からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -87ページ目

微笑シリーズ。この白い丘に咲くものはなにもない(3)

首長族の民族衣装できらびやかに着飾った手乗り馬のロードロが全身白塗りになった小人達の前衛舞踏の輪に入りひんひんと上品にいななく。
ピアノ弾きは席をアコーディオン弾きのミゼリに渡すと、ミゼリは狂ったように鍵盤を叩きつけた。耳を塞ぐ大人達を尻目にして、ミゼリは夜よ裂けろと弾き狂った。小人達とロードロの踊りはいつしか、一定の振付を繰り返すようになり、輪の真ん中には空中ブランコ師のカタリロが。ピアノもいつの間にかボレロに変わっていた。そして段々と増えて行く楽隊、叩けよティンバル、唸れオーボエ、吹きつけろバスクラリネット、サーカスだアコーディオン。
はじめ戸惑ったオーディエンス達も、気がつけばステージに釘付けになって、目も耳も心でさえも、奪われた。
「掴みはOK」
僕は冷静に興行の成功を確信した。変な空気の中で変な動きはしにくいじゃない。なるだけ盛り上がらせないといけない。
それからはサーカスの本領発揮だ。ピエロの伊藤さんの音頭によって次々と演目は流れていった。軽業師のフレミンゴ兄弟、タコ女のヒトミ、大蛇使いロシナンテ、駄目ジャグラーのマイケル・ホイ、パントマイマーケン、いつも通り素晴らしいパフォーマンス。

シャム双生児のマアサとミヒルが静かにステージに登場する。最後の演目はふたりによる悲劇の恋物語だ。ここからが本番。シャム双生児のマアサとミヒルのたったひとつの膨らんだドレススカートの中に僕は潜んでいる。観客にバレないよう突然ステージの中央に現れるためだ。ちなみにマアサとミヒルには脚は四本あるが性器はひとつしかない。以前マアサを抱いた時、ミヒルは寝た振りをしていたっけ。スカートの中にいるけど別に石油王みたくいじくったりはしないのさ。
ふたりの男から求愛されるマアサ、その内ひとりはミヒルが恋していたテスラからだった。なぜ私じゃないのか。しかし姉から離れることができないミヒル。同体であるが一心ではないという悩ましさ。そのようなストーリーで劇は進む。あ、僕はすでにスカートの中から出て、セットの木の裏にいるけど、何か?いや、そういう移動法が必要だったんだって。マジで。だからしょうがないじゃないか。

劇の最後、恋い死にしそうになるほどの痛みは憎しみへと変わり、姉を手に掛けた妹。決闘の末に必殺「無限コイル固め」で愛する権利を勝ち取ったテスラ。さあ、マアサを抱こうとした時には、すでにマアサは死んでいた、すなわち、同体であるミヒルも直に死ぬのだ。時間に限りのある選択を迫られたテスラは女を抱くことにする。抱いたその時、嗚呼、ミヒルは性器から何も感じなかったのだ。というストーリーが幕を閉じようとした頃、どんでん返しでサンタクロースが登場、藪から棒に願いごとを叶え大団円という寸法。だって無理矢理でもうやむやでもハッピーエンドがいいじゃない。
この時に、姉の命を救うために「この悲劇の姉妹の為にどなたか命を投げ打ってもいいという慈愛に満ちた人はいませんか」と観客に呼びかけ、参加を促す。劇のできもあり次々と手をあげる観客達、なかにはパイオツ丸出しでアピールするセレブリティもいる始末。しかし、当然、僕は安奈を選ばなければならない。だが、安奈は終始、無表情で冷めた目をしてステージを見ていた。傍らの石油王は僕達を金にならないことをしているなというあざけりの目で楽しそうに見ていたけど。
こういう事態は想定済みだ。背中の袋から飼い慣らした鳩を取り出すと、宙へと放つ。鳩はぐるぐると観客達の上を回ると、そっと安奈の肩に止まった。万雷の拍手とため息が会場に溢れる。計算通り。
このトリックはこうだ。あらかじめ鳩に安奈と同じ香水の匂いを覚えさせていたという都合のいいトリックだ。安奈が有名人なら他にも安奈の真似して同じ香水をつけている人がいるんじゃないのかって?、そうだな、じゃあ、安奈の香水は石油王しか買えない石油の香水なのだ!…え、無理がある?、じゃあ香水はやめにして、えっと…鳩…鳩…ピジョン……ピジョンミルク…うん、あらかじめ安奈の毛皮にピジョンミルクをスポイトでピュッとね、そう、名前忘れたけど空中ブランコ師が空中からピュッとね、うん。それが目印になったと。そもそもホテルのバーでどうやって空中ブランコをするのかだって?、そんなことこっちは考えたこともねえよちくしょう!!
さて、
さて、じゃねえよ!!けどまあいいか!!………なんか今すごくがっかりされてる気がする…。

