お○んこ in Her(完)
水分を吸ったワンピースは所々仁美や姉の裸体に吸い付き、えもいわれぬ艶やかな色香。複雑な凹凸。乳房、膝、恥丘。
栄介と義孝は一人一分程で風呂を出る。やはり会話は無い。もはや言葉を吐く機能は停止しているとみえる。二人が脱衣場でバスタオルを腰巻きにしていると、仁美がやってきてハサミと剃刀を渡した。素直に陰毛を剃る義孝。ようやく、義孝の陰茎が日の目を見た。栄介はその必要がない。普段から自慰行為の為に短く刈っていたからだ。それがおかしいおかしくないすら判断できず、無毛と芝の男は仁美の待っている部屋へ。
「さあ、始めましょうか」
仁美は無言の二人に言う、というよりも、自身に囁きかけると、ワンピースを、公園で見せたよう脱ぎ始めた。公園の時とは違い、露わになった脚、小鹿のような白い脚、そして塗れそぼる仁美の白い下着、陰毛が透けている、さらに捲り上がれば姉の組みずれた脚、微かに見える小さな黒い三角形地帯、仁美の手のひらに収まる程度の乳房、突き出す撫子色の乳首、白く、しかし淡く紅葉を散らす顔。細い腕をすり抜けてワンピースは床に落ちた。床には布団が敷かれている。
栄介と義孝もバスタオルを紐解いた。仁美は二人のそれを見てにやりと笑った。所謂半勃ちの二人。それは期待と不安、性欲と理性、興味と恐怖、相反するも入り交じった感情をよく表していた。それにしても小さい。小指と親指の背比べ。
仁美は布団に横たわると、女児に小便をさせるよう姉の脚を持ち、開いた。なんとも云えぬ奇妙な光景。鳩尾のやや下方から生える姉の開かれた恥部。珍妙であり、そら恐ろしくもあり、淫猥でもある。
「触って」
栄介と義孝は同時に身を屈めたが、悲しいかな、無意識的に後輩は止まり、栄介が姉の股に向かうと、
「あなたは私を」
仁美は義孝に命じた。
二人の童貞は試行錯誤しながら、とはいえ思考は止まったままだが、なんとか二人で仁美と姉を愛撫出来るポジションを見つけた。栄介は仁美の横に、義孝は仁美の股の間に。震える指先で恐る恐る秘部を触る二人。
「ふううぅ」
息と声の間のいななき。腹の底から。微かに姉の脚も動いているようだ。筋肉がびくつく。しかし、姉の受ける快感はどこへ行くのだろう。大まかに言うとシャム双生児には、感覚を共にするものと全く関与しないものとがある。脳みそを分かち合っているのかも、と、仁美は言ったが、実際互いの感覚が連結されていない、あらゆる意味で脳が一つしかない、くっついた双子は脳の支配領域がくっきりと分かれている。上半身が二つに分かれた男の双子の場合一袋の金玉の左右をそれぞれが支配していることもある。脳みそと金玉の違いはあれどくっついている、もしくは、一つしかないといっても感覚を共有しているとは限らないらしい。右手がしていることを左手は知らない。そのようなものであろうか。仁美が語ったローザとジョゼファの場合、ローザが赤ん坊を産むと、子宮は別々である、ジョゼファからも母乳が出たことから考えると、やはりローザの言った通りジョゼファも同じ快楽を味わったと考えていいだろう。しかし性器が一つしかないならば膣内に放出された精子は道に迷わなかったのであろうか。うまいこと意中の相手を妊娠させることが出来るのだろうか。なるほ
ど、ローザを罵ったジョゼファの言葉を思い返すに、ひょっとしたらローザとジョゼファの仲が悪くなった原因はそこにあるのかもしれない。では仁美の場合はどうであろうか。仁美は、姉は存在している、と、言った。が、頭でくっついていない、下半身しかなく頭部というものが存在しない仁美の場合解剖学的にはできものと似たようなもので、仁美の体の一部でしかない筈である。感覚があるとすればそれは全て仁美のものだ。その姉の感覚というものが問題だ。栄養を分かち合っているとはいえ、例えば母親と赤ん坊が感覚的には独立しているよう、姉の神経が仁美に、いや、仁美の神経が姉に通じていない限り感覚を感じることが無いということはおわかりだろう。しかし、脊椎の一部まで形成しているこの姉を見よ。ここまで問題提起をしてきてなんだがややこしいことは避ける。読者はただ、姉の感覚は仁美の感覚にフィードバックされる、ということだけを理解していれば良い。
と、なれば、だ。仁美の感じる快楽とはどういった類の、また、如何ほどの快楽を感じるのだろうか。読者諸氏も両手で別々の場所を抓ってみるといいだろう。決して片方からしか痛みを感じないなんてことはない筈だ。ただでさえ時に失神者も出す女性の快楽である。仁美の感じる快楽は作者にはとても想像がつかない。
ぬしゃり。ねめつき絡み合う陰毛。栄介は知識通り、仁美に覆い被さるようになって、姉の小さな性器を舐めた。石鹸の匂いとは裏腹に、童貞だが、いつか味わったことのある懐かしい酸味が口に広がる。顔を横にして一心不乱に陰核、陰唇、膣を舐めまわす。石鹸の匂いは消え、唾液と性器が発するむぅんとした匂いが口元一杯に充満する。義孝も仁美の下着を脱がし、一心不乱に舐めまわす。
「あああ、うあああ、ふあああ、ううううう」
仁美は時に小さく、時に大きく、いななき喘ぎ、仁美と姉は時折体をびくつかせる。
そして破瓜の時が来た。生だ。
「くすぶってた。ずっとずっとくすぶってた。くすぶってくすぶってくすぶってくすぶって、くすぶり死にそうだったわ。それが今、ああ、どうにかなりそう、ああ、早くあてがって、早く貫いて、一緒に、一緒に」
一緒に挿れるには、バイクで二人乗りをするように栄介と義孝はくっつくしかなかった。陰茎をあてがう二人。十分に位置と硬さを確認する。
「今、今よ」
仁美の号令を受け、二人は同時に突き刺す。
「ぎいぅ」
仁美が声をあげると姉の性器から血が漏れ出した。仁美の性器からは何も出てこなかったが。兎にも角にも、くっついた二人とくっついた二人がくっついた。
「大丈夫。動いて。ああぅう」
栄介は未熟さとスペースの問題からあまり動けない。くっついてる義孝の動きが栄介をも突き動かしている。
「あああ、いい、いいわ、もっと、もっと、動いて、もっと、ああぅ」
「ううぅ」
「ううぅ」
奇形。フリークス。狂宴。普通と異常の境界線。あっちの世界とこっちの世界の境界線。滑稽な地獄絵図。
「いいいぃぃ…あああ…ああ……」
挿入後程なくして仁美はあっけなく気を失った。それに気づくこともなく動き続ける栄介と義孝。
「ううぅううぅ」
「ううぅ、ふん」
「びび…びび…」
微かな振動音がした。仁美は瞑っていた目を、かっ、と、見開き、見開き、見開き、黒目がぐるりと上瞼の中へと吸い込まれて行った。
「うぬぅ、く、ああ」
「うふぅ、ふぅ、う、う?…小松さん、あ、松崎さん」
「うふぅ、うふぅ、なんだ、よ、花」
「何か、何かが、押してきて、ああ!膨らんでる!」
「ああ!?」
この時、栄介は仁美が変になっていることに気がついた。しかし、狐にとり憑かれたように動きを止めない。否、止められない。止めることが出来ない。陰茎を何かに掴まれている。外せない。しかし、止められない。
「ああ、何かが押してきてる、押してきてる」
ぐにゅり、ぐにゅり。ぐにゅり。仁美の中で何かが蠢いている。
「なんだ、これは、ああ、もうだめだ、ヤバい」
栄介が射精の体勢に入った時、ずもり、義孝は押し出された。何に。
仁美の性器から“顔”を出しているもの。拳大の平べったい頭、無頭児?、糸のように一本線に閉じられた目、鼻が無い、ふやけた唇、深海魚や日の射さない洞窟にいる生物のような、真っ白な肌、血まみれ。しかし、顔。義孝は青ざめ、当然萎え果て、わなわなと震え、見ている。仁美の性器かは出てきた顔を見ている。
「ああ、だめだ、イクぅ」
栄介が果てようとした瞬間、顔の目が薄く開かれた。ゆすりと唇が動く。
「い…く…」
ヘドロの底から湧いてでたような声が義孝を貫いた。
「すひいぃ」
義孝は息を吸いながら声にならない悲鳴を挙げ、ガタガタ震えた。
顔は目を閉じると事切れたようだ。栄介は、果てた後、仁美と姉に覆い被さったまま動かない。仁美も白目を剥いたまま動かない。あまりに激しい快楽の直撃に仁美が耐えられなかった為か、くすぶり続けた姉が破瓜の出血及びショックに耐えられなかった為か、姉の顔が外界で生きられなかった為か、ともかく、仁美か姉が死ねば、くっついていたものは運命を共にするのが決まりだ。
終わり
栄介と義孝は一人一分程で風呂を出る。やはり会話は無い。もはや言葉を吐く機能は停止しているとみえる。二人が脱衣場でバスタオルを腰巻きにしていると、仁美がやってきてハサミと剃刀を渡した。素直に陰毛を剃る義孝。ようやく、義孝の陰茎が日の目を見た。栄介はその必要がない。普段から自慰行為の為に短く刈っていたからだ。それがおかしいおかしくないすら判断できず、無毛と芝の男は仁美の待っている部屋へ。
「さあ、始めましょうか」
