会社は退職したけど、薬は退職できないですね | kyupinの日記 気が向けば更新

会社は退職したけど、薬は退職できないですね

過去ログに初診時にECTを実施した男性の話が出てくる(いわゆる木箱ECT)。この「外来の電撃療法(その2)」は2006-08-28とあるので、もう9年前の記事になる。以下その部分を再掲。

昨年末、知人が夫を連れて来院したことがあった。その時のうつ状態の程度はかなり酷かったので、すぐ入院するか、電撃療法をするしかないような状況だった。ちょっと驚いたのは、その知人に入院しないなら電撃療法しかないし、もししなければ危険だと話したら、ぜひしてくださいと言ったこと。本人も説明したら、同意されて即日実施。結局、1回でかなり良くなり、その後はアモキサン、トリプタノールなどで治療を続けている。電撃療法は計3回実施したが、連続でしたわけではなかった。その人、あれほど酷かったのにもかかわらず、ほとんど仕事は休んでいない。業務上の注意として、今年前半、海外出張は絶対しないように伝えていた。今なら国内の出張はできそうな感じ。現在、服薬しているがほぼ軽快している。こんな状況でも、将来的にまた電撃療法が必要な場面はありそうな気がしている。

電撃療法は、魔法のようにそれで完治するわけではなく、結局は薬物療法が必要なことが多い。たまに1回で劇的に効き、その後普通にすごしていて、数年後、再発し電撃療法をするようになる人もいる。こんな人は来院しなくなるからだ。その数年間、服薬なしで良かったらしい。服薬なしのインターバルが8年間の人がいる。こういう人は、そんなタイプなんだと思う。


彼は初診時、うつ状態のために亜昏迷状態を呈しており、また著しい手術後の疼痛とその妄想的解釈(外科医が失敗していると言うもの)がみられており、そのまま帰宅させると、いかなることが起こるか想像もつかなかった。上の記事の中で「その時のうつ状態の程度はかなり酷かったので、すぐ入院するか、電撃療法をするしかない」という記載は、そういう状況があったためである。

この人、上では「将来、ECTが必要な場面があるかもしれない」と記載してるが、当初、のべ3回したが、この約9年間実施していない。薬物療法はしているがほぼ寛解し、仕事にも最初を除き支障がなく無事退職を迎えた人である。

彼は数回、過去ログに出てくる。例えば「ビジネスクラスの海外出張 2007-10-09」などもそうである。その記事では、以下のような記載がある。

この人、薬は飲んでいるけど、今はほぼ完治に近い状態。薬はトリプタノール50mgで以前に比べずいぶん少ない。結局、ECTは3回しかしなかった(2回、しばらくして単発で1回)。その後は薬物で順調に回復したからだ。彼の場合、左手の疼痛が酷かったが、その痛みも今は全くなくなっている。やはりトリプタノールはすごいと思うよ。当時、ECTをした日だが、痛みは手術の失敗でこうなったので主治医を訴えるとか、他の病院で再手術をしてもらうなんて話していて、かなり深刻だったから。まあどうみても二次的な妄想的解釈だと思ったが、そこであれこれ言い合っても信頼をなくすだけでしょ。ムーディー勝山風に右から左へ受け流すしかない。

だいたい、これほどのシビアな疼痛でも初回のECTを実施して目が覚めたら、ほとんど痛みはなくなっていた。いかに痛みは脳で感じているかがわかる。
(中略)
彼は2005年の冬に初診しているので、もう2年近く経っている。当時、症状の程度が酷かったこともあり、もう一度ECTをせねばならない場面もあるかと思っていた。ところが、病状のぶれなんてほとんどなかった。わりあい直線的に治っていったんだな。そのときの病状の悪さは必ずしも未来を暗示していないので、自殺をしたら話にならないのはこういう例をみてもわかる。


彼は当初の数か月は出張を禁じていたが、その後、かなり海外出張をしている。彼には診察中、かなり明言を残している。

①アジアの工場視察によく行っているが、最も仕事が丁寧で日本に近いのはベトナムです。中国は形だけできているように見えるが、仕事が雑でいい加減なので日本に完成部品を輸入しまたチェックしないといけないくらいです。台湾もそれほど良くはない。

