高橋浩司と下北沢の物語『Go! Go! KOJI 55 高橋浩司ステージから降りません宣言!』 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

2023年が明けた。昨2022年の正月は“ヒカシュー三昧”だったが、今年は「箱根駅伝」と「孤独のグルメ」と配信チケットを購入しながら視聴していなかった配信イベントをアーカイブ終了間際に駆け込み視聴。そんな積み残し達は追い追いリポートする予定だが、それ以前、昨年12月4日(日)に開催され、後日、配信で視聴して、そのままになっていたイベントをリポートしておく。トントンマクートやEli and The Deviantsなど、「穴山淳吉」(下山淳+穴井仁吉)を追いかけているものなら見逃せないライブがあった。

 

 

高橋浩司という“MUSIC MAN”がいる。下北沢の人気ライブハウス「Club Que」のブッキングマネージャーだ。一般の方にはPEALOUTの元ドラマーとして知られている。同バンドは1994年に結成され、1998年にはポニーキャニオンからメジャーデビューしている。その鋭角的な音と独自の活動で、90年代に一世風靡し、2005年の「FUJI ROCK」のステージで華々しく散った。“レジェンド”とでもいうべきバンドだ。PEALOUT解散後、高橋はHARISS、REVERSLOW、DQSなどのバンドでの活動のほか、矢沢洋子率いるPIGGY BANKSなど、様々なバンドのサポート。同時に前述通り、ブッキングマネージャー、プロデューサー、DJ、レーベルオーナーなど、“裏方”としても活躍。下北沢界隈では知らぬものはいない、隠れた(!?)大物である。

 

 

高橋は1967年12月4日、品川で誕生した。幼少期は約1年間、ソビエト連邦にて過ごしたらしい。昨2022年12月4日(日)に55歳になっている。その誕生日を祝うイベント『Go! Go! KOJI 55 ~高橋浩司ステージから降りません宣言!~』が同年12月4日に彼の“ホームグラウンド”である下北沢「CLUB Que 」で開催された。

 

 

実は5年前、2017年12月4日(月)、同年12月8日(金)の2日間に渡って、同じく下北沢「CLUB Que」でバースデーイベント『50祭!』が開催されている。同イベントにはPIGGY BANKS、TH eCOMMONS、THE TURN-TABLES[TARSHI,+近藤智洋,+RYOTA,+高橋浩司]、東京パンクス[仲野茂+ヤマジカズヒデ+百々和宏+市川勝也,+高橋浩司]、武藤昭平+清野セイジ+ウエノユウジ+高橋浩司……という豪華なメンバーが参加している。

 

 

この日、2022年年12月4日(日)のバースデーイベント『Go! Go! KOJI 55 ~高橋浩司ステージから降りません宣言!~』もHARISS[Guest Vo矢沢洋子]、KT&トントンマクート[延原達之+下山淳+穴井仁吉+高橋浩司]、沖野郷太と杉山[杉山正明+西寺郷太+沖野俊太郎+青木ケイタ+筒井朋哉+小里誠+高橋浩司]、keme……という前回同様、錚々たるメンバーが集まった。当初はイマイアキノブの出演が予定されていたが 体調不良のため、代わりにkemeが出演することになった。いずれも高橋と面識、交流のあるものばかり。“仲間”のために駆け付ける。いかに彼が愛され、慕われているか、わかるだろう。すべてのセッションにKTこと、高橋浩司がドラマーとして出演。文字通り、“高橋浩司ステージから降りません”という状態だ。

 

 

ステージには急遽、出演することになったトーキョーキラー、PIGGY BANKS のギターで頭脳警察関係のライブでもお馴染みのkemeが登場。突然のお誘いにも関わらず、喜んで出演させてもらったという。彼女のレトロでフォーキーなサウンドを高橋はシェアな演奏でサポートする。同セットにはPIGGY BANKSのヴォーカルの矢沢洋子も加わる。華やかな始まりである。

 

 

オープニングに続いて、筒井朋哉(G)、小里誠(B)、青木ケイタ(Sax)、そして高橋(Dr)というラインナップに下北スミスの杉山正明が加わり、スミスのナンバーを披露する。会社員生活をしながら音楽活動を続ける杉山だが、旧友との再会(!?)、手練れのメンバーをバックに思い切りくねくねする。モリッシーを彷彿させる落ち着きのなさで見事なカバーを聞かせてくれるのだ。

 

杉山の後はノーナ・リーブスの西寺郷太が登場。西寺と高橋はデビュー前からの知り合いで、ライブだけでなく、プライベートでも盟友(悪友!?)関係にあったという。ライブ終わりには高橋の車で家まで何度も送ってもらったそうだ。ドラムスで器材が多いのにも関わらず、小さな車で窮屈だったと述懐する。まだ、野望を抱えながら格闘していた時代の話を懐かしそうに語る。そんな下北沢の90年代のライブシーンとミュージシャンの交流の物語はこの1月25日に西寺が上梓する自伝的小説『90's ナインティーズ』(文藝春秋)に語られるという。ライブハウスやバンドなども実名で登場するらしい。勿論、高橋も出ているという。同書の惹句には「あらゆるメジャー・レコード会社のディレクターやスカウトマンが集まった1990年代後半の下北沢のライブハウス。すべてのミュージシャンの目前に巨大なルーレットが置かれていた。」と書かれている。

