お○んこ in Her(2)
「よく言った!」
栄介が言ったのではない。隣のボックスの客の声だ。若い男の声。やはり内緒話の出来る環境ではない。壁に耳あり障子にメアリー、もとい、目あり。
「やめろって」
その若い男の連れと思しき男の声。こんな、栄介と義孝と隣の客とのやり取りがしばし続くのだが、文字数の無駄なので割愛する。そもそも行くも行かぬも出入口は一つ、どうあっても外に出れば、仁美が待っている限り、仁美に会うのだ。
「事務所とホテルと部屋とワイシャツと犬に気をつけろよな。特に犬だ。あいつらは噛む」
顔も知らぬ酔っ払いのアドバイスを背に二人は会計を済ますと潔く外に出る。秋だというのに妙に生ぬるい風が二人を撫でた。街中、人いきれのせいだろうか。それとも二人の中に渦めいているこれまでに無いほど膨張した性欲から醸し出された感覚であったろうか。期待と不安と劣等感と期待と期待と希望と期待とがない交ぜになった息を吐く。暑い。二人は砂風呂にでも入って蒸されているかのよう、逆上せあがっていた。彼らの小陰茎には一つ利点がある。外出時不意もしくは意図的な勃起をしても服の上からはわからない。いや、服の上からだけでなく全裸の状態であってもわからないかもしれない。普段所構わず好き勝手に勃起をしてきた、勃起の自粛をしてこなかった、アダルトビデオを借りる時等得てして勃起を伴う作業をしている時に脳内で九九をしたりして勃起を抑えることをしてこなかった、ある意味羨ましい、勃起し放題の二人であるが今現在二人が勃起しているかどうかは、上記の理由も相まって、判断することは不可能だ。一隅千載のチャンス、望んでいたわけではないのかもしれないが、に彼らの陰茎は勃起しているのか重圧に耐えきれず萎れているのか、これ
はとても重要な問題である。陰茎の調子が男の行動に影響を及ぼすことは紛れもない事実である。
仁美は居た。一人で居た。午後十時、駅前、賑やかな通り、ぽつんと待ちぼうけ。やはり臨月間近の妊婦にしか見えない仁美。慌ただしい雑踏の中に出来たサンクチュアリ。果たして彼女の前を通り過ぎる人達の中で彼女が妊婦ではないと察することが出来た人間がいただろうか。
栄介と義孝に気づいた仁美は少しおどおどしながらもにっこり微笑んだ。
「お待たせしました。で、どうしましょうか」
栄介は仁美の僅かな変化に気づかない。もちろん義孝も気づかない。
「そうですね。…公園はどうですか?少し歩けばいくつかありますよね」
公園。犬、を除けば危ない響きがなかったので、また栄介達に代案もなく、三人は様々な感情を抱きながらやや早足で歩いた。仁美は時折そのぽっこり膨れた腹を撫でるよう手をあてがった。マニキュアの類をしていない真っ白で、いやに細く長い指をしていた。
内緒話をしようとしているのだから仁美が人目を気にしていることは理解している。一番近い二十メートル四方程の公園には人がいた。さらに歩く。二つ目に行き着いた最初の公園と同規模の公園にも人がいた。さらに歩く。栄介は移動する度に辺りを見回す。誰かつけていないかチェックしているのだ。携帯電話とGPSの発達した現代に於いて些か心許ないが、目に見える範囲では尾行者はいないみたいだ。十分程無言で歩き、街の喧騒から離れた住宅地の中にある三番目の公園、小学校の校庭程ある大きさの公園に行き着いた。控え目なすべり台、ターザンロープ、ブランコ、大小選り取り見取りの鉄棒、複雑なジャングルジム、安全を考慮されたアスレチック、桜の木とツツジ。他に人がいないでもなかったが十分な距離を稼ぐことが出来た。浮浪者対策の為かベンチが見当たらない。三人は仕方なく隅っこにあるブランコに陣取った。
公園の真ん中にある水銀灯の眩い光が白砂のグラウンドをしんしんと浮かび上がらせ、その無機質な透明度の高い輝きと夜の闇とのコントラストはまるでアクリルの中に出来た虚像を見ているようである。水銀灯の輝きは隅っこにあるブランコを淡く照らし薄ぼんやりとした三人の影を照らし出す。空では11月の満月が煌々と夜を照らしている。時折吹く風はやはり妙に生暖かい。このブランコ周辺は明るいのか暗いのか、今は暖かいのか寒いのか、よくわからない。