②南ドイツに行ったが、あの辺りは夜明けが早く、農家の人が早朝から牛の世話などをし、そのあと自分たちの工場に出社して仕事をする。あまりプロ意識がないのか、完成部品の精度があまり良くない。ドイツ車の○○のメーカーが故障ばかりなのは、うちの部品を使っているためです(爆笑)。

③会社は退職したけど、薬は退職できないですね (この記事のタイトル)。彼は今もトリプタノールを25㎎だけ服薬している。

彼の薬の話だが、もしかしたら薬をやめても再発しないかもしれない。しかし再発時の病状悪化の規模が大きい際、自殺も視野に入るため、この程度の用量であれば継続した方が良いと思われる。しかし彼が薬をやめたいと言わないので、その議論まで未だいったことがない。薬の種類を変えていないのは、第一感で選択肢が見つからないことが大きい。少なくとも、気分安定化薬なしでトリプタノール単剤で完全に安定していることや、病状の波のようなものがまるでないので双極性障害的ではなく、長期的な悪化の確率は比較的高いと推測される。(自然に考えるとそういう見通しになる)。一般に高齢者になるほど自殺の確率が上がるのも考慮したい(過去ログ参照

その他、近年の派遣社員の話が興味深かった。彼の話では、自分の会社に来る派遣社員は、おしなべて学歴が高く優秀で仕事ができると言う。

一方、

自分の会社の若い正社員は、バカばかりです。(お互い苦笑←僕からは爆笑できないため)

彼によると、派遣の優秀な若者は今なら景気も良くなってるし、どこか中途採用されれば良いと思うが、彼らの正社員への意欲はそれほどではないので不思議でならないという。

個人的には、スキルの高い派遣社員は、期間採用でも時給が高いのかもしれないと思う。

日本は、不景気が長すぎて、能力が高くても不遇な時期に卒業した若者が多くいると思われる。各大学では、既卒者の就職の斡旋もしていると言う話も聴くので、そのような境遇の人たちは、大学に問い合わせてみてはと思う。(実際に患者さんにそう言ったことが数回ある。本人がそうするかどうかは自由。)

一方、実務に長けているスキルが高い人々は、派遣でも給与もある程度確保されるので、あまり会社に縛られたくないなど、無形なものに価値を見出しているのかもしれない。

余談だが、彼の会社の企業年金は驚くほど高く、厚生年金の支給が始まるまでのつなぎとしては全く心配がない。派遣社員だとこのような福利厚生の点でも大差がある。いろいろ事情があるのであろうが、スキルが高いのにもかかわらず自由さを尊重し派遣のままでいるいるのは、先のことをあまり考えていないと感じる。もちろん、この考え方は昭和的だと思うのだが。

最後に一点。
アメブロのメールで自分の症状を記載し、自分はmECTを受けた方が良いでしょうか?相談する人がいる。これは、そのような相談をメールでできること自体、ECTを実施する適切な時期ではないと思う。上記のように亜昏迷とか、希死念慮が酷いなど、深刻さのピークではECT奏功し、その後の経過が段違いに良くなるのでECTの価値が高い。そうでないケースだと一時的にいくらか良くなってもその後、元の状態に戻ることが多い。結局は薬物療法がベースになるからである。

あと、特に広汎性発達障害では生来の器質的な背景があるわけで、基本的にECTは不適切である。更に器質的なものを混入させるからである。広汎性発達障害では他の方法を優先すべきだと思われる。広汎性発達障害でさえ、ECTが望ましいのは重いカタトニアの病型をとる人たち。これは全体では稀な病態だが、薬だと何年かかるか想像もつかない(5年くらいはざらにある)。カタトニアであれば、魔法がとけたように改善することの方が多いので、深刻であるほどECT一択である。

アメブロメールでカタトニアの相談が家族からごく稀に来るが、このように答えてる。ただし、家族には理解しがたいのではないかといつも思っている。