からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -166ページ目

アラクネ(2)

五人の喪服の乙女達が辿り着いた所は、駅前ロータリーに存在するファミリーレストランであった。今日の、ひとまずの目的地である。葬式は明日である。しかし、この日の為に喪服を卸したということは間違っていない。

小学校時代の同窓生、佐藤ヒロフミが死んだことにより、三年置きに同窓会をしようと涙ながらに決められた本気でありながら社交辞令と化した約束から長い沈黙を破り、連絡網というものが同窓生一同に回った。実は、連絡網が回り巡るより早く、大概の同窓生はその事実を耳に入れたのだが。

マユミの場合、実家住まいであるからして、野崎アヤから家にかかってきた電話をマユミ本人が取った。マユミも大概の同窓生の一員であり、ヒロフミの死を連絡網より事前に知っていたもので、普段あまり家の電話を取るということはしないのだが、イレギュラーなタイミングで電話が鳴った時、虫の知らせのように、その電話口の主がアヤであることを直感した。久しぶりに話すアヤと事務的な連絡をやりとりしたのち、携帯電話のアドレスを交換。マユミは次の人である菱山カナコに、卒業アルバムを紐解き、連絡網を回し、携帯電話のアドレスを交換、今日の日に至った。

というのも、マユミが大急ぎで喪服や葬式のマナーの準備をしている時、カナコから一通のメールが来たからである。曰わく、

「私初めて喪服を買ったんだけど、初めて喪服を卸した時ってお葬式の為に着ちゃいけないらしいよ。なんか喪服着てご飯食べたりするらしい。というわけで喪服ヴァージン集めてプチ同窓会希望。こっちが本命だったりして」

カナコはそれを母親から聞いたらしかった。マユミはカナコの母親が作ったスイートポテトの限りない甘さを思い出してニヤニヤと部屋で一人微笑した。

マユミは、当然、ミシモと連絡を取ると、ついでに、アヤにも連絡を取り、カナコは中学まで一緒だったホノカと連絡を取り、皆が初めて喪服を卸すことになることを確認し、この日のプチ同窓会は実現したのである。

「じゃあ、中生」席に着くなりミシモが注文した。

「私も」マユミが続く。二人にとっては少し前までの日常的な行動であった。

「いいのかな?一応しんみりしないといけないんじゃ」

ミシモとマユミが、とりあえずビール、を注文した所でアヤが、冗談めいて口を出した。この五人には、喪服を着ているとはいえ、しんみりする、などという感情は芽生えていない。ピアノの演奏会前日のような、死者に対し不敬であるとわかっているものの、それこそ久しぶりに会うであろう同窓生達との面通しのことを思うと、少なくともマユミはウキウキした気分ですらある。

「明日になりゃ自然にそうなんだからさ、弔い酒よ弔い酒」

カナコがアヤに言い、ミシモとマユミに続いた。

「じゃあ私は色々と考慮した結果、アイスティで」

「おい、色々考えるなよ」

注文の順番を無視してホノカがビールの連鎖の流れを切りアイスティを注文したところで、カナコがツッコミをいれた。

「じゃ、じゃあ私は」

アヤが所在なさげに注文しようとしたところで、

「ふむ、ビール、ビール、ビール、アイスティ、ときて、ここまではわかるよ。ここまではわかる。ビール、ビール、ビールときたところにホノカがアイスティ。わかる。わかるよ。では、果たして最後の注文者であるアヤっぺは何を注文しようと云うのかね?何を、注文しようと云うのかね?」

マユミがいやらしい顔をしてアヤの顔をじろりとねめつける。

「うっ」

アヤが、何か突飛なものを注文しないといけない雰囲気、を感じたところで、

「ああ!懐かしい!そう云えばアヤっぺって呼んでた!うん!」ホノカがさも懐かしげに感慨深く、しかしながら店内に響くような大きな声で言った。

「うるさい!あんたが時計回りを無視したからこんなことになってんのよ!大体なんで私が“じゃあ私はお子様セットを”なんて注文しなきゃいけないのよ!ていうかマユミ!わかるよって何よ!何がわかるっていうのよ!思い出した!あんた子供の頃から誰かを貶めるのが好きだったわ!」