仁美は無言の二人に言う、というよりも、自身に囁きかけると、ワンピースを、公園で見せたよう脱ぎ始めた。公園の時とは違い、露わになった脚、小鹿のような白い脚、そして塗れそぼる仁美の白い下着、陰毛が透けている、さらに捲り上がれば姉の組みずれた脚、微かに見える小さな黒い三角形地帯、仁美の手のひらに収まる程度の乳房、突き出す撫子色の乳首、白く、しかし淡く紅葉を散らす顔。細い腕をすり抜けてワンピースは床に落ちた。床には布団が敷かれている。
栄介と義孝もバスタオルを紐解いた。仁美は二人のそれを見てにやりと笑った。所謂半勃ちの二人。それは期待と不安、性欲と理性、興味と恐怖、相反するも入り交じった感情をよく表していた。それにしても小さい。小指と親指の背比べ。
仁美は布団に横たわると、女児に小便をさせるよう姉の脚を持ち、開いた。なんとも云えぬ奇妙な光景。鳩尾のやや下方から生える姉の開かれた恥部。珍妙であり、そら恐ろしくもあり、淫猥でもある。
「触って」
栄介と義孝は同時に身を屈めたが、悲しいかな、無意識的に後輩は止まり、栄介が姉の股に向かうと、
「あなたは私を」
仁美は義孝に命じた。
二人の童貞は試行錯誤しながら、とはいえ思考は止まったままだが、なんとか二人で仁美と姉を愛撫出来るポジションを見つけた。栄介は仁美の横に、義孝は仁美の股の間に。震える指先で恐る恐る秘部を触る二人。
「ふううぅ」
息と声の間のいななき。腹の底から。微かに姉の脚も動いているようだ。筋肉がびくつく。しかし、姉の受ける快感はどこへ行くのだろう。大まかに言うとシャム双生児には、感覚を共にするものと全く関与しないものとがある。脳みそを分かち合っているのかも、と、仁美は言ったが、実際互いの感覚が連結されていない、あらゆる意味で脳が一つしかない、くっついた双子は脳の支配領域がくっきりと分かれている。上半身が二つに分かれた男の双子の場合一袋の金玉の左右をそれぞれが支配していることもある。脳みそと金玉の違いはあれどくっついている、もしくは、一つしかないといっても感覚を共有しているとは限らないらしい。右手がしていることを左手は知らない。そのようなものであろうか。仁美が語ったローザとジョゼファの場合、ローザが赤ん坊を産むと、子宮は別々である、ジョゼファからも母乳が出たことから考えると、やはりローザの言った通りジョゼファも同じ快楽を味わったと考えていいだろう。しかし性器が一つしかないならば膣内に放出された精子は道に迷わなかったのであろうか。うまいこと意中の相手を妊娠させることが出来るのだろうか。なるほ
ど、ローザを罵ったジョゼファの言葉を思い返すに、ひょっとしたらローザとジョゼファの仲が悪くなった原因はそこにあるのかもしれない。では仁美の場合はどうであろうか。仁美は、姉は存在している、と、言った。が、頭でくっついていない、下半身しかなく頭部というものが存在しない仁美の場合解剖学的にはできものと似たようなもので、仁美の体の一部でしかない筈である。感覚があるとすればそれは全て仁美のものだ。その姉の感覚というものが問題だ。栄養を分かち合っているとはいえ、例えば母親と赤ん坊が感覚的には独立しているよう、姉の神経が仁美に、いや、仁美の神経が姉に通じていない限り感覚を感じることが無いということはおわかりだろう。しかし、脊椎の一部まで形成しているこの姉を見よ。ここまで問題提起をしてきてなんだがややこしいことは避ける。読者はただ、姉の感覚は仁美の感覚にフィードバックされる、ということだけを理解していれば良い。
と、なれば、だ。仁美の感じる快楽とはどういった類の、また、如何ほどの快楽を感じるのだろうか。読者諸氏も両手で別々の場所を抓ってみるといいだろう。決して片方からしか痛みを感じないなんてことはない筈だ。ただでさえ時に失神者も出す女性の快楽である。仁美の感じる快楽は作者にはとても想像がつかない。
ぬしゃり。ねめつき絡み合う陰毛。栄介は知識通り、仁美に覆い被さるようになって、姉の小さな性器を舐めた。石鹸の匂いとは裏腹に、童貞だが、いつか味わったことのある懐かしい酸味が口に広がる。顔を横にして一心不乱に陰核、陰唇、膣を舐めまわす。石鹸の匂いは消え、唾液と性器が発するむぅんとした匂いが口元一杯に充満する。義孝も仁美の下着を脱がし、一心不乱に舐めまわす。
「あああ、うあああ、ふあああ、ううううう」
仁美は時に小さく、時に大きく、いななき喘ぎ、仁美と姉は時折体をびくつかせる。
そして破瓜の時が来た。生だ。
「くすぶってた。ずっとずっとくすぶってた。くすぶってくすぶってくすぶってくすぶって、くすぶり死にそうだったわ。それが今、ああ、どうにかなりそう、ああ、早くあてがって、早く貫いて、一緒に、一緒に」
一緒に挿れるには、バイクで二人乗りをするように栄介と義孝はくっつくしかなかった。陰茎をあてがう二人。十分に位置と硬さを確認する。
「今、今よ」
仁美の号令を受け、二人は同時に突き刺す。
「ぎいぅ」
仁美が声をあげると姉の性器から血が漏れ出した。仁美の性器からは何も出てこなかったが。兎にも角にも、くっついた二人とくっついた二人がくっついた。
「大丈夫。動いて。ああぅう」
栄介は未熟さとスペースの問題からあまり動けない。くっついてる義孝の動きが栄介をも突き動かしている。
「あああ、いい、いいわ、もっと、もっと、動いて、もっと、ああぅ」
「ううぅ」
「ううぅ」
奇形。フリークス。狂宴。普通と異常の境界線。あっちの世界とこっちの世界の境界線。滑稽な地獄絵図。
「いいいぃぃ…あああ…ああ……」
挿入後程なくして仁美はあっけなく気を失った。それに気づくこともなく動き続ける栄介と義孝。
「ううぅううぅ」
「ううぅ、ふん」
「びび…びび…」
微かな振動音がした。仁美は瞑っていた目を、かっ、と、見開き、見開き、見開き、黒目がぐるりと上瞼の中へと吸い込まれて行った。
「うぬぅ、く、ああ」
「うふぅ、ふぅ、う、う?…小松さん、あ、松崎さん」
「うふぅ、うふぅ、なんだ、よ、花」
「何か、何かが、押してきて、ああ!膨らんでる!」
「ああ!?」
この時、栄介は仁美が変になっていることに気がついた。しかし、狐にとり憑かれたように動きを止めない。否、止められない。止めることが出来ない。陰茎を何かに掴まれている。外せない。しかし、止められない。
「ああ、何かが押してきてる、押してきてる」
ぐにゅり、ぐにゅり。ぐにゅり。仁美の中で何かが蠢いている。
「なんだ、これは、ああ、もうだめだ、ヤバい」
栄介が射精の体勢に入った時、ずもり、義孝は押し出された。何に。
仁美の性器から“顔”を出しているもの。拳大の平べったい頭、無頭児?、糸のように一本線に閉じられた目、鼻が無い、ふやけた唇、深海魚や日の射さない洞窟にいる生物のような、真っ白な肌、血まみれ。しかし、顔。義孝は青ざめ、当然萎え果て、わなわなと震え、見ている。仁美の性器かは出てきた顔を見ている。
「ああ、だめだ、イクぅ」
栄介が果てようとした瞬間、顔の目が薄く開かれた。ゆすりと唇が動く。
「い…く…」
ヘドロの底から湧いてでたような声が義孝を貫いた。
「すひいぃ」
義孝は息を吸いながら声にならない悲鳴を挙げ、ガタガタ震えた。
顔は目を閉じると事切れたようだ。栄介は、果てた後、仁美と姉に覆い被さったまま動かない。仁美も白目を剥いたまま動かない。あまりに激しい快楽の直撃に仁美が耐えられなかった為か、くすぶり続けた姉が破瓜の出血及びショックに耐えられなかった為か、姉の顔が外界で生きられなかった為か、ともかく、仁美か姉が死ねば、くっついていたものは運命を共にするのが決まりだ。
終わり
お○んこ in Her(2)
「よく言った!」
栄介が言ったのではない。隣のボックスの客の声だ。若い男の声。やはり内緒話の出来る環境ではない。壁に耳あり障子にメアリー、もとい、目あり。
「やめろって」
その若い男の連れと思しき男の声。こんな、栄介と義孝と隣の客とのやり取りがしばし続くのだが、文字数の無駄なので割愛する。そもそも行くも行かぬも出入口は一つ、どうあっても外に出れば、仁美が待っている限り、仁美に会うのだ。
「事務所とホテルと部屋とワイシャツと犬に気をつけろよな。特に犬だ。あいつらは噛む」
顔も知らぬ酔っ払いのアドバイスを背に二人は会計を済ますと潔く外に出る。秋だというのに妙に生ぬるい風が二人を撫でた。街中、人いきれのせいだろうか。それとも二人の中に渦めいているこれまでに無いほど膨張した性欲から醸し出された感覚であったろうか。期待と不安と劣等感と期待と期待と希望と期待とがない交ぜになった息を吐く。暑い。二人は砂風呂にでも入って蒸されているかのよう、逆上せあがっていた。彼らの小陰茎には一つ利点がある。外出時不意もしくは意図的な勃起をしても服の上からはわからない。いや、服の上からだけでなく全裸の状態であってもわからないかもしれない。普段所構わず好き勝手に勃起をしてきた、勃起の自粛をしてこなかった、アダルトビデオを借りる時等得てして勃起を伴う作業をしている時に脳内で九九をしたりして勃起を抑えることをしてこなかった、ある意味羨ましい、勃起し放題の二人であるが今現在二人が勃起しているかどうかは、上記の理由も相まって、判断することは不可能だ。一隅千載のチャンス、望んでいたわけではないのかもしれないが、に彼らの陰茎は勃起しているのか重圧に耐えきれず萎れているのか、これ
