メマリー | kyupinの日記 気が向けば更新

メマリー

メマリー(一般名;メマンチン)

2011年に、メマリーを含め3種類のアルツハイマー型認知症の薬が次々と発売されている(他、レミニール、イクセロンパッチ)。従来は長い間、エーザイのアリセプトしかなかった。

新しいタイプのアルツハイマー型認知症薬のうち、メマリーだけは一風変わった作用機序を持つ。メマリーは、NMDA受容体拮抗作用を持っているからである。

メマリーは 第一三共株式会社から発売されている。5、10、20mgの3剤型が発売されており、添付文書的には、

メマンチン塩酸塩として1日1回5mgから開始し、1週間に5mgずつ増量し、維持量として1日1回20mgを経口投与する。

<用法・用量に関連する使用上の注意>
1.1日1回5mgからの漸増投与は、副作用の発現を抑える目的であるので、維持量まで増量する。
2.高度腎機能障害(クレアチニンクリアランス値:30ml/min未満)のある患者には、患者の状態を観察しながら慎重に投与し、維持量は1日1回10mgとする。
3.医療従事者、家族等の管理の下で投与する。


となっている。メマリーは約3~7時間で最高血中濃度に達し、至適治療量の範囲では薬物動態は線形である。最終消失半減期は60~80時間。メマリーはほとんど代謝を受けず、投与量の57~82%は未変化のまま尿中に排泄される。残りは3つの極性代謝産物に変化するが、これらはわずかにNMDA受容体拮抗作用を持つらしい。

アルツハイマー型認知症では、シナプス間隙のグルタミン酸濃度の持続的上昇により、NMDA受容体が活性化されている。この経過により神経細胞への過剰なカルシウムの流入を招き、神経細胞を死に至らしめる。

メマリーは、異常なグルタミン酸伝達に関連するNMDA受容体を部分的に遮断し、一方、正常な細胞機能に関連する生理的伝達は遮断しない。この結果、過剰なグルタミン酸から神経細胞を保護し、認知症の進行を遅らせる。

またアルツハイマー型認知症では、シナプティックノイズが増大することにより記憶を形成する神経シグナルを隠し記憶・学習障害が生じるが、このシナプティックノイズも抑制すると言われている。

添付文書的にはメマリーは中~重度のアルツハイマー型認知症に投与できる。(軽い人はアリセプトなどのコリンエステラーゼ阻害薬が推奨されている)

初めて、メマリーを2.5mgだけ投与した時、その効果に驚愕した。メマリーは極少量でも、家族が明確にわかるほどの変化をもたらす人が稀ならずいる。

アルツハイマー型認知症の臨床所見のうち、家族が介護に困るような症状をBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という。これは、徘徊し勝手に家を出ていくとか、家族への暴力・暴言、不潔行為(便弄りなど。いつのまにかポケットに自分の便を入れている人すらいる)、介護の拒絶などを言う。

これらは行動面の異常行動である。また、精神面の所見もBPSDは含む。これらは、盗られた妄想や幻覚・幻視、不安、抑うつ、睡眠障害、せん妄などである。


BPSDが酷い認知症を持つ家族は、家庭で介護しようとすると、昼間も一時も目が離せないし、夜も一睡もできない事態になる。やはり認知症の治療薬は非常に重要である。(治療しないと家族が体を壊す)。

最初にメマリーを2.5mgだけ処方した際、家族によると、その患者さんは以前より行動面の落ち着きのなさや介護への抵抗が減ったので随分介護が楽になったという。

メマリーは感覚的には10人に6人くらいははっきりとした効果がある。経過が良い人は、非常におっとりし、穏やかな性格に変わったように見える。しかし、10人のうち1~3名は効果がなく、10人のうち1~2名はかえって興奮するなど病状が悪化する。

メマリーによる病状悪化のメカニズムは、作用機序を考えると、アリセプトによる病状悪化ほどはわかりやすくない。

メマリーは添付文書的には5mgずつ1週間ごとに増量することになっているが、忍容性が低い人が稀ならずおり、少量のままの方が良いケースも多い。メーカー的には速やかに20mgまで増やしてほしいのであろうが、体に堪えてそうもいかない人もいるのである。