ここまで凝った演出と会場の盛り上がりに抗うことなど出来ようかいや出来まい。それが出来るのは地球上で石原都知事ぐらいだろう。NO、と言いますからね。断固、NO、と言いますから。
安奈も、あまり気乗りはしなかったが、そっとステージに登った。石油王はバカみたく笑っている。今から僕は安奈を劇中で殺す。そして本当に殺す。サンタクロースのナイフで。
ステージに登った安奈にそっと耳打ちをする。
「安奈、久しぶりだね。僕がわかるかい?」
安奈は僕がステージの上から見ていてはじめてその無表情から表情を変えた。
「久しぶりじゃないトムヤム」


完。








まあね。

安奈はにこりと昔と変わらぬバカの顔になって、
「久しぶりね」
と小さく言った。今まで気がついていなかったのも仕方ない。サーカスのサンタクロースなのだ。僕の顔にはおどろおどろしいメイクが施されている。
「おお、見よ!今ここに、このふざけた人の世にひとりの天使が現れた!」
大袈裟にサンタクロースは言った。
「どうやら、この生き馬の目を抜く人々の中にも“たったひとりだけ”自らを犠牲にできると手を挙げた人物がいたようだ!」
セレブリティはこの手のジョークが好きなのだ。嫌になっちまうぜ。
「この女人の命は犯した現世の罪と引き換えに、私が天国へ運ぶと約束しよう!」
そしてセレブリティは天国へ行きたいと強く願っている。これは古今東西いつの時代も同じだ。きっと天国には金のなる木がはえていると思ってるに違いない。というのはちょっと毒を吐いてみようかなと思ったから書いただけで、本当は形あるものに金を払うことに飽きただけだろう。
「さあ、事は一刻を争う。眠れ!安奈と呼ばれ愛された者よ!安心立命の内に眠りにつくのだ!」
演技の合間に僕は安奈の耳元でそっと、
「大丈夫、君を苦しませやしないさ」
とつぶやいた。安奈は学芸会で演じるジュリエットにでもなったかのように愉しげで、ふらりと微笑むと、台の上に仰向けに横たわり瞳を深く閉じた。
「人の子よ忘れることなかれ。子羊達よ忘れることなかれ。奇跡は常に犠牲に照らされやってくるのだと!」
サンタクロースは懐からナイフを取り出した。ここにいる人は皆、このナイフをイミテーションだと思っている。
サンタクロースは、
「安奈、裏切り者には死を!」
と、ところどころ声を裏返しながら叫んだ。
裏切り者と呼ばれ、安奈はかっと目を見開いた。その目は全てを察したようだった。が、何を言う間もなく、ナイフはすでに心の臓を一突きにしていた。
ブルブルと小刻みに体を震わせながら、ナイフとサンタの腕を掴み、口をパクパクと動かす安奈の“演技”に、観客は大きな拍手を贈った。パクパク、パクパクとまさしく必死に口を動かす安奈をサンタはじっと見ていた。
「け・が・わ・を・・・・・・・」
だが、安奈の意志はサンタに伝わることはなかった。何と伝えたかったのか、それはもう誰にもわからない。
次のセリフを言わないサンタに姉妹が訝しんだ時、サンタはナイフを安奈の胸から抜いた。同時に血がスプリンクラーのように吹き出し、サンタのヒゲを赤く染めた。まだ、観客の半分は演出だと思っているが、団員はこの異常事態に気がついた。姉妹がへなへなとよろめき腰をおろすと、団員が次々にステージに上がり、サンタを突き飛ばし安奈の容態を確認した。しかし安奈はもう果てていた。
ようやく事態が飲み込めた観客達は悲鳴をあげ、足早に逃げ出そうとした者もたくさんいたし、ステージに上がり押さえつけられたサンタの頭を石ころのように蹴飛ばしたものもいた。人の波をかき分け、顔面蒼白の石油王はふらふらとステージに上がろうとしたが途中で「ひん」と声を出すと、目がぐりりと裏返り白目になって倒れ、痙攣して、しばらく誰もそれに気がつかないまま、死んだ。
その混乱の間、あははあはは、とサンタクロースはわらい、何度も何度も頭をゴンゴンと床にたたきつけたものだから、サンタの頭と床の間に厚いタオルを敷くハメになった。

