ラミクタールと希死念慮 | kyupinの日記 気が向けば更新

ラミクタールと希死念慮

希死念慮は過去ログでは器質性色彩が強い所見と書いている。たぶん、うつ状態に伴うとは言え、内因性由来ではないものが大半であろう。

双極2型の人がしばしば慢性的な希死念慮を抱いているのは、おそらく器質的なものが混入しているためで、疾患的に不純物が多いからと思う。これは時に生来性の軽微な器質疾患の人たち、あるいは広汎性発達障害の人たちがあたかも双極2型に見えることがあることでもわかる。

だから、双極2型は単一疾患ではなく症候群であり、薬物治療においてもそういう視点が必要と思われる(参考)。

ラミクタールを希死念慮に処方し始めると、当初から希死念慮が軽減し楽になったと言う人が比較的多い。最初は、これほど希死念慮に劇的に有効な薬はないと思うほどの成功率と思った。希死念慮の軽減には個人差があり、極めて少量(12.5㎎程度)を隔日で始めても消失する人すら存在していたからである。

しかし長期的にはやや難しい薬であることがわかってきた。つまり、ラミクタールで希死念慮を治療するのは、精神症状の注意深い観察と辛抱が必要である。

ラミクタールは初期から急速に増量できない。これは極めて大きな欠点であり、当初はこの制約こそ、治療を難しくしていると思っていた。しかし、それだけではないのである。

ラミクタールは、隔日12.5㎎ないし25㎎から始めても2回目服用からうつ状態が軽減し希死念慮が和らぐ人がいる。ラミクタールはいつかも書いたが、フルーツ味で飲み心地が良い薬であり、初期の服用感が優れる薬と言える。

ラミクタールはデパケンRと異なり、鋭利な刃物のような薬物であり、用量に対する効果の大きさの比が大きい。良くも悪くも少量で病状を変えやすい薬物である。

患者さんによると、賦活を通り過ぎて、たった12.5㎎隔日投与で双極2型躁転を来たす人がいる。これは臨床医からすると驚くべきことである。

気分安定化薬で躁転を来たすような薬は、ラミクタール以外にはあまりないと思われる。こういう作用も情緒不安定を来たしやすい側面を表している。ラミクタールはやはり特別な薬なのである。

たいていの患者さんは例えば12.5㎎隔日で実感が改善すると、できるだけ早く増量してほしいと訴える。隔日ではなく毎日でも飲みたいという。しかし増量は慎重にすべきである。急いで増量して、そのために中毒疹が出ては何もならない。

だから、ぼんやりと2ヶ月以内は1日25㎎くらいまでに増量を留める。これだけで中毒疹はたぶんかなり避けられるが、それでも隔日12.5~25㎎(しかも併用薬がリボトリールなどで)程度でも中毒疹の出現は多い。しかし、ほとんどが軽いものである。中毒疹の出現は遺伝子的に決まっているという話もある。(←もしこれが正しいなら、ゆるやかに増量すべきと言う説明が曖昧になると思う。)

双極性障害の重いうつ状態に対するラミクタールの作用は、用量依存性に効果が高まる人がいる。そういう人は少しずつ増量するが、それでも50㎎くらいしか必要がない人がいる。ある程度までは効果が伸びるが、ある水準を越えると、そこまで改善しなくなるような人も多いのである。

また、希死念慮はリストカットに比べ性質を異にしており、「ある日突然消失する」といった消え方をしない。これはラミクタールだからではなく、この精神所見がそうなのである(参考)。ラミクタールは効果の立ち上がりは急峻でも、症状のうねりが出現し挿間性に再び希死念慮が出現する人もいる。だから、症状の注意深い観察が必要である。(初期の波乱で、むしろ希死念慮を悪化させているように見える人もいる)

ラミクタールは何かを抑え込むような効き方はしない。比較的、精神の自由度が高い向精神薬なので、ラミクタール処方中の波乱は初期でも、中期でもありうる。これは何らかの併用薬が必要と思われる。従って、ラミクタール単剤(+抗てんかん薬)だけではうまく行かない人もいる。

一般的には、ラミクタールを希死念慮に処方する場合、既に抗うつ剤が処方されているケースが多い。

希死念慮に対するラミクタール処方の注意点(併用薬)

① SSRIは避ける。(←極めて重要)
しかし基礎疾患によると、デプロメールを併用で処方せざるを得ない人もいる。そういう人でも抗うつ剤デプロメール単剤はまずい。ただし既にかなりの量のSSRIを服用している人は急激に中止すべきではない。

② リフレックスもできるだけ避ける。
リフレックスは元々希死念慮がない人には併用で良い人もいる(うつやアンヘドニアなど)。

③ 理想的にはブプロピオンが良い。

④ 旧来の3環系、特にアナフラニール、トフラニール、ノリトレン、アモキサン、アンプリットなどは良い。4環系のルジオミールも優れている。(ただし頻繁なODが伴う人には不適切である。症状が落ち着いてから併用するとか、アナフラニールの点滴を実施する)

⑤ デパケンRは補助的に有効である。
デパケンRはラミクタールの血中濃度を高めるため、中毒疹の危険性を増すが、結果的に効果を増強している。また、ラミクタールの自由度を少し抑えるために症状のうねりを緩和する。

⑥不要なデパス、ソラナックス、ワイパックスなどの抗不安薬は整理すべきだ。(リボトリールなど抗てんかん薬に置き換えるか、中止する)


いわゆる「ウェールズの人」の幻覚を伴う不穏状態、希死念慮、焦燥を伴う「うつ状態」は、時にラミクタールの追加で劇的に改善する。

こういう人でも、少量で十分な人がむしろ多いのは不思議である。過去ログで、ここには「神様がいるようです」という患者さんの話をアップしているが、久しぶりに再会した時、すぐにこの人はラミクタールが適切と思った。普通に治療して全然良くなっていないので、これくらいしか即効性のある治療法はない。

この女性は何ヶ月もどうしようもないほど調子が悪かったが、むしろ悪影響を及ぼしているように見える抗うつ剤を漸減し、わずか12.5㎎のラミクタールを隔日に追加しただけで、抑うつ気分や被害妄想が消失した。その後、増量し毎日ラミクタール12.5㎎を服用するようになった。ところが驚愕することに、1日12.5㎎ではこの人には多すぎるのである。

そうして、このようなシンプルな処方になった。

デパケンR  800㎎
ラミクタール 12.5㎎(隔日)


本人は爽快感があるようで、非常に喜んでいた。それはそうだ、あれほど抜けられなかったトンネルがいとも簡単に抜けられたからである。(彼女が「神様がいる」と言った経緯)

やはり双極性障害やそれの近縁にある疾患群(レビー小体病も含む)は、気分安定化薬で治療するように心がけるべきである。彼女は幻覚妄想もすべてラミクタールが片付けていることが興味深い。

彼女は不思議なことにラミクタールを増量すると、少し多弁になり賦活が過ぎるように感じられる。だから治療のバランス的にもボリューム的にも12.5㎎隔日が適切である。また、併用薬はやはりデパケンRが良いのである。

これは、双極性障害という疾患への働きかけにおいて、お互いに効果を引っ張り合い見事に調和している。