「ああ、そうそう。マユミってそんな子だったね。でも決して自分は晒されないというか、ね」アヤの口調に反してホノカがのんびりと応える。

「そんな風に言われると凄く気分悪いんですけど」マユミがそう答えるとアヤ以外の四人が、ミシモとマユミは店員の存在を視野に入れながら、わいわいがやがやと喋くり始めた。

置いてけぼりのアヤと店員。店員が少しムっとした口調で、

「お子様セットは十二歳以上のお客様はご注文出来ませんが」

早く決めろ、と、言わんばかりに言った。

待ってましたとばかりにミシモとマユミが目を合わし、

「あらあら、恥ずかしいねぇ」と、ミシモ。

「無茶を言うお子様がいるみたいよ」

「なるほど、久しぶりに会った小学校の同級生だから、気分も小学生時代に戻ったんじゃないかしら」

「ああ、ノスタルジックって云うやつね」

「ノスタルジーに浸るなんて、あの人一体何様かしら?」

「何様って…ひょっとして、お子様?」

「くくくく」

二人のひそひそ話にカナコとホノカがくすりと笑う。アヤは呆れたように、静かにビールを注文した。


アラクネ(1)

その女、名をアラクネーと云う。大変優れた機織り女であったが、その腕を鼻にかけ、ギリシア最高の女神にして機織りを司る女神であるアテナの怒りを買い、アラクネーとアテナは機織り勝負をすることになった。アラクネーの織ったタペストリーは大変優れたものであったが、神々に対し不敬な物語を織り込んだタペストリーであったが為、アテナはアラクネーの織ったタペストリーを破壊し、アラクネーの頭を打ち据えた。アラクネーは逃げ出し、結局、首を吊り死んだ。哀れに思ったのか、怒りが収まらず呪いをかけたのか、アテナはアラクネーの亡骸にトリカブトの汁を撒き、蜘蛛に転生させたのであった。今日、ギリシア語で蜘蛛のことを、この女の名を取り、アラクネーと呼ぶ。




天気予報では明日から降り積もる筈の雪が、せっかちな雲が明日までこらえきれず、降りそそぐ速度に緩急をつけた霙となって土師マユミ(はじまゆみ)の喪服を、点々と、より黒く染める。

仕事を終えたマユミは、一旦家に帰ると、この日の為に卸した初めての喪服に袖を通し、久しぶりに会う小学校の友人達との待ち合わせの場所へと向かっていた。

社会人になって初めての雪だな。

マユミはまるで初めて雪を見る子供のように、目を丸め、不思議そうな顔をしてビニール傘のフィルターを通し、真っ暗でいながらも確かに灰色模様の夜空を見上げた。

待ち合わせ場所に見る懐かしい面々、皆卸したての喪服を着ている。幼小中高大学とマユミと腐れ縁になった幼なじみの尾形ミシモ(おがたみしも)もいるが、中学受験をしたマユミはあまり地元の、友達だった、子らと遊ぶようなこともなく、集まった五人のうち、ミシモ以外の三人とは実に小学校の卒業アルバムを受け取った日以来の邂逅であった。

「あれマユミだよ。おーい」待ち合わせた駅の駅前ロータリーの向こう側から来たマユミを初めに発見し、それを他の四人に知らせたのは菱山カナコ(ひしやまかなこ)。小学校の時も、道で会った時には、遥か遠くから手を振って挨拶をしてくる、挨拶の間が悪い子だったな、と、マユミは思い出し、うっすらと笑みを浮かべた。体の成長が小学生の時に止まってしまったのか、少し大人びた顔つきになったものの、小学生の頃は普通だった身長が今では五人の中で群を抜いて低い。

「久しぶりだね。元気かえ?」野崎アヤ(のざきあや)は相変わらず頬がふっくらしている。そのくせ体はモデル体型なのだから皮肉なものだ。彼女は確か有名女子校に進学した筈だとマユミは記憶を紡いだ。

「久しぶり過ぎてマユミとどう話してたか忘れちゃったよ」素直過ぎる発言をしたのは鈴木ホノカ(すずきほのか)だ。彼女は小学生の頃から一際目立つ麗しい顔をしていたが、その知的で凛とした風貌からは想像もつかない程勉強も運動も苦手で、尚且つ、所謂天然ボケである。マユミは彼女の頭を見て驚いた。彼女のショートカットの髪は暗めのワインレッドに染め上げられていたからだ。思えば小学生の頃から奇抜なことをする子であり、クラスのムードメーカーだった。「大丈夫大丈夫。明日はスプレーで黒くするわい」ほんの少し訝しんだマユミの表情を読み取ると、アヤはそう言って何故かマユミの腹を揉んで笑った。

