労働組合法上の労働者とは!? | 経営側弁護士による最新労働法解説

経営側弁護士による最新労働法解説

人事・労務に関連する労働法の最新問題や実務上の留意点などを取り上げて解説していきたいと思います。
また、最新判例についても言及します。

本日、厚生労働省のHPに労使関係法研究会の報告書がアップされた。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001juuf.html


「労働組合法は、労働者と使用者とが対等の立場に立って交渉することを実現すべく、労働組合の結成を擁護し、労働協約の締結のための団体交渉を助成することを目的としています。
しかし、業務委託・独立自営業といった働き方をする人が加入する労働組合が、契約先に対して団体交渉を求めたところ、労働者ではないとして団体交渉を拒否され、紛争に至る事例が生じています。
 労働組合法で定義される「労働者」に該当するか否かについて判断が困難な事例が多い中で、確立した判断基準が存在しなかったこともあり、このような紛争を取り扱った労働委員会の命令と裁判所の判決で異なる結論が示され、法的安定性の点から問題となっていました。
研究会において、労働組合法の趣旨・目的、制定時の立法者意思、学説、労働委員会命令・裁判例等を踏まえ、労働者性の判断基準を報告書として提示したものです。」


とのことである。


つまり、労働基準法にいう、労働者ではなくとも、労働組合法にいう労働者に該当する者については、労組法に則り、団体交渉に応ずる必要があるとぃうことだ。


今後の個人委託型業務請負の活用には要注意である。


一般的に、労基法よりも、労組法の労働者概念は広いと考えられてきており、労働契約を締結しておらず、労基法・労働契約法にいう「労働者」に該当しなくとも、労働組合からの団体交渉に応じなければならないいわば「準」労働者的位置づけである。


そもそも、本報告書が作成されたのは、これまで労組法上の労働者概念を巡って、地方労働委員会、中央労働委員会、地裁、高裁、最高裁が区々とした判断を出し続け、実務が混乱しつつあったからである。


そのため、本報告書は、本年4月に出されたINAXメンテナンス事件、新国立劇場事件の両最高裁判決及び昨年に出されたソクハイ事件中労委命令を契機としている(特に、本報告書の骨子はソクハイ事件と同様である)。


若干、要素についてコメントするに、労組法上の労働者性における主な判断要素は

① 事業組織への組み入れ
労務供給者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか。

②契約内容の一方的・定型的決定
契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか。

③報酬の労務対価性
労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか。


の3点である。

 

 この中で、「①事業組織への組み入れ」とは、CBC管弦楽団事件最高裁判決から出てくる要素ではあるが、労基法と労組法の違いを決定づける要件である。すなわち、労基法の労働者性においては、労働者に対する指揮命令が最も基本的要素となるが、労組法においてはこれは補充要素に留まる。

 その代わりにトップに出てくるのが、①の組み入れなのであるが、最高裁判決やソクハイ事件を見てみると、lこの組み入れの範囲は極めて広いものと考えざるを得ない。

 

 これは報告書を見ても、①の要件につき、「労務供給者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか」としているが、企業は業務の遂行に不必要な外注などを行うはずはなく、この要件を否定するのは困難であるからである。

(指揮命令とはベン図の関係にあり、組み入れはかなり広いというイメージ)


従って、今後、個人委託型業務請負を活用するのであれば、労組法上の労働者性が肯定されることをある程度念頭に置いて(覚悟して)制度設計をしなければならない。


また、仮に労組法上の労働者性について徹底的に争うつもりがあれば、報告書にも消極的要素として提示されている「顕著な事業者性(労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者と見られるか。)」を検討していく必要があるだろう。


平たく言えば、専属代理店などではなく、競合他社の委託も受けている電気屋のイメージである。


最後に、個人委託型業務請負を活用する上で、最も重要なことは、労基法上の労働者に該当することは何としても避ける、ということである。


労組法上の労働者性が肯定されるだけでは、企業としては団体交渉応諾義務が生ずるのみであるが、仮に労基法上の労働者ということになれば、一般の労働者同様に、解雇権濫用法理、就業規則の不利益変更法理その他労働基準法上の規制・権利行使が伴ってくるため、もはや個人委託型業務請負の体をなさない事態となるからである(また、言うまでもなく偽装請負である。)


この注意点としては、以前に旧労働省から出されている『労働基準法研究会報告』(昭和60年12月19日)
を参考にする必要があるので、その記事はまた別項。


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