レビー小体病とラミクタール
その女性患者さんは研修医時代に助手だった先生からの紹介されている。(これは偶然)
主訴は幻視。「虫がいる。」「子供が来ている」など。
本人によれば、夢の中でも虫の大群が出てきたらしい。熱湯をかけると、虫がその中を泳いでいったと言う。(このオチには笑った。)
さまざまな視覚系の幻覚があり、「男の子が家の中に入って来て卵を盗んで行った」というものもある。こういうものもあるが、とにかく虫の訴えが多い。
前医ではアリセプト5mgが処方され、あまり効果的ではなかった。介護度が1であまり高くない。認知症の人は地域差があると思うが、介護保険では手がかかるわりに要介護1になることが多い。コミュニケーションは十分取れる。若干の排尿障害がある。
薬に敏感なレビー小体病とはいえ、アリセプト5mgの処方はよく見る。これはレセプト的な問題もある。また、わりあい5mgで平気な人もいるので、脳の障害のあり方が単一ではなく症候群を呈していると思われる。もちろん薬の脆弱性の個人差もあると思う。
当初、ツムラ54(抑肝散)を併用したがさっぱりだった。アリセプトは5mg処方されているが3mgまで減量。全然、変化がない。最初は悪くもならなかった。
しかしアリセプトを3mgまで減量し、しばらくすると、新たにネコが出てくるようになった。
親ネコじゃなく、中ネコです。
という。けっこうかわいいらしい。
天井の辺りにいて、こちらを睨み付けるので、「コラッ」と言います。
そうするといなくなることもある。コタツに入っていたら、急に猫が出てきたのも見たことがあるという。
埒が明かないので、ラミクタールを12.5mgを隔日投与することにした。アリセプトは話にならないので中止。5mgも3mgも幻覚が収まらないのでは、効いているとは言い難い。内容が変わるのは面白いと思うが。減らしていったところで、(あるいは増やしたとしても)、幻視が収まるようには思えないでしょ。
レビーの幻覚にはアリセプトより、ラミクタールの方が遥かに効く。
ツムラ54は残しておく(+リボトリール半錠)。このような処方。
ツムラ 54 7.5g
ラミクタール 12.5mg(隔日)
リボトリール 0.25mg(ただし実際は飲まない。これを飲むと転ぶため)
家族によると、ラミクタールを入れて腰痛もネコの話も全然言わなくなった。凄く良くなったという。また、認知症自体が軽くなっているという。理解力がかなり改善しているらしい。
ここが認知に好影響を与えるラミクタールらしいところ。またラミクタールは疼痛にも有効である。リリカほどではないが。またアリセプトほど心臓に悪影響がないのが良い。
ラミクタールは器質性幻覚に非常に有効なことがある。
ただ、夜あまり眠らないという。(ラミクタールの賦活作用)夜、眠剤を入れると転ぶため、デパケンシロップを併用する。2mlだけね。(100mg相当)
デパケンシロップは細かい量を調整するのに向いている。また、味が良いので服用しやすいが、家族がきちんと管理して飲ませないといけない。
もちろんデパケンは抗てんかん薬なので認知には悪影響がある。抗てんかん薬で認知をむしろ良くする薬はおそらくラミクタールのみである。
家族によると、デパケンシロップでぐっすり眠るようになったという。
その後、数ヶ月は問題がなかった。しかし、一時、肺炎を起こし入院した際にせん妄が生じた。この入院時にデパケンシロップを8mlまで増量しているが、ほとんど副作用的には問題がなかった。他はツムラ54とラミクタール12.5mgである。
デパケンシロップ8ml(400mg)
ツムラ 54 7.5g
ラミクタール 12.5mg(毎日)
(リボトリール)
初診1年目にして、虫の話、猫の話、男の子の話を全くしなくなったという。表情も穏やかになり、家族への暴言もない。顔つきがとてもよい。というより、顔つきはアルツハイマーである。