「さて、と、行こう」この仲良しグループのリーダーはマユミの幼なじみである尾形ミシモであった。彼女には不思議なカリスマ性がある。勉強でも運動でも別段秀でた面は無いし、ましてやその顔立ちも決して美人側に属しているとは言えない、とはいえ決して醜悪な顔をしているわけではない、やや厚い唇に見開かないと開いているのかいないのかわからない閉じた眼、おまけに癖っ毛の持ち主である。だが、何故か彼女のすることは、静かに、クラスに浸透する。彼女が教室でファンデーションを塗れば、翌日にはみんな学校に持ち込むといった具合に。この仲良しグループの中だけではなく、中学高校大学と、文化祭など生徒が楽しみにしている学校行事には自然と彼女が実行委員として担ぎ上げられることを長く同窓であったマユミは知っている。自ら立候補し、率先して周りを引っ張ろうとするタイプのリーダーではなく、間抜けな面も多々あるのだが、周りから頼られ、しょうがなくリーダー役を受け持ち、その結果リーダー役が板についたタイプの真に優れたリーダーである。ミシモは気骨に溢れた人物で、十代の年頃、犯罪めいたことの一つや二つ誰でもするが、得てして暴走しがちな、盲目的に悪ノリした集団の中でも、一線を越えようとすれば、はっきり、それは駄目だ、と言える人間であり、また皆が従う。所謂「学校では教えてくれない」善悪の基準を、極々自然体でありながら、周りに植え付ける役割をもミシモは担っていた。マユミはミシモといる時いつも安心だった。



バカにつける薬

そういうふうにできている。物語準備中。もう大体出来た。あとはメソッドだけか。しかし資料集め失敗。いいか、そんな真剣にならんでも、などと思っている。今回は改行ごとにスペース開けて一回の投稿を短くしようと思う。

君に告げよう

まだかなまだかなぁ。学研の、おばさんまだかなぁ。まだかなまだかな。学研の、おじさんまだかなぁ。まだかなまだかなぁ。学研の、学研の、学研の…学研のよぉ…学研の…


胸の中で言い知れぬ感覚が渦巻いている。なんだろうこれ。とても重くて。焦燥感?イライラ。モヤモヤ。叩きつけたい。もうどうなってしまってもいいと思える。叩きつけたい。撫で斬ってやりたい。自分を。ボコボコにボロボロに。指が追いつかない。何かいてんのか自分でもわからない。やりきれない。やりきりたいのか?なんだろうこの突然胸に湧いた感覚。ついさっきだ。本当についさっき。無表情でこれかいてる。無表情のくせに胸の中がしんどい。寝れば治るかな。寝て起きてまだこんな状態だったらって思うと寝られない。イライラ。ムカムカ。生理でもきたのか?ああ、もう、なんか駄目だ。

