赤と黒 -190ページ目

『空の色紙』

 『空の色紙(くうのしきし)』(帚木蓬生)


―あらすじ―

 精神科医である主人公に、殺人容疑者の精神鑑定の依頼が入った。容疑者を調査していくなかで、主人公は兄(故人)と妻への想いを見つめなおすこととなる。表題作ほか2篇を収録。



 表題作「空の色紙」は、登場するそれぞれの夫婦の内面がしっかり書かれており、さらにそれらが絡み合うのが絶妙でした。そしてタイトル「空の色紙」に繋がるラストも非常に素晴らしかったです。中篇3作の中で最も面白い作品です。他の2作品は医学・医療問題ということもあり、難しくて分かりにくかったですね。


空の色紙 (新潮文庫)/新潮社

¥680
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『本日開店―高円寺純情商店街』

 『本日開店―高円寺純情商店街』(ねじめ正一)

―あらすじ―
 「純情商店街」にも訪れる変化の波。大手スーパー・マーケットの進出計画が持ち上がり、商店街は浮足立ち、反対運動を始めることを決めたのだが。


 大手スーパーの進出計画や祖母の入院など、商店街に変化が訪れます。解説の言葉を借りるなら、「ユートピアが徐々に崩壊していく過程を描いている」のであり、最後の「本日開店」で明るい終わりではあるのですが、読んでいて少し寂しくなりました。しかし非常に面白いのも確かで、時間を忘れて一気に読んでしまいました。

本日開店―高円寺純情商店街 (新潮文庫)/新潮社

¥432
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『高円寺純情商店街』

 『高円寺純情商店街』(ねじめ正一)

―あらすじ―
 高円寺の北口にある純情商店街。そのアーケードの中にある乾物屋の息子・正一と、純情商店街に暮らす人々との日常を描く。


 どこか懐かしく、古きよき昭和の香りがします。また、この小説は描写が上手く、巻頭には商店街の地図が、巻末には一軒一軒の紹介があり、舞台である純情商店街の姿が現実感とともに浮かび上がります。商店街が舞台だからという理由もありますが、中島らも氏の『白いメリーさん』に収録されている短編・「日の出通り商店街いきいきデー」に似た感じを受けました。のんびりゆっくり読むのに適した本です。

高円寺純情商店街 (新潮文庫)/新潮社

¥432
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『孫策』

 『孫策』(加藤厚志)


―あらすじ―

 父・孫堅の死により、江東の地を受け継いだ若き俊英・孫策。袁術の元に身を寄せるが、鳳の志が中元へと羽ばたこうとしていた。三国志の英雄の一人、孫策の姿を描く。



 孫策は三国志の中でも爽やかな人物としてイメージされることが多いのですが、この本でもかなり爽やかに書かれていました。改めて孫策を見直してみると、とても格好良いことに気付かされます。父である孫堅の死を乗り越え、わずか数年で曹操をも恐れさせるまでに成長した孫策の姿は、非常に魅力的です。


 それだけに、ここから天下に羽ばたいていくといった矢先に死んでしまうところがとても悲しいのですが、むしろここで死んでしまうからこそ、現代まで孫策の恰好良さが失われないままになっているのだと思います。小覇王の名に相応しい人物でした。


孫策(そんさく) 呉の基礎を築いた江東の若き英雄 (PHP文庫)/PHP研究所

¥660
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『僕らはどこにも開かない』

 『僕らはどこにも開かない』(御影瑛路)


―あらすじ―

 日常を縛る「鎖の音」。耳障りなその音から逃れるために僕は。



 紹介文が結構過激で、「問題作登場!」みたいに書かれていたので期待していたのですが、期待しすぎたと言うか、肩透かしを食らった感じです(『脳髄工場』もこんな感じでした)。特別問題作とも思えないのですが。それでもまあ、物語が全体的に暗い点や、鎖の音云々の点など、面白と感じられる部分も幾つかありました。


 普段からライトノベルが好きでよく読むという人には結構受け入れられそうな小説ですね。友達に、メフィスト賞作品やライトノベル、ミステリーなどをよく読む∀kiさんという人がいるのですが、何となく彼あたりが読みそうな印象を受けました。