はとても重要な問題である。陰茎の調子が男の行動に影響を及ぼすことは紛れもない事実である。
仁美は居た。一人で居た。午後十時、駅前、賑やかな通り、ぽつんと待ちぼうけ。やはり臨月間近の妊婦にしか見えない仁美。慌ただしい雑踏の中に出来たサンクチュアリ。果たして彼女の前を通り過ぎる人達の中で彼女が妊婦ではないと察することが出来た人間がいただろうか。
栄介と義孝に気づいた仁美は少しおどおどしながらもにっこり微笑んだ。
「お待たせしました。で、どうしましょうか」
栄介は仁美の僅かな変化に気づかない。もちろん義孝も気づかない。
「そうですね。…公園はどうですか?少し歩けばいくつかありますよね」
公園。犬、を除けば危ない響きがなかったので、また栄介達に代案もなく、三人は様々な感情を抱きながらやや早足で歩いた。仁美は時折そのぽっこり膨れた腹を撫でるよう手をあてがった。マニキュアの類をしていない真っ白で、いやに細く長い指をしていた。
内緒話をしようとしているのだから仁美が人目を気にしていることは理解している。一番近い二十メートル四方程の公園には人がいた。さらに歩く。二つ目に行き着いた最初の公園と同規模の公園にも人がいた。さらに歩く。栄介は移動する度に辺りを見回す。誰かつけていないかチェックしているのだ。携帯電話とGPSの発達した現代に於いて些か心許ないが、目に見える範囲では尾行者はいないみたいだ。十分程無言で歩き、街の喧騒から離れた住宅地の中にある三番目の公園、小学校の校庭程ある大きさの公園に行き着いた。控え目なすべり台、ターザンロープ、ブランコ、大小選り取り見取りの鉄棒、複雑なジャングルジム、安全を考慮されたアスレチック、桜の木とツツジ。他に人がいないでもなかったが十分な距離を稼ぐことが出来た。浮浪者対策の為かベンチが見当たらない。三人は仕方なく隅っこにあるブランコに陣取った。
公園の真ん中にある水銀灯の眩い光が白砂のグラウンドをしんしんと浮かび上がらせ、その無機質な透明度の高い輝きと夜の闇とのコントラストはまるでアクリルの中に出来た虚像を見ているようである。水銀灯の輝きは隅っこにあるブランコを淡く照らし薄ぼんやりとした三人の影を照らし出す。空では11月の満月が煌々と夜を照らしている。時折吹く風はやはり妙に生暖かい。このブランコ周辺は明るいのか暗いのか、今は暖かいのか寒いのか、よくわからない。
ブランコを囲む太い鉄柵に腰を降ろした三人。ブランコ越しに水銀灯。三人の真ん中は栄介。仁美は腰を降ろす際膨らんだ腹を少し持ち上げるようにしながら座った。
「さて、お話とはなんでしょうか?」
膝をしっかと掴みながら栄介は言った。
「わざわざこんなところまで来てもらって申し訳ありません。これ以上余計なお時間をとらせるのもなんですから早速本題に入らせて戴きます」
そう言った仁美の顔は能面のように無表情であり、水銀灯の淡い光に照らされた顔は薄闇の中不気味な程白く浮かび上がった。栄介達は今まで警戒していたものとは違う恐怖を感じた。知っているようで知らない光景、知っているようで知らない空気気温体温、そして得体の知れぬ女。時の翁に誘われ異世界に迷い込んでしまったかのようなえもいわれぬ恐怖感。
「そうですね。どこからお話しましょうか。ずっと、ずっと考えていたのですが。ずっと。…お二人はシャム双生児というものを知っていますか?」
仁美は栄介達から視線を外し、虚像のように現出しているグラウンドを見つめて言った。セミロングの黒髪が顔の白さとは対照的に吸い込まれてしまいそうな黒い輝きを放つ。
「シャム双生児?」
「ベトちゃんドクちゃんと言えばわかるかしら」
「あ、ああ、あのくっついてる」
「そう。くっついてる」
禁忌語を言ってしまった子供のように仁美は口を手で塞いだ。
栄介と義孝は仁美の腹を見た。見つめた。ただ見つめた。思考が追いつかない。
「百年ぐらい前、ローザとジョゼファという結合双生児がいたわ」
仁美は口を塞いでいた手をのけると朗々と語り出した。栄介達には仁美の声が今までの仁美の声とは全く異なる、“遠くから近くで聴こえる”とでもいうのか、共鳴しているかのようにぐぐもった、隣に座った人間が話している生声ではなく古いビデオテープから流れる声のように聴こえた。
「おもしろいのよ。彼女達はお尻とお尻が一緒になっているタイプで、そうね、尻相撲をしている二人と言えばいいかしら、二人共それぞれ両手両足脳みそ心臓を持っていた。見世物興行の花形になったわ。そして1910年4月15日、二人は入院したの。正確にはローザに異常が起こったのよ。ローザのお腹が大きくなっていたのよ」
栄介と義孝は仁美の腹を見ながらごくりと唾をのんだ。仁美は気にもせず続ける。
「お医者さんは彼女達に男と寝たかどうかを聞いた。ところがローザもジョゼファもそれを強く否定したの。結局二日後に子供が、健康な子供が産まれて、ローザは恋人がいることを白状した。だけどジョゼファは、知らない、気がつかなかった、って言い続けたのよ。それに飽きたらずジョゼファはローザのことを、恥知らずでふしだらだ、とも言ったらしい。おもしろいでしょ。これにローザはこう反論するの、ジョゼファも誘惑されて自分と同じ喜びを味わったくせに、ってね。ローザが正しいわ。正しいに決まってる。だって彼女達にはあそこが一つしかなかったのだから。ふふふ」
栄介と義孝の頭の中では何かがごぅんごぅんと鳴っている。視界がぐるぐるする。ふらふらする。酒による酔いもあるにはあるのだろうが居酒屋に居た時よりも酩酊感は増している。
「その後の彼女達は悲惨だったわ。子供の父親、ローザはその男と結婚しようとしたけど、色々問題があって。裁判にまでなって。結局ローザと男の結婚は認められなかった。一人の女ではなく二人の女と結婚するので重婚になるってね。ふふふ。そのあと男はあっさり別の女と、普通の一人の女と婚約してローザと子供を捨てた。彼女達の母親はそれを知って悲しみのあまり死んだの。赤ちゃんが産まれてから彼女達の関係もこじれちゃってね。ふふふ。喧嘩する度に、切り離してもらう、って言いあったそうよ。それが出来ないことは知っていたのにね。1922年、彼女達は仲良く一緒に死にました」
仁美はふぅと一息つくと話を続けた。
「私達は彼女達と少し違う」
私達、と、仁美は言い、腹を撫でた。
「1930年代ニューヨークではある黒人の美しい少女が人気者になったわ。やっぱり見世物興行でね。少女の名前はベティー・ルー・ウィリアムズ。彼女の横っ腹からは双子の姉妹の下半身と一本の腕が突き出ていた。ふふふ。いまいちよくわからないかもしれませんね。…わからないと思います。だから」
仁美は幽鬼のよう、その身重な躯を、まるで重力を感じぬが如く、ふわりふらりふわふわと立ち上がり、ゆっくりなのか素早くなのかよくわからない速度でくるりくるりらふわりふわりら一回転。恐怖と奇妙な淫靡が入り混じった風が栄介と義孝の頬を撫でた。
「大丈夫なようね。…ああ、初めてだわ。姉を見ず知らずの人に見せるのは」
仁美はそう言うとワンピースをインナーごと胸までたくし上げた。その上昇するワンピースの下辺の動きを目で追っていた栄介と義孝。タイトパンツ越しにも仁美の脚のラインの美しさがわかる。節制しているというよりは過食症からくるような退廃的なライン。紐で出来たバックルの無いベルトが見えた。そして、ああ、脚が、人間の脚が、二本、赤ん坊のおんぶ紐にくるまれ脚を交差した体育座りの格好で支えられた二本の脚が仁美の白いブラジャーの下に鎮座している。小さな、それでも、大人の脚。体育座りしている脚の隙間から深紅色したパンティが見えた。異形。露わになった仁美のブラと“姉”の小さな下半身とその下にある仁美の下半身とが織り成すおどろおどろしいエロティシズム。立ちこめる仄かな獣臭。虫を誘う蜜が如く。仁美と姉のポーズは耽美的でさえある。切断されたよう、尻の骨盤の上から仁美にくっついて、いや、生え出ている姉。ぬめりとした風がゆっくりそよぐと、ふるふる、姉が微かに動いた。
「ごめんね。寒いよね」
そう言うと仁美はワンピースを下ろした。そして、また、少しおどおどした表情を浮かべた。それは他人に秘部以上の秘部を晒す不安やこんな事態を招いた一抹の後悔からくるものであったが、あてられた栄介と義孝には仁美の心理状態などわかるべくもない。
