佐藤晃一のブログ -16ページ目

佐藤晃一のブログ

アスレチックトレーナー

アリゾナ州立大の女子体操チームのアスレティックトレーナーをしていた時に、アシスタントコーチをしていた方にDance Kinesiologyを紹介されました。彼女はダンサー・振り付け師として、私はリハビリ・トレーニングの視点からお互いに身体の動きを見ていたという事で、意気投合したという感じです。

Dance Kinesiologyとは、簡単に言うとダンサーの視点からのKinesiologyというところでしょうか。ダンサーが永い間培ってきた身体機能を体系化してまとめたものです。ダンサーの見地から身体の動きや姿勢、筋肉のつき方などと、怪我の関係性を説明しているのは、なかなか面白いです。また、身体の動きを機械的な言葉ではなく、表現力豊かな言葉を使って、イメージをわかせて動きを改善していく方法は非常に効果的だと思います。

先日紹介したDiane Leeもイメージトレーニングを取り入れています。
Dance Kinesiology/Schirmer Books
Dynamic Alignment Through Imagery/Human Kinetics (Trade)


Diane Leeはカナダ、バンクーバーの理学療法士です。

日本でも毎年ワークショップを開催していて、彼女の著書は翻訳されています。残念ながら彼女のワークショップは場所を問わず理学療法士限定ですが、DVD、著書、彼女のサイトには、関連の文献があります。

身体の機能を司る要素として、Form Closure(骨格、靭帯など)、Force Closure(筋肉)、Motor Control(運動制御)、Emotion(感情)、Nutrition(栄養)の5つの要素をIntegrated Model of Functionとしてとらえ、現在は痛み(怪我)だけでなく人間を包括的にケアするというアプローチを展開してます。評価の際、それぞれの要素をきめ細かく評価し、対処法を組み立てていきます。

出産後の骨盤底筋群の機能不全による腰痛や、尿失禁へのアプローチも充実しています。ヨガや、ピラテスなどの運動を積極的に取り入れて、女性にやさしいアプローチです。もちろん、同じ人間なのでスポーツ選手にも役立ちます。
The Pelvic Girdle: An integration of clinical e.../Churchill Livingstone
ペルビック・アプローチ―骨盤帯の構造・機能から診断・治療まで/医道の日本社
脊柱・骨盤のマニュアルセラピー/医歯薬出版

まずは、前置きとして、言葉の整理をしておきたいと思います。

下腹部をへこませて、腹横筋を収縮させる「ドローイン」の英語は、「Drawing in」です。英語読みだと「ドローイング・イン」です。ネットをいろいろと調べてみると、「ドローイン」、「ドローイング」と呼ばれています。さらに、英語では、「Drawing in」の他に「Hollowing」とも呼ばれているので、ややこしいですが、ここでは、どうやら一般的に使われている「ドローイン」を使っていきたいと思います。

単刀直入に言うと、ほとんどの場合「ブレーシング」をつかい、「ドローイン」は、「ブレーシング」を使って痛みの出る動きを解消できない場合と、動きに関係なく痛みのある場合に、仰向けや座位など、じっとした状態で使用します。

では、詳しく。

私の使い分けを決める過程は、まず痛みの有無と評価内容でで始まります。痛みがあり、評価の過程で腑に落ちない場合まず
医師に紹介して、私が対処できない(すべきでない)障害・病気でないか確認します。もちろんリハビリの最中にも、どうも納得がいかない場合は医師と相談します。この辺は以前お話しした、「痛みの原因にはいろいろある」という点に留意しています。

まず、痛みのない一般的なトレーニングの場合「ブレーシング」を教えます。そして、筋力・パワー向上を目的とした、荷重の大きな運動や、動きの早い運動をする際に意識的にブレーシングをさせます。意識的なブレーシングによって、脊柱(腰椎)の動きを最小限にして、負担を軽減するのが目的です。特に、パンチをしたり、タックルをする際、身体全身をギュッと締める感覚を養わせます。ちなみにこの「身体全身をギュッと締める」のは、腰痛の研究、リハビリ、トレーニングの権威Stuart McGill博士の「Super Stiffness」です。

 

McGill博士のリハビリ、トレーニング方法を学べるワークショップはこちらです。

http://www.tryworks.co.jp/workshop/190316.html


筋力・パワー重視の運動に対して、運動制御(動きの質)の向上目的とした荷重が小さい運動や、スピードの遅い運動の際はブレーシングののような意識的な脊柱の支持ではなく、自然の動きの中で脊柱の動きを最小限にするように指導します。例えば、自重のスクワットの際、股関節を屈曲させて、腰椎が屈曲しないように指示するだけで、まずは「ブレーシング」指導しません(するな、とも言いません、基本的に選手の自由にします)。そして、うまくいかない場合、ブレーシングを指導する事もあります。

次に痛みのある場合です。まず、痛みが動きに関連するか否かで分類します。痛みが動きに関係なく、安静時にある場合は物理療法や薬を使って、痛みの対処をします。それに平行して、仰向け・座位で「ドローイン」を一日2-3回、10秒維持を10回(約2分)をさせます。これは、痛みによって発火の遅延がおきている腹横筋(共収縮によって、多裂筋、骨盤底の筋など)の再教育をするためです。ちなみに、これらの筋は弱くなっていたり、発火しなくなっているのではなく、「発火が遅れて」います。ここでは詳しくは説明しませんが、もうひとつの重要な筋肉が、横隔膜です。従って、横隔膜を使ってより良い呼吸ができるようにする必要もあります。

痛みが治まってきたら、自重を使って、四肢を動かしながら脊柱のアライメントを維持する運動を徹底的にやっていきます。この際、「ドローイン」の必要はありません。心配であれば、「ブレーシング」を使用します。あとは、耐久性をあげながら、運動の負荷、スピードを上げていきます。

少々長くなりましたが、これが私のブレーシングとドローインの使い方です。

ドローインがやたらと注目されて、いまだに適切に使われていない理由は、また書きます。こちらで。