過去ログでは、レビーの人の表情や接触性はアルツハイマーの人のそれに似ていると書いているが、パーキンソンが色濃く出ている人はそうでもない。しかし、全般、レビーの人はかわいい感じの人が多い。特に僕が診ている人はそうである。
一時、体力的に食事が摂れない時期があり、その際に全ての薬を中止してみた。1ヶ月後に来てもらうと、全く変化はないという。いつものようにニコニコしている。
その1ヵ月後には、「水道からアリがポタポタ落ちてくる」と言い始めたので、薬を再開。
アリの訴えの他に、家の中を鳩が飛び回るという。誰かが家に来ているとよく言う。人が物を盗りに来ると言うらしい。
前回はラミクタール12.5mgで落ち着いたが、今回は12.5mgでは不十分で25mgまで増量。その後、幻覚はほとんど言わなくなった。
ラミクタールは25mgで十分なようである。盗られた妄想も嘘みたいに消えたという。ラミクタールとデパケンシロップを入れることで、幻覚系の所見はほとんど収まっている。(厳密に言えば、非日常の環境でたまに出現するらしい)デパケンは老人にはやや重い薬なので使わないで済めばその方が理想である。
盗られた妄想は「物忘れ」から来る二次妄想なので、抗精神病薬は普通は不適切である。この人はましてレビー小体病なのに。
ラミクタールはパーキンソン症候群を悪化させず、レビーのような薬物療法が難しいタイプの患者さんには驚くほど効くことがある。また中毒疹を特に注意しておけば、それ以外は少量なら副作用も少ない。
僕はレビーの人にラミクタールを処方した際に、初回で上手くいかず(賦活のために続けられないなど)、数回のトライ後やっとうまくいったことが何回かある。(もちろん全ての人にはうまくはいくわけではない。)
何度もドアを叩き続けることが重要だと思う。
参考
アルツハイマーのおばあちゃんはごまかすのか?
アリセプトとレビー小体病
うつ状態の二次妄想に抗精神病薬を使うこと
リリカ
リエゾンでのせん妄
主訴は幻視。「虫がいる。」「子供が来ている」など。
本人によれば、夢の中でも虫の大群が出てきたらしい。熱湯をかけると、虫がその中を泳いでいったと言う。(このオチには笑った。)
さまざまな視覚系の幻覚があり、「男の子が家の中に入って来て卵を盗んで行った」というものもある。こういうものもあるが、とにかく虫の訴えが多い。
前医ではアリセプト5mgが処方され、あまり効果的ではなかった。介護度が1であまり高くない。認知症の人は地域差があると思うが、介護保険では手がかかるわりに要介護1になることが多い。コミュニケーションは十分取れる。若干の排尿障害がある。
薬に敏感なレビー小体病とはいえ、アリセプト5mgの処方はよく見る。これはレセプト的な問題もある。また、わりあい5mgで平気な人もいるので、脳の障害のあり方が単一ではなく症候群を呈していると思われる。もちろん薬の脆弱性の個人差もあると思う。
当初、ツムラ54(抑肝散)を併用したがさっぱりだった。アリセプトは5mg処方されているが3mgまで減量。全然、変化がない。最初は悪くもならなかった。
しかしアリセプトを3mgまで減量し、しばらくすると、新たにネコが出てくるようになった。
親ネコじゃなく、中ネコです。
という。けっこうかわいいらしい。
天井の辺りにいて、こちらを睨み付けるので、「コラッ」と言います。
そうするといなくなることもある。コタツに入っていたら、急に猫が出てきたのも見たことがあるという。
埒が明かないので、ラミクタールを12.5mgを隔日投与することにした。アリセプトは話にならないので中止。5mgも3mgも幻覚が収まらないのでは、効いているとは言い難い。内容が変わるのは面白いと思うが。減らしていったところで、(あるいは増やしたとしても)、幻視が収まるようには思えないでしょ。
レビーの幻覚にはアリセプトより、ラミクタールの方が遥かに効く。