僕らはどこにも開かない (電撃文庫)/メディアワークス

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『三国志英雄伝』

 『三国志英雄伝』(NHK取材班)


―あらすじ―

 「その時歴史は動いた」の中から、三国志に関する2話を収録し、さらに専門家17人による三国志エッセイや論考を掲載した、三国志の解説本。



 陳舜臣氏の解説や、諸葛亮の子孫が住む村「諸葛鎮」の紹介などが面白く、用語の説明を交えながら赤壁の戦いと北伐を振り返っています。また、舞台となった場所の風景や、再現ドラマの1シーンの写真が掲載されており、当時の戦いや人物像をイメージしやすくて非常に嬉しい作りです。


 ただ、英雄伝という割りには諸葛亮にばかりスポットが当たっているのがあまり好ましくありません。内容は悪くありませんが、タイトルと一致しない感じです。専門家による論考では曹操や孫権にもスポットが当てられていますが、これも申し訳程度であり、「こういったタイトルを付けるのであればもっと色々な英雄に触れてほしい」と思いました。


三国志英雄伝 (その時歴史が動いた )/KTC中央出版

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『日露戦争がよくわかる本』

 『日露戦争がよくわかる本』(太平洋戦争研究会)


―あらすじ―

 日露戦争の解説本。



 日露戦争について、「何故ロシアと戦うことになったのか」、「乃木希典や東郷平八郎はどんな人だったのか」など20の質問形式で、分かりやすく解説されています。この質問形式のお陰で、それこそ私みたいに「日露戦争など歴史の教科書でしか知らない」といった人にも理解しやすいようになっていました。


日露戦争がよくわかる本 (PHP文庫)/PHP研究所

¥741
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『二十四の瞳』

 『二十四の瞳』(壺井栄)


―あらすじ―

 とある島の寒村に、新米の女性の先生、大石先生が赴任してきた。小石先生とあだ名された先生と、12人の1年生たちの間には、かけがえのない信頼があった。そうした温かい日常の中にも、戦争の足音が忍び寄る。そして十数年後、かつての教え子と再会した大石先生は、彼らの消息を知る――。



 小学生の頃に初めて読んで以来、数年ぶりの再読でしたが、一気に最後まで読んでしまいました。修学旅行先でかつての教え子・松江と偶然出会うシーンに目頭が熱くなります。本書の中で最も心に残ったシーンでもあり、ラストでの再会に再び目頭が熱くなります。


二十四の瞳 (角川文庫)/角川書店

¥350
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『戦う司書と神の石剣』

 『戦う司書と神の石剣』(山形石雄)

―あらすじ―
 「ラスコール・オセロ」という人物が、神溺教団の秘密を握っているに違いない――そう確信した武装司書のミレポックは、独自の調査に乗り出す。が、オセロに関する良からぬ噂と謎の少女が現れ…シリーズ第4作。



 今巻は、シリーズの重要人物であるラスコール・オセロの正体を探るという話です。終盤でのミスディレクションが上手く、最後の最後でやっと正体が分かるという仕掛けでした。そしてさらに新たなる謎が姿を現し、早くも次の巻を読みたいと思わせる作りになっています。敵組織やラスコールとの関係は対立だけではない、といった新たな展開を向かえ、これからこのシリーズがどういう動きを見せるかが気になります。


戦う司書と神の石剣 BOOK4(集英社スーパーダッシュ文庫)/集英社

¥617
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『世説新語』

 『世説新語』(目加田誠 /編集 長尾直茂)


―あらすじ―

 南北朝時代の宋(444年)で書かれた、後漢末から東晋までの著名人の逸話集。



 以前、三国志の人物に関する話も幾つか載っていると知り、いつか読んでみようと思っていました。実際に読んでみると、三国志(演義)に取り入れられている部分や取り入れられていない部分など、「三国志で読んだあの話はこれ(世説新語)から来ていたのか」、「この人物にはこんなエピソードもあったのか」と、色々な発見があり楽しく読めました。


世説新語 (新書漢文大系 21)/明治書院

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