「奇形…」
栄介か義孝か、はたまた二人同時にか、ぽつり、思考から漏れた。
「そう、奇形。だけど、あなた達も奇形じゃなくて?」
あっ、とした表情を浮かべる二人。
「姉には、ふふ、姉と呼ぶのおかしい?でもね、姉なの。私のお姉ちゃん。姉には見た通り脳みそが無いわ。あるのは腰からしただけ。でもね、意思がないわけじゃないのよ。今日だってたまには居酒屋に行こうって伝えてきたんだから。ひょっとしたら、栄養を分かち合うよう脳みそも分かち合っているのかもね。そしてあなた達に出逢った。探していた人達に。あなた達も探していたのではないかしら。望んでいたのではないかしら。自身のサイズにあったものを」
膣内を突き進む精子のように、二人は頷くことしか出来なかった。
「私は秘密を、姉を見せたわ。出来れば、今ここであなた達のものも確認しておきたいわ」
夢魔にうなされながらも射精してしまうが如く、栄介と義孝はベルトを外した。
「一人でよくてよ」
栄介は手を止め、義孝がその小陰茎を露わにした。いや、陰毛に隠れモザイクはかからなかった。いや、かかったのか。
「なるほど。となると小松崎さんも同様なものを。これなら、あ、すみませんね、このペニスならば」
栄介と義孝は夢遊病患者のよう、ゆらゆらと仁美の後ろを歩く。まるでくっついているよう。到着したのは今にも武士の幽霊が出てきそうな古びた一軒家。朽ち果てている門。がたがた鳴る玄関を開ける。雨戸が閉められ真っ暗な室内に明かりがつけられる。それでも薄暗い。お茶も出さずに、
「逃げるなら今よ」
そう言うと仁美は風呂へ。栄介と義孝は薄暗い八畳敷きの中、突っ立ったまま無言で畳の目や部屋の隅などを見ている。
仁美が二つの下半身を洗い終えるのは意外に早く、裸の上に着ていたワンピースを着て出てきた。
栄介が言ったのではない。隣のボックスの客の声だ。若い男の声。やはり内緒話の出来る環境ではない。壁に耳あり障子にメアリー、もとい、目あり。
「やめろって」
その若い男の連れと思しき男の声。こんな、栄介と義孝と隣の客とのやり取りがしばし続くのだが、文字数の無駄なので割愛する。そもそも行くも行かぬも出入口は一つ、どうあっても外に出れば、仁美が待っている限り、仁美に会うのだ。
「事務所とホテルと部屋とワイシャツと犬に気をつけろよな。特に犬だ。あいつらは噛む」
顔も知らぬ酔っ払いのアドバイスを背に二人は会計を済ますと潔く外に出る。秋だというのに妙に生ぬるい風が二人を撫でた。街中、人いきれのせいだろうか。それとも二人の中に渦めいているこれまでに無いほど膨張した性欲から醸し出された感覚であったろうか。期待と不安と劣等感と期待と期待と希望と期待とがない交ぜになった息を吐く。暑い。二人は砂風呂にでも入って蒸されているかのよう、逆上せあがっていた。彼らの小陰茎には一つ利点がある。外出時不意もしくは意図的な勃起をしても服の上からはわからない。いや、服の上からだけでなく全裸の状態であってもわからないかもしれない。普段所構わず好き勝手に勃起をしてきた、勃起の自粛をしてこなかった、アダルトビデオを借りる時等得てして勃起を伴う作業をしている時に脳内で九九をしたりして勃起を抑えることをしてこなかった、ある意味羨ましい、勃起し放題の二人であるが今現在二人が勃起しているかどうかは、上記の理由も相まって、判断することは不可能だ。一隅千載のチャンス、望んでいたわけではないのかもしれないが、に彼らの陰茎は勃起しているのか重圧に耐えきれず萎れているのか、これ
はとても重要な問題である。陰茎の調子が男の行動に影響を及ぼすことは紛れもない事実である。
仁美は居た。一人で居た。午後十時、駅前、賑やかな通り、ぽつんと待ちぼうけ。やはり臨月間近の妊婦にしか見えない仁美。慌ただしい雑踏の中に出来たサンクチュアリ。果たして彼女の前を通り過ぎる人達の中で彼女が妊婦ではないと察することが出来た人間がいただろうか。
栄介と義孝に気づいた仁美は少しおどおどしながらもにっこり微笑んだ。
「お待たせしました。で、どうしましょうか」
栄介は仁美の僅かな変化に気づかない。もちろん義孝も気づかない。
「そうですね。…公園はどうですか?少し歩けばいくつかありますよね」
公園。犬、を除けば危ない響きがなかったので、また栄介達に代案もなく、三人は様々な感情を抱きながらやや早足で歩いた。仁美は時折そのぽっこり膨れた腹を撫でるよう手をあてがった。マニキュアの類をしていない真っ白で、いやに細く長い指をしていた。
内緒話をしようとしているのだから仁美が人目を気にしていることは理解している。一番近い二十メートル四方程の公園には人がいた。さらに歩く。二つ目に行き着いた最初の公園と同規模の公園にも人がいた。さらに歩く。栄介は移動する度に辺りを見回す。誰かつけていないかチェックしているのだ。携帯電話とGPSの発達した現代に於いて些か心許ないが、目に見える範囲では尾行者はいないみたいだ。十分程無言で歩き、街の喧騒から離れた住宅地の中にある三番目の公園、小学校の校庭程ある大きさの公園に行き着いた。控え目なすべり台、ターザンロープ、ブランコ、大小選り取り見取りの鉄棒、複雑なジャングルジム、安全を考慮されたアスレチック、桜の木とツツジ。他に人がいないでもなかったが十分な距離を稼ぐことが出来た。浮浪者対策の為かベンチが見当たらない。三人は仕方なく隅っこにあるブランコに陣取った。
公園の真ん中にある水銀灯の眩い光が白砂のグラウンドをしんしんと浮かび上がらせ、その無機質な透明度の高い輝きと夜の闇とのコントラストはまるでアクリルの中に出来た虚像を見ているようである。水銀灯の輝きは隅っこにあるブランコを淡く照らし薄ぼんやりとした三人の影を照らし出す。空では11月の満月が煌々と夜を照らしている。時折吹く風はやはり妙に生暖かい。このブランコ周辺は明るいのか暗いのか、今は暖かいのか寒いのか、よくわからない。
ブランコを囲む太い鉄柵に腰を降ろした三人。ブランコ越しに水銀灯。三人の真ん中は栄介。仁美は腰を降ろす際膨らんだ腹を少し持ち上げるようにしながら座った。
「さて、お話とはなんでしょうか?」
膝をしっかと掴みながら栄介は言った。
「わざわざこんなところまで来てもらって申し訳ありません。これ以上余計なお時間をとらせるのもなんですから早速本題に入らせて戴きます」
そう言った仁美の顔は能面のように無表情であり、水銀灯の淡い光に照らされた顔は薄闇の中不気味な程白く浮かび上がった。栄介達は今まで警戒していたものとは違う恐怖を感じた。知っているようで知らない光景、知っているようで知らない空気気温体温、そして得体の知れぬ女。時の翁に誘われ異世界に迷い込んでしまったかのようなえもいわれぬ恐怖感。
「そうですね。どこからお話しましょうか。ずっと、ずっと考えていたのですが。ずっと。…お二人はシャム双生児というものを知っていますか?」
仁美は栄介達から視線を外し、虚像のように現出しているグラウンドを見つめて言った。セミロングの黒髪が顔の白さとは対照的に吸い込まれてしまいそうな黒い輝きを放つ。
「シャム双生児?」
「ベトちゃんドクちゃんと言えばわかるかしら」
「あ、ああ、あのくっついてる」
「そう。くっついてる」
禁忌語を言ってしまった子供のように仁美は口を手で塞いだ。
栄介と義孝は仁美の腹を見た。見つめた。ただ見つめた。思考が追いつかない。
「百年ぐらい前、ローザとジョゼファという結合双生児がいたわ」
仁美は口を塞いでいた手をのけると朗々と語り出した。栄介達には仁美の声が今までの仁美の声とは全く異なる、“遠くから近くで聴こえる”とでもいうのか、共鳴しているかのようにぐぐもった、隣に座った人間が話している生声ではなく古いビデオテープから流れる声のように聴こえた。
「おもしろいのよ。彼女達はお尻とお尻が一緒になっているタイプで、そうね、尻相撲をしている二人と言えばいいかしら、二人共それぞれ両手両足脳みそ心臓を持っていた。見世物興行の花形になったわ。そして1910年4月15日、二人は入院したの。正確にはローザに異常が起こったのよ。ローザのお腹が大きくなっていたのよ」
栄介と義孝は仁美の腹を見ながらごくりと唾をのんだ。仁美は気にもせず続ける。
「お医者さんは彼女達に男と寝たかどうかを聞いた。ところがローザもジョゼファもそれを強く否定したの。結局二日後に子供が、健康な子供が産まれて、ローザは恋人がいることを白状した。だけどジョゼファは、知らない、気がつかなかった、って言い続けたのよ。それに飽きたらずジョゼファはローザのことを、恥知らずでふしだらだ、とも言ったらしい。おもしろいでしょ。これにローザはこう反論するの、ジョゼファも誘惑されて自分と同じ喜びを味わったくせに、ってね。ローザが正しいわ。正しいに決まってる。だって彼女達にはあそこが一つしかなかったのだから。ふふふ」