ブランコを囲む太い鉄柵に腰を降ろした三人。ブランコ越しに水銀灯。三人の真ん中は栄介。仁美は腰を降ろす際膨らんだ腹を少し持ち上げるようにしながら座った。
「さて、お話とはなんでしょうか?」
膝をしっかと掴みながら栄介は言った。
「わざわざこんなところまで来てもらって申し訳ありません。これ以上余計なお時間をとらせるのもなんですから早速本題に入らせて戴きます」
そう言った仁美の顔は能面のように無表情であり、水銀灯の淡い光に照らされた顔は薄闇の中不気味な程白く浮かび上がった。栄介達は今まで警戒していたものとは違う恐怖を感じた。知っているようで知らない光景、知っているようで知らない空気気温体温、そして得体の知れぬ女。時の翁に誘われ異世界に迷い込んでしまったかのようなえもいわれぬ恐怖感。
「そうですね。どこからお話しましょうか。ずっと、ずっと考えていたのですが。ずっと。…お二人はシャム双生児というものを知っていますか?」
仁美は栄介達から視線を外し、虚像のように現出しているグラウンドを見つめて言った。セミロングの黒髪が顔の白さとは対照的に吸い込まれてしまいそうな黒い輝きを放つ。
「シャム双生児?」
「ベトちゃんドクちゃんと言えばわかるかしら」
「あ、ああ、あのくっついてる」
「そう。くっついてる」
禁忌語を言ってしまった子供のように仁美は口を手で塞いだ。
栄介と義孝は仁美の腹を見た。見つめた。ただ見つめた。思考が追いつかない。
「百年ぐらい前、ローザとジョゼファという結合双生児がいたわ」
仁美は口を塞いでいた手をのけると朗々と語り出した。栄介達には仁美の声が今までの仁美の声とは全く異なる、“遠くから近くで聴こえる”とでもいうのか、共鳴しているかのようにぐぐもった、隣に座った人間が話している生声ではなく古いビデオテープから流れる声のように聴こえた。
「おもしろいのよ。彼女達はお尻とお尻が一緒になっているタイプで、そうね、尻相撲をしている二人と言えばいいかしら、二人共それぞれ両手両足脳みそ心臓を持っていた。見世物興行の花形になったわ。そして1910年4月15日、二人は入院したの。正確にはローザに異常が起こったのよ。ローザのお腹が大きくなっていたのよ」
栄介と義孝は仁美の腹を見ながらごくりと唾をのんだ。仁美は気にもせず続ける。
「お医者さんは彼女達に男と寝たかどうかを聞いた。ところがローザもジョゼファもそれを強く否定したの。結局二日後に子供が、健康な子供が産まれて、ローザは恋人がいることを白状した。だけどジョゼファは、知らない、気がつかなかった、って言い続けたのよ。それに飽きたらずジョゼファはローザのことを、恥知らずでふしだらだ、とも言ったらしい。おもしろいでしょ。これにローザはこう反論するの、ジョゼファも誘惑されて自分と同じ喜びを味わったくせに、ってね。ローザが正しいわ。正しいに決まってる。だって彼女達にはあそこが一つしかなかったのだから。ふふふ」
栄介と義孝の頭の中では何かがごぅんごぅんと鳴っている。視界がぐるぐるする。ふらふらする。酒による酔いもあるにはあるのだろうが居酒屋に居た時よりも酩酊感は増している。
「その後の彼女達は悲惨だったわ。子供の父親、ローザはその男と結婚しようとしたけど、色々問題があって。裁判にまでなって。結局ローザと男の結婚は認められなかった。一人の女ではなく二人の女と結婚するので重婚になるってね。ふふふ。そのあと男はあっさり別の女と、普通の一人の女と婚約してローザと子供を捨てた。彼女達の母親はそれを知って悲しみのあまり死んだの。赤ちゃんが産まれてから彼女達の関係もこじれちゃってね。ふふふ。喧嘩する度に、切り離してもらう、って言いあったそうよ。それが出来ないことは知っていたのにね。1922年、彼女達は仲良く一緒に死にました」