これまでの研究によると、5mgでそのまま経過を診るより、20mgまで増やした方が例えば1年後の認知症の進行が遅れると言う。しかし、副作用で飲めないものは無理である。

メマリーの必要な用量に影響する指標はいくつかあり、その1つが上記の腎機能のクレアチニンクリアランス値。実際、この値が悪い人は10mgで継続して良いことになっている。

しかしながら、それ以外に影響するものがありそうなのである。その1つが一般内科が処方する身体疾患への治療薬。メマリーの一部は尿細管分泌により排出されるため、同じ腎臓陽イオン系を使う薬剤、例えば ダイクロトライド(降圧利尿剤)、タガメット(ヒスタミンH2受容体拮抗剤、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の薬)、キニジン(抗不整脈薬)などと併用すると、メマリーないし内科薬の血中濃度に影響する場合がある。これは認知症の薬物は高齢の人に処方されることが多く、既に内科薬を服薬していることが多いことも関係している。

その他、身体的に衰弱している際も、メマリー影響でいっそう元気がなくなる人がいる。例えば、重症感染症などで動けないほどであれば、一時的にメマリーは中止すべきである。また尿のPHも関係すると言われている。PH8のアルカリ尿では、メマリーのクリアランスは約80%減少する。患者さんの体調が悪い時は、メマリーは減量か中止する方が望ましい。

メマリーの至適用量を須らく20mgと考えない方が良いことは、家族からの経過報告でもわかる。2.5mg~5mgから始めて、当初はBPSDが改善していたのに、増量するにつれかえって興奮するとか、動けなくなりいつも寝ているということがあるからである。

その際に、家族がメマリーを減らしてみると、快活になるとか不機嫌が減るなど、病状が回復するらしい。合っているのに服用量が多すぎるのである。

つまり、日本人は身体的な疾患、併用薬、体調、脳の忍容性により、メマリーの投与量は考慮した方が良いと思われる。レセプトには、

この患者さんは薬に弱いため、仕方なく少量を処方している。

くらいに書いておく。これで今のところ減点はない。(うちの県の場合)。

メマリーは特にリエゾンで極めて有用な薬である。それは、今の総合病院では認知症を伴う高齢者が多く入院しているからである。総合病院では認知症のBPSDに対し、セレネース、リスパダール、セロクエル、眠剤などが投与されていることが多い。もしこれがメマリーに代替できるなら、嚥下性肺炎などのリスクを減じられるため、治療的にも看護的にも遥かに有用で優れている。

現在のリエゾンにおける認知症のBPSDには、抑肝散、アリセプトなどのコリンエステラーゼ阻害薬、メマリー、デパケンシロップ、セロクエルなどを主体に対応するのが良い。

また、アリセプトなどの従来型のコリンエステラーゼ阻害薬が漫然と投与されているため、BPSDがかえって悪化している人に、コリンエステラーゼ阻害薬を中止し、メマリーを投与することで、あっというまに「おりこうさん」の老人に変じることがある。この変化は、内科・外科系の主治医や看護者が驚愕するほどである。その量もたった5mgくらいで良い場合もある。

メマリーはコリンエステラーゼ阻害薬に比べ、おそらく治療できる認知症の範囲が広い。

おそらくアルツハイマーだけでなく、他のタイプの認知症、前方型認知症やレビー小体型認知症にも有効なのである。これも必ずしも20mgまで投与しなくても良い人が多く存在することに関係している。

メマリーの投与量や増量のスピードはもう少し裁量が与えられるような添付文書の記載が良い。その理由だが、5mgとか2.5mgなどの少量を継続した場合、院内ないし調剤薬局から、「この処方はおかしいのではないか?」と言う内容の電話がかかってくるからである。(いちいち説明するのが大変。患者さんはどこの調剤薬局に行っても良いため)。

20mg処方されている人を5mgまで減量したため、かえってBPSDが改善したことが何度もある。

一方、20mgまで投与してもケロリとしており、しかも全然効いていない人がいるのも事実である。この場合、コリンエステラーゼ阻害薬を併用することで、効果が増強することがわかっている。(レセプト的にも容認されている)。

メマリーは新しいタイプの画期的な認知症治療薬で、今後、処方箋数が伸びていくと思われる。

参考
アリセプトとレビー小体病
アルツハイマーのおばあちゃんはごまかすのか?