統合失調症の患者さんの体重が増加する意味について | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症の患者さんの体重が増加する意味について

統合失調症の人が初めて初診する際には、標準体重より痩せていることが多い。もちろん例外はあるが一般的にはそうである。

 

かなり昔、たぶん30年くらい前だが、中国の精神科病院の映像をテレビで観た。概ね痩せ細っていて、どのくらい治療されているのかも定かではなかった。ひょっとしたら収容されているだけだったのかもしれない。

 

統合失調症で緊張病状態などでは、興奮、昏迷にかかわらず碌に食べないことも稀ではなく、初診直前に痩せているのは自然である。

 

治療を開始すると、次第に食事が摂れるようになるので体重がゆるやかに増加する。これは効果の一部が目視できるわけで、表情などの改善なども含め、体重増加は良い結果と捉えられることが多かった。これは今でも基本的には同じである。

 

当時、特別に体重増加を来す薬がなかったわけではなく、旧来のフェノチアジンのコントミンなどは体重増加を来しやすいとされている(個人的にはそれほどではない印象)。それに対しセレネースやトロペロンなどのブチロフェノンは薬自体の体重増加作用は大きくない。

 

重要なのは、ここ20年くらいで発売された非定型抗精神病薬は、旧来の薬に対し体重増加を来しやすい薬が多いこと。これは錐体外路症状を弱めることや陰性症状に効果的である作用機序の代償のような感じになっている。また日本人については、このタイプの薬に弱く、西洋人に比べ体重増加のため糖尿病を来しやすい。

 

そのような理由で、ジプレキサとセロクエルはおそらく日本でのみ糖尿病に禁忌となっている。

 

非定型抗精神病薬で体重増加を来しやすい薬は、薬剤性の過食なども生じうるため、精神症状の改善によるものと薬剤性による体重増加が2重に起こる。そのために激太りという好ましくない事態になる。

 

これは結果的に、本来の良い結果と捉えられた体重増加を台無しにしているが、程度にもよるが体重増加を来しても精神病状態が良くなる方が遥かに良い。ここが、いわゆる反精神医学的な考え方の人たちが理解できない点である。

 

統合失調症でも中核群と呼べる古典的精神病状態を放置すると、精神が荒廃し、人としての生活が成り立たなくなる。また、容易に後戻りがきかないことも重要である。

 

真に荒廃している人は打つ手がないが、それでも服薬している方が看護が楽だし、他の人への迷惑行為が減るので、特に入院している活発な症状を持つ人は結構な用量を服薬していることが多い。また、年配で未だにそのレベルにある人は標準体重か痩せていることすらある。エネルギーを消費する戦いが続いているからであろう。

 

回復期に体重が緩やかに増加するのは、いくつかの要素があり、1つは上に挙げた食欲が回復すること。2つ目は、それまで脳内で異常体験や恐怖、不安、疑念などのために消費していた無駄なエネルギーが費やされなくなるのが大きい。(治療の結果、交感神経優位から副交感神経優位になったため体重も増加したという理解も良い)

 

興奮はともかく、昏迷はほとんど動けないため運動の面でカロリー消費が多かったわけでは決してない。服薬により脳の燃費が著しく改善し、その結果、体にカロリーが行きわたるのである。これに薬剤による体重増加作用が加わる。

 

次第に進行し慢性期になると、脳の燃費が改善したのは良いが空虚で不活発になるので、思考的にも身体的にも消費エネルギーが減少する。また、中年以降では代謝も低下するため、この水準の人たちは肥満している人の方が多い。これが古典的な戦いをほぼ終えた統合失調症の患者さんの姿だと思う。

 

また長期に入院している患者さんの場合、もちろん運動不足も影響する。

 

今回の記事は統合失調症の人(特に中核群)を想定して記載している。診断がうつ病、躁うつ病、広汎性発達障害などの人では状況が異なる。それは近年は精神疾病の多様性がみられ、過食など他の状況が体重へ大きく影響するからである。また広汎性発達障害などの人では、薬剤性に敏感なため、それらの影響が強く出たりする。

 

精神疾患全てが多様化しているため、以前より体重増加を避けるといった制限のある治療は難しくなっているのである。(一応、それに注意して治療を進めましょうくらいは自分は伝えている。特に女性や体重増加を気にする人)

 

参考

人生として成立していないほどの精神状態

薬剤性肝障害

抗精神病薬と体重増加 (古い記事)

抗うつ剤の体重増加について (古い記事)

精神科入院と体重の減量

105kgから62kgまで減量した人 (この患者さんは現在59㎏である)

体重の減量のテクニック (2008年の総論的な記事)