アリセプトとレビー小体病 | kyupinの日記 気が向けば更新

アリセプトとレビー小体病

現在、アリセプトはアルツハイマー型認知症にしか適応がないが、レビー小体病に有効なことが知られている。逆にアリセプトが極めて有効なら、その疾患が十分に疑わしいと言えるほどだ。

院外のリエゾンで、まあパーキンソンでもレビーでも良いが、パーキンソンの治療のみ受けて、滅茶苦茶な状態になっている老人をよくみる。パーキンソンに対する治療だけだと、その副作用のため幻覚や興奮が悪化し病棟適応が悪くなることが稀ではない。

家族に説明し、うちの病院に転院してもらって治療したことが何度があるが、きちんと説明すれば、精神科への転院も同意してもらえることが多い。レビーの家族は患者さんに対し優しい人たちが多く、真に本人のことを考えているからであろう。

転院した患者さんは最初はパーキンソン薬を中止していき、少し時間を置く。最初からいきなりアリセプトは使わない。まず薬を整理して様子をみる。これだけでもかなり精神症状が改善することも多い。それどころか、精神病院に転院した日にもう少し改善していることすらある。これについては精神病院の魔力というエントリで触れている。(悪いと思える薬が入っているのなら、まずそれを減量するのが基本)

パーキンソンの症状を持つ患者さんには、神経内科のドクターはあまりアリセプトは使っておらず(人によると思う)、逆に一般内科のドクターはやたらアリセプト使っているという奇妙な現象を見る。どちらかが良いかは微妙だ。その理由は、レビーの人は薬への脆弱性があるので、平凡にアリセプト5㎎を処方するのは多すぎるからだ。

また、前方型認知症の人にアリセプトを処方するとかなりの割合で悪化することの方が多い。たぶん、前方型の人はアセチルコリンは足りているんだろう、みたいな・・

一応、一般の読者のために言っておくが、レビー小体型認知症と前方型認知症は全く異なる疾患である。

前方型認知症の人はアリセプトは処方せず、まず抑肝散くらいを処方しておく。セロクエルやエビリファイも悪くない。このようなことから、認知症と曖昧に診断し、すべての認知症にアリセプトを処方するのは良くないことがわかる。

治療していて、これはおかしいのでは?と思ったら、まずアリセプトを中止してみることだ。

アリセプトの推奨されている処方ルールは、まず3㎎使い、その後5mgに増量し、重いアルツハイマーなら10㎎までが認められている。このルールに沿わない処方の場合、レセプト的には減点の対象になる。実は、1㎎くらいで良いレビーの人は多い。

現在、国の推奨する処方はレビーの人々には不適切なのである。

0.75とか1mgを処方し続ける場合、レセプトにレビーとか書かず、素直にアルツハイマーと書き、この人は薬に弱いので仕方なく少量処方していると書いておく。これでだいたい通るようにはなってきたが、ごく最近までそうではなかった。いかにレセプトをチェックする人が勉強不足かわかる。(レビーと書くと、カチンとこられて逆効果。)

実は2000年頃だが、2chでアリセプトにすごく弱い人がいるので、少量の処方しておくと良いと書いたことがあり、そこの住人(医師、薬剤師の板)からボロクソに叩かれた。

その時、彼らはあんがい臨床経験が少ないか、患者の精神症状や薬の副作用の多様性を知らず、考えていることが教科書レベルか、ひょっとしたら学生も多いのではないかと思った。当時、レビーを意識してそう言ったわけではなく、3~5㎎でもヘロヘロになる人がいることを指摘しただけだ。(ハルシオンのエントリで少し触れている。)レビーの人に漫然とアリセプトの通常量を処方していると心臓を悪くすることがある。

レビーの特徴はその精神症状の浮動性である。時間により良かったり悪かったりする。

アリセプトは扁桃体に作用して覚醒レベルを上げる。そのメカニズムでせん妄など精神症状に効く。しかし大量に服用させる必要はなく、1㎎以下で有効な人も多数いるのがポイントである。

レビーの診断にMIBG心筋シンチが利用されているが、これこそレビーのパーキンソン的な所見を確認しているといえる。しかし、この手法は日本人が発見したのが気に入らないらしく、診断基準になかなか採用されないと聞いた。

もう少し簡便な方法。レビーではレントゲンで心肥大、心電図(QT)を診る。これは自律神経を反映しており、(自律神経が弱い)パーキンソン的な所見である。レビーの人は泌尿器の問題をかかえていることも多いがこれも自律神経障害である。

また、中脳では4分の1がアセチルコリン、2分の1がドパミンが関与していると言われており、アリセプトがここに作用してパーキンソンも改善するケースもある。老人保健施設のデイケアではいろいろ歌ったり動いたりするので覚醒レベルが上がる。だから精神症状の浮動性にはプラスであろう。つまりこれらのデイケアに参加することは治療的といえる。

レビーの薬剤過敏性についてだが、血液所見で1ヶ所だけ異常がある場合とか、ちょっとした脆弱さを感じたら少なめから始める。心電図ではQTが400を超えた場合は自重するか量を調整しつつ、無理はしない。

僕の師匠は、「レビーもアスペルガーも存在しない」と言っている。こういう感動的なことを言う精神科医は不思議に名医が多い。

逆説的だが、診断名にとらわれず治療に柔軟性があり、個々の所見や薬物の反応性をみて対症療法的に対処するからだと思う。つまり、治療スタイルが確立しているからであろう。もともとすべての患者さんは同じ人など1人もいない。だからこそ、自信を持って、一見バカなことも言い放てるんだと思った。

レビーは単純な変性疾患ではないと思う。むしろ、非定型精神病的色彩に注目した方が面白い。病前性格や家族関係、精神症状の改善のパターンも似ている。

変性疾患っぽくない特性として、症状の浮動性が挙げられる。EEGでもそういった感じだ。認知症や幻覚が短期間で大幅に改善する人がいるが、こういう急激な変化は変性疾患と言うにはあまりにも・・と思う。

レビーで精神症状が活発にある人ならそうでもないが、少し落ち着いてくるとレスキューレメディーが非常に良い人がいる。こういう反応性も非定型精神病的色彩のような気がしている。(過去ログでの統合失調症の人にレスキューレメディーを使った際も同じような考え方をしている。)

また、レビーの人々の「人物の間違え方」も思考プロセスの障害のように見える。それも脳の前の方の。むしろ器質性の単なる故障に見える。時間が経って治癒といって良いほどになる人がいることも古典的な認知症とは異なる。幻視が多く、幻聴は珍しいなど、そのような所見もそうだ。

参考
アルツハイマーのおばあちゃんはごまかすのか?
精神科医と法律家
ハルシオン
統合失調症とバッチフラワーレメディ
徒然なるままにアミスルピリドとロナセンの後半
レビー小体病とラミクタール