石油王の葬儀はしめやかに行われ、石油王は一族の墓に埋葬された。ファミリーから嫌われていた安奈は、それでも、ファミリーの手により雪の積もる見晴らしのいい丘に埋葬された。安奈の母親は葬儀に参列することもなかった。
血まみれのサンタクロースは刑務所に入れられたが裁判所への護送際に買収されたポリスの手引きで近づいたヒットマンの刃に刺され、死んだ。その死に顔はわらっていたという。
村の裏山の開発は、我復讐せんとばかりに進められ、村人は約束された新しい村で奇怪な雪崩に巻き込まれ、皆死んだ。

安奈の墓に花を手向けくる者は誰もいなかった。初雪が降ると安奈の墓は雪の中に埋もれ、春まで姿を現さない。



終わり。だよね。これ、終わり、だよね。ていうか、「久しぶりねトムヤム」って書いちゃった時点で心が折れる音を聞いちゃって。砂場の棒倒しで云うなら、ぐらぐらしてる棒を削る部分を慎重に慎重に考えていたら空からやってきた一羽のカラスにすいっと棒を持ってかれちゃった感じ。相変わらず下手だなたとえが。だから予定していた僕と安奈の幻想的な会話シーンをなくし、やっつけ感満載の結びになったのはどうでもいい秘密な話。

微笑シリーズ。この白い丘に咲くものはなにもない(2)

「くたばれトムヤムが」
ヒナゲシ君の放った拳がトムヤムの甘い吐息を切り裂き、トムヤムの甘いマスクへと向かって飛ぶ。
「ほご」
苦痛に歪む声を出したのは、ヒナゲシ君。
「ごごご」
ヒナゲシ君は両手で下腹部を押さえうずくまる。僕?、僕はそれを笑って見ている。もちろんヒナゲシ君の手のひら小の下腹部を電光石火の疾さで襲ったトムヤムの脚は解放している。
「見ろよトムヤム。まるで羽をもがれた雪虫みたいだぜ」
僕はポンとトムヤムの肩を、今にも腹を押さえて呵々大笑してしまいそうな衝動を抑え、叩いた。これが、ヒナゲシ君殺害が、安奈殺害依頼に頷く代わりに僕が出した唯一の条件だった。
「チョウジ、君が裏切ったといんだが…」
うずくまりながら青ざめた顔をトムヤムの後ろにいる僕に向けたヒナゲシ君。
「ががががががががうるさいんだよ君は。どんな影響を受けたらそんな喋り方になるんだい?まあそんなことはもうどうでもいいのさ。ヒナゲシ君。君はクズだ。玉虫細工しか作ることのできないクズだ。このゴミ虫め。君が平気で人を裏切ること風にたなびくアヘンの煙の如し。因果応報だよヒナゲシ君。君には裏切られて死ぬ定めがふさわしい」
僕はトムヤムにヒナゲシ君へとどめをハンドシグナルナンバー6で合図した。ハンドシグナルナンバー6は影絵遊びで云うところのバタフライだ。
「うわあああやめてやめて」と、が、を言わずしてヒナゲシ君はトムヤムの鍛え上げられた体から生じるストイックな妙技により果てた。
「こんなもんさ。なあトムヤム。こんなもんさ人の命なんて。人を呪わば穴二つ。ヒナゲシ君。残念ながら僕には君の墓穴を掘る暇も感情もないが、今まで何度か酒を飲み肛門を写メールしあった仲だ。せめて歌をうたおう」
僕はトムヤムに得意の人間ビートボックスをハンドシグナルナンバーS(スペシャル)で頼むと、トムヤムの母国疑惑の懸念強まるタイのハウスミュージックのリズムに乗り歌をうたった。ちなみにハンドシグナルSの形は影絵遊びで云うところの松葉崩しだ。ピストン運動をかくも正確にうつしだすこのシグナルは影絵遊びの髄だ。
「ブンチャカケンダラボンチャラニョイポン♪」
僕がモンキーダンスをしながらノリノリで歌っていると突然トムヤムが笑い、吹き出した。どうやら僕がでたらめに歌った歌詞がトムヤムの国の言葉で、「猫の肛門の匂いを嗅ぐ老人が駅のホームでくたばった」と聞こえるらしい。これは僕とトムヤムがテレパシーで話しあった結果判明した。
最後に僕の十八番であるプッチモニの「ちょこっとラブ」を熱唱して、ヒナゲシ君は地獄に堕ちた。ついでに僕はトムヤムを道端にいた道端ジェシカに渡されたバールのようなもので撲殺した。ムエタイ使いのトムヤムも、突然道端に道端ジェシカが現れるというしょうもない状況の前では無力だった。
ぐちゃぐちゃになったトムヤムの頭から腹から下腹部からタラタラと流れでる赤い黄色い白い透き通った汁。それがぐちゃぐちゃになったヒナゲシ君の頭から腹から下腹部からタラタラと流れでる汁と混じり合い、奇跡的になんともいえぬ絶妙な風味を醸し出した。僕はこの食欲を誘われざるをえない混ざり汁をふたりの名前からとり「トムヤム君」と名付けよう。道端ジェシカはデコられたセグウェイに乗って坂道を登っていった。きっとずっとずっときっとずっとずっとセグウェイで坂道を登り続けるのだろう。