栄介と義孝の頭の中では何かがごぅんごぅんと鳴っている。視界がぐるぐるする。ふらふらする。酒による酔いもあるにはあるのだろうが居酒屋に居た時よりも酩酊感は増している。
「その後の彼女達は悲惨だったわ。子供の父親、ローザはその男と結婚しようとしたけど、色々問題があって。裁判にまでなって。結局ローザと男の結婚は認められなかった。一人の女ではなく二人の女と結婚するので重婚になるってね。ふふふ。そのあと男はあっさり別の女と、普通の一人の女と婚約してローザと子供を捨てた。彼女達の母親はそれを知って悲しみのあまり死んだの。赤ちゃんが産まれてから彼女達の関係もこじれちゃってね。ふふふ。喧嘩する度に、切り離してもらう、って言いあったそうよ。それが出来ないことは知っていたのにね。1922年、彼女達は仲良く一緒に死にました」
仁美はふぅと一息つくと話を続けた。
「私達は彼女達と少し違う」
私達、と、仁美は言い、腹を撫でた。
「1930年代ニューヨークではある黒人の美しい少女が人気者になったわ。やっぱり見世物興行でね。少女の名前はベティー・ルー・ウィリアムズ。彼女の横っ腹からは双子の姉妹の下半身と一本の腕が突き出ていた。ふふふ。いまいちよくわからないかもしれませんね。…わからないと思います。だから」
仁美は幽鬼のよう、その身重な躯を、まるで重力を感じぬが如く、ふわりふらりふわふわと立ち上がり、ゆっくりなのか素早くなのかよくわからない速度でくるりくるりらふわりふわりら一回転。恐怖と奇妙な淫靡が入り混じった風が栄介と義孝の頬を撫でた。
「大丈夫なようね。…ああ、初めてだわ。姉を見ず知らずの人に見せるのは」
仁美はそう言うとワンピースをインナーごと胸までたくし上げた。その上昇するワンピースの下辺の動きを目で追っていた栄介と義孝。タイトパンツ越しにも仁美の脚のラインの美しさがわかる。節制しているというよりは過食症からくるような退廃的なライン。紐で出来たバックルの無いベルトが見えた。そして、ああ、脚が、人間の脚が、二本、赤ん坊のおんぶ紐にくるまれ脚を交差した体育座りの格好で支えられた二本の脚が仁美の白いブラジャーの下に鎮座している。小さな、それでも、大人の脚。体育座りしている脚の隙間から深紅色したパンティが見えた。異形。露わになった仁美のブラと“姉”の小さな下半身とその下にある仁美の下半身とが織り成すおどろおどろしいエロティシズム。立ちこめる仄かな獣臭。虫を誘う蜜が如く。仁美と姉のポーズは耽美的でさえある。切断されたよう、尻の骨盤の上から仁美にくっついて、いや、生え出ている姉。ぬめりとした風がゆっくりそよぐと、ふるふる、姉が微かに動いた。
「ごめんね。寒いよね」
そう言うと仁美はワンピースを下ろした。そして、また、少しおどおどした表情を浮かべた。それは他人に秘部以上の秘部を晒す不安やこんな事態を招いた一抹の後悔からくるものであったが、あてられた栄介と義孝には仁美の心理状態などわかるべくもない。
「奇形…」
栄介か義孝か、はたまた二人同時にか、ぽつり、思考から漏れた。
「そう、奇形。だけど、あなた達も奇形じゃなくて?」
あっ、とした表情を浮かべる二人。
「姉には、ふふ、姉と呼ぶのおかしい?でもね、姉なの。私のお姉ちゃん。姉には見た通り脳みそが無いわ。あるのは腰からしただけ。でもね、意思がないわけじゃないのよ。今日だってたまには居酒屋に行こうって伝えてきたんだから。ひょっとしたら、栄養を分かち合うよう脳みそも分かち合っているのかもね。そしてあなた達に出逢った。探していた人達に。あなた達も探していたのではないかしら。望んでいたのではないかしら。自身のサイズにあったものを」
膣内を突き進む精子のように、二人は頷くことしか出来なかった。
「私は秘密を、姉を見せたわ。出来れば、今ここであなた達のものも確認しておきたいわ」
夢魔にうなされながらも射精してしまうが如く、栄介と義孝はベルトを外した。
「一人でよくてよ」
栄介は手を止め、義孝がその小陰茎を露わにした。いや、陰毛に隠れモザイクはかからなかった。いや、かかったのか。
「なるほど。となると小松崎さんも同様なものを。これなら、あ、すみませんね、このペニスならば」
栄介と義孝は夢遊病患者のよう、ゆらゆらと仁美の後ろを歩く。まるでくっついているよう。到着したのは今にも武士の幽霊が出てきそうな古びた一軒家。朽ち果てている門。がたがた鳴る玄関を開ける。雨戸が閉められ真っ暗な室内に明かりがつけられる。それでも薄暗い。お茶も出さずに、
「逃げるなら今よ」
そう言うと仁美は風呂へ。栄介と義孝は薄暗い八畳敷きの中、突っ立ったまま無言で畳の目や部屋の隅などを見ている。
仁美が二つの下半身を洗い終えるのは意外に早く、裸の上に着ていたワンピースを着て出てきた。
お○んこ in Her(1)
「お話の途中申し訳ありませんが」
小松崎栄介と花井義孝は突然隣席の若い女から話かけられ、二人して困惑の表情を浮かべたのちすぐに、あちゃー、という顔をした。何故なら大声でしょうもない単語を連発していたからだ。
居酒屋チェーン“けらけら”の席上。栄介と義孝はしがないサラリーマンである。会社帰りに一杯。二人はただ同僚、先輩と後輩、であるというだけの間柄ではない。言うなれば盟友。同じコンプレックスを持った同士である。酒に酔った二人は共通するコンプレックス、すなわち、如何に己の男性器が小さいかを自虐的に話していた。
俺は勃っても五センチだ、と、先輩である栄介が言えば、僕なんか通常時でっかいクリトリスより小さいですよ、と、義孝が言う。お前見たことあるのかよでっかいクリトリス、と、栄介。あるわけないでしょ、と、義孝。お互い二十代独身。二人共、自身の男性自身に自信を持てないことから、童貞である。
そんな話を、日頃のストレスの憂さ晴らしと鬱屈したリビドーとアルコールの作用が相まって、繰り返し繰り返し、次第に声を荒げつつ、周りの酔客の声量に負けぬよう話していたのだ。体力も金も性欲も自由自在な年頃。二人共それなりの顔をしている。だが、男性器の大きさだけが足りない。砂漠で遭難した折、時計も磁石もナイフもテントも寝袋もインスタントラーメンもあるのに肝心要の水が無い状態とでも云おうか、耐え難くそして満たされることの無い渇きに喘いでいる二人の苦しみは如何ばかりか。股に大根を持つ作者には想像も出来ない。失敬。並の愚息である。
栄介は、あいやまさか隣人が麗若き女人であったとは、これは失礼。という心の声を短い言葉に託した。
「あ、すみません」
ぺこりと頭を下げた栄介は彼女の痩せ気味のきりりとした顔とは裏腹にぽっこり膨れている腹の存在に気付き、山のように積もった灰皿に目をやった。どうやら義孝も彼女の腹に気付いたようで、灰皿を通して義孝と目が合う。姉妹もなく、女性経験もない二人は女に対してコンプレックス性フェミニズムとでも云うようなものを持っている。変に意識して過剰なサービス精神騎士道精神を持って接するのだ。それが良い行為であると思っている二人だが、花に水をやりすぎては根が腐るよう、過剰な気遣いが時に女の個性や人権を無視するものであることを二人は知る由もない。
栄介と義孝が小さい灰皿の小さい隙間に火をつけたばかりの煙草をねじ込もうとした時、
「あの、妊婦じゃありませんから」
妊婦に間違いられ慣れているのか、彼女はすぐに二人の行動の意味を理解したらしく、無表情で静かに、しかし、はっきりと聞き取れる声で言った。
妊婦じゃないのか、ああ、ただのデブだったか。再び栄介と義孝は目を合わせ、声無き声を交換。
「はあ、すみません」
栄介が再度彼女の顔を見る。改めて見てみるとなんと可憐な女であろうか。薄暗い照明の中でもはっきりと彼女の色白さがわかる。浮き出る青い静脈がかわいそうになるぐらい、まさに透き通るような白さだ。セミロングの黒髪が抜群に似合っている。女優である、と、告げられたならば疑う余地の無い整った顔。やはり痩せ気味のきりりとした顔だ。なのに。着ているワンピースはマタニティウェアじゃないのか。ついつい栄介はぽっこりと出ている腹に目を向ける。
「あの、お話の途中申し訳ありませんが、少しお時間を、あの、話を聞いて頂けませんか」
居酒屋である。居酒屋チェーン店である。居酒屋チェーン“けらけら”である。居酒屋チェーン店“けらけら”の窓際の二人席である。簡素に仕切られた隣席を、そして周りを見回しても彼女の連れらしき人はいない。酔いどれの頭を振るって記憶を辿る。そういえば、多分、きっと、ずっと、彼女は一人だった?栄介と義孝が、もはや口をぱくぱく動かしながら、声無き声の交換。
「小松崎さん…」
義孝はそう呟くと何故か知らないが、小松崎って名字呼びにくいなぁ今度から小松か松崎って呼ぼうかなぁ、と思った。酔いと女、美人、の前では倫理的思考が機能しないらしい。
