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佐藤晃一のブログ

アスレチックトレーナー


炎症に続いての一般的な痛みの原因は、組織変質です。

腱周辺に起きる慢性的な痛みを、「腱炎(Tendinitis)」と呼びますが、痛みのある部位にある腱に炎症がないという事が報告されており、腱周辺にある慢性的な痛みは、腱の炎症によるものでなく「組織変質(Degeneration)」であり、「腱の組織変質(Tendinosis)」とするのが適切だという事になっています。

これは新しい見解ではなく、1986年に「腱または周辺の痛みをあらわす用語と、病理組織学的根拠に著しい違いがあり、ほとんどの場合組織変質である。」“remarkable discrepancy between the terminology generally adopted for these conditions (tendon pain) and their histopathologic substrum, which is largely degenerative."と報告されています。

簡単に言うと、組織変質とは治癒過程のリモデリング期が完了せずに、組織繊維がきれいに配列されないでたくさん残っている状態です(痛みは、組織変質した腱に血管と一緒に侵入してくる神経によるものです)。従って、対処法は炎症を想定したものではなく、治癒を促進し、リモデリングを促進するのが目的になります。従って、抗炎症薬の使用やアイシングは痛みの対処にはなりますが、痛みの原因である組織変質には効果は望めないと思われます。少し深く考えてみると、炎症は治癒において必要な過程であり、それを薬品などで抑えるのは後々の適切な治癒に影響を及ぼす可能性があります。この見地から、急性傷害の痛みの対処は痛み止めがよい、とされているわけです。

具体的には、エキセントリック運動の効能が報告されています。負荷と動きのスピードを漸進的に大きくしながら、1日一回、3x10を毎日続けるのがよく使われている方法です。エキセントリック運動中の多少の痛みは、OKです。詳しくは、「Eccentric」と「Tendinosis」で検索すると論文が出てきます。他に効能が認められているのが、Tissue Mobilizationなど、腱に物理的に刺激を加えて微小なダメージを起こす事によって治癒を再開しストレッチと併用してリモデリングを促進する方法です。この他には、PRP(多血小板血漿)注入、Prolotherapy、Shockwave療法(衝撃波療法)、また針を使って直接腱にダメージを与える方法などがあります。

組織変質の原因は、急性傷害の結果、もしくは不適切な姿勢や動作の繰り返しが原因で身体の動きの問題(運動機能障害)が起き、組織への慢性的な負担の増加によっておこります。従って、上記の対処法で組織の質の向上を図っても、元々の原因である
運動機能障害を対処しなくてはなりません。


「良いエクササイズ・悪いエクササイズというものはない、良いトレーナー・悪いトレーナーはいるけどね。」私の友人のトレーナーが学生の質問に対して答えた言葉です。エクササイズは使い方次第ということです。

私も同感で、このエクササイズは良い・悪いとは言いたくないのですが、紹介したStuart McGillは「腰椎の屈曲を伴う腹筋運動はよくない」として、シットアップ・クランチの代わりに、彼がBig3NYタイムス紹介)と呼んでいる3つのエクササイズを薦めています。

一般的に行われている、シットアップやクランチでは、腰椎に危険なレベル(約3300N)の圧縮力が加わり、椎間板に障害がおきやすくなる、と報告されています。詳しくは彼の著書を参照してください。ほかにも、この彼の理論を簡単に解説したサイトはいくつかあります。彼の名前で検索すると、記事や動画がたくさん出てきます。
The man who wants to kill crunches(クランチをなくしたい男)
Is Your Ab Workout Hurting Your Back? Dr. Stuart McGill Advises to Trade in the Crunch for the Bird Dog, Side Bridge, & Stir the Pot(あなたの腹筋運動が腰を痛めていますか?)

Big3以外にも、腰椎に無駄な負担をかけないエクササイズはたくさんあります。基本的には、「動的な腰椎の屈曲を避ける」ということです。従って、屈曲位を維持して動かなければ問題はあまりないようです(F=maなので、動きがなければ(a=0)、力もかかりません(F=0))。

もちろんシットアップ・クランチは長年使われているエクササイズであり、これらが腰痛の原因だとは言い切れませんが、McGillの紹介している研究結果を考慮して、シットアップ・クランチの代用があるのであれば、納得のいくことだと思います。

私はエクササイズの指導の際、どうしてもシットアップやクランチをやりたいなら、自分でやってねと選手に言います。
Stuart McGillの著作物は、トレーニング・リハビリを仕事にしている方は、必ず読むべきだと思います。「腰痛」と題されているので、「腰(腰椎)」のリハビリ専門のものだと思われますが、研究結果を基にトレーニングを含めて実践的なアプローチを紹介してます。
「Spine Sparing(スパイン・スペアリング)」は脊柱を保護する、という考え方で、彼のアプローチの根幹になっています。単純に説明すると、肩関節と股関節をできるだけ動かして、脊柱からの動きを最小限にするという考え方です(詳しくは彼の著作物を参照してください)。スパイン・スペアリングにおいて重要なのは、「Bracing(ブレーシング)」です。お腹のまわり360度に力を入れ、腹部のすべての筋を共収縮させて腰椎を安定させるというものです。

体幹・コアエクササイズにおいて「ドローイン」が浸透していますが、McGillは「ドローインはしないでください」と言います。「ドローイン」は腹横筋の独立運動なので、日常の運動やトレーニングにおける「ドローイン」のみでの腰椎支持は不十分である、という考えに基づくものです。

この、「ドローイン」と「ブレーシング」の使い分けは、またお話しします。

Low Back Disorders
Ultimate Back Fitness and Performance、2
冊本が出ていますが前者のみ日本語になっています。

腰痛―最新のエビデンスに基づく予防とリハビリテーション/ナップ