これで監視者はいなくなった。町に着くと僕は安奈をさがした。マムシの入ったずた袋を持って。

安奈は有名人だった。町の至る所に安奈のストーカーがいて、安奈の居所をさぐるには容易だった。しかし、その反面、安奈に会うことは難しい。24時間厳重な警備の内に安奈はいる。手っ取り早く安奈に会うために僕はトムヤムにガードマンを叩っ殺してもらおうかと思ったが、ああ、トムヤムはさっき死んでしまったのだった。実はノリで、なんとなく殺してしまっていた。手に持ったらガーンといきたくなるじゃない。
結局しばらく安奈に会うことは叶わず、僕は町で無為な日々を送った。町の空白スペースを埋め尽くさんばかりに並ぶ安奈のポスターは、みんな毛皮をつけていた。金も食料もあまりなかったからマムシを佃煮にして食った。

安奈は田舎ものを門前払いするホテルの最上階に住んでいる。聞いた話では毎夜石油王とホテルのバーで某モーグル選手も真っ青の狂態を演じているらしい。確かに安奈はあばずれだったが、それを聞いた時に僕はとてもイヤな気持ちになった。村人ともしていたはずなのに、それは知っていたのに、なぜだか僕はイヤな気持ちになった。毎夜イヤな気持ちになった。この時間安奈がジジイに抱かれてると思うと、やりきれなくて、情けなくて、安奈を殺すのか殺さないのか、僕は安奈が好きなのか抱きたくないのか、その煩悶とジレンマは知らず知らず怒りに代わっていった。僕の揺れ動く心は小さな職務意識からくる自己欺瞞に押され、話をしたいだけだった気持ちがいつしか安奈を殺害することを前提とした思考になっていた。あいつも結局裏切り者じゃないのか。
ジジイに抱かれる安奈、着飾る安奈、虚栄心の強い安奈、ちょっと変わると言ったのはなんのことだったのか、金持ちになった安奈、毛皮をつけた安奈、裏山をつぶそうとしている安奈、村をつぶそうとしている安奈、安奈、安奈。そしてあっけなく死んだトムヤム。トムヤム。トムヤム。季節は流れ、気がつけば町は冬になっていた。今季初めて町に雪が降った夜に、僕は安奈を殺すと決めた。