仁美はふぅと一息つくと話を続けた。
「私達は彼女達と少し違う」
私達、と、仁美は言い、腹を撫でた。
「1930年代ニューヨークではある黒人の美しい少女が人気者になったわ。やっぱり見世物興行でね。少女の名前はベティー・ルー・ウィリアムズ。彼女の横っ腹からは双子の姉妹の下半身と一本の腕が突き出ていた。ふふふ。いまいちよくわからないかもしれませんね。…わからないと思います。だから」
仁美は幽鬼のよう、その身重な躯を、まるで重力を感じぬが如く、ふわりふらりふわふわと立ち上がり、ゆっくりなのか素早くなのかよくわからない速度でくるりくるりらふわりふわりら一回転。恐怖と奇妙な淫靡が入り混じった風が栄介と義孝の頬を撫でた。
「大丈夫なようね。…ああ、初めてだわ。姉を見ず知らずの人に見せるのは」
仁美はそう言うとワンピースをインナーごと胸までたくし上げた。その上昇するワンピースの下辺の動きを目で追っていた栄介と義孝。タイトパンツ越しにも仁美の脚のラインの美しさがわかる。節制しているというよりは過食症からくるような退廃的なライン。紐で出来たバックルの無いベルトが見えた。そして、ああ、脚が、人間の脚が、二本、赤ん坊のおんぶ紐にくるまれ脚を交差した体育座りの格好で支えられた二本の脚が仁美の白いブラジャーの下に鎮座している。小さな、それでも、大人の脚。体育座りしている脚の隙間から深紅色したパンティが見えた。異形。露わになった仁美のブラと“姉”の小さな下半身とその下にある仁美の下半身とが織り成すおどろおどろしいエロティシズム。立ちこめる仄かな獣臭。虫を誘う蜜が如く。仁美と姉のポーズは耽美的でさえある。切断されたよう、尻の骨盤の上から仁美にくっついて、いや、生え出ている姉。ぬめりとした風がゆっくりそよぐと、ふるふる、姉が微かに動いた。
「ごめんね。寒いよね」
そう言うと仁美はワンピースを下ろした。そして、また、少しおどおどした表情を浮かべた。それは他人に秘部以上の秘部を晒す不安やこんな事態を招いた一抹の後悔からくるものであったが、あてられた栄介と義孝には仁美の心理状態などわかるべくもない。
「奇形…」
栄介か義孝か、はたまた二人同時にか、ぽつり、思考から漏れた。
「そう、奇形。だけど、あなた達も奇形じゃなくて?」
あっ、とした表情を浮かべる二人。
「姉には、ふふ、姉と呼ぶのおかしい?でもね、姉なの。私のお姉ちゃん。姉には見た通り脳みそが無いわ。あるのは腰からしただけ。でもね、意思がないわけじゃないのよ。今日だってたまには居酒屋に行こうって伝えてきたんだから。ひょっとしたら、栄養を分かち合うよう脳みそも分かち合っているのかもね。そしてあなた達に出逢った。探していた人達に。あなた達も探していたのではないかしら。望んでいたのではないかしら。自身のサイズにあったものを」
膣内を突き進む精子のように、二人は頷くことしか出来なかった。
「私は秘密を、姉を見せたわ。出来れば、今ここであなた達のものも確認しておきたいわ」
夢魔にうなされながらも射精してしまうが如く、栄介と義孝はベルトを外した。
「一人でよくてよ」
栄介は手を止め、義孝がその小陰茎を露わにした。いや、陰毛に隠れモザイクはかからなかった。いや、かかったのか。
「なるほど。となると小松崎さんも同様なものを。これなら、あ、すみませんね、このペニスならば」
栄介と義孝は夢遊病患者のよう、ゆらゆらと仁美の後ろを歩く。まるでくっついているよう。到着したのは今にも武士の幽霊が出てきそうな古びた一軒家。朽ち果てている門。がたがた鳴る玄関を開ける。雨戸が閉められ真っ暗な室内に明かりがつけられる。それでも薄暗い。お茶も出さずに、
「逃げるなら今よ」
そう言うと仁美は風呂へ。栄介と義孝は薄暗い八畳敷きの中、突っ立ったまま無言で畳の目や部屋の隅などを見ている。
仁美が二つの下半身を洗い終えるのは意外に早く、裸の上に着ていたワンピースを着て出てきた。
