ラミクタールとメマリー | kyupinの日記 気が向けば更新

ラミクタールとメマリー

過去ログにレビー小体病は、アリセプトの少量よりラミクタールの方が遥かに有効なことがあると記載している。(参考

アリセプトよりラミクタールが優れている点の1つは、レビーのように薬に敏感な人ではアリセプトによる胃潰瘍や心臓への悪影響が出現することがあるが、ラミクタールにはそれがないこと。

また、器質性幻覚にラミクタールは非常に有効なことがあることであろう。また、認知症に時に併発するうつにも有効である。(重要)


認知症のBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に、抗てんかん薬のデパケンシロップは治療的である。これは認知を多少悪化させても興奮、不眠などを改善するため、総合的には良いといったところである。おそらく、デパケンは認知症自体は改善しないが、さまざまなBPSDを減少させるのでスコア的には良くなる人もいると思われる。しかし、それは真の意味で認知症に効いているとはいえない。

ところが、ラミクタールは認知にも好影響を与えることがあり、フィットする人には、幻覚が消失した上に、「前よりずっと賢くなった」という家族の感想を聞くことが稀ならずある。これがデパケンとラミクタールの相違である。それぞれ特性が逆な面もあり一長一短がある。

若い人にラミクタールを使うと、うっかりが増えたり、認知に悪影響を与えているように見える人もいる。つまりラミクタールも抗てんかん薬なので、認知に悪影響を及ぼす人もいるということだろう(参考)。個人差がかなりあるが、それでも総合的には認知に好影響を与えることが多い。

レビーに限らず、老人の認知症にラミクタールを試みたケースで、劇的に認知症症状に効いたような人は、たぶん認知症と言うより、

うつ状態による仮性認知症が解消され清明になった。

部分が大きいと考えた方がはるかに合理的だし辻褄が合う。元々、双極性障害やうつ病などの疾患は加齢とともに健康な人に比べ認知症になりやすいと言う論文が出ている。しかし、認知症の初期はタイプにもよるが、うつ状態から来る認知の低下も大きいと思われる。その点で、レビーに対してラミクタールの効果が大きいように見えることも理解しやすい。

ラミクタールを認知症に使うと、その症状の改善の内容や経過から、よくそんな風に思う。

つまりだ。
当初、ラミクタールから始める方針を取ると、その認知症にどの程度、うつ病的要素が関与しているかスクリーニングになると言える。また少量で効果が早期に出るので、家族にも歓迎される。リスクは中毒疹だけである。

ラミクタールが劇的に効くなら、認知の障害は、うつ病ないし双極性障害(しかも意識障害を伴うタイプ)から来る部分が大きいと思われる。(例え真の認知症が合併していても)

認知症で紹介を受け、ラミクタールの少量を処方するだけで良くなる人はそのまま12.5~25mgを漫然と投与しそのままにしていた。この増量せず半錠の投与のまま放置しているのも家族に歓迎される。(投与量と効果のパフォーマンスが良いため)

それでも、数ヶ月間、呆然としていてはっきりしていなかった老人が、毎朝、新聞を読むようになるなど、目に見えるほどの改善が見られる人も多い(初期にはアルツハイマーの場合、ずぼらになったと言うのが多い。それがシャキっとするのである)

ただ、この方針は時に問題が生じる。普通、認知症の人は年配ないし高齢なので、しばしば身体的な疾患を合併する。このような老人が入院した際に、主治医が

これはなんだろな?

と思うのか、少量で非常に中途半端な量のラミクタールを中止してしまう。その結果、劇的に悪化するのである。

こういう人は数名どころか、かなりの数の経験がある(転院後の家族の証言)。おまけに主治医がアリセプトを併用したために興奮が悪化し、認知症のBPSDが爆発的に出現する(もちろん、入院という環境変化や症状性も関与する)。アリセプトは合わない場合、興奮の方向に働くことが稀ならずある。

その悪化の経緯で、リスパダール液などを併用され、次第に錐体外路症状などが出てボロボロになる。この場合、嚥下障害が出現し誤嚥、窒息するリスクも伴う。病院に戻ってきた時はかなり悪くなっていることが多い。

このような経験から、少量のラミクタールを処方している限り、錐体外路症状が避けられることに伴う嚥下を悪化させないメリットは大きい。また錐体外路症状による転倒も軽減できる。

BPSDを改善し錐体外路症状を悪化させないものは他にもあるが、おそらくラミクタールは1つの選択肢なのである。

ラミクタールは一般に精神面に働きかけ少し賦活するものの、12.5から25mgの少量では、激しい興奮は稀であり、睡眠を少し悪化させる傾向があるだけである。

一般にラミクタール少量を中止したために明瞭に離脱症状が出ることは稀である。つまり、転院での悪化は離脱症状ではなく、中止による薬効の喪失と、先に記載した環境の変化や身体疾患そのものに起因する。