12月の初旬、町に雪が降る。町は気の早いサンタでいっぱいだ。あわてんぼうのサンタクロースめ、一夜の夢より長く人を愛すつもりか。
そういう僕もサンタクロースの格好をしている。町にきてから僕もただボーっと揺れていただけじゃない。いや、もう心の振り子は揺れない。振り切っているのだ。僕はサーカス団に入ってこの日を待っていた。初雪記念のホテルのサプライズパーティーに僕はおちゃらけたサンタクロースとして行くのだ。もちろん都合よくホテル側が初雪パーティーを開くわけじゃない。僕の余人を以て代え難いプレゼン能力の賜物だ。
夕方パーティーの準備に勤しむ人達を横目に僕はサンタクロースの衣装を着た。僕はあわてんぼうのサンタじゃない。時代遅れのサンタクロースさ。周回遅れのサンタクロースさ。昔見た夢を、周回遅れの夢を、今一夜、送り届けるのさ。

ホテルのバー。グランドピアノが静かに、しかし背骨のようにしっかりと楽しくも悲しいメロディを紡ぎ出す。ピアノ弾きの横では、道端ジェシカが静かに佇んでいる。
バーの中から見える色鮮やかなライトに照らされ煌々と光る舞い降りる雪達。人々は恋人と思い思いに話しをして、時に感嘆せざるを得ないばかりに目を丸くして外を見る。今宵。

安奈は今夜も石油王と共にバーへと足を運ぶ。部屋で毛皮を纏う時、いつも安奈は吐き気がするほどの罪悪感に襲われる。子供の時から毛皮を身につけるなと言われ続けてきたのだから。安奈は好きで毛皮をつけているわけではなかった。それは愛と夢を金で買った村が嫌いな石油王に服従の意思を表したものであった。あたしが愛されている限り、裏山の開発は無い。安奈はひとり村を守るために、村人のために戦っていた。これがバカなあたしにできること、これこそがあたしの運命なのだ、と。
毛皮をつけている間、安奈は安心だった。どこまで堕ちても、毛皮をつけていることに比べればそれは大したことではなかったからだ。毛皮は演じ抜くための負のお守りだった。
初雪の降る外を安奈は少し見たが、それはとても無表情で、安奈がどのような感情をして雪を見たかはわからない。安奈は下唇豊かに石油王と会話し、石油王のしわがれた指をノーパンの下半身に導く。今宵何が起きるものか、起きるのだったらスウィートデス。すなわち腹上死。だが、石油王はとうに枯れていた。安奈は合法非合法問わず何度この老人を殺してしまおうかわからない。だが、殺してしまえば、息子らによる裏山の開発に歯止めが利かないのが事実。安奈はただでさえ遺産目当てと目されて目の上のたんこぶ扱いをファミリーから受けている。石油王が死んだ時に果たしてあたしにいくらお金が降ってくるのか、裁判になったら負けることはバカな安奈でもよくわかった。それがこの生活で垣間見てきた金持ちの力だからだ。人の気持ちは当然、法律さえ金で買えるのだ。あたしができることはこのまま人身御供で、石油王に夢を見させて、ファミリーに慣れのないいい顔をして、多額の遺産はいらないからあの裏山をくれと約束を取り付けるだけの信頼を結ぶことだけだった。安奈が知っている信頼を結ぶ方法は肉体関係以外になかったが、また同時に一番信用していない
こともそれだった。ベッドの上の約束など一度も叶ったことがない。だからあたしは一度も君と…………。
安奈から平衡感覚が失われはじめた頃、突然のドラムロール。サングラスをかけた小人がステージに現れた。サプライズパーティーの始まりだ。