栄介が言ったのではない。隣のボックスの客の声だ。若い男の声。やはり内緒話の出来る環境ではない。壁に耳あり障子にメアリー、もとい、目あり。
「やめろって」
その若い男の連れと思しき男の声。こんな、栄介と義孝と隣の客とのやり取りがしばし続くのだが、文字数の無駄なので割愛する。そもそも行くも行かぬも出入口は一つ、どうあっても外に出れば、仁美が待っている限り、仁美に会うのだ。
「事務所とホテルと部屋とワイシャツと犬に気をつけろよな。特に犬だ。あいつらは噛む」
顔も知らぬ酔っ払いのアドバイスを背に二人は会計を済ますと潔く外に出る。秋だというのに妙に生ぬるい風が二人を撫でた。街中、人いきれのせいだろうか。それとも二人の中に渦めいているこれまでに無いほど膨張した性欲から醸し出された感覚であったろうか。期待と不安と劣等感と期待と期待と希望と期待とがない交ぜになった息を吐く。暑い。二人は砂風呂にでも入って蒸されているかのよう、逆上せあがっていた。彼らの小陰茎には一つ利点がある。外出時不意もしくは意図的な勃起をしても服の上からはわからない。いや、服の上からだけでなく全裸の状態であってもわからないかもしれない。普段所構わず好き勝手に勃起をしてきた、勃起の自粛をしてこなかった、アダルトビデオを借りる時等得てして勃起を伴う作業をしている時に脳内で九九をしたりして勃起を抑えることをしてこなかった、ある意味羨ましい、勃起し放題の二人であるが今現在二人が勃起しているかどうかは、上記の理由も相まって、判断することは不可能だ。一隅千載のチャンス、望んでいたわけではないのかもしれないが、に彼らの陰茎は勃起しているのか重圧に耐えきれず萎れているのか、これ
はとても重要な問題である。陰茎の調子が男の行動に影響を及ぼすことは紛れもない事実である。
仁美は居た。一人で居た。午後十時、駅前、賑やかな通り、ぽつんと待ちぼうけ。やはり臨月間近の妊婦にしか見えない仁美。慌ただしい雑踏の中に出来たサンクチュアリ。果たして彼女の前を通り過ぎる人達の中で彼女が妊婦ではないと察することが出来た人間がいただろうか。
栄介と義孝に気づいた仁美は少しおどおどしながらもにっこり微笑んだ。
「お待たせしました。で、どうしましょうか」
栄介は仁美の僅かな変化に気づかない。もちろん義孝も気づかない。
「そうですね。…公園はどうですか?少し歩けばいくつかありますよね」
公園。犬、を除けば危ない響きがなかったので、また栄介達に代案もなく、三人は様々な感情を抱きながらやや早足で歩いた。仁美は時折そのぽっこり膨れた腹を撫でるよう手をあてがった。マニキュアの類をしていない真っ白で、いやに細く長い指をしていた。
内緒話をしようとしているのだから仁美が人目を気にしていることは理解している。一番近い二十メートル四方程の公園には人がいた。さらに歩く。二つ目に行き着いた最初の公園と同規模の公園にも人がいた。さらに歩く。栄介は移動する度に辺りを見回す。誰かつけていないかチェックしているのだ。携帯電話とGPSの発達した現代に於いて些か心許ないが、目に見える範囲では尾行者はいないみたいだ。十分程無言で歩き、街の喧騒から離れた住宅地の中にある三番目の公園、小学校の校庭程ある大きさの公園に行き着いた。控え目なすべり台、ターザンロープ、ブランコ、大小選り取り見取りの鉄棒、複雑なジャングルジム、安全を考慮されたアスレチック、桜の木とツツジ。他に人がいないでもなかったが十分な距離を稼ぐことが出来た。浮浪者対策の為かベンチが見当たらない。三人は仕方なく隅っこにあるブランコに陣取った。
公園の真ん中にある水銀灯の眩い光が白砂のグラウンドをしんしんと浮かび上がらせ、その無機質な透明度の高い輝きと夜の闇とのコントラストはまるでアクリルの中に出来た虚像を見ているようである。水銀灯の輝きは隅っこにあるブランコを淡く照らし薄ぼんやりとした三人の影を照らし出す。空では11月の満月が煌々と夜を照らしている。時折吹く風はやはり妙に生暖かい。このブランコ周辺は明るいのか暗いのか、今は暖かいのか寒いのか、よくわからない。