 

西寺は同イベントについて“君から誕生会に誘われ、小説に描いた95年の夢みたいなメンバーと共にデヴィッド・ボウイ二曲歌います!”と呟いている。そんな時代を再現してみせる。デヴィッド・ボウイがナイル・ロジャースと作ったアルバム『レッツ・ダンス』(1985年)のファンキーなナンバーをカバーする。きっと、当時もカバーを楽しみつつ、オリジナルを模索していたのではないだろうか。

 

西寺に続き、Venus Peterで活躍した沖野俊太郎が登場する。小山田圭吾との交流やトラットリアからのリリースで知られる彼は、1989年にストーンローゼスに刺激を受け、当時滞在していた米国ニューヨークから渡英、ロンドンに滞在している。同時代を席巻したダンスとロックの新しいムーブメント“Madchester”(マッドチェスター)に大いに影響を受けて日本に帰国している。沖野はストーンローゼスとクラッシュのナンバーをカバーする。90年代のマンチェスターのムーブメントと下北沢が重なる。こじつけめくか、マンチェスターの若者の発信を極東の島国、それも渋谷から京王井の頭線で5分ほどの下北沢で受信したものがいた。そんなことを改めて感じさせるのだ。

 

 

そして、KTこと、高橋浩司が参加するKT&トントンマクートである。佐々木茜や梶浦雅弘をドラマーに迎え、アカネ&トントンマクート、KJ&トントンマクートとしてライブしてきた下山淳、穴井仁吉、延原達之の3人。この日はドラムセットには高橋が座る。彼は下山や穴井、延原などとも関わりは深い。高橋は2012年に立ち上げた自らのインディーレーベル「LookHearRecords 」から2014年にTHE PRIVATESの結成30周年を記念したトリビュートアルバム『PRIVATE LESSON~THE PRIVATES Tribute~』をリリースしている。当然、同アルバムには高橋のHARISSを始め、THE NEATBEATS、OKAMOTOS、ウルフルケイスケ、武藤昭平withウエノコウジなどが参加している。また、高橋はSHINYA OE AND THE CUTTERなどにも参加していた。下北沢は鮎川誠にとって、久留米、若松に続く、第三の故郷になる。福岡出身のミュージシャンも鮎川を慕い、同所を訪ね。時にはここは親不孝通りかと思うようなライブも行われている。東京と福岡のビートシーンが交差する。高橋にとって彼らは憧れの先輩になるが、変な上下関係ではなく、しなやかに世代を繋ぐ。この日も自らのヒーローとの共演に気圧されることなく、すっかり、しっかりとバンドのメンバーとして収まる。いい意味で、バンドは通常営業。お馴染み穴井劇場もしっかり楽しませてくれる。トントンマクートらしいルーツロックを深掘りしながらもエンターティンメントを提供していく。これもパンク一色ではない、高橋の幅広い音楽性があってこそのことだろう。彼らをサポートするにはロックは当然として、ブルースやソウルなどの基礎教養も当然、必要である。本当のところは怖い先輩との共演で、緊張をしていたのかもしれないが、傍から見ると偉大なる先輩たちとの共演を思い切り、楽しんでいるようだ。勿論、そのキャリアを振りかざさない3人とのセッションだからこそだろう。最後は彼らの十八番の「DO THE BOOGIE」から「Mojo Walkin‘」へ。見事な締めだった。

 

 

最後の締め、トリを務めるのは高橋自らのバンド、HARISSである。伝説的なロカビリー・バンド「SIDE ONE」のAKIRA(Vo)とYUJI(Wood Bass)、元THE COLTSのSEIJI(G)、元PEALOUTのTAKAHASHI(高橋浩司)による“パワーポップとスウィングを融合させた独自のサウンドを追求する”と言われるHARISSは2006年に結成され、活動を開始。積極的なアルバムやDVDのリリースと精力的なライブ活動で、下北沢の人気者となる。2016年に活動を休止し、昨2022年9月に6年ぶりに復活。当初はONE NIGHT STANDの予定がこの日も再びの復活になった。

 

ファースト・アルバム『POP SAVE US』(2007年)から「LOVE SAVE US」、「LOOSER」、「LADY BIRD」、「内心ガール」、セカンド・アルバム『VIVIENNE』(2008年)から「VIVIENNE」、「SANFRANCISCO」、MUSIC TRACKとMOVE TRACKを収録したアルバム『BELIEVE US』(2012年)から「TWISTIN’ DISCOTHEQUE」、カバーコンピレーションアルバム『COVER TO THE PEOPLE』(2008年)から「HUSH」(DEEP PURPLEのカバーだが、KULA SHAKERもカバーしている。ちなみに元々はアメリカのシンガー&ギタリストのジョー・サウスの作品で、オリジナルはソウルシンガー、ビリー・ジョー・ロイヤルになる)……など、まさに“BEST OF HARISS”というセットリストである。矢沢洋子も加わり、スマートなロックンロールとスタイリッシュなロカビリーの野合とでもいうべきものを聞かせてくれる。そのオリジナルなサウンドが心と身体を心地良く揺らす。

