ラミクタールとスティーブンス・ジョンソン症候群 | kyupinの日記 気が向けば更新

ラミクタールとスティーブンス・ジョンソン症候群

本邦でラミクタール発売以後、スティーブンス・ジョンソン症候群は10名発症している。5万5000名に使われていた。(N=55000)

この短期間に、5万人以上と言うのもちょっと驚きである。5500人に1名というのはかなり稀な副作用と言える。10名のうち後遺症で失明はなかった。(急性期は大変だったであろうが)

重要な点は、半数以上は処方ルールを守らず処方されていること。つまり医師の不注意である。

アメリカでの資料ではN数1万以上で0.08%。1200~1300人に1名。日本では、N数がこれより多く、しかも5500人に1名とかなり少なかったのは特筆される。

過去ログから再掲
メーカーは8週まで薬疹に注意するように言っているが、書籍的には16週くらいまで気をつけるように書いてあるものもある。薬疹には良性のものが多いようであるが、必ず中止すべきである。なぜなら、Stevens-Johnson症候群やLyell症候群の出始めと区別がつかないから。粘膜に湿疹が出た場合は特に注意が必要である。

なお書籍的には極めて重い中毒疹の発現率は0.1%程度らしい。(これは最悪の場合、失明や死亡もありうる。書籍によると数百人に1人とか、5000人に1人というものもある。)日本での治験時に330名前後で1名出たが、すぐにステロイドなどで治癒したと言う。もう少し良性の中毒疹はずっと確率は高く8%程度。ただ量を上げていくスピードにも関係しているらしく、いきなり100㎎くらい服用すると非常に中毒疹の出現率が高くなると言われている。


少量から開始し初期からゆっくり増量することが極めて重要である。ラミクタールは軽い中毒疹は10名に1名程度生じる。ゆっくり増量していれば、いざ中毒疹が出現した時に、たいした量ではないため、規模が軽くなる確率が上がるメリットがある。(100mgで生じるのと、12.5mg隔日で生じるのでは中毒疹の規模が違うのではないかと思う。最初から100mg投与するとより危険なことがそのことを示唆している)

ラミクタールの再トライはそう多くはないが、行われているようである。(過去ログにも情報があるし、他の医師でも目撃)。

軽微な中毒疹の場合、2回目は大丈夫ということがある。僕は過去に4回連続で失敗し、なぜか5度目に大丈夫だった人を経験している。(この事件は驚異)

ただし、怖くて12.5mgを超えて増量できない。(それでも十分に有効)

ラミクタールはチュアブル錠なので綺麗に細粒化できない。(潰すと粒々が残り均一化が難しい)そのようなこともありごく少量は処方し難い。(何かを便利にしようとすると、何かしら欠点が生じるものだ)

もし0.01mg錠があるなら、少しずつ漸増して服用可能な人もいるはずである。

テグレトールは中毒疹が出る人でも2mgから徐々に増量すると、飲めるようになる人がいるらしい。テグレトールは使われる場合、600mg程度が多いため、300分の1の量である。

ラミクタールはパワーがあまりにも大きく、双極性障害圏では25mg以下で十分な人が多すぎる。25mgの300分の1は0.1mg程度である。ラミクタールという特殊な薬を考慮すると、0.01mg錠があれば理想的と思う。

ラミクタールは、少量だとそれほど副作用が出ないが、増量するにつれて、情緒が不安定になったり、ある日突然、著しい希死念慮に襲われたりすることがある。また運動系でもうっかりミスが出たり、複雑な動きができなくなることがある。精神面でも普通は認知に好影響を与えるのに、ボケる副作用がある。(これらをラミクタールのパラドックスと呼びたい)

だからマニュアル通り、アホのように直線的に漸増するのはあまり良いようには思えない。あの増量マニュアルは、あくまで中毒疹を起こしにくくするマニュアルであって、精神面についてはさほど考慮されていないようには見える。日本人の忍容性の低さについても同様である。(200~400mg処方を否定するものではない。僕の患者さんでは400mg服用している人が1名だけいる。)

つまり、個々の患者さんに応じたオーダーメイドの増量が望ましい。十分に効いていたのに、増量して精神症状まで悪化させるのはアホである。

「いわんや中毒疹をや」である。

参考
ラミクタールはストレス下でより中毒疹が出やすい
ラミクタールと重篤な中毒疹
ラミクタールと希死念慮