ブランコを囲む太い鉄柵に腰を降ろした三人。ブランコ越しに水銀灯。三人の真ん中は栄介。仁美は腰を降ろす際膨らんだ腹を少し持ち上げるようにしながら座った。
「さて、お話とはなんでしょうか?」
膝をしっかと掴みながら栄介は言った。
「わざわざこんなところまで来てもらって申し訳ありません。これ以上余計なお時間をとらせるのもなんですから早速本題に入らせて戴きます」
そう言った仁美の顔は能面のように無表情であり、水銀灯の淡い光に照らされた顔は薄闇の中不気味な程白く浮かび上がった。栄介達は今まで警戒していたものとは違う恐怖を感じた。知っているようで知らない光景、知っているようで知らない空気気温体温、そして得体の知れぬ女。時の翁に誘われ異世界に迷い込んでしまったかのようなえもいわれぬ恐怖感。
「そうですね。どこからお話しましょうか。ずっと、ずっと考えていたのですが。ずっと。…お二人はシャム双生児というものを知っていますか?」
仁美は栄介達から視線を外し、虚像のように現出しているグラウンドを見つめて言った。セミロングの黒髪が顔の白さとは対照的に吸い込まれてしまいそうな黒い輝きを放つ。
「シャム双生児?」
「ベトちゃんドクちゃんと言えばわかるかしら」
「あ、ああ、あのくっついてる」
「そう。くっついてる」
禁忌語を言ってしまった子供のように仁美は口を手で塞いだ。
栄介と義孝は仁美の腹を見た。見つめた。ただ見つめた。思考が追いつかない。
「百年ぐらい前、ローザとジョゼファという結合双生児がいたわ」
仁美は口を塞いでいた手をのけると朗々と語り出した。栄介達には仁美の声が今までの仁美の声とは全く異なる、“遠くから近くで聴こえる”とでもいうのか、共鳴しているかのようにぐぐもった、隣に座った人間が話している生声ではなく古いビデオテープから流れる声のように聴こえた。
「おもしろいのよ。彼女達はお尻とお尻が一緒になっているタイプで、そうね、尻相撲をしている二人と言えばいいかしら、二人共それぞれ両手両足脳みそ心臓を持っていた。見世物興行の花形になったわ。そして1910年4月15日、二人は入院したの。正確にはローザに異常が起こったのよ。ローザのお腹が大きくなっていたのよ」
栄介と義孝は仁美の腹を見ながらごくりと唾をのんだ。仁美は気にもせず続ける。
「お医者さんは彼女達に男と寝たかどうかを聞いた。ところがローザもジョゼファもそれを強く否定したの。結局二日後に子供が、健康な子供が産まれて、ローザは恋人がいることを白状した。だけどジョゼファは、知らない、気がつかなかった、って言い続けたのよ。それに飽きたらずジョゼファはローザのことを、恥知らずでふしだらだ、とも言ったらしい。おもしろいでしょ。これにローザはこう反論するの、ジョゼファも誘惑されて自分と同じ喜びを味わったくせに、ってね。ローザが正しいわ。正しいに決まってる。だって彼女達にはあそこが一つしかなかったのだから。ふふふ」
栄介と義孝の頭の中では何かがごぅんごぅんと鳴っている。視界がぐるぐるする。ふらふらする。酒による酔いもあるにはあるのだろうが居酒屋に居た時よりも酩酊感は増している。
「その後の彼女達は悲惨だったわ。子供の父親、ローザはその男と結婚しようとしたけど、色々問題があって。裁判にまでなって。結局ローザと男の結婚は認められなかった。一人の女ではなく二人の女と結婚するので重婚になるってね。ふふふ。そのあと男はあっさり別の女と、普通の一人の女と婚約してローザと子供を捨てた。彼女達の母親はそれを知って悲しみのあまり死んだの。赤ちゃんが産まれてから彼女達の関係もこじれちゃってね。ふふふ。喧嘩する度に、切り離してもらう、って言いあったそうよ。それが出来ないことは知っていたのにね。1922年、彼女達は仲良く一緒に死にました」
