魔法のトライアングル「井出靖『Rolling On The Roadーー』 出版記念特別鼎談」 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

 

ちゃんとした報告がすっかり遅くなったが、先日、1月20日(金)に原宿のBOOKMARCで開催された「井出靖『Rolling On The Road 僕が体験した東京の1960年代から90年代まで』出版記念特別鼎談」へ参加してきた。音楽プロデューサー(他にもアーティスト、レーベル・オーナー、ショップ・オーナーなど、多彩な顔あり!)、井出靖。彼が実際に見て体験してきた東京のリアルな景色を書き留めた自伝の出版を記念したトークイベントである。この日のゲストは現役2番目に最高齢の音楽プロデューサーにして、山下達郎、大貫妙子、竹内まりやのデビューに関わり、加藤和彦のマネージメントを手掛け、忌野清志郎と坂本龍一の“ルージュマジック”を仕掛けて、細野晴臣の「ノンスタンダード」にも参加、80年代後半からはフリッパーズ・ギターなどをプロデュース、そして最近は新しい才能の発掘の傍ら、自らの著書や講座、講演会などでリアルな“都市の音楽”を語り継ぐため、語り部として活動するなど、齢76にして精力的な牧村憲一、アルファレコードで“赤い人民服”を着てYMOをプロモーションする宣伝マンとして華々しく業界デビュー、アルファレコード後は東芝EMIで小沢健二、オリジナル・ラヴ、RCサクセションなどを手掛け、ワーナーミュージック、ユニバーサルミュージックなどを経て音楽事務所「V4 inc」を設立、現在は岡村靖幸をマネージメント&プロデュースしている近藤雅信。

 

実は井出、牧村、近藤は井出の著書のため、昨2022年9月に30年ぶり、3人で再会。よもやま話(鼎談)を繰り広げている。今回の再々会はそのリアルバージョン。生で彼らの話が聞ける貴重な機会である。

 

井出の自伝の価値とこの鼎談の希少性を知るものは多く、会場には溢れるばかりの観客が集まる。席はすべて埋まり、立ち見も出るという盛況ぶり。歴史の目撃者になるべく、金曜の夜にも関わらず、多くの方が駆け付けた。

 

開演時間の7時過ぎに3人が登場する。井出は62歳、板橋生まれ板橋育ち、近藤は65歳、西宮生まれ4歳から練馬育ち、牧村は76歳、渋谷生まれ渋谷育ち。年齢は違えど、ともに“東京者”である。彼らは仕事的にも近いところにいた。そんなことを改めて感じさせる“1時間”になる。

 

自らのシーンの先頭に立って時代を牽引した3人の言葉は金言ばかり。初めて明かされることも少なくない。井出が初めて買ったレコードが上條恒彦+六文銭の「出発の歌」(1971年)だった。同曲を制作したのは当時、かぐや姫や小室等などに関わり、ヒットを飛ばしたにも関わらず、本人がひた隠す(笑)“フォーク時代”の牧村だったのだ。そして井出がマネージメントしたオリジナル・ラヴを東芝EMIで担当していたのがアルファから東芝EMIに転職した近藤だった。牧村が手掛けたフリッパーズ・ギター解散後、小沢健二をマネージメントしたのが井出であり、東芝EMIで担当したのが近藤である。井出と近藤はその報告と挨拶のため、二人して牧村を訪れてるという。それが30年前のことらしい。個々には会っていたが、3人揃っては約30年ぶり、その契機が井出の自伝の鼎談だった。そして、そのプロモーションのため、ここに再び、3人が揃う。偶然かもしれないが、不思議な縁や所縁を感じさせる。

 

鼎談の裏話など、余計なことを言ってしまわないか、本人たちは心配していたが、見事に“オフレコ”にならず、ほとんどが公開可能になる。これは講演巧者、牧村の巧みな差配によるもの。変な楽屋落ちなどもなく、破綻なく進んでいった。近藤は時差ぼけと飲み過ぎ、井出は寝不足と体調不良といいながらもその口舌は鮮やかで自伝の鼎談がより生々しく、聞こえてくる。この3人のプロデューサーによる「トライアングル」は“マジック”を生む。

 

 

目の付け所が被るところが興味深い。牧村はマーティン・デニーやエル・レーベルなどを日本に紹介するため、リイシューやディストロビューションを画策するが、動き出すと、既に井出がリリースのために動いているという。世代が違うが目線や視線が一緒なのは、この3人ならではことかもしれない。目に見えないところで価値観を共有しているというべきか。

 

 

近藤を伝説の宣伝マンにしたYMOの人民服を着る逸話も聞き逃せないだろう。高橋幸宏がデザインしたものだが、ベースにしたのは人民服ではなく、明治時代のスキー服らしい。生地素材は高級なものを使用しており、近藤がアルファの予算で買い取ったが、17万もしたらしい。いま、それは“後継者”というべき、高野寛が所有している。ちなみに“赤い人民服”ゆえ、某所で某団体と鉢合わせになったというエピソードもあるが、詳細は自主規制(笑)させてもらう。

 

実は、近藤が宣伝マンになる契機は高橋幸宏でもあった。彼はアマチュアドラマーとしてプロ・デビューを目指していたが、ある日、高橋のドラムを聞き、プロになることをきっぱり諦めたという。それだけ、彼のプレイが圧倒的だったということだ。YMOの解散とともにアルファを近藤は離れることになったが、その際、3人から自分のところへ来て欲しいと誘われたという。しかし、その誘いをすべて断る。彼らと等距離でいるため、敢えて他の道を選んだ。この辺の筋の通し方も“東京者”らしいところ。

 

 

YMO絡みで言えば、井出の自伝にYMOの章はないが、高橋幸宏の話は出てくる。井出のソロアルバム『Purple Noon』に高橋幸宏がヴォーカルで参加している。参加時のことやボウリング大会の話もしている。

 

牧村は坂本龍一の還暦祝いのために自主制作し、“近親者”のみに配られた“私家盤”の話をしてくれた。同盤に収録された高橋のヴォーカルは絶品だったという。3人がともに縁ある高橋幸宏について語る時には追悼モードになるが、その語り口調からは彼への深い愛が感じられる。

 

他にも彼らの音楽愛が伺える貴重な話が目白押し。加藤和彦や信藤三雄などの話も出てきた。サイズが合わなくても気に入った服なら金に糸目をつけず、買ってしまう、ジャケットデザインやアーティスト名が“独断”で直前に変わってしまうなど、いい意味でのわがままぶりも彼らならでは、そんなことが許されるのも加藤や信藤への愛ゆえのことだろう(笑)。

 

1時間では物足りない。アンコールをお願いしたいところ。このトライアングル、音楽の魔法を信じさせてくれる。彼らの著書は必読だ。近藤の本が出版される予定はいまのところないようだが、近いうちには刊行されるだろう。井出、牧村、近藤が揃って、新刊を持って出演する鼎談を見てみたいもの。長尺のドキュメンタリー番組も面白いかもしれない。マジカルな“プロデューサートライアングル”の再々々会に期待だ。

 

 

それにしてもYMOの話のところで、井出と牧村がYMO表紙の『MUSIC STEADY』をともに出したのには驚いた。私の名前も出たが、いないふりをしてしまった(笑)。

 

 

 

「Rolling On The Road 僕が体験した東京の1960年代から90年代まで」井出 靖

 

https://grandgallerystore.com/items/6381caf24292bf4ecdc42c88