終わる……のかこれは…。まだ続いちゃう……のかこれは…。わかんない。わかんないんだおれは。

微笑シリーズ。この白い丘に咲くものはなにもない

ヒナゲシ君が今年初めて玉虫細工を町へ売りに行ってきたと聞き、僕はヒナゲシ君に安奈のことを訊いた。
安奈は僕の幼なじみ、この村でも貧しい家の子で小さな赤い看板の酒場でポールダンサーをしていた。安奈はバカだったけど、器用は良かった。安奈をバカにする奴もたくさんいたけど、いつの間にかそいつは安奈に金を貢ぐようになっていた。その美貌が、偶然村の裏山を調査しにきた石油王の老人の目に留まり買われた。去年の雪が初めて降った日の話。
安奈がたらしこんだと言った方がいいか。だけど左うちわの生活は安奈の油断するとこぼれ落ちてしまいそうな涙の裏返しだったから。僕は去年の初雪を、家の欠けた櫛歯の窓からじっと見ていた。
「驚いたさ。金持ちになったのはいいが安奈が、あいつらと仲良くするのもいいが、指にピカピカ光る石をつけようが、メイドをあごで使おうが、それこそ裏の実家を潰してしまおうが、そんなことはおれの問題じゃないが、安奈は毛皮を首に巻いていたんだが」
「毛皮を?」
が、でリズムを取り一気にまくし立てたヒナゲシ君の普段は気味が悪いほど青白い顔が薄いピンク色になっていた。あまり高い山ではないけど、裏山の頂はまだ灰色の帽子をかぶっている。ヒナゲシ君が町からの帰り道、のったりとした薄寒い坂道を歩き頬をかじかませたのか。それもあるのだろうけど、やはりヒナゲシ君は怒っていた。
「あいつはもう仲間にしてやらない」
ヒナゲシ君は吐き捨てるように言って、実際にタンを荒れる夜の度に酒を飲み込んできたあまり掃除の行き届いていない酒場の黒ずんだ床に吐いた。
というのもこの村では毛皮はご法度だからだ。よその人からすれば畑仕事と狩猟、もしくは酒に溺れ野垂れ死ぬことしかすることはないであろうと評すること絶対のこの村だが、狩猟は禁止されている。獣の肉はよその人から畑で取れる果実や川で取れるタコなどと交換している。
裏山に住む動物は神の使い、そう子供の頃から聞かされてきた。代々聞かされてきた。特にキツネは人命よりえらい。この村の葬式はキツネ葬だ。キツネの寄生虫だらけの腸を通ると天国にいける。だからこの村の人間が毛皮を身につけることなどありえない。きっと僕も子供ができたら、何も考えずにそう教え、山の動物を殺さないようにとしつけるんだろう。
「首に、首によう、巻きつけていたんだが」
ヒナゲシ君、君は僕になんと言って欲しいのか。今宵も荒れそうだ。
マンドリンが鳴る。僕らの後ろではポールダンサーが踊っている。去年村にやってきたおぼこのポールダンサーは未だに腰の動きがカクカクと固い。安奈の後がまにみんな興味を示さなかったからそれもしょうがない。

酒が回り始めた僕の脳裏に安奈の思い出がちらほら流れた。学生時代、安奈はよく黒板を爪で引っ掻いて、耳を塞ぐ僕らを尻目にカラカラと笑う子だった。いい加減にしろと怒られるとなぜか笑いながらくりくりした瞳に涙を溜めていたっけ。キャンプファイヤーの夜に誰かと消えて、次の日その夜のことを自慢してたっけ。夏休みの度に髪の色が変わって、二学期初日に安奈の毛を刈ることは定例行事だったっけ。
高校の卒業式が近づいてきたある日、僕と安奈は珍しくふたりきりになった。土手の途中、小さな岩の上。
「どうして君はそんなことばかりするんだ」
訊いた僕に安奈は微笑んでそれだけで、
「君は将来どうするの?」
と訊いてきた。
「家の畑を継ぐよ」
と返した僕ははっとして安奈の顔を見た。安奈の家は畑を持っていなかったから。
安奈はじっとなった僕を見てくすりと笑った。
「卒業式が終わったら、あたしちょっと変わる気がする。性格とかじゃなくてさ、環境とかじゃなくてさ。あたしはどうしようもないバカだから何をしたって独りきり。親友も別にいないしね、彼氏も実はいらないしね。ずっと楽しく暮らしたいとか思ったりするけど、それは難しいって先生に言われてさ。早漏のくせにさ。ふふふ。それは難しいって言うから。みんなそれは難しいって言うから。難しい顔して言うから。難しいの雰囲気にやられて楽しくやっていけないわ。あきれかえった声でみんなあたしを笑うから。卒業式が終わってさ。ちょっと変わるの今までのあたしから。これでも引っ込み思案だったりしたのよ信じられる?あたしが自信を持てたら、その時君を抱いてあげるよ」
僕は何も応えなかった。
「君はあきれてないから。あきれかえった声で笑わないから。他の男はさ、あたしを抱いたことしか自慢できないような人生にしてやるの。ふふふ」
安奈は無造作に地面に光ファイバー通信用のUSB端子を差し込むと、手のひら大の機械をさらりと操り僕に書いているという日記を見せた。その日記はとても生々しくて、生活の澱の沈殿物のようで、読むことは苦しく、僕はただ漠然と端々を見ることしかできなかった。
「ふふふ、さがすのかな。君はさがす?。あたしがこの村を出たら君はあたしをさがす?」
安奈はそういうと、酒場に向かって歩いて行った。僕はしばらく座ったまま川の流れなどをじっと見ていた。
それから安奈は立派なポールダンサーになって、そして冬の始まる前に村を去った。