仁美はふぅと一息つくと話を続けた。
「私達は彼女達と少し違う」
私達、と、仁美は言い、腹を撫でた。
「1930年代ニューヨークではある黒人の美しい少女が人気者になったわ。やっぱり見世物興行でね。少女の名前はベティー・ルー・ウィリアムズ。彼女の横っ腹からは双子の姉妹の下半身と一本の腕が突き出ていた。ふふふ。いまいちよくわからないかもしれませんね。…わからないと思います。だから」
仁美は幽鬼のよう、その身重な躯を、まるで重力を感じぬが如く、ふわりふらりふわふわと立ち上がり、ゆっくりなのか素早くなのかよくわからない速度でくるりくるりらふわりふわりら一回転。恐怖と奇妙な淫靡が入り混じった風が栄介と義孝の頬を撫でた。
「大丈夫なようね。…ああ、初めてだわ。姉を見ず知らずの人に見せるのは」
仁美はそう言うとワンピースをインナーごと胸までたくし上げた。その上昇するワンピースの下辺の動きを目で追っていた栄介と義孝。タイトパンツ越しにも仁美の脚のラインの美しさがわかる。節制しているというよりは過食症からくるような退廃的なライン。紐で出来たバックルの無いベルトが見えた。そして、ああ、脚が、人間の脚が、二本、赤ん坊のおんぶ紐にくるまれ脚を交差した体育座りの格好で支えられた二本の脚が仁美の白いブラジャーの下に鎮座している。小さな、それでも、大人の脚。体育座りしている脚の隙間から深紅色したパンティが見えた。異形。露わになった仁美のブラと“姉”の小さな下半身とその下にある仁美の下半身とが織り成すおどろおどろしいエロティシズム。立ちこめる仄かな獣臭。虫を誘う蜜が如く。仁美と姉のポーズは耽美的でさえある。切断されたよう、尻の骨盤の上から仁美にくっついて、いや、生え出ている姉。ぬめりとした風がゆっくりそよぐと、ふるふる、姉が微かに動いた。
「ごめんね。寒いよね」
そう言うと仁美はワンピースを下ろした。そして、また、少しおどおどした表情を浮かべた。それは他人に秘部以上の秘部を晒す不安やこんな事態を招いた一抹の後悔からくるものであったが、あてられた栄介と義孝には仁美の心理状態などわかるべくもない。
「奇形…」
栄介か義孝か、はたまた二人同時にか、ぽつり、思考から漏れた。
「そう、奇形。だけど、あなた達も奇形じゃなくて?」
あっ、とした表情を浮かべる二人。
「姉には、ふふ、姉と呼ぶのおかしい?でもね、姉なの。私のお姉ちゃん。姉には見た通り脳みそが無いわ。あるのは腰からしただけ。でもね、意思がないわけじゃないのよ。今日だってたまには居酒屋に行こうって伝えてきたんだから。ひょっとしたら、栄養を分かち合うよう脳みそも分かち合っているのかもね。そしてあなた達に出逢った。探していた人達に。あなた達も探していたのではないかしら。望んでいたのではないかしら。自身のサイズにあったものを」
膣内を突き進む精子のように、二人は頷くことしか出来なかった。
「私は秘密を、姉を見せたわ。出来れば、今ここであなた達のものも確認しておきたいわ」
夢魔にうなされながらも射精してしまうが如く、栄介と義孝はベルトを外した。
「一人でよくてよ」
栄介は手を止め、義孝がその小陰茎を露わにした。いや、陰毛に隠れモザイクはかからなかった。いや、かかったのか。
「なるほど。となると小松崎さんも同様なものを。これなら、あ、すみませんね、このペニスならば」
栄介と義孝は夢遊病患者のよう、ゆらゆらと仁美の後ろを歩く。まるでくっついているよう。到着したのは今にも武士の幽霊が出てきそうな古びた一軒家。朽ち果てている門。がたがた鳴る玄関を開ける。雨戸が閉められ真っ暗な室内に明かりがつけられる。それでも薄暗い。お茶も出さずに、
「逃げるなら今よ」
そう言うと仁美は風呂へ。栄介と義孝は薄暗い八畳敷きの中、突っ立ったまま無言で畳の目や部屋の隅などを見ている。
仁美が二つの下半身を洗い終えるのは意外に早く、裸の上に着ていたワンピースを着て出てきた。