アーサー・ローレンツ脚本、レナード・バーンスタイン音楽、スティーヴン・ソンドハイム作詞のブロードウェイ・ミュージカルの映像化作品『ウエスト・サイド物語(West Side Story)』(監督:ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンズ 1961)は、ブロードウェイ・ミュージカルの映像化作品になります。

この作品では、ポーランド系アメリカ人とプエルトリコ系アメリカ人少年非行グループの抗争と、若い男女の2日間の恋愛が描かれており、2021年にスティーブン・スピルバーグ監督が再度映像化しております。

 

1957年のニューヨーク.。

アッパー ・ウェスト サイドの2大ギャング・チーム、ラス・タンブリン(役名:リフ)率いるポーランド系のジェッツと、ジョージ・チャキリス(役名:ベルナルド)プエルトリコ系のシャークスが、支配権を巡りいつもの様に争っています。

サイモン・オークランド(役名:シュランク警部補)とウィリアム・ブラムリー(役名:クラプキ巡査)が到着すると、争っていた彼等は引き離され説諭されます。

ラス・タンブリンはシャークスと白黒つける為にジェッツに決闘を持ち掛け、ジェッツのメンバー達は売られた喧嘩を買います。

副官にリチャード・ベイマ―(役名:トニー〈ジミー・ブライアント〉)を選んだラス・タンブリンに対し、メンバーはリチャード・ベイマーはもう仲間から外れていると主張しますが、ラス・タンブリンは「一度ジェッツに入ったのであれは死ぬまでジェッツ団だ」と言って彼等を承服させます。

中立地帯の体育館で行われたダンス・パーティで、ジェッツはシャークスのジョージ・チャキリスと決着を付けることを胸に秘めます。

ラス・タンブリンはリチャード・ベイマ―をダンスに誘いますが、リチャード・ベイマーにはダンス会場で何かが起こりそうな予感がします。

一方、ジョージ・チャキリスの妹ナタリー・ウッド(役名:マリア〈歌唱:マーク・ニクソン〉)は、親友でジョージ・チャキリスのガールフレンドであるリタ・モレノ(役名:アニタ)に、ダンス・パーティに踊る胸の内を伝えます。

2つのギャング・チームと女性達が互いの接触を禁じられていたパーティ会場に、リチャード・ベイマーが到着します。

一目で恋に落ちたリチャード・ベイマーとナタリー・ウッドに、怒りを顕わにしたジョージ・チャキリスは彼にナタリー・ウッドから離れるように言い渡すと、妹を家に連れ帰ります。

ラス・タンブリンは、決着を付ける為に、ネッド・グラス(役名:ドック)のドラッグ・ストアでジョージ・チャキリスと真夜中に会うことを提案します。

ナタリー・ウッドのへの想いが昂じたリチャード・ベイマーは彼女のアパートの非常階段を上り、2人は踊り場で互いの愛を確認します。

ウィリアム・ブラムリー(役名:クラプキ巡査)は、ジェッツが何か企んでいるのではないかと疑い、トラブルを起こさないように警告します。

ジェッツの許にシャークスが到着すると、彼等は翌日夕方に、道路の下で殴り合いで闘うことに同意します。

そこにサイモン・オークランド(役名:シュランク警部補)が到着すると、ギャングたちは仲の良い振りをします。

翌日、ブライダル・ショップで、リタ・モレノは誤ってナタリー・ウッドに果し合いのことを話してしまいます。

リチャード・ベイマーがナタリー・ウッドに会いにやって来ますが、リタ・モレノはジョージ・チャキリスが2人の関係を知ったらどうなるかを警告します。

闘いを阻止する為にリチャード・ベイマーが到着しますが、ジョージ・チャキリスは彼を敵視します。

リチャード・ベイマーが屈辱を受けるのが耐えがたいラス・タンブリンは、ナイフを手にします。

止めようとするリチャード・ベイマーが割り込みますが、ジョージ・チャキリスのナイフががラス・タンブリンの軀に刺さります。

 