酔いつぶれ、あまつさえムエタイ使いのバウンサー、トムヤムにボコボコにされたヒナゲシ君をわらの詰まった納屋に力いっぱい投げ飛ばし、僕は「君は自分が文字通り踏んだり蹴ったりだと思っているのかしらないけど、巻き添えでトムヤムに首相撲から膝を突き上げられた僕のが踏んだり蹴ったりなんだからな」と吐いて捨て、こいつこのまま死んでくれないかなと本気で望みながらその場をあとにした。
ヒナゲシ君はとても上等な玉虫細工を作るけど、基本、クズだ。

それからしばらくして、村には安奈の噂があらゆるままに吹いては流れた。村人から安奈のことを訊かれたヒナゲシ君が意気揚々となり、安奈の母親のことなどすっかり忘れ、あたかも先生気取りで話を作りながら村中に吹聴した結果だ。中には、
「安奈は生娘の経血をはった風呂に入って若さを保とうとしてる」
などという中世の女王様みたいな噂まであった。
これなどは一笑にふすものだが、
「安奈は裏山をつぶす気だ」
「安奈は裏山の動物を狩り尽くす気だ」
「安奈はこの村に復讐する気だ」
等々、半ば現実味を帯びた話に村人は次第に飲まれていった。ヒナゲシ君の話の真偽はともかく、毛皮を巻いていた、という言葉がまるで呪文のように村を包んだ。
それに合わせ開かれた村のネット集会を僕はひとりロムって眺めていると、
「やられる前にやれ」
という流れに議題は解決をみた。議題は、誰が町へ行き安奈を殺すか、になった。
僕がロムってると、ハンドルネーム「名無しだが」と名乗る人物が、
「新山さんちのチョウジって安奈と仲良かったんだがwww」
と書き込んだ。
チョウジとは僕のことだ。僕はヒナゲシ君の精神を再度再度再度再度改めて疑った。
どうやら、僕以外の村の男は安奈を抱いたことがあるらしい。安奈に耐性があると思われたのか、安奈に同情してしくじることを避けるためか、汚い仕事は兄弟にさせたくないためか、あとは僕の了承ひとつ、というところでネット会議は終わり、後日村の代表であるトムヤムが僕の家へとやってきた。トムヤムは、わかってるな、と言いたげな目で僕を見据える。トムヤムはこの国の言葉を喋れないからしょうがない。僕はうなずくと、ひとつ条件をメモにして渡しトムヤムを帰した。よもやこんな形で安奈をさがしに出掛けることになるとは思いもしなかった思いで僕の胸はいっぱいだった。といっても別に悲しくはない。殺すか殺さないか、すべては安奈と話をしたあとの話だと僕はネット会議後に決めていた。

次の日、朝早く僕は監視者であるトムヤムと町までの道案内役であるヒナゲシ君とで村を出た。ずた袋にマムシ一匹を持って。安奈はある日不幸なことにマムシに咬まれて死んだとさ、という寸法だ。もう春だというのに町までの山道には所々雪が残っていた。
もう少しで町に着くという最後の分かれ道まで来た。峠のラブホテルの傍らに安奈の写真が使われた大きな都市再開発の看板が出されていた。写真の安奈は僕が知ってる安奈より洗練された美しさだった。
僕は分かれ道の真ん中で立ち止まると、いやらしい笑みを浮かべながらヒナゲシ君に「あの夜のこと思い出さないか?こいつにボコボコにされた夜を」と言った。ヒナゲシ君はにやりと笑うと、「あの時は酒が入っていた」と言い、目で頷いた。
「おーいトムヤム。あのお城にちょっと寄るってのはいかが?」
ぎらついた目でヒナゲシ君はトムヤムに言ったが、トムヤムは僕達の言葉を理解できない。ヒナゲシ君は馴れ馴れしくトムヤムの肩に手を回し、馴れ馴れしく唇に吸い尽く。トムヤムは気持ち悪さを微塵も隠さずにヒナゲシ君を振り回して、どう、と倒した。
「トムヤムてめえ何しやがんだバカ野郎が!」
変にはっきりとトムヤムを罵倒して首をかっきる動作をしたヒナゲシ君。僕はその間急いでトムヤムの死角へと動いた。僕とヒナゲシ君がトムヤムを挟み目で合図を交わす。ムエタイ使いのトムヤムにタイマンで勝てるなどと思ってもいないふたりだ。
隙を見て僕はがっしと後ろからトムヤムをフルネルソンに固め、脚をトムヤムのきれいにくびれた腹に巻きつけた。脚を腰回りに巻きつけたのは、ただフルネルソンに決めただけではトムヤムのムエタイ妙技により振り回されて倒されるのが関の山だからだ。上半身と下半身の可動範囲を同時に消す目的もある。子泣き爺のように吸い尽く僕を背にトムヤムは倒れこそしなかったが、文字通り手も足もでない。
ヒナゲシ君が「ががががが」とタンが絡んだ声で笑うと、トムヤムを殴りつける為に手を振りかざした。



