ニュー・ウェイヴの“希望の矢”となって、私達を射抜く――ジョリッツ「妖しいビルディング」 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

その数日後、JR高田馬場駅に降り立った。同駅の発車ベルは「鉄腕アトム」である。村西とおるの自伝的ドラマ『全裸監督』の原作者として知られる本橋信宏の『高田馬場アンダーグラウンド』を携えていた。鶯谷、渋谷円山町、上野、新橋に続く、「東京の異界シリーズ」の第5弾である同書には高田馬場駅前の巨大複合型ビル『ビッグボックス』のことを巨大な石棺と表現している。同ビルは1974年5月5日に建てられた。設計は黒川紀章。当時の駅前再開発の中心だったという。それから50年近く経つが、ランドマークとしては風前の灯ながら、そのビルはまだ、ある。飲食店やファッションフロア、アスレチッククラブ、サウナ、プール、ボーリング場……などが雑然と入っていた。そういえば同ビルにはビクターのイベントスペースもあった。同所のコンテストに参加したことが杉真理と竹内まりや、安部恭弘などがプロとしてデビューする契機にもなっている。慶応大学の音楽サークル「リアルマッコイズ」出身の彼らが早稲田のお膝元の高田馬場でプロになるきっかけを掴むと言うのも面白い話だ。ちなみに安部は早稲田大学出身である。

 

 

何故、高田馬場へ行ったのか。それは数日前、12月2日(金)に新宿ロフトで開催されたサエキけんぞう率いるジョリッツのサード・アルバム『妖しいビルディング』の発売を記念したイベント『ジョリッツ 妖しいビルディング』を見たことが契機だった。タイミングが合わず、配信で見ることになったが、その衝撃は鮮烈で、少なくても出不精(!?)の私を高田馬場まで誘うのだから相当なものだろう。

 

 

まずはそのライブの模様を簡単にリポートしておく。いきなりサエキけんぞうと、今回のアルバムジャケットの印象的なイラストを描いた“ロック・カルチャーを新しいフランス感覚のニュー・ウェイヴにインスパイアする画家”(プレスリリースより)、MASAHITO HIRANUMA(平沼正仁)がステージに登場。ジャケット談義などを繰り広げる。ビル群の中に現れる巨大な女性は、今年、公開された『シン・ウルトラマン』(監督:樋口真嗣 脚本:庵野秀明 音楽:宮内國郎・鷺巣詩郎)の巨大化した長澤まさみを彷彿させる。

 

ふたりのトークショー(!?)の後はオープニングアクトのXOXO EXTREME(“キス・アンド・ハグ エクストリーム”と読む。略して“キスエク”いうらしい)が登場。いわゆる今風のアイドルグループながらバックグランドは“プログレ”である。プログレッシヴ・ロックの楽曲を中心にパフォーマンスする「プログレッシヴ・アイドルユニット」と言われている。リリースイベントを「ディスクユニオン新宿プログレッシヴ・ロック館」(!)で行い、吉祥寺「シルバーエレファント」の対バンイベントにも出演している。フランスのプログレ界の至宝MAGMAの「The Last Seven Minutes」の公認カバー、金属恵比須とのコラボレーションでスウェーデンのプログレバンド、ANEKDOTENのカバー曲「Nucleus」をリリースするなど、アイドルながら後ろ指を刺されないマニアックな選曲(たかみひろしか、山岸伸一か!)でも知られる。

 

アイドルとプログレ、これが意外と取り合わせがいい。食い合わせは悪くない。食当たりなどもないのだ。XOXO EXTREMEには小嶋りんというヴァイオリニストがいるのだが、ちょっと、デヴィッド・クロスやエディ・ジョブソンを彷彿させる演奏者で、彼女達の歌劇的で情感溢れる歌に過不足なく嵌る。考えて見れば、古のアイドル、ザ・ピーナッツはクリムゾンの「エピタフ」をカバーしていた。

 

 

