「炎症」は、それに伴う「4徴候(発赤、熱感、腫脹、疼痛)のひとつとして、痛み(疼痛)の原因です。炎症は治癒の過程(炎症期・増殖期・成熟期)の第一段階として、怪我の部位におけるダメージを最小限に抑え、ダメージを受けた細胞を取り除き、新しい細胞が作られるための環境を作るのという、不可欠な過程です。
炎症に伴う痛みの対処をする際大切なことは、「炎症」と「痛み」の対処を分けて考えることです。痛みの原因である炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使うことがありますが、これは治癒に不可欠な炎症を妨げることになりかねません。痛みは不快でいいものではありませんが、炎症は必要です。アセトアミノフェンなど、抗炎症性のない鎮痛薬で対処し、必要であれば、NSAIDsは最小限の量を最短期間、使用するのがよいようです。
Use of nonsteroidal antiinflammatory drugs: an update for clinicians: a scientific statement from the American Heart Association
Practical management: nonsteroidal antiinflammatory drug (NSAID) use in athletic injuries
また、炎症の対処として一般的なRICE(Rest, Ice, Compression, Elevation:安静、冷却、圧迫、挙上)もひょっとしたら治癒の妨げになるのではないか、という少し過激なアプローチも紹介しましょう。Don't Ice That Ankle Sprain(その足関節捻挫を冷却するな)とういう本が、軽・中度の捻挫に限定して、冷却や圧迫をせずに、関節の牽引、運動をすることで、関節可動性・筋力を維持、部位に治癒に必要な新鮮な血液を供給し、回復を促進する、というものです。もちろん、エビデンスの高い科学的な研究に基づくものではありません。しかし、現場での効果は報告されています。少し過激ですが、納得がいく説明でもあります。
アスレティックトレーニングのリハビリや傷害評価の授業の最初のほうで、炎症と治癒過程について学ぶので、痛みと炎症は切り離せない印象がついてしまうようです。したがって、痛みの評価をする際、その背景に炎症があると思いがちです。さらに、慢性の痛みに関しては、「慢性炎症」という言葉が出てくるので、炎症と痛みの関係はさらに強くなるようです。では、慢性の痛みも炎症が原因なのでしょうか?
続いての、スポーツにおける「主な」痛みの原因は、「組織変質」です。その2をどうぞ。