読んでいた小説に素敵な言葉が出ていたので紹介したい。
連作短編集の中の一作で、主人公である若い夫婦の夫が突然会社をやめて、得意だった料理の腕を活かしキッチンカーの仕事を始める。いろんな問題が生じてなかなか商売にならない中、縁あって知り合った洋食店を閉めたばかりの元料理人と出会い、アドバイスをいただく流れでその料理人にとっては「命の次に大切なもの」であるレシピを見せてもらうことになる。
その際の2人のやりとりである。
「そんな大切なレシピを、見せていただいてよかったんでしょうか」
(中略)
「こんなことを言うとね、老人の戯言(ざれごと)と言われてしまうかもしれないけど、私はやっぱり料理ってのは最終的に気持ちが大事なんだと思うんだ。旨いものを作って、人を幸せにしたい、っていうね」
(中略)
「君からはね、人を幸せにしたいって気持ちを感じるんだよ。レシピも技術も大事だけど、なにより必要なのはその気持ちだ。(後略)」
話の運びがよかったこともあって、素直に胸がジーンとなった。
そして以前読んだ本にあった、こんな言葉も思い出した。
人間はなぜ、はたらかなくてはいけないか?
それは「端を楽にさせる」ためなんです。
つまり、「はたをらく」に、で「はたらく」。
周りの人たちを楽にさせる、楽しませるためにはたらくということ。
自分のためにではなく、人のため。人間として、はたらかないと、人生何の意味もないのです。
なぜ、はたらくのか | 寿建設 社長ブログ (ameblo.jp)
仕事とは必ず社会や誰かの役に立つことである。そのうえでの対価、それが本来あるべき姿であろう。
しかしながら対価の方を優先して利用者や相手のことよりも、自分の得を考えて仕事をしがちなのが人間の悲しい性である。
だが、それは本質でないことを認識して、出来るだけ理想に向けて取り組んでいきたい。
この言葉をわが業界に借りていえば、
「土木ってのは最終的に気持ちが大事なんだと思うんだ。よいものを作って、人を幸せにしたい、っていうね」
当社の企業理念に「喜ばせる」という言葉を入れたり、「三方良し」や「利他」という考えを社内でも周知し続けているのは同様の意味である。
何かを理解する時、理論や理屈で落とし込むよりも、私にとっては物語の中のこうした会話からの方が腑に落ちやすい。
すっと入ってくる。
だから小説を読むことがやめられないのだ。
今回読んだその小説はこちら。著者のことも含め何の情報知らず、書店で見かけて表紙のイラストが美味しそうで買った一冊。