幻覚が活発で動きの多い認知症の老人(徘徊が多いという意味)には、もしラミクタールで器質性幻覚が十分改善できない場合、それほど有用ではない。

それはラミクタールは少量からゆっくり増量せねばならないことや鎮静の効果が少ないことも関係している。それでも辛抱して200mg程度まで増量していると、やっと少し効果が出て、「○○が玄関に来ている」などの幻覚妄想が鎮静し、徘徊が減り、いくらかフラット感が出て来ることもある。十分ではないものの、抗精神病薬を使うよりははるかにマシである。(メマリー発売以後はこの方法は推奨できない。改善度に比し医療費がかかりすぎるから)

BPSDが酷いタイプは普通はアリセプトなどのコリンエステラーゼ阻害薬、セロクエル、抑肝散、デパケンシロップなどが使われる。サプリメントでは、フェルガードも良いが、ここまで悪い人では効けば儲けものくらいのスタンスで処方する。

それでも悪いなら錐体外路症状が出やすい抗精神病薬を使うしかない。ここは重要だが、「嚥下障害や転倒が生じうること」を家族に説明しておかないといけない。

家族に、「認知症の程度が相当に深刻であること」を理解されていると、何か起こった時に対処しやすい。十分に理解されていないと、転倒して骨折したり誤嚥で亡くなった場合、トラブルになるし医療事故の裁判にもなりうる。治療に失敗したと思われるからである。

その流れになりにくいのが、ラミクタールなのであった。

実際、認知症にラミクタールでコントロールするように心がけると、院内で誤嚥での大騒ぎが減少する。ただし転倒転落は、錐体外路症状だけの原因ではないので常に生じうる。認知症老人が何をするかわからないとはいえ、看護者や医師が24時間抑制することはできない。

ラミクタールは絶対ではないもののかなりスーパーな薬といえる。

そこで登場したのが、メマリーである。メマリーは錐体外路症状がほぼ生じない新しいタイプの鎮静的認知症治療薬であり、使いやすい点でラミクタールより更に優れている。

僕はラミクタールはスーパーな薬と思っていたが、メマリー発売後、これもスーパーな薬なのでかなり驚いた。

その理由だが、リエゾンでは家族に薬の説明をする機会が乏しい上、医師・患者関係も十分取れていないため、ラミクタール投与を躊躇っていたのである。

自分の病院内や外来でラミクタールを使うのと、総合病院でラミクタールを使うのは全然違う。なぜなら、ラミクタールはスーパーではあるが、適応外処方であるし比較的中毒疹が出やすいからである。(他科に出向く時は、穏やかで無理のない処方で対応すべき)

その理由で、リエゾンでは一見して有効と思える老人にもラミクタールの処方をしていなかった。そのタイミングでメマリーが発売されたことは大歓迎だし、リエゾンでも非常に助かっている。

ラミクタールからメマリーに変更した際、微妙に効き味が異なっていることが診てとれるので非常に興味深い。

ラミクタールとメマリーの相違だが、ラミクタールは賦活系の薬だが、メマリーはどちらかというと鎮静系であること。認知症のBPSDは鎮静により改善しやすいので、メマリーは合っている。また人によるとメマリーは賦活的に作用することもある。不思議な薬である。

その意味で、メマリーはフェルガードに、ラミクタールはニューフェルガードに似ているが、効果の桁が違う。

ラミクタールは若い人に対してもそうだが不眠を改善しない。それどころか不眠の原因になっていることも稀ではない。しかし、メマリーは有効な人ではその逆である。メマリーは全般に性格がおっとりし、不眠にも治療的である。

だから、ラミクタール+眠剤の人がメマリー1剤で完結することもある。

過去ログではアリセプトよりメマリーの方が有効な認知症の範囲が広いと記載している。何らかの認知症でメマリーは治療的に働くことが多い。万能と言う意味で抑肝散も同じことが言えるが、効果の強さが段違いである。

過去ログにあるように、メマリーの投与の際の迷う点は「最も適切な用量」である。これは過去ログには個人差があるのではないかと記載している。

純粋にメマリーがフィットしていないが、ある程度有効であることがわかる場合、今後を考えて、デパケンシロップやセロクエルを併用しながら、メマリーを定着させる。最終的にどのような組み合わせになるかは、その人の認知症の状況に関係している。どうしてもメマリーにセロクエルを併用しないと難しい人もいる。

精神医療の特に臨床場面では、常に相対的な精神所見に対峙しており、対症療法を行うことで十分である。

メマリーは老人にしか使わないが、極端に頻度の高い副作用はあまりない。重大な副作用として、

けいれん 0.3%
失神   (頻度不明)
意識消失 (頻度不明)
精神症状の悪化(以下参照)
激越 0.2%
攻撃性 0.1%
妄想  0.1%
幻覚、錯乱、せん妄 (頻度不明)


その他の重篤とはいえない副作用として。(1~5%未満の頻度のもの)
めまい、頭痛 
肝機能異常
便秘、食欲不振
血圧上昇
血糖値上昇
転倒
浮腫
体重減少
CPK上昇


などが挙がっている。メマリーは中毒疹は稀であり、僕はかなり処方件数が多いが経験がない。添付文書では1%未満とされている。中毒疹の出現率の差こそ、メマリーとラミクタールの大きな相違の1つと言える。

参考
メマリー
リエゾンをする精神科医の経験年数
リエゾンの診療報酬と医療崩壊
リエゾンは言葉遣いに気をつける