2022年の締め、2023年の始まりはリクオとピアノ | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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2022年の“リアルライブ”の締めと2023年の“リアル配信ライブ”の始まりはリクオだった。神の“差配”か――。リクオをちゃんと聞きだして、まだ数年しか経ってないが、知らぬ間に自分の中で重要なアーティストになっていた。同時にコロナ禍にも拘らず、自らの創意と工夫と意欲と努力と仲間の理解と協力で音を届け続けている。コラボレーションやバリエーションにも果敢に挑んだ。だから、いままで以上にその音に触れる機会も増えたのではないだろうか。

 

昨2022年12月26日(月)は高円寺の老舗ライブハウス「次郎吉」にリクオ、Dr.kyOn、伊東ミキオが集結。ピアノでロックンロールする3者の夢の競演「リクオ・プレゼンツ 〜 JIROKICHI HOBO CONNECTION 〜 第2夜 CRAZY PIANO NIGHT」を思い切り、堪能する。同ライブについて、彼のSNSには“3人のクレフィン・スタイル”と出ていた。「クレフィン・スタイル」の意味がわからず、散々、検索したところ、過去にリクオは伊東ミキオとのデュオライブで、“二人クレフィン!(CRAZY FINGERS)”という表現を使用している。クレフィンはクレイジー・フィンガーズの略だったのだ。ライブでは3人が揃って、掌を拡げてピアノを弾くポーズ(ちょっと、ゾンビみたいだった!)していた。漸く納得だ。お馴染みの方には何をいまさらかもしれないが、小さなことが気になってしまうのが私の悪い癖(!?)。今回は“Dr.kyOnが加わって、キョンさん、ミキオ君と一緒にピアノ3台クレフィン・スタイルで弾けまくり”という。

 

会場の高円寺「次郎吉」は新宿「ロフト」、渋谷「屋根裏」などとともに数多のアーティストが日本のロックの歴史に残る名演を繰り広げていた場所。ジャズやブルースの名演も数限りない。最近では山下達郎のアコースティックライブが行われ、話題になった。次郎吉を訪れるのは久しぶりだ。30年以上前に同所で山岸潤史や近藤房之介などのライブを見た記憶がある。会場に入ると、思っていたより、狭く、驚いてしまった。しかし、ライブハウス独特の“香り”が漂う。5年ほど前に池畑潤二のイベントで京都「磔磔」を訪れた時もそうだった。

 

枕が長くなったが、会場は立錐の余地もなく、多くの観客が詰めかけていた。年齢、性別を問わず、多彩な人達が詰めかける。意外と若い方(いい音楽を聞いていると若く見えるのか!?)が多かった。彼らの音楽の広がりを感じさせる。

 

ライブは休憩ありの2部構成だが、3人の揃い踏み、リクオと伊東ミキオ、伊東ミキオとDr.kyOn、Dr.kyOnとリクオのデュオ、3人のソロ……と、入れ替わり、立ち替わりでステージは目まぐるしい。しかし、「ミラクルマン」「(リクオ)、「try again」(伊東ミキオ)、「魚ごっこ」(Dr.kyOn)などのオリジナルから「Anarchy in the bayou」(セックス・ピストルズ)、「火の玉ロック」(ジェリー・リー・ルイス)、「Jesus on The Main Line」(トラディショナル)などのカバーまで、心と身体を躍らすナンバーがこれでもかという感じで繰り出される。ピアノでロックンロールすることを教え、2022年10月28日に亡くなったジェリー・リー・ルイスの「Whole Lotta Shakin' Goin' On」や「火の玉ロック」の披露は彼への愛あるトリビュートであり、同時に「ルイジアナ・ブレイクダウン」や「Jesus on The Main Line」(ライ・クーダーがカバーしている)などはドクター・ジョンやプロフェッサー・ロングヘアなどを彷彿させる。“祭り”の消えたこの街にそこだけニューオリンズのマルディグラの熱狂と興奮と祈りが出現したかのようだ。アンコールの最後に3人はリクオの「光」を演奏している。何かと、世知辛い世の中に一筋の光明が差したような瞬間だった。自分にとって、2022年がいい年だったか、悪い年だったか、よくわからないが、少なくともその年末はいい気分で過ごし、年明けを迎えたことは確かのようだ。