 

6年の活動休止を経て、昨2022年は2回しかライブをしていないとは思えない、バンドとしての充実ぶりである。高橋を始め、メンバーは嬉しそうに演奏をし、それを見守る観客も笑顔になる(配信のため、客席が見えないので想像だが、間違いないだろう!)。高橋の誕生日であるとともに彼らの新しい誕生日のようにも感じる。最後のアンコールには出演者全員で「TWIST AND SHOUT」を“ツイスト”し“シャウト”する――と書くと、決め決めな感じになるが、いい意味で混沌として、ぐだぐだと言うか、緩いところがいかにも“らしい”のだ。かっこうをつけるだけでなく、無防備に素を曝け出す。それができる場所が下北沢なのかもしれない。

 

高橋浩司のバースデーイベントを体験するだけではなく、何か、90年代と2020年代が繋がる下北沢という街の物語を見たような気がする。この街は日々、新しく生まれ変わりつつ、変わらないものを奥底に抱く。そんな物語の重要な役どころを高橋浩司が担っている。このイベントを体験したものは誰もがそう感じるはずだ。彼が関わる新しい物語の誕生を心待ちにしている。

 

 

高橋浩司のことを長々とあれやこれや書いてきたが、私自身は彼とはちゃんとした面識や交流はない。実際に話したのは、昨年5月に下北沢「Club Que」にEli and The Deviantsのライブがあり、同所に井出靖の新作『Cosmic Suite2 - New Beginning -』のリリースを記念したドン・レッツのロゴがプリントされた限定Tシャツを着て行ったら下北沢「CLUB Que」の方に格好いいと誉められた。そのことを呟いたら彼からレスがあった。声を掛けてくれたのが高橋だったのだ。会った際にはお互いに自己紹介もせず、一言、二言だけだった。その後、彼が高橋浩司で、PEALOUTのメンバーだったことを知る。実際にライブを見たり、取材などをしたわけではないが、同バンドとは多少、縁があった。1997年にマーク・ボラン生誕50周年を記念してリリースされたT.REXのトリビュートアルバム『BOOGIE WITH THE WIZARD』(マーク・ボラン生誕70周年、没後40年というメモリアルイヤーになる2017年9月13日にリイシューされた)にコーディネイターとして関わっている。同アルバムにはちわきまゆみが参加し、「ザ・スライダー 」をカバーしている。そのバッキングを務めていたのがPEALOUTだった。“ちわきまゆみ sing with PEALOUT”とクレジットされている。同アルバムのレコーディングのすべてに立ち合ったわけではなく、中にはレコーディングした音源をいただくというものもあった。同曲に関しては後者である。当然のことながら事務所などには感謝を伝えても彼に直接、お礼をする機会はなかった。やはり、いつか、また、会う機会があれば、お礼を言いたい。そう遠くないかもしれない、そんな予感がするのだ。

 

 

 

『Go! Go! KOJI 55 ~高橋浩司ステージから降りません宣言!~』

2022年12月4日(日)

下北沢「CLUB Que」

 

kemeソロ

 

keme+矢沢洋子+高橋浩司

 

らんらんらん / PIGGY BANKS

I WANT CANDY / BOW WOW WOW

 

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G筒井朋哉+B小里誠+青木ケイタ+Dr高橋浩司

 

杉山正明(下北スミス・ex.KOGA)

 

ハンド・イン・グローヴ / ザ・スミス

ディス・チャーミング・マン / ザ・スミス

 

 

西寺郷太(ノーナ・リーヴス)

 

レッツダンス / ボウイ

モダンラブ / ボウイ

 

 

沖野俊太郎(VENUS PETER)

 

シーバングスザドラムス /ザ・ストーン・ ローゼズ

ステイ・オア・ゴー / ザ・クラッシュ

 

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KT&トントンマクート

 

G、Vo下山淳+B、Vo穴井仁吉+Vo、G延原達治+Dr高橋浩司

 

 

1 LIKE A HARRICANE

2 ロージー

3 GET FEEL SO GOOD

4 I WANNA BE LOVED

5 鼻からちょうらん

6 VIOLENT LOVE

7 DO THE BOOGIE

 

En

MOJO WALKIN'

 

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HARISS

 

 

1.LOSER

2. VIVIENNE

3. SANFRANCISCO

 

---with 矢沢洋子---

 

4. HEAT WAVE

5. BREAK AWAY

 

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6. LOVESAVEUS

7.TWISTI ‘DISCOTHEQUE

8 LADYBIRD

 

En

 

HUSH

内心ガール

 

全員

TWIST AND SHOUT

 

 

 

 

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https://officeque4.wixsite.com/koji-takahashi-50th/biography

 

 

 

HARISS LOVES YOU | UK.PROJECT (ukproject.com)

 

 

 

90's ナインティーズ 西寺郷太

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163916491