近時、アスベスト訴訟が増加している。
その訴訟類型は様々で、アスベスト含有製品を製造していた会社の元従業員、下請会社従業員、造船所従業員、アスベスト含有建材を利用して建築業務に従事していた建設業者の元従業員、一人親方…等々である。
最近になって訴訟が増えている理由は、一般に石綿関連疾患の潜伏期間の長さにあると考えられる。
すなわち、アスベスト吸引後20年~40年経過後に、中皮腫・肺がん・石綿肺等の疾患が発症するのである。
そして、アスベストに曝露する業務に従事していた期間から相当程度経過し、今になって発症する例が増えているということだ。
統計によれば、アスベスト関連疾患者数のピークは2020年(平成32年)とも言われている。
さて、アスベスト訴訟については、様々な判決が出されているが、殆どの判決が企業敗訴である。
つまり、企業としての安全配慮義務に違反したとの内容の判決が殆どである。
(建築物の瑕疵に関する所有者責任は除く)
確かに、昭和30年~50年頃においても、労働安全衛生法・特定化学物質障害予防規則(特化則)、じん肺法等により、石綿をはじめとする粉じんに関する対策義務が法律上定められていたため、これら当時の法律上の義務に違反していた会社であれば、安全配慮義務を問われることは当然であろう。
しかし、筆者が危惧しているのは、アスベスト訴訟が「結論先にありき」であり、「結果責任」に近くなってはいないかという点である。
すなわち、裁判例においては、当時の法令上の義務を超えて「最大限の注意を払うべきであった」とするものが散見される。
しかるに、当時、国が建築基準法などによりアスベスト含有建材を耐火認定し積極的に使用を推奨していたとおり、当時の認識としては、今ほど「危険な物質である」という認識は無かったのである(もちろん、多量に吸い込んだ場合は危険であるという認識は存したため、多量吸入防止の法規制が当時からなされている)。
そうだとすれば、国が積極的に使用を推奨していた物質を利用して製品を製造していて、どうしてこれが不法行為や安全配慮義務違反となってしまうのであろうか。
もちろん、被害に遭われた方の救済の必要性はあるので、この点は国が立法問題として解決すべきである。
しかし、国は、大坂泉南訴訟(地裁)にて敗訴した後も、立法を行っていない(労災特別法は制定したが)。
つまり、国の使用推奨や規制権限不行使が原因となり、アスベスト疾患が発生したのであるから、国が負担すべき債務について、個別企業が実質的に肩代わりさせられているということである。
そのため、国の制度不備を民間が肩代わりしているという点で、年金・高年齢者雇用問題と実は問題の本質を一にするのである。
筆者は多数のアスベスト訴訟を経験しているが、このような視点を有する裁判官に出会った試しがない。
このような考え方は極端であろうか。
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