彼女達の世界を堪能しつつ、ステージが終わり、余韻に浸っていると、ジョリッツが登場。サエキけんぞう(Vo)、泉水敏郎(Dr)、吉田仁郎(G、Kb)、亀(G)、オカジママリコ(B)というフルメンバーにXOXO EXTREMEの小嶋りん(Vi)が加わる。サード・アルバムにして、初のフルアルバム(と、サエキはいっていたが、1stと3rdは10曲入り。2rdは11曲入りである。気分はフルアルバムということなのだろうか!?)『妖しいビルディング』の“全曲完全再現ライブ”が始まる。怒涛の勢いで同作からの新曲を観客に届けていく。サエキ自ら“ハルメンズの後継バンド”というだけあって、80年代のニュー・ウェイヴ・サウンドを2022年モードにアップデートした最新型のニュー・ウェイヴ・サウンドを聞かしてくれる。80年代のイケイケ感を再現するには無理があるが、むしろ、バブルが崩壊することを知っているがゆえの崩壊へ向かう疾走感が2020年代的であるといっていいだろう。勿論、80年代ニュー・ウェイヴが何でもありのように、40年の時を経た手練手管の産物とでもいうべきものを自らの音に纏わせる。いい意味でのごった煮が今日的というべきか。

 

また、同作のタイトルトラックである「妖しいビルディング」の誕生の契機が吉田仁郎の慶応大学のお膝元、神奈川の日吉から高田馬場への引っ越しであることに深い興味を抱いた。同所に実在する「妖しいビルディング」との出会いが曲作りのきっかけになったという。そこにはアジアの食料品店や妖しいスナック、謎めくガールズバー……などが雑然と入居している。何故か、“ビザ発給”(普通の店舗でビザは発給できるのか、不思議である)を謳ったところもあったそうだ。そんな衝撃や刺激をモチーフに歌が生まれている。単なる東京の異国情緒を歌ったというものではなく、むしろ混じり合い、玉石混交されることで、その混沌や混乱の度合いは深まっている。そんなものをそのまま、題材として、活写するのもニュー・ウェイヴ的といっていいだろう。

 

さらに泉水敏郎が作り、『ハルメンズの近代体操』(1980年)に収録され、泉水のソロアルバム『ライフ・スタイル』(1984年)でもカバーした「ライフ・スタイル」をジョリッツ流に仕上げ、さらに最先端、最新版を入れるところも彼らなりの拘りを感じさせる。泉水による“世紀末に来るべき新世紀のあけぼの”というフレーズは不思議なことに、いまと言う時代にも嵌る。

 

音響的にも『妖しいビルディング』は今までにP-MODEL、平沢進、戸川純などを手がけた吉祥寺の「GOK SOUND」(残念ながら同所は2022年をもって閉鎖された)で、アナログ・リズム録音を行うことで画期的な太いドラムベース音を得ているという。マスタリングもゆらゆら帝国などを手掛ける中村宗一郎が務めたことでアナログサウンドとデジタルサウンドの新たな融合により“ニューウェイヴポップスの新機軸”となっているという、自信満々の仕上がりだ。

 

勿論、歌詞や曲、演奏や歌唱だけでなく、音の塊そのものが私達を心地良く、マッサージしてくれる。心と身体の洗濯だ。

 

『妖しいビルディング』の収録曲を全曲披露した後は、「スワイプメン」,「STAP トゥギャザー」(『ジョリッツ登場』2017年)や「ジョリッツ・ウォンチュー」(『ジョリッツ暴発』2018年)など、お馴染みのナンバーが披露され、再び、「妖しいビルディング」で締める。

 

 

圧巻のライブである。“電車でGO!”どころか、“ロケットでFLY!”くらいの勢いがある。ベテランニュー・ウェイヴァーのサエキと泉水を吉田、亀、オカジマというハルメンズチルドレンが支え、小嶋という異分子がいい意味で火に油を注ぐ。配信視聴ながら何か、ロケットに一緒に乗り込んでいるような疾走感(と言うか、飛翔感)がある。気を抜いていると振り落とされそうになるのだ。その高揚感は半端ではない。新型ウイルスや戦争など、気落ちするようなことばかりで、この世の中はままならないが、ジュリッツの「ニュー・ウェイヴ」は“希望の矢”となり、聞くものの心と身体を射抜いて見せる。