ボツ台本マナー疑獄

『え、本当に本当に?なにそれなにそれ、うんうん』
「…電子の中だってのにあの携帯野郎うるさいな」
『ちょっとちょっと!それあれじゃん!最悪じゃん最悪!』
「うるさいなぁ、注意しようかなぁ」
『にゃんまげかよ!』
「にゃんまげ!?日光江戸村の!?」
『にゃんまげに飛びつかれるぐらい最悪だな』
「いや、にゃんまげには飛びつくことはあれ飛びつかれることはないだろ」
『あいつら猫科の獣だから素早いぜぇ』
「そういう問題じゃねえだろ。しかもあいつらってにゃんまげは一匹だ。それに獣って言ってやんなよ。かわいいマスコットだぞ」
『え?いやいや、中に人間が入ってるわけないだろ』
「入ってるだろ!直立二足歩行が出来る動物って人間だけなんだぞ!レッサーパンダだって立つだけだ!」
『人間じゃなくてジャガーが入ってんだよ』
「ジャガー入ってんの!?てっきり中の人などいない的なロマンチックな指摘だと思ってたんだけど!にゃんまげの中にジャガー入ってたら危険過ぎるだろ!それじゃ日光江戸村じゃなくて日光江戸サファリパークだよ!時折唸りを上げながら四つ足で江戸村をさまよい歩くにゃんまげなんてかわいくねえだろ!つい飛びついちゃったら麦茶の人状態になっちゃうぜ!?」
『そのジャガーじゃねえよ。それじゃ日光江戸村じゃなくて日光江戸サファリパークになっちゃうだろ』
「うわ、心が通じちまった」
『そのジャガーじゃねえよ、ジャギュアじゃねえよジャギュアじゃ』
「本格的な発音してどうなるってんだよ」
『オンサじゃねえって』
「ジャガー詳しいなお前」
『ましてやミック・ジャガーでもねえ。ははは。笑えよ』
「あんまり笑えないんですけど!」
『ジャガーだよジャガー!わかるだろ?』
「わかんねえよ」
『ジャガーさんだよ。千葉の』
「あ、ああ、あのジャガーさんね。少年ジャンプに連載してない方のジャガーさんね。つうかそのジャガーさんがにゃんまげの中に入ってるなら人間入ってるじゃん」
『人間じゃないだろジャガーは。ジャガー星からやってきた宇宙人なんだぜ?』
「にゃんまげの中には宇宙人が入ってました!」
『それにしても最悪だな、なにやってんだよ』
「うるさいけど話の内容が気になって注意出来ねえ」
『いいじゃねえかって?いや駄目だろ』
「だから何やったんだよそいつ」
『にゃんまげに喩えると』
「にゃんまげはもういいんだよ!」
『えっ、あっそう?にゃんまげはもういいって?』
「ナイス電話口の奴!」
『うちのおばあちゃんで喩えてくれって?』
「その発想はなかったわ。何言っちゃってんだよ電話口!知らねえし。おれこいつのおばあちゃん知らねえし!」
『それは…出来かねる』
「よし、まさかお前が断るとは思わなかったが、ナイス判断!って逆になんで出来ないんだ?ああもう!こいつに虜かおれは」
『ああ、あのな、おばあちゃん死んだんだよ』
「ああ…それは…」
『おれの中では』
「心の中殺人事件発生!今宵もドラマチックにドラマは進行しております!何故ならドラマだからだ!ってええ!?何それ!?おれの中では?つまりおれの外、現実では生きているってこと!?」
『ああ、昨日やった』
「しかも昨日!?時効まで程遠いな!」
『いやだってさ、おばあちゃん、おれの大事にしてたオレンジジュース飲んじまいやんの』
「それだけで!?オレンジジュースぐらい好きな分だけ飲ましてやれよ!むしろおばあちゃんにこそオレンジの栄養の恩恵を受けさせてやれ!」
『三年も大事にしてたのに』
「三年も!?オレンジジュースを!?大事にしてたってどういう風に大事にしてたんだよ。オレンジジュースは人形じゃねえんだぞ!」
『ああ、おばあちゃんはちょっと救急車で運ばれたけど大丈夫』
「ちょっとじゃねえだろ救急車で運ばれたんなら!」
『ま、おれの中では死んだけど』
「孫!おい孫!大事にしてやれよ!」
『え?お前なぁ、おれがオレンジジュースって言ったらそれはなっちゃんに決まってるだろ!』
「知らねえよ!初耳だ!って当たり前か」
『初耳だって?』
「電話口、お前もか!」
『いやぁ、おれなっちゃんのファンだからさ。あんなに大事にしてたのに飲まれちまいやんの』
「なっちゃんは人じゃねえだろ!それともなっちゃんのCMに出てたなっちゃんのファンなのか!?」
『はははは、おいおい、それは落花生ジュースのマスコットだろ?ったく』
「落花生ジュース!?さっきのジャガーさんといい、間違いねえ、こいつ千葉県民だ」
