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佐藤晃一のブログ

アスレチックトレーナー

スポーツにおける「主な」痛みの原因のその4は、「トリガーポイント」です。3つ目の「運動機能障害」を飛ばしましたが、リハビリ・トレーニングにおいて最終的に行き着く場所が「運動機能障害」なので、最後に説明します。

トリガーポイントとは、筋肉内の索状硬結(赤い固まりのある薄ピンク色の繊維)にある触診可能で小さく非常に過敏な圧痛点(赤い固まり)です。ピンク色の繊維は、筋節が均等に並んでいますが、
索状硬結では、トリガーポイント(赤い固まり:部分的な筋節の不随意な収縮)が原因で周辺の筋節(薄ピンクの部分)が伸ばされてしまっています。

このトリガーポイントを押して刺激すると患者の訴える症状・関連痛を起こします。ちょっとややこしい言い方ですね。簡単に言うと、痛み(関連痛)の原因は、痛みのある場所とは別の場所にある筋肉にあるしこり(圧痛点)が原因という事です。

上の図を見ていただきましょう。お尻の外側から太ももの裏(赤・ピンク色の部分)に痛みがあるとします。痛みのある部分に問題があると考えられがちです。しかし、この痛みは、梨状筋にあるトリガーポイント(黒のX印)によるものである可能性がります。この痛みがトリガーポイントに起因するか確認するには、梨状筋にある圧痛点を探して、押してみればわかります。押した部分だけでなく、
お尻の外側から太ももの裏(赤・ピンク色の部分)にも痛み(関連痛)が出れば、それはトリガーポイントが原因です。最も簡単な対処法は、押して刺激を維持する事です。刺激を維持するとまずは関連痛、そして梨状筋の痛みも徐々に和らいでいきます。和らいできたら、もう少し強く押してみます。圧痛(梨状筋)と関連痛(赤・ピンク色の部分)が出たら、それを維持して、痛みが和らぐのを待ちます。これを繰り返していきます。この方法は、単純に言えばマッサージですね。トリガーポイント・リリース(Release)といいます。鍼や注射を使う方法もありますが、この方法が最も簡便です。

主なトリガーポイントの原因は、①不適当な姿勢維持と運動習慣、②反復運動、③過剰・不慣れな運動 、④感情・ストレス、などがあります。感情と筋緊張については以前お話ししました。感情の変化が、姿勢の変化やトリガーポイントの原因になり、痛みが起きてしまうという事はよくあると思います。

図で説明した通り、トリガーポイントのある筋繊維はトリガーポイントの部分は不随意に収縮していて、周辺の部分は伸張した状態になっています。したがって、トリガーポイントは痛みの原因だけでなく、可動域制限や筋出力にも影響をおよぼします。不随意の収縮とそれに伴う周辺の筋節の伸張により、筋繊維がある意味伸びきっているという状態なので、可動域に制限をきたします。さらに、筋節の長さが原因で、筋出力が低下します(筋節の長さと筋出力の関係「F-L曲線」)。これらが原因で、運動機能に影響を起こすわけです。もちろん、痛みそのものが姿勢や動きに影響を及ぼします。

固まっているのであれば、ストレッチをすれば良いと思われますが、この不随意の収縮はストレッチに非常に敏感であり、ストレッチされるとさらに緊張します。固い(こっている)筋肉をストレッチしてもそれが緩和されない理由はここにあります。トリガーポイントの対処はストレッチではなく、紹介したマッサージが有効で、対処後に軽いストレッチをするのをお勧めします。

関節のストレステストや、筋力テストで痛みがでない場合などに、トリガーポイントに関して頭の片隅でおいておくと便利です。それぞれの筋肉のトリガーポイントとその関連痛の場所は覚える必要はないですが、たまにちらちら見ておくと良いです。

トリガーポイントのバイブルは、これです。

Travell & Simons’ Myofascial Pain and Dysfuncti.../Lippincott Williams & Wilkins





治療、リハビリの目的は、怪我から敏速に回復させる事はもちろんですが、本当の勝負は、その怪我に起因する運動機能(可動域、筋力、運動機能)の低下による怪我の発生の予防です。