「うむ」
何が、うむ、だ。そう思う栄介であったがその後の言葉、行動が何も脳内に浮かんでこない。うむ、うむ、うむ、うむ。脳内で何度も連呼するだけである。嗚呼、平成も二十年が過ぎた、壊れたレコードに替わる表現はないものか。
「よろしいですか?」
数瞬の静寂、といっても周りは酔客の声で騒がしいのだが、を破り、彼女が問う。
「ちょっと待ってて下さいちょっと待ってて下さい。おい、花。ちょっときて」
栄介は立ち上がると義孝を連れてトイレに逃げ込んだ。大の大人がようやく思いついた行動である。
「な、な、なんだありゃ」
「な、な、なんでしょねあれ」
二人は何故か男性用便所に入ると迷わずに大用個室にまで逃げ込んだ。足並みが一糸たりとも乱れぬ動きであった。
「逆ナンってやつか?」
「いやしかしいやなんていうかそのあのまさかしかしでも」
あたふた感を抑えきれない義孝の言いたいことは、
「散々小陰茎を自慢してた俺達に?ってとこだよな」
栄介は理解していた。
「…ひょっとしたらなんかの宗教…とか、詐欺じゃ…ほら僕達散々弱味を見せつけてたじゃないですか。だからその弱味につけ込んで僕らから搾取しようとしてんじゃないですか?」
「うむ。そうだな。あり得る話だ。よく聞く話だ。なんかおかしな体型してるしな。あれで妊婦じゃないらしいぜ。しかしまあ考えりゃ俺達を逆ナンする奴なんかいねえよな」
「そうですとも。僕らなんか目くそ鼻くそじゃないですか。ありゃ?なんかおかしいな」
二人は自虐することにより冷静さを取り戻した。
「うむ。じゃあこうしよう。とりあえず話を聞いてみて、怪しかったら逃げよう。だから、そうだな、会計は済ましておくか」
「だけどこまちゅじゃきさん」義孝は何故かこのタイミングで“小松崎小松もしくは松崎化計画”をスタートさせた。それ程冷静になったと考えられなくもない。
「なんだ?」義孝の発音になんら疑問も持たず応える栄介。義孝の計画の第一歩を見破れなかった小松崎の運命や如何に…忘れてよい。
「あの、先に会計するって怪しまれないですかね?それに逃げようとした時に怖い屈強な男が出てくるパターンもありますよ」
「屈強な男がか。ならば尚更だ。早く逃げられるよう会計は済ませておかないとな」
「ああ、なるほど。しかし、怪しまれますよ」
「それもそうだがこのまま逃げるにしても伝票を取りに戻らなくてはならないぞ」
「なるほど、しかし座席に戻った後会計したらもっと気まずいですよ」
「それは…そうだな」
このような愚かしい、水掛け論ならぬ水掛け論を五分程も続け、二人は長い一本灰がくっついている煙草を便器に流してトイレから出た。小便をしていた初老の肥えたおっさんがびっくり仰天して股を濡らしたことなど気にもせず。
二人の出した結論は、彼女の話を聞く、であり、あらかじめ五千円、充分にお釣りがくる額、をポケットに入れておき逃げる段になったらその五千円を叩きつけて逃げよう、というものだ。この作戦に関して特に言うことは無い。呆れて。
座席に戻る。彼女は居た。
「いやぁすみません。ちょっと長くなってしまって」栄介は緊張を押し込める為に営業用の笑顔を作って言った。
「いえ、私も突然申し訳ありません」
「いやいや」
「いやいや」
困ったことが起きていた。彼女は栄介と義孝が飲んでいた二人席に自分の席の椅子を足して三人席にしていた。この店の窓際の二人席は凹型のボックスの中に二人席が二つある仕様だ。凹のへこみ部分は壁ではなく入り口になっている。大して広くないボックスの中で椅子を移動させるとなると必然的に窓側へ、入り口を空けるように椅子を配置することになる。もちろん彼女はそうした。となると一人である彼女は通路側に座る。実際座っている。奥に二人。これではいざという時に素早く逃げられない、もたつくことうけあいだ。死活問題である。だが、席を変えろなどと言えるような二人ならトイレの中に五分もいない。二人はおとなしく用意された椅子に座った。
「いきなりすみません。失礼の程は重々承知しています。だけど、あまりチャンスが無いと言いましょうか、少し話を聞いて頂きたいのですが」
「はい!」
二人は素っ頓狂な声で同時に返事をした。お仕事スイッチは様々な要因の下脆くも崩れさったようだ。
「あの、聞いてくれますか?」
義孝は膝の上で手を返し、どうぞ、の合図を栄介に送った。
「もちろん!」
またしても素っ頓狂な声。
これからはあまり大きな声を出さないよう二人に釘を刺した彼女は名前だけの自己紹介。彼女は、吉川仁美、と、名乗った。それに本名で応える栄介と義孝。馬鹿である。
「あの、実は先程お二人がしていた会話と関係があるのですが」
「えっ」
「静かにお願いします」
「さっきしていた会話というと、あれのことですか?」返事は栄介。
「そうなんです。その、お二人ともペニスがお小さいということで」
ついさっきまでそのことを店内に響き渡れと大声で喚いていたくせに仁美に面と向かって言われたら、ぢう、と酒で赤くなった頬をより濃く染める二人であった。
「それはまあそうなんですが」
義孝が、先輩である栄介の代わりに、応える。
「本当のことなのですか?ずっと探しているのです」
「ちんこ小さな男をですか!?」
「静かにって言ってるでしょ!」
怒られ睨まれ色々なものがしゅんと縮こまる義孝。仁美にとって幸いなことにこれも酔客の馬鹿笑いの中のひとつ。
「お願いですから小さな声で」
「しかし、他の誰かに聴こえないような小さな声じゃここでは聞き取れませんよ」
仁美がそのふくよかな唇に右手の人差し指を当てると瞬時に栄介は正論を吐いた。考えて言ったのではなくとっさに口から出たからこそ言えた正論であった。
「ああ、いや」
「そうですね。私、少し取り乱していたみたいです」
仁美を否定するようなひどいことを言ってしまった気がした栄介の言い訳を遮り仁美は自分をたしなめるように言った。
「ああ、ああ、いやいや」狼狽するしか能がないのかお前ら。
「よろしければここを出ませんか?是非お願いします」
不安混じりの笑みを浮かべ懇願する仁美。
「は、はい」
断る理由は五万とあるが即答してしまう悲しき野郎が二人、ここにいる。
「ありがとうございます。では早速。あ、私達会計済んでいますから外で待ってますね」
そう言って仁美は栄介と義孝の前から、一旦、消えた。嵐の後の静けさ。しばし茫然とする二人。
「はは、いやぁ、会計、僕達より先にやられてましたね」間を埋めるべく義孝が言った。
「いや、花、お前、そこか?そこじゃないだろ花お前」
「はぁ、なんですか一体」
「一体も二体もあるか、いや、一体も二体もあるんだ」
義孝はわけがわからず、とりあえず立ち上がると、じゃあ行きますか、と、言った。
「ちょっと待てお前。彼女最後になんて言ったか覚えてるか?」
「はぁ、外で待ってますね、と」
「その前だ」
「ありがとうございます、と」
「戻り過ぎだ」
「会計済んでいます」
「惜しい行き過ぎだってもういい。彼女言ったろ。“私達会計済んでいますから”ってよぉ」
「…あ、言った」
「私達ってどういうことだ?やっぱり彼女は一人じゃなかったのか?」
「考え過ぎじゃないですか?言い間違いなんてよくあることでしょ。それに本当に“私達”なら、ここに来てわざわざ私達って言わないでしょ」
「そりゃそうだがしかし」
「小松崎さんこそ覚えてますか彼女が言ったこと?」
「まあ大体覚えているが」
「いや、そんな真面目に答えられても。こういう場合WhatかWhyで返して下さいよ。もう。いいですか、彼女言いましたよね、探していたと」
「言ってたな」
「何を探してましたか?」
「…小さなちんこ男を」
「小松崎さん、僕は行きますよ。例え騙されていようが高い壷買わされようが美人局に遭おうが、万に一つ、このちんこが、僕達のちんこが、小さなちんこが役に立つならば、その可能性がある限り、僕は行かざるを得ません。僕達は。そうでしょ小松崎さん」
小松崎栄介と花井義孝は突然隣席の若い女から話かけられ、二人して困惑の表情を浮かべたのちすぐに、あちゃー、という顔をした。何故なら大声でしょうもない単語を連発していたからだ。
居酒屋チェーン“けらけら”の席上。栄介と義孝はしがないサラリーマンである。会社帰りに一杯。二人はただ同僚、先輩と後輩、であるというだけの間柄ではない。言うなれば盟友。同じコンプレックスを持った同士である。酒に酔った二人は共通するコンプレックス、すなわち、如何に己の男性器が小さいかを自虐的に話していた。
俺は勃っても五センチだ、と、先輩である栄介が言えば、僕なんか通常時でっかいクリトリスより小さいですよ、と、義孝が言う。お前見たことあるのかよでっかいクリトリス、と、栄介。あるわけないでしょ、と、義孝。お互い二十代独身。二人共、自身の男性自身に自信を持てないことから、童貞である。