 

『妖しいビルディング』のCDの帯には“ブラン・ニューウェイヴ!”とある。この新しい妖しさはただものではない。不滅のニュー・ウェイヴ魂を持つジョリッツだからこそ、なし得た快挙ではないだろうか。パール兄弟や二人パール兄弟、ハルメンズXなどもいいが、ジョリッツにも注目してもらいたい。おそらく、いまの東京の異界を描かしたらジョリッツは天下一品だろう。

 

 

前述通り、そのライブから数日後、私は高田馬場にいた。勿論、“妖しいビルディング”探しである。『silent』の「世田谷代田」ではないが、「高田馬場」へ“聖地巡礼”である。ライブを見た方で新宿から高田馬場へと言う方もいたのではないだろうか。

 

果せるかな、それらしいビルはたくさんあった。実際、写真も撮ったが、余計なトラブルを避けるため、未掲載にさせてもらう。予備校とエステサロン、怪しげなバーが平然と並ぶなど、以前から妖しいところだとは思っていたが、ここにきて増殖しているようだ。確かにこのところ、海外との行き来は停滞していたが、自由に行き来するようになれば、その妖しさの濃度は濃くなるかもしれない。それにしても同じ東京でも新宿ではなく、池袋でもなく、高田馬場であること。流石、目の付けどころが違うのだ。

 

ちなみに本橋信宏の『高田馬場アンダーグラウンド』にも“今日(こんにち)”を予見させるものがある。私の高田馬場体験だが、遥か、昔、30数年ほど前に遡る。サエキけんぞうなどとも被ってくる。同書にも出てくる“ヘアバレー”から生まれた白夜書房で『日本ロック大系』(上下巻)の制作に関わったことがある。サエキけんぞうを始め、篠原章、黒沢進、高護、中村俊夫……など、錚々たる面々が執筆陣に参加した日本のロック史を編纂した大著である。実は同書は難産で、打ち合わせから出版まで4年掛かっている。人数が多い分、なかなか、進まず、打ち合わせなどで同社に集まる(廊下にバスタブが普通に置いてあり、驚いたものだ。多分、ヌード撮影用!?)ものの、気づくと、打ち合わせが飲み会になっていると言う”松本隆とムーンライダース”状態(笑)。いまとなってはいい思い出だが、来る2023年1月、サエキけんぞうはいとこの篠原章と、はっぴいえんどの原風景を描いた『はっぴいえんどの原像 』(リットーミュージック)を上梓する。サエキは“東京”の「風景」に拘る。ただ、書き留めるだけでなく、表皮を剥がして、深掘りして、未来を見せる。ジョリッツの活動もそんな表現活動の一環だろう。そういう意味では彼はくねくね、マニュマニュしながらも首尾一貫している。だから、信用できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョリッツ「妖しいビルディング」

 

1.妖しいビルディング

2.ドンPEELオフ

3.エモりゅーしょん

 

MC

4.DUByou

5.鼓動にダーツ

 

MC

6.BLooMER

7.ジョリッツ出現

8.ライフ・スタイル

 

MC

9.愛しさ分解オーバーロード

10.モアザンモア3°

 

<ここまでアルバム「妖しいビルディング」再現>

 

11.ホウダウン~ジョリッツ・ウォンチュー

12.フリートーキング

13.スワイプメン

14.ラブ・イズ・ガービッジ

15.すり砕く

 

アンコール

1.STAP トゥギャザー

2.妖しいビルディング

 

 

ジョリッツ「妖しいビルディング」

12月2日(金)新宿ロフト OPEN 18:00 / START 19:00

 <出演>

 ジョリッツ(サエキけんぞう、泉水敏郎、吉田仁郎、亀、オカジママリコ)

 XOXO EXTREME

 

 

https://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft/230527

 

 

※配信は既に終了しています。参考のため、URLを掲載しておきます。

 

 

ジョリッツ「妖しいビルディング」セルフライナーノーツ