ツムラ54は残しておく(+リボトリール半錠)。このような処方。
ツムラ 54 7.5g
ラミクタール 12.5mg(隔日)
リボトリール 0.25mg(ただし実際は飲まない。これを飲むと転ぶため)
家族によると、ラミクタールを入れて腰痛もネコの話も全然言わなくなった。凄く良くなったという。また、認知症自体が軽くなっているという。理解力がかなり改善しているらしい。
ここが認知に好影響を与えるラミクタールらしいところ。またラミクタールは疼痛にも有効である。リリカほどではないが。またアリセプトほど心臓に悪影響がないのが良い。
ラミクタールは器質性幻覚に非常に有効なことがある。
ただ、夜あまり眠らないという。(ラミクタールの賦活作用)夜、眠剤を入れると転ぶため、デパケンシロップを併用する。2mlだけね。(100mg相当)
デパケンシロップは細かい量を調整するのに向いている。また、味が良いので服用しやすいが、家族がきちんと管理して飲ませないといけない。
もちろんデパケンは抗てんかん薬なので認知には悪影響がある。抗てんかん薬で認知をむしろ良くする薬はおそらくラミクタールのみである。
家族によると、デパケンシロップでぐっすり眠るようになったという。
その後、数ヶ月は問題がなかった。しかし、一時、肺炎を起こし入院した際にせん妄が生じた。この入院時にデパケンシロップを8mlまで増量しているが、ほとんど副作用的には問題がなかった。他はツムラ54とラミクタール12.5mgである。
デパケンシロップ8ml(400mg)
ツムラ 54 7.5g
ラミクタール 12.5mg(毎日)
(リボトリール)
初診1年目にして、虫の話、猫の話、男の子の話を全くしなくなったという。表情も穏やかになり、家族への暴言もない。顔つきがとてもよい。というより、顔つきはアルツハイマーである。
過去ログでは、レビーの人の表情や接触性はアルツハイマーの人のそれに似ていると書いているが、パーキンソンが色濃く出ている人はそうでもない。しかし、全般、レビーの人はかわいい感じの人が多い。特に僕が診ている人はそうである。
一時、体力的に食事が摂れない時期があり、その際に全ての薬を中止してみた。1ヶ月後に来てもらうと、全く変化はないという。いつものようにニコニコしている。
その1ヵ月後には、「水道からアリがポタポタ落ちてくる」と言い始めたので、薬を再開。
アリの訴えの他に、家の中を鳩が飛び回るという。誰かが家に来ているとよく言う。人が物を盗りに来ると言うらしい。
前回はラミクタール12.5mgで落ち着いたが、今回は12.5mgでは不十分で25mgまで増量。その後、幻覚はほとんど言わなくなった。
ラミクタールは25mgで十分なようである。盗られた妄想も嘘みたいに消えたという。ラミクタールとデパケンシロップを入れることで、幻覚系の所見はほとんど収まっている。(厳密に言えば、非日常の環境でたまに出現するらしい)デパケンは老人にはやや重い薬なので使わないで済めばその方が理想である。
盗られた妄想は「物忘れ」から来る二次妄想なので、抗精神病薬は普通は不適切である。この人はましてレビー小体病なのに。
ラミクタールはパーキンソン症候群を悪化させず、レビーのような薬物療法が難しいタイプの患者さんには驚くほど効くことがある。また中毒疹を特に注意しておけば、それ以外は少量なら副作用も少ない。
僕はレビーの人にラミクタールを処方した際に、初回で上手くいかず(賦活のために続けられないなど)、数回のトライ後やっとうまくいったことが何回かある。(もちろん全ての人にはうまくはいくわけではない。)
何度もドアを叩き続けることが重要だと思う。
参考
アルツハイマーのおばあちゃんはごまかすのか?
アリセプトとレビー小体病
うつ状態の二次妄想に抗精神病薬を使うこと
リリカ
リエゾンでのせん妄