そんな話を、日頃のストレスの憂さ晴らしと鬱屈したリビドーとアルコールの作用が相まって、繰り返し繰り返し、次第に声を荒げつつ、周りの酔客の声量に負けぬよう話していたのだ。体力も金も性欲も自由自在な年頃。二人共それなりの顔をしている。だが、男性器の大きさだけが足りない。砂漠で遭難した折、時計も磁石もナイフもテントも寝袋もインスタントラーメンもあるのに肝心要の水が無い状態とでも云おうか、耐え難くそして満たされることの無い渇きに喘いでいる二人の苦しみは如何ばかりか。股に大根を持つ作者には想像も出来ない。失敬。並の愚息である。
栄介は、あいやまさか隣人が麗若き女人であったとは、これは失礼。という心の声を短い言葉に託した。
「あ、すみません」
ぺこりと頭を下げた栄介は彼女の痩せ気味のきりりとした顔とは裏腹にぽっこり膨れている腹の存在に気付き、山のように積もった灰皿に目をやった。どうやら義孝も彼女の腹に気付いたようで、灰皿を通して義孝と目が合う。姉妹もなく、女性経験もない二人は女に対してコンプレックス性フェミニズムとでも云うようなものを持っている。変に意識して過剰なサービス精神騎士道精神を持って接するのだ。それが良い行為であると思っている二人だが、花に水をやりすぎては根が腐るよう、過剰な気遣いが時に女の個性や人権を無視するものであることを二人は知る由もない。
栄介と義孝が小さい灰皿の小さい隙間に火をつけたばかりの煙草をねじ込もうとした時、
「あの、妊婦じゃありませんから」
妊婦に間違いられ慣れているのか、彼女はすぐに二人の行動の意味を理解したらしく、無表情で静かに、しかし、はっきりと聞き取れる声で言った。
妊婦じゃないのか、ああ、ただのデブだったか。再び栄介と義孝は目を合わせ、声無き声を交換。
「はあ、すみません」
栄介が再度彼女の顔を見る。改めて見てみるとなんと可憐な女であろうか。薄暗い照明の中でもはっきりと彼女の色白さがわかる。浮き出る青い静脈がかわいそうになるぐらい、まさに透き通るような白さだ。セミロングの黒髪が抜群に似合っている。女優である、と、告げられたならば疑う余地の無い整った顔。やはり痩せ気味のきりりとした顔だ。なのに。着ているワンピースはマタニティウェアじゃないのか。ついつい栄介はぽっこりと出ている腹に目を向ける。
「あの、お話の途中申し訳ありませんが、少しお時間を、あの、話を聞いて頂けませんか」
居酒屋である。居酒屋チェーン店である。居酒屋チェーン“けらけら”である。居酒屋チェーン店“けらけら”の窓際の二人席である。簡素に仕切られた隣席を、そして周りを見回しても彼女の連れらしき人はいない。酔いどれの頭を振るって記憶を辿る。そういえば、多分、きっと、ずっと、彼女は一人だった?栄介と義孝が、もはや口をぱくぱく動かしながら、声無き声の交換。
「小松崎さん…」
義孝はそう呟くと何故か知らないが、小松崎って名字呼びにくいなぁ今度から小松か松崎って呼ぼうかなぁ、と思った。酔いと女、美人、の前では倫理的思考が機能しないらしい。
「うむ」
何が、うむ、だ。そう思う栄介であったがその後の言葉、行動が何も脳内に浮かんでこない。うむ、うむ、うむ、うむ。脳内で何度も連呼するだけである。嗚呼、平成も二十年が過ぎた、壊れたレコードに替わる表現はないものか。
「よろしいですか?」
数瞬の静寂、といっても周りは酔客の声で騒がしいのだが、を破り、彼女が問う。
「ちょっと待ってて下さいちょっと待ってて下さい。おい、花。ちょっときて」
栄介は立ち上がると義孝を連れてトイレに逃げ込んだ。大の大人がようやく思いついた行動である。
「な、な、なんだありゃ」
「な、な、なんでしょねあれ」
二人は何故か男性用便所に入ると迷わずに大用個室にまで逃げ込んだ。足並みが一糸たりとも乱れぬ動きであった。
「逆ナンってやつか?」
「いやしかしいやなんていうかそのあのまさかしかしでも」
あたふた感を抑えきれない義孝の言いたいことは、
「散々小陰茎を自慢してた俺達に?ってとこだよな」
栄介は理解していた。
「…ひょっとしたらなんかの宗教…とか、詐欺じゃ…ほら僕達散々弱味を見せつけてたじゃないですか。だからその弱味につけ込んで僕らから搾取しようとしてんじゃないですか?」
「うむ。そうだな。あり得る話だ。よく聞く話だ。なんかおかしな体型してるしな。あれで妊婦じゃないらしいぜ。しかしまあ考えりゃ俺達を逆ナンする奴なんかいねえよな」
「そうですとも。僕らなんか目くそ鼻くそじゃないですか。ありゃ?なんかおかしいな」
二人は自虐することにより冷静さを取り戻した。
「うむ。じゃあこうしよう。とりあえず話を聞いてみて、怪しかったら逃げよう。だから、そうだな、会計は済ましておくか」
「だけどこまちゅじゃきさん」義孝は何故かこのタイミングで“小松崎小松もしくは松崎化計画”をスタートさせた。それ程冷静になったと考えられなくもない。
「なんだ?」義孝の発音になんら疑問も持たず応える栄介。義孝の計画の第一歩を見破れなかった小松崎の運命や如何に…忘れてよい。
「あの、先に会計するって怪しまれないですかね?それに逃げようとした時に怖い屈強な男が出てくるパターンもありますよ」
「屈強な男がか。ならば尚更だ。早く逃げられるよう会計は済ませておかないとな」
「ああ、なるほど。しかし、怪しまれますよ」
「それもそうだがこのまま逃げるにしても伝票を取りに戻らなくてはならないぞ」
「なるほど、しかし座席に戻った後会計したらもっと気まずいですよ」
「それは…そうだな」
このような愚かしい、水掛け論ならぬ水掛け論を五分程も続け、二人は長い一本灰がくっついている煙草を便器に流してトイレから出た。小便をしていた初老の肥えたおっさんがびっくり仰天して股を濡らしたことなど気にもせず。
二人の出した結論は、彼女の話を聞く、であり、あらかじめ五千円、充分にお釣りがくる額、をポケットに入れておき逃げる段になったらその五千円を叩きつけて逃げよう、というものだ。この作戦に関して特に言うことは無い。呆れて。
座席に戻る。彼女は居た。
「いやぁすみません。ちょっと長くなってしまって」栄介は緊張を押し込める為に営業用の笑顔を作って言った。
「いえ、私も突然申し訳ありません」
「いやいや」
「いやいや」
困ったことが起きていた。彼女は栄介と義孝が飲んでいた二人席に自分の席の椅子を足して三人席にしていた。この店の窓際の二人席は凹型のボックスの中に二人席が二つある仕様だ。凹のへこみ部分は壁ではなく入り口になっている。大して広くないボックスの中で椅子を移動させるとなると必然的に窓側へ、入り口を空けるように椅子を配置することになる。もちろん彼女はそうした。となると一人である彼女は通路側に座る。実際座っている。奥に二人。これではいざという時に素早く逃げられない、もたつくことうけあいだ。死活問題である。だが、席を変えろなどと言えるような二人ならトイレの中に五分もいない。二人はおとなしく用意された椅子に座った。
「いきなりすみません。失礼の程は重々承知しています。だけど、あまりチャンスが無いと言いましょうか、少し話を聞いて頂きたいのですが」
「はい!」
二人は素っ頓狂な声で同時に返事をした。お仕事スイッチは様々な要因の下脆くも崩れさったようだ。
「あの、聞いてくれますか?」
義孝は膝の上で手を返し、どうぞ、の合図を栄介に送った。
「もちろん!」
またしても素っ頓狂な声。
これからはあまり大きな声を出さないよう二人に釘を刺した彼女は名前だけの自己紹介。彼女は、吉川仁美、と、名乗った。それに本名で応える栄介と義孝。馬鹿である。
「あの、実は先程お二人がしていた会話と関係があるのですが」
「えっ」
「静かにお願いします」
「さっきしていた会話というと、あれのことですか?」返事は栄介。
「そうなんです。その、お二人ともペニスがお小さいということで」
ついさっきまでそのことを店内に響き渡れと大声で喚いていたくせに仁美に面と向かって言われたら、ぢう、と酒で赤くなった頬をより濃く染める二人であった。
「それはまあそうなんですが」
義孝が、先輩である栄介の代わりに、応える。
「本当のことなのですか?ずっと探しているのです」
「ちんこ小さな男をですか!?」
「静かにって言ってるでしょ!」
怒られ睨まれ色々なものがしゅんと縮こまる義孝。仁美にとって幸いなことにこれも酔客の馬鹿笑いの中のひとつ。
「お願いですから小さな声で」
「しかし、他の誰かに聴こえないような小さな声じゃここでは聞き取れませんよ」
仁美がそのふくよかな唇に右手の人差し指を当てると瞬時に栄介は正論を吐いた。考えて言ったのではなくとっさに口から出たからこそ言えた正論であった。
「ああ、いや」
「そうですね。私、少し取り乱していたみたいです」