『だから!それは落花生ジュースのマスコットの自堕落ちゃんだろって』
「自堕落ちゃん!?マスコットキャラクターが自堕落ちゃん!?自堕落ちゃんは駄目だろ!自堕落ってお前、つうかそもそも落花生ジュースなんて飲みたくねえ」
『そうそう、部屋超汚いのに平気で男を連れ込んでやりたい放題』
「自堕落ちゃん自堕落だなぁ。そんな設定ありかよ」
『男連れ込むはタバコは吸うわパチンコはやるわアル中だはすっかすかになったTシャツ着てるはでさ。まったくな、ははは』
「自堕落過ぎるだろ自堕落ちゃん!マスコットの役割果たしてるのか!?」
『ま、うちのおばあちゃんの話はいいんだよ』
「お前のおばあちゃんの話だったのかよ!自堕落ちゃんじゃなくて!?おばあちゃん何やってんだよ、そりゃ孫に抹殺されるわ!」
『お前が最悪だって話だろ』
「そうだったそうだった」
『お前なぁ、いくら満員じゃなかったからって電車の中で携帯使ってわめいてたら駄目だろ』
「お前が言うなぁ!お前こそだろ!人のふりみて我がふり直せ!」
『当たり前だろ!マナーだよマナー!』
「どの口で言ってんだどの口で!」
『え?違うよ!マナーだよマナー!山本モナってお前、マナーはあるけどモナーはねってか!?』
「とんだとばっちりだよ。もういいか、注意してやれ」
『しかし、注意されたからってさ』
「一旦待機一旦待機」
『その良識に長けた人をボコボコにしちゃいかんだろ。最悪だよ』
「うわぁ、最悪問題再燃焼。注意やめ。うん、注意やめ」
『おれが万が一電車内で電話してたとして』
「現状を鑑みようぜ現状を」
『注意されたらちゃんと謝ってだな、すぐに通話切るよ』
「…本当かよ」
『え?』
「あ!しまった!つい口に出しちゃった!」
『なんですか?』
「うわ、こっち来た。どうしよ」
『何か言いましたかあなた』
「あ、いや、電車内で携帯を使うのはどうかと」
『ああ!?』
「うわぁ」
『何だよ!はっきり言えよ!ああ!?あ、ああ、あのな、今おれ電車に乗ってるんだけどさ』
「全てを無に帰す発言だけど」
『はあ!?』
「ああいや」
『今注意されてんだよ注意。電車ん中で電話すんなって』
「ああ、実況中継されてる…おれはこのまま実況中継されながらボコボコにされるのか?“おい、今おれの右ストレートがこいつの顔面を捉えたぜ”とかさ。ああ、誰か助けて」
『ちょっとあんた』
「はいぃ!」
『あんた今おれに携帯使うなって言ったよな?』
「あ、はい、あの、ご自身でも仰られたように」
『別にそこまでおしゃれじゃないけど』
「謙遜してんじゃねえよ!」
『…ありがとう』
「ああいや違う!仰られたって言ったのであっておしゃれとは言ってないです」
『ていうことはおれがおしゃれじゃないと』
「おしゃれです!もうすんごいおしゃれです!ピーコも真っ青です!」
『そうか。でもな』
「は、はい」
『ピーコは常に真っ青だろ』
「髭が!?」
『で、あんた何て言ったの?』
「はぁ、あの、ご自身でも仰られたように、電車内で電話をするのはどうかと」
『ああ!?おれに携帯使うなってか!?』
「ひぃ」
『何様だよてめえ!』
「いや、いや」
『ああ!?……ひょっとして…どちら様?』
「ひょっとしての使い方間違ってるだろ!」
『何だよ!』
「ああ、いや、つい」
『お前誰だよ!』
「わ、わたくししがない会社員でありまして、この不景気の中財布も侘びしい状態で、お金持ってません」
『しがない会社員だと』
「は、はい」
『じゃあお前、会ゃ員じゃん』
「どう発音すんだよそれ!しがないって“し”が使えないってことじゃねえよ!」
『ってるよ!』
「知ってるよだろ!なんでお前が“し”をのけた!」
『調子のってんじゃねえぞこの野郎!』
「調子の“し”は」
『うるせえぞこの野郎!』
「しまったつい」
『“し”をのけろぉ!』
「面倒くせえなお前!」
『ああ!?』
「あ、すいませんすいません」
『…あんた今さっきおれに携帯使うなって言ったよな?』
「はい、注意しました」
『注意だぁ?』
「ああ、いや、その」
『しかしだな。実はおれが携帯を使ってないとしたら?』
「…は?」
『おれ携帯使ってない』
「はあ、というと」
『ほら、この携帯をみてみな。おれ携帯料金払ってないからとっくに通話不能なんだよ』
「あ、本当だ。なんだ。ああ、良かった。ただのおかしい人で」
『ま、お前はボコボコにするけど』
「え?」



終わり。むなしい。