本作で、ミュージカル映画史に刻まれると思われるダンスを披露するジョージ・チャキリスとリタ・モレノが、夫々アカデミー助演男優賞と助演女優賞を受賞しております。

2人以外にも、『掠奪された七人の花嫁』(監督:スタンリー・ドーネン 1954)でギデオンを演じたラス・タンブリンを筆頭とする、他の俳優陣の素晴らしさも論を俟たないと思います。

この映画に関しては、ストリート系の端緒とも思われる革新的な群舞やファッションの衝撃について多く語られておりますが(※1)、自分はやはり音楽の凄さに圧倒されてしまいます。

「マリア」、「トゥナイト」、「サムホエア」等の印象に残るメロディもさることながら、ドミトリ・ショスタコービッチや新ウイーン学派を思わせる前衛的な音群が衝突し合う刺激的な音の連続や、3つのグループが同時に異なったメロディを歌いながら決闘に向かうポリフォニー展開の凄さなどは、天才作曲家がオペラ形式ではなく、ミュージカルに作品を書いてくれたことに感謝せずにはおれません。

片山杜秀は現代作曲家としてのレナード・バーンスタインは、「キャンディ-ド」等の他のオペラ・ミュージカル作品で評価を得たかったに違いないと論じております。

しかしながら、自分としては先述のポリフォニー・シーンの素晴らしさのみならず、「マリア」や「トゥナイト」のヴァースの素晴らしさに、「West Side Story」が現代作曲家リヒャルト・シュトラウスが古典的メロディ・メーカーの資質を発揮した「ばらの騎士」に匹敵する、多くの人々に愛され続ける芸術作品の様に感じます。

後年、レナード・バーンスタインがホセ・カレーラスとキリ・テ・カナワを主役に据えてドイツ・グラモフォンにCD作品を吹き込みましたが(※2)、こちらはある意味、純粋音楽作品としてのレナード・バーンスタインによる遺産と言えるかも知れません。

20世紀を代表する音楽作品の舞台を、オーケストラの生演奏付(または演奏会形式)で一度体験したいと思っております。

ジェローム・ロビンズによるダンスの革新と、レナード・バーンスタインの至高の音楽がロバート・ワイズ監督と個性溢れる俳優達によって創られたミュージカル映画のエバーグリーンとして、これからも観続けて行きたい映画です。

 

(※1)川本三郎は著書「映画の木洩れ日」の中で、衣装デザイナー、アイリーン・シャラフが伸縮性の素材をデニム風にアレンジすることで、ストリートの若者達によるブロードウェイ群舞をスクリーンに登場させたことを論じております(キネマ旬報社、2023、pp28~38)。

 

PS:この文章は2018年1月記載の内容に粗筋を加えて大幅に内容を加筆・変更した差替えです。

 

§『ウエスト・サイド物語』

ジョージ・チャキリス(中央)↑

ジョージ・チャキリス(左から2人目)↑

サイモン・オークランド(手前)、ラス・タンブリン(左後ろ)↑

リチャード・ベイマー、ナタリー・ウッド↑

リタ・モレノ(中央)、ジョージ・チャキリス(右後ろ)↑

リタ・モレノをリフトするジョージ・チャキリス(中央)↑

リチャード・ベイマー、ナタリー・ウッド↑

リチャード・ベイマー、ナタリー・ウッド↑

リタ・モレノ(スティーブン・スピルバーグが2021年に監督した『ウエスト・サイド・ストーリー』では、商店主バレンティーナとして出演)↑

リチャード・ベイマー、ナタリー・ウッド↑念

ジョージ・チャキリス(前列右から2人目)↑

リチャード・ベイマー、ナタリー・ウッド↑

 

§『王様と私』(監督:ウォルター・ヤング 1956)

タプティム姫を演じるリタ・モレノ(中央)↑

 

§「West Side Story関連」

●Oscar Peterson (p)「West Side Story」(Verve V6-8454 1962)

●Leonard Bernstein「Leonard Bernstein conducts West Side Story」(DG UCCG-70044  1984)〈※2 CDジャケット 左下〉