スポーツにおける怪我でよくある
筋骨格痛は、怪我の程度がひどくない限り、特別な治療をしなくても痛みはなくなります。例えば、足首の捻挫をしても、軽・中程度であれば、しばらくすれば痛みはなくなります。しかし、痛みがなくなっても、運動機能には問題が残る事がほとんどです。足首の内反捻挫の場合、背屈域の低下、臀筋群の機能低下があげられます。わかりやすく言えば、怪我の後遺症という感じですね。これらの後遺症は、同じ部位の怪我の再発はもちろん、他の関節・部位の怪我にもつながります。後遺症によって、身体の様々な部分に微妙なズレが生じて、ズレが組織にストレスをかけて、それがダメージを起こすという事です。

残念ながら、予防ができているかどうかは、起きてみないとわからないし、それがいつ起きるかもわかりません。年齢が若い間は、組織の回復が早いので、多少の後遺症が残っていても、ダメージが溜まりにくいわけです。

それでは何を判断基準にするべきでしょうか?それは、それぞれの運動機能であり、最終的には動きの質だと思います。身体の動きの質と、怪我の発生の関係性ははっきりしてきているので、もともとの怪我による運動機能への影響、しいては動きの質が回復すれば、将来の怪我が予防できると思われます。

身体は柔らかいほうがいい。当たり前のような事ですが、必ずしもいい事ではありません。

膝をまっすぐにして、前屈してつま先を触ってみてください。小学校の身体測定でおなじみの柔軟性のテストです。座って膝を伸ばした状態で検査した方もいるかもしれません。いずれにせよ、つま先に指がつけば良いという事でしょうか?また、つかなかった場合、背中を一所懸命押してあげれば良いのでしょうか?

膝をまっすぐにして前屈する際、身体は大きくわけて、股関節、腰椎、胸椎の3つの部位で曲がります。さて、それぞれの部位がどの程度動いているでしょうか?理想は、背中(胸椎・腰椎)がきれいに弧を描き股関節が約70-80度屈曲している状態です。また、前屈してつま先に指を近づける過程も重要です。それぞれの部位が同時に屈曲していくのが理想です。

つま先に指がついても、屈曲のバランスが崩れていたら問題です。よくあるパターンは、股関節の屈曲の制限が、腰椎の過度の屈曲でする補われているパターンです。腰椎が股関節に対して相対的に柔軟である(相対的柔軟性)といえます。
この場合、脊柱(特に腰椎)に余分な動きがあるので、その動きが制御されていないと、それが原因で障害につながる可能性があります。対処としては、股関節の屈曲を向上して、脊柱にかかる負担を軽減するのが良いと思われます。その際、脊柱(特に腰椎)が屈曲しないように気をつける事が重要です。一番簡単な方法は、両足で立って股関節だけを使って前傾します。横から見ると、股関節を頂点にした「くの字」になります。普通に立った状態での脊柱のアライメントを維持して、脊柱が丸まらないようにしましょう。体重を踵に移動して、意識的に股関節の屈曲筋を使って前傾をするとさらに効果があります。

上記をふまえて、つま先に指がつかない場合どのように対処したら良いでしょうか?まず、どの部位からの動きが不足しているか確認しましょう。これも股関節の制限が多いと思います。従って、座った状態で背中をおすストレッチは、股関節の屈曲だけでなく、脊柱の屈曲も促しているので、既に十分柔らかい脊柱の屈曲もストレッチされている事になります。複数の関節を一緒にストレッチする際、柔らかい部分が伸びる傾向をShirley Sahrmannは、「Path of Least Resistance」と説明しています。
動きは抵抗の少ない部位からおこりやすいという事です。股関節の屈曲に注目して、股関節・腰椎・胸椎がバランスよく曲がるようにしなければいけません。

それぞれの部位の可動域が改善したら、前屈の動きのタイミングも治す必要があります。つまり可動域があっても、それを上手に使う筋力と運動制御がなくてはいけないという事です。具体的に説明してみましょう、前屈の際、腰椎の屈曲が先行して、最終的に腰椎が過剰に屈曲してしまう人の前屈を向上するとしましょう。まず、股関節が屈曲するための関節の可動性・域(Diane LeeのForm Closure)、さらに、前屈する際、過剰に腰椎が屈曲しないように維持するための筋力(同じくForce Closure)とそれを制御する神経機能(Motor Control)が必要になります。

一見単純な「柔軟性」ですが、相対的にどの部分から動きがきているのかという「量」、どのように動いているのかという「質」、両方がそろってより良い柔軟性がある、といえるとわけです。