終わり、にしたいなあ……………。続きはまだ一文字も書いてねえでげす。げすってお前。いや自分でもわかってるんですよ。だったら投稿すんなよってさ。でも、悲しいかなこれが現実なのよね。……………こうなるんだよ。ノープランだとこうなるんだよ。

さいごに普通

いつ頃からだろうか、僕は定期的に好きな女性タレントをさがす。というのも、人から「好きな女性タレントは?」と訊かれた時に「詳しくないのでわかりません」と答えるのが癪だからだ。なぜ癪に感じるのかはわからないが癪なのだから癪というやつなのだ。
定期的にさがす、ということは、未だ見つかってないということだ。誰かを好きになってやろうとしても、人はなかなか誰かを好きになれないらしい。偶然の出逢いというやつにはあっさり好奇心や恋心を持ってかれるのに、いざさがすとなるとどうも、こいつはあれだこれだといちゃもんをつける。自分自身でも無茶を言うなと思うのだから、自らお見合い相手を選ぶ方式のお見合い会社の中の人などさぞや大変なことになっているのだろう。あーしろこーしろあれを出せこれを出せあいつはダメだもっといいの出せと己を顧みずにまあ、いや、ペットの交配感覚でいれば楽しいかもしらん。コレとコレを交わせたらこんな毛色のヤツが…………。
そもそも誰かを好きになってやろうという行為自体傲慢そのものだ。傲慢というやつは得てしてへのつっぱりだから…………云々

めんどくせ。えっと、おはよんに出てる網野真弓が笑ってくれるなら振り込み詐欺に銀行預金全額つぎ込んでいいって話だよ。笑ってくれるならタンスの角に足の小指を小指がもげるまでガシガシぶつけ続けるよって話。ときめいてきらめいて最近朝が楽しくてしょうがねえ。
でもこんな気持ちになってるのも今だけなんだからね!!なんじゃそりゃ。

いかん、ちゃんとした文章がまったく書けん(!!)。

悲しきフォロワー

どんなに己を探求しても
その先悲しい事実が待ってる
どんなに深く思いを込めても
行きつくところは誰かの影響
フォロワー僕はフォロワー
受けるだけしか能がない
ほら、大槻ケンヂを引いてみなよ
そこには何も残ってないだろ
愛する人に贈る言葉も
人と違う発想の源も
オリジナリティだと思っても
僕は知ってる誰かの影
フォロワー哀れなフォロワー
核なき自分に満足して
ほら、中島らもを引いてみなよ
そこには何が残ってるんだ
白状すりゃいいってもんじゃないぜ
素直になりゃ許されるってわけでもないぜ
フォロワー僕はフォロワー
アイデンティティのかけらもないよ
重ねた人生に意味などないし
そこには何も残ってないだろ
この際言ってしまえば僕はなんにもわかってない、なんにもできやしない、思い悩む日々さえ、人生に虚ろなる時間を感じたときさえ、実はあんまりわかっていない
フォロワー僕はフォロワー
軽蔑しながら僕をみろ
フォロワー僕はフォロワー
軽蔑しながら僕をみろ
フォロワー僕はフォロワー
軽蔑しながら僕をみろ
何もない僕をみろ



自嘲と自戒。