メンタルヘルス対応その1(職場復帰と成果主義的賃金体系) | 経営側弁護士による最新労働法解説

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人事・労務に関連する労働法の最新問題や実務上の留意点などを取り上げて解説していきたいと思います。
また、最新判例についても言及します。

メンタルヘルス不調のために休業した労働者の職場復帰支援として、厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を発出している。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei28/index.html





いわば、「職場復帰マニュアル」である。





これによれば、メンタル不調者が職場復帰するまでの流れは以下のとおりとなる。




第1ステップ:労働者による休職

第2ステップ:主治医による職場復帰の診断書提出

第3ステップ:職場復帰の可否判断・職場復帰支援プランの作成

第4ステップ:最終的な職場復帰の決定

第5ステップ職場復帰後のフォローアップ


という段階を適切に踏むことによって、労働者の復帰を円滑に行うというものである。






しかし、これには最も重要と思われる点が欠けている。





すなわち、復帰した労働者に対してどのような仕事をアサインするのかという点である。





通常、正社員の休職期間は半年~長くて2年程度であろう。その際、休職する者が担当していた業務については別の者が担当しなければならない。その後、休職者が復帰するに際し、別の担当者を更に移してまで、もとの業務に復帰させる必要があるのかという点である。





そもそも、企業は労働者の担当業務決定について、広範な裁量権を有しているため、嫌がらせのような仕事でない限り、完全に前と同じ仕事に就ける必要はない。


そうであれば、従前より納期や仕事の密度という点で軽減された業務に就けることも可能であるのだが、問題は最近よく見られる成果主義的賃金体系との関係である。





つまり、軽減業務にアサインすると年収もこれにリンクして下がってしまうという事態である。これが復帰者に対する不利益取扱にならないかという点は、労働契約法上の就業規則の合理性と相まってしばしば困難な問題となる。





合理性判断はケースバイケースなので、当該企業の人事制度、当該労働者の職歴、担当業務、病気の内容、賃金減額の程度、期間、その後の見通しなどを総合的に判断する必要があろう。





次に問題となるのが、労働者の側から軽減業務を求めてくるケースである。





つまり、「私は従前の担当業務はできませんので、労働時間や作業内容を軽減して下さい」と言った格好である。かかる要望に対しては、必ずしも労働者の要望にマッチした業務が存在しないため、企業人事担当者として対応に苦慮することも多い。






このような場合に、企業としては「完全に体調が治るまでは復帰してはならない」と言って復帰を拒むことができるのであろうか。

(この問題は次回解説します。)


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