仁美を否定するようなひどいことを言ってしまった気がした栄介の言い訳を遮り仁美は自分をたしなめるように言った。
「ああ、ああ、いやいや」狼狽するしか能がないのかお前ら。
「よろしければここを出ませんか?是非お願いします」
不安混じりの笑みを浮かべ懇願する仁美。
「は、はい」
断る理由は五万とあるが即答してしまう悲しき野郎が二人、ここにいる。
「ありがとうございます。では早速。あ、私達会計済んでいますから外で待ってますね」
そう言って仁美は栄介と義孝の前から、一旦、消えた。嵐の後の静けさ。しばし茫然とする二人。
「はは、いやぁ、会計、僕達より先にやられてましたね」間を埋めるべく義孝が言った。
「いや、花、お前、そこか?そこじゃないだろ花お前」
「はぁ、なんですか一体」
「一体も二体もあるか、いや、一体も二体もあるんだ」
義孝はわけがわからず、とりあえず立ち上がると、じゃあ行きますか、と、言った。
「ちょっと待てお前。彼女最後になんて言ったか覚えてるか?」
「はぁ、外で待ってますね、と」
「その前だ」
「ありがとうございます、と」
「戻り過ぎだ」
「会計済んでいます」
「惜しい行き過ぎだってもういい。彼女言ったろ。“私達会計済んでいますから”ってよぉ」
「…あ、言った」
「私達ってどういうことだ?やっぱり彼女は一人じゃなかったのか?」
「考え過ぎじゃないですか?言い間違いなんてよくあることでしょ。それに本当に“私達”なら、ここに来てわざわざ私達って言わないでしょ」
「そりゃそうだがしかし」
「小松崎さんこそ覚えてますか彼女が言ったこと?」
「まあ大体覚えているが」
「いや、そんな真面目に答えられても。こういう場合WhatかWhyで返して下さいよ。もう。いいですか、彼女言いましたよね、探していたと」
「言ってたな」
「何を探してましたか?」
「…小さなちんこ男を」
「小松崎さん、僕は行きますよ。例え騙されていようが高い壷買わされようが美人局に遭おうが、万に一つ、このちんこが、僕達のちんこが、小さなちんこが役に立つならば、その可能性がある限り、僕は行かざるを得ません。僕達は。そうでしょ小松崎さん」
蟷螂の斧じゃらし
おれは所詮じゃらしなんだ。隆車に向かっても蟷螂の斧はじゃらしなんだよ。じゃらしじゃらされじゃららららだよまったく。今、ぽちぽち携帯打ってるおれはさ。まったくもってじゃらしさ。アメリカンなんて頼んでね。今度アメリカンをぬめり感とか斜陽館とかアンデルセンなんかにして言ってみようなんて考えてる。最悪だよ。なにこのポジティブシンキング。店員さん可愛いよ。なんでだよ。まったくもってじゃらしだよ。ちくしょう。
大した動機もなく他人を殺したいって思う気持ちが大人たちを悩ませている。おれに言わせりゃ昔は人を殺す理由がそこいらに転がってて、殺人に至る色んな教育環境整っててさ。人を殺したくなった人が、なぜ自分は人を殺したくなったのかって自分に問いかけた時に、自分に言い聞かせる理由が転がってて都合良かっただけだろ。人を殺した動機がないなんて毒にも薬にもならない、ある意味理想的な、どっかの国みたく偏った思想や主義主張から離れた中庸で客観的な教育を受けてきたからだろ。まあある意味偏ってるけど。殺したくなった理由がないなんて平和な証拠さ。他人を殺せない人間なんていやしねえんだ。殺さないまでもみんなそれに近いこと平気でやってるじゃねえか。無意識的に他人を貶めたり苛めたりしてるじゃねえか。同じだよ。いじめに理由なんてあるのかよ。なんとなくだろうが。本能みたいなもんだろ。人間ってやつは何万年も人間を殺してきたんだ。元来そういうものなんだよ動物だからね。逆に理由がある殺人のが怖いわ。あっ、被害者の感情は抜きにしてね。おれは殺人犯を許せないよ。だけど自分が殺人を犯さないとは口が裂けても言えないよ。犯
人の気持ちだってわからなくはないんだ。詐欺に引っかかる奴と同じでさ、自分は引っかかんないと思ってる奴に限って引っかかる。自分は殺人なんかしないって思ってる奴程危ないね。対極に身を置くってことは紙一重ってことだからね。詐欺師や新興宗教からみりゃ自分は引っかかんないって思ってる奴はカモだよ。そいつの中で固まってる詐欺の定義を逆説的に解きほぐしてやれば通電しちゃうもの。そういう奴に限って自分の見たことしか信じないなんて言っててさ。逆に言えば見たものは信じるってことだからね。背中合わせで振り向かせるのは簡単だよ。おれなんかいつも怯えてる。詐欺にも殺人にも。いつもキョロキョロしてる。信じる気持ちも信じない気持ちも信用してないもんな。自分の見たものこそ信じないよ。ああおれ何言ってんだろ…。めちゃくちゃだぁ。だだ漏れだぁ。だだ漏れだぁ。西南戦争から太平洋戦争まで十年置きぐらいで戦争してさ。開闢以来初めて国が負けて、一回リセットボタン押して、初めて世紀末を迎えてさ。初めての世代なんだよ今生きている人は日本にとって。じじいもばばあも父ちゃん母ちゃんみんなさ。そもそも若い奴ってお前らの子
供だろ。お前らの子供の子供だろ。お前らが教育してきた人間だろ。何がわからないだ。生意気なガキの親は生意気な親でさ、生意気な親の親だって生意気な親だったんだろ。自分らだって初めての世代なくせして。歴史引きずった口振りでよぉ。ああもうやめよう。めちゃくちゃだ。
大した動機もなく他人を殺したいって思う気持ちが大人たちを悩ませている。おれに言わせりゃ昔は人を殺す理由がそこいらに転がってて、殺人に至る色んな教育環境整っててさ。人を殺したくなった人が、なぜ自分は人を殺したくなったのかって自分に問いかけた時に、自分に言い聞かせる理由が転がってて都合良かっただけだろ。人を殺した動機がないなんて毒にも薬にもならない、ある意味理想的な、どっかの国みたく偏った思想や主義主張から離れた中庸で客観的な教育を受けてきたからだろ。まあある意味偏ってるけど。殺したくなった理由がないなんて平和な証拠さ。他人を殺せない人間なんていやしねえんだ。殺さないまでもみんなそれに近いこと平気でやってるじゃねえか。無意識的に他人を貶めたり苛めたりしてるじゃねえか。同じだよ。いじめに理由なんてあるのかよ。なんとなくだろうが。本能みたいなもんだろ。人間ってやつは何万年も人間を殺してきたんだ。元来そういうものなんだよ動物だからね。逆に理由がある殺人のが怖いわ。あっ、被害者の感情は抜きにしてね。おれは殺人犯を許せないよ。だけど自分が殺人を犯さないとは口が裂けても言えないよ。犯
人の気持ちだってわからなくはないんだ。詐欺に引っかかる奴と同じでさ、自分は引っかかんないと思ってる奴に限って引っかかる。自分は殺人なんかしないって思ってる奴程危ないね。対極に身を置くってことは紙一重ってことだからね。詐欺師や新興宗教からみりゃ自分は引っかかんないって思ってる奴はカモだよ。そいつの中で固まってる詐欺の定義を逆説的に解きほぐしてやれば通電しちゃうもの。そういう奴に限って自分の見たことしか信じないなんて言っててさ。逆に言えば見たものは信じるってことだからね。背中合わせで振り向かせるのは簡単だよ。おれなんかいつも怯えてる。詐欺にも殺人にも。いつもキョロキョロしてる。信じる気持ちも信じない気持ちも信用してないもんな。自分の見たものこそ信じないよ。ああおれ何言ってんだろ…。めちゃくちゃだぁ。だだ漏れだぁ。だだ漏れだぁ。西南戦争から太平洋戦争まで十年置きぐらいで戦争してさ。開闢以来初めて国が負けて、一回リセットボタン押して、初めて世紀末を迎えてさ。初めての世代なんだよ今生きている人は日本にとって。じじいもばばあも父ちゃん母ちゃんみんなさ。そもそも若い奴ってお前らの子
供だろ。お前らの子供の子供だろ。お前らが教育してきた人間だろ。何がわからないだ。生意気なガキの親は生意気な親でさ、生意気な親の親だって生意気な親だったんだろ。自分らだって初めての世代なくせして。歴史引きずった口振りでよぉ。ああもうやめよう。めちゃくちゃだ。
棒と僕
カバから人を、人からカバを護る棒。頼もしき棒。もどかしき棒。不自由と自由の棒。働く棒。殺意働きかける棒。用心棒。カバと人を護る棒。棒。僕はそういうものになりたい。サービス精神自意識共に過剰で、歩いてる時でさえ道行く人を笑わせようとする。死ねばいいと思う。僕を護る棒は僕を護ってもカバを護れない。カバを護る棒はカバを護るけど僕を護れない。棒。祈りなんてものが届くなら、ペンが剣より強いなら、棒なんていりやしない。カバから人を、人からカバを護る棒。ゲシュタルトが崩壊すれば棒は棒でなくなり、つまりは、僕は僕でなくなり、カバはカバでなくなり、僕とカバを護る棒は僕もカバも護らない。棒。教えてくれ。ティーチミーナウ。モケーレ・ムベンベよ。カバの上で君と出逢いたかった。棒の横で君と別れたかった。棒。棒。カバ。僕。棒。うんざりなんだ僕は。