幸の40曲】大貫妙子「緑の風」3人の相性は抜群!山弦が “大貫山弦妙子” に深化

https://reminder.top/521973121/

 

 

 

また、同連載は5月20日にリットーミュージックから『佐橋佳幸の仕事1983-2025 EN』(能地 祐子)として単行本化、発売されることが決定。必読である!

 

https://www.rittor-music.co.jp/product/detail/3125351001/

 

 

 

 

 

ラグタイムやニューオーリンズ・ジャズを始め、アメリカンミュージックからカリプソまで、聞くべき音楽達を私達に紹介してくれたヴァン・ダイク・パークス。はっぴいえんどのプロデュースや細野晴臣、長門芳郎(PIED PIPER HOUSE)との交流、ブライアン・ウィルソン、ランディ・ニューマン、リトル・フィートの共同作業など、敢えて説明の必要もないだろう。既に伝説の音楽家として数々の物語を生んでいる。詳しいことは検索していただければと思うが、それは眩いばかり。そんな彼の音楽を久しぶりに生で聞く機会に恵まれた。一昨日、3月27日(木)にビルボードライブ東京で、ヴァン・ダイク・パークスの12年ぶりの来日公演を見る(2日目のファーストステージ)。

 

彼のライブを初めて見たのが、1988年7月8日の中野サンプラザでの公演だから37年ぶり。随分前のことだが、その日のことはいまも心と身体の奥深くに宿る。細野晴臣やヤン富田、シド・ペイジ、シド・ストロー、トミー・モーガンを始め、国内外の精鋭を揃え、豪勢で豊潤な音に酔わせてくれた。アメリカン・ミュージックの大所帯ものといえば、1978年6月10日に日比谷野外音楽堂で開催されたレヴォン・ヘルム&ザ・RCOオーケストラ以来の衝撃だったかもしれない。

 


今回は3月26日(水)、27日(木)はイナラ・ジョージ(ザ・バード&ザ・ビーでも活躍。リトル・フィートのローウェル・ジョージの娘。名付け親はジャクソン・ブラウンらしい)がゲストヴァーカルとして参加するものの、基本はヴァン・ダイク・パークス(ヴォーカル、キーボード)とその息子、リチャード・パークス(マンドリン)、そしてカール・シーラブ(ベース)のトリオ編成(サプライズでリトル・フィートの「セイリン・シューズ」の時にイナラの息子でローウェル・ジョージの孫、オーティスがドラムスを叩くという親子共演もあった)。小編成だから物足りないかというと、そんなことはなかった。リビングルームセッションのような寛ぎと同時にいま伝えるべきもののお裾分けの儀式みたいなものにも感じた。

https://x.com/PiedPiperHouse/status/1905511395879436335

 

 


https://x.com/PiedPiperHouse/status/1905534822426026114

 

 


お馴染みの曲から意外な曲まで、ブライアン・ウィルソンとの『オレンジ・クレイト・アート』のナンバーやランディ・ニューマンのナンバー、兎のアルバム『Jump!』のナンバー、そしてブライアン・ウィルソンとヴァン・ダイク・パークスが共作したザ・ビーチボーイズのナンバー……など、切なくなったり、心躍ったり、いろんな気持ちにしてくれる。


特筆すべきはヴァン・ダイクが曲毎にMCをするのだが、それを通訳する専属の方がいたこと。以前もそうだったか、記憶は定かではないが、政治的な話になって、この場に相応しくないかもしれないが――とエクスキューズしながらもしっかり主張すべきはする。アメリカンミュージックの源流を辿りつつ、海遊する音楽を取り込むものの、そこには多様な文化や守るべき自然への憧憬と尊敬がある。決して搾取や剽窃などではない。



改めて細野晴臣や大滝詠一、鈴木茂、あがた森魚、鈴木慶一、加藤和彦、高橋幸宏、今井裕、坂本龍一、矢野顕子……などへの影響を考える。そう言えばサディスティックスは「海賊」をテーマやコンセプトにしつつも海賊行為などは決してしてないと言っていいだろう。



ヴァン・ダイク・パークスは齢82。その年齢ゆえ、本人が宣言したか、してないかはわからないが“最後の来日公演”なんて勝手に書かれてしまう。いずれにしろ、そうあるものではない。4月1日(火)にビルボードライブ横浜、3日(木)にビルボードライブ東京で追加公演がある。貴重な機会。行ける方は行った方がいいかもだ。



ちなみにイナラ・ジョージは26日(水)、27日(木)のみの出演となっている。26日(水)は細野晴臣がサプライズゲスト(飛び入りゲスト!?)として出演している。実は27日(木)はザ・バード&ザ・ビーでコラボレーションしているのでコーネリアスが出るのかと期待したが、ご存知のようにコーネリアスは26日(水)・27日(木)は「Zepp Haneda (TOKYO)」でFlaming Lipsとのダブル・ヘッドライン公演。当然だが、ゲスト出演はなかった。いまにして思えば「セイリン・シューズ」を鈴木茂と一緒に演奏して欲しかった。さて、追加公演に誰が出演するか――勝手に想像するのも悪くない(ちなみにサプライズゲストがなくても私のせいではありません!)。



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