 

ピアノという楽器の奥深さとアメリカの深南部の音楽の豊穣さを改めて、リアルで体験することができた。リクオには『リクオ&ピアノ』(2010年)、『リクオ & ピアノ2』(2021年)という“ピアノの弾き語りシリーズ”のアルバムがある。出来ればその拡大版として“クレフィン・シリーズ”のアルバムも出してもらいたいもの。

 

この日、会場ではリクオがこれまでSNSで呟いた言葉をピックアップし、新たな書下ろしを加えた初の書籍「流さない言葉① ピアノマンつぶやく』が販売されていた。本人自ら“行商”と言う通り、会場の入口(にして出口)のカウンターで実演販売(!?)も行われる。帰り際、誰もが彼と言葉を交わすことができる。私は既に彼のHPから購入済み(書籍とともにポストカードも封入されていて、そこには私の名前とともに「ありがとうございます」と書かれていた)、誇らしげ(笑)にそのことを告げた。彼の本は常にリュックに入れてある。つまみ読み状態だったが、帰りの電車の中で飛ばしていたところを一気に読んだ。

 

 

 

2023年の年が明けた。既にブログなどでも書いたが、正月は視聴チケットを購入したまま、見ていなかった配信ライブのアーカイブを「箱根駅伝」と「孤独のグルメ」の合間に一気に見ている。しかし、配信ながらアーカイブではなく、リアルタイムで視聴する“リアル配信ライブ”は、2023年1月8日(日)に京都「CAFE&BAR OBBLi」で行われた「~ リクオ初書籍「流さない言葉① ピアノマンつぶやく」出版記念ライブ(有観客&配信)from 京都一乗寺 ~」だった。だから2023年の“リアル配信ライブ”の始まりはリクオになる。勝手ながらいい幕開けではないだろうか。

 

出版記念ならば、まずは簡単にリクオの初書籍「流さない言葉① ピアノマンつぶやく」を紹介しなければならないだろう。彼のHPには“ツアー暮らし、震災、コロナ禍……この11年間の日々に書き留めた“備忘録”。(中略)東日本大震災と福島第一原発の事故が起きた2011年3月から、ロシアがウクライナに侵攻して半年が過ぎた2022年8月までの約11年間、自身のTwitterアカウント@Rikuo_officeに投稿した“つぶやき”から292をピックアップ。それらの言葉を振り返り、背景を伝えようと綴った25,000字の書き下ろしを加えました。”とある。山口県岩国市にあるショップ「himaal(ヒマール)」から出版されている。同店はクラフト、文具、雑貨、本、CD、レコード、焼き菓子などの販売から、読書会、企画展、トークイベント、ライブの開催、そして本の出版までしている。総ページ数は216。判型は文庫版。ページもサイズも旅のお供には最適である。表紙イラストはナカガワ暢。いい意味で質素な装丁は悪目立ちせず、しっとりと道中に寄り添ってくれる。

 

無造作に見えて、考えられて並べられた言葉たちはそのまま歌になる、そんな佇まいがある。人前では無理そうだが、人気のない海や山、広大な野原、沈黙に沈む街中で声を出して読んでみたくなる。残念ながら外では試していないが、家で一人、風呂に浸かりながら試したところ、自然にメロディーとリズムが喚起される。その言葉には不思議な力が宿っているのだ。

 

いろいろあったこの11年間。未曾有の出来事が起こり過ぎた。世の中の理不尽と自らの不甲斐なさに打ちのめされそうになるが、なんとか、引き留めてくれる。ここに書かれた彼の言葉すべてに共感することはないかもしれないが、圧倒的に頷くものばかり。心の奥底ではどこか、繋がっているような気さえする。怒りや憎しみ、拒絶や罵倒など、拙速に答えを出して声高に叫ぶことなく、沈思黙考しながらも言うべきことはちゃんと言う――そんな姿勢が貫かれる。見習いたいものである。

また、“つぶやき”に私の敬愛するたこ八郎の「迷惑かけてありがとう」やみうらじゅんの「生まれた瞬間から余生。だから人生自体を『グレイト余生』と呼んで生きていく。年齢を聞かれたら『小学五十二年生』と答えるなど、楽しく考える」、ニック・ロウの「平和と愛と相互理解について語ることの何がおかしいねん」などの“言葉”が引用されているのも嬉しい。

