「動脈列島」(1975)

 

新幹線が大キライな男の闘いをU-NEXTで観ました。初見。

 

 

監督は増村保造。予告編はコチラ

 

東海道新幹線の開通以来、騒音公害に悩まされている近隣住民は多く、名古屋の住宅密集地に住む老婆が発狂して死亡してしまう事件が発生。親身になって手当をしていた名古屋大研修医の秋山(近藤正臣)は落胆。恋人である看護士の君原(関根恵子)に病院から少量のニトログリセリンをくすねてもらった後、しばらくヨーロッパに出かけると告げて消息を絶ちます。翌日、新幹線ひかりの車内トイレ作業時にニトログリセリンと警告書を発見する国鉄職員。警告書の内容は騒音対策を実施しなければ10日後に新幹線を転覆させるぞというものでした。仕掛け人はもちろん秋山です。脅しが本気である証拠として、翌日、出発直後のこだま号を脱線させた秋山。全速力で走行中だったら大事故は免れません。事の重大さに気づいた警察庁は、犯罪科学捜査研究所所長のエリート滝川(田宮二郎)を捜査本部長に任命。新幹線沿線の地元県警や警視庁の幹部と共に極秘捜査を開始します。

 

滝川は、警告書の内容が新幹線騒音公害訴訟団の主張を後押ししている研究論文に似ていることに着目。論文を書いた秋山を第一容疑者と特定します。秋山がヨーロッパ長期休暇中であることを知りますが、警告書にあった指紋が秋山と一致したため、国内のどこかに潜伏している秋山の犯行と断定。さらなる警告として新幹線を急停止させた秋山を全国指名手配にして公開捜査を解禁。東京にいた秋山はバーのマダム芙美子(梶芽衣子)と仲良くなって、彼女のアパートに匿われながら作戦決行の準備を着々と進めていました。そして、国鉄総裁の自宅に真夜中にこっそり出向いて騒音対策実施を直談判。その会話内容を録音したテープをテレビ局にリークして報道させます。で、いよいよ実行当日。秋山は厳重な検問こっそり突破して、かねてから予定していた新幹線破壊工作を行う地点に到着。これまで後手に回っていた警察も、秋山の居場所の特定を急ぐのだが・・・というのが大まかなあらすじ。
 

劇場公開は1975年9月6日。清水一行の同名小説が原作。実際にあった新幹線騒音公害訴訟をモチーフにして、義憤に燃える青年医師が国鉄と警察に挑戦状を叩きつけて闘いに挑むお話。同年に公開された「新幹線大爆破」は、犯罪に賭ける男たち、爆弾が仕掛けられたことを知ってパニックに陥る新幹線の乗客たち、なんとか阻止しようとする国鉄職員たち、犯人逮捕に奔走する警察といった面々の暑苦しさが全編に充満していたのに比べて、捜査本部にいるスーツ組が御託を並べてアバウトに推理していく本作は、疾走する新幹線の映像以外は動的な魅力に乏しく、追う者と追われる者による手に汗握るサスペンスも足りないのがちょっと残念。犯人が乗客の命を奪おうとはしていない善人なので、やむを得ない点はあるかも。自信満々の田宮二郎がズバズバと犯人の動きを当てていく展開はさすがに強引。複数の登場人物を巧みに配置した画面構成だけは丹念な仕事ぶりがうかがえます。

 

おっさんだらけの画面に潤いを与えてくれる女優陣は良かったです。トイレが詰まって乗務員に苦情を言う芹明香も出てたりしますが、まずは、近藤正臣の恋人役の関根恵子。冒頭5分であられもない姿を披露してくれる大サービス。これだけで観る価値があります。犯罪の片棒を担がされて、重要参考人として拘留されて、最後は犯行現場に連れて来られて、事前に用意したブルドーザー遠隔操作して線路に落っことす作戦に失敗した近藤正臣と哀しい別れを迎えます。もう一人のヒロインは、出会ってすぐに指名手配犯と知りながらアパートに泊めてくれるだけでなく、犯罪にも加担してくれる梶芽衣子通過する新幹線の前にたたずんでいるだけでとても絵になります。「新幹線大爆破」のストイックな健さんに比べて、女を都合良く利用するモテモテの近藤正臣がうらやましくてたまらない映画でございました。