 

手に取りやすく、持ち運びしやすい。勿論、内容は時期的に重いものもあるが、全体としては軽やかである。読後は満足感と爽快感を抱く。いくつかの言葉は胸に突き刺さる。是非、手に取っていただきたい。ライブ会場での販売やリクオやhimaal(ヒマール)のHPでも購入可能だ。

 

その発売記念ライブは京都だけでく、岩国の「himaal(ヒマール)」でも1月14日(土)に開催されたが、その初日はリクオの配信ライブの始まりの場所である京都「CAFE&BAR OBBLi」だった。開演時間になると、同店の前に佇むリクオが風景とともに映し出され、店に入って来る。日はまだ、高く、明るい。ピアノ越しに街の景観を見ることができる。この日はリクオのソロ。ピアノに向かい、彼が弾き語る。配信チームはこの2年半、リクオと行動を共にした「一乗寺フェス配信チーム」改め、「PLANNING+DOP Inc.」、「studio tms あの三谷」が制作を担当している。彼らは、ライブを映すだけでなく、空気や風景も切り取る。そこに物語が生まれる。それだけで安心できるというもの。

 

第1部は「また会えてよかった」や「君を想うとき」など、お馴染みのオリジナルが披露される。中にはつぶやきの中から生まれたものもあるだろう。「流さない言葉① ピアノマンつぶやく」を副読本に彼の歌を聞くと、その景色もより鮮明に見えてくる。リクオはピアノを弾き語りながら初の書籍やこの配信ライブへの思いを言葉にする。歌われる言葉と書き留められた言葉と語れる言葉が共振していく。

 

第2部は『リクオ&ピアノ2』に収録された「新しい町」(カンザスシティバンド)や「実験4号」(Theピーズ)、「満月の夕」(中川敬&山口洋)などの他、井上陽水の「氷の世界」や小坂忠の「機関車」、遠藤ミチロウの「Just like a boy」などもカバーする。特に震災以降、自らの故郷、福島に拘り、ギターひとつで全国を回った遠藤ミチロウの曲を尊敬と愛情を込め、ピアノひとつで弾き語る。そしてリクオがウルフルケイスケらと結成したMAGICAL CHAIN CLUB BANDの「アリガトウ サヨナラ原子力発電所」を歌う。豊かさとは何かを考える。全国を旅する中で見えてきたものがあり、それが歌になる。“HOBO SONG”そのものだ。

 

後半から大団円へ向かって、「オマージュ - ブルーハーツが聴こえる」や「酔いどれ讃歌」など、リクオの名曲というだけでなく、私達にとって“アンセム”とでもいうべき大事な曲達を惜しげもなく観客へばら撒く。HONKY TONKを想い、HOBOに明け暮れるRAMBLING PIANO MANの面目躍如である。かつて、ランディー・ニューマンを聞いて、その深い沼に嵌ったのと同じ“MOJO”がある。ライブが終わると、外は日が暮れ、すっかり暗くなっていた。

 

このライブ、明日、1月22日(日)までアーカイブ視聴が可能だ。もし、お時間があれば是非、ご覧いただきたい。今回、同日の配信ライブだけでなく、これまでの配信ライブのスペシャルダイジェスト(40分)も視聴可能。同ダイジェストには既に伝説となっているこの6月に行われ、南三陸さんさん商店街に置かれたストリートピアノを急遽、使用することになったライブも収録されている(その顛末は初書籍のため、新たに書き下ろした「物語は続く――南三陸・月と昴の奇跡」に詳述されている)。これは必見だ。リクオがある人生とリクオがない人生、大差などないと思いがちだが、それは大間違いではないだろうか。

 

 

 

 

 

https://twitter.com/Rikuo_office/status/1615991465280425985

 

 

配信視聴は1/22(日)まで。

https://planningdop.hedgehog.live

 

 

リクオ・オンラインショップ 

http://rikuoshop.thebase.in

 

himmal(ヒマール)

himaar [ヒマール] – Something good. Something fun. ちょっといいもの。なにかたのしいこと。