ボツ台本マナー疑獄 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

ボツ台本マナー疑獄

『え、本当に本当に?なにそれなにそれ、うんうん』
「…電子の中だってのにあの携帯野郎うるさいな」
『ちょっとちょっと!それあれじゃん!最悪じゃん最悪!』
「うるさいなぁ、注意しようかなぁ」
『にゃんまげかよ!』
「にゃんまげ!?日光江戸村の!?」
『にゃんまげに飛びつかれるぐらい最悪だな』
「いや、にゃんまげには飛びつくことはあれ飛びつかれることはないだろ」
『あいつら猫科の獣だから素早いぜぇ』
「そういう問題じゃねえだろ。しかもあいつらってにゃんまげは一匹だ。それに獣って言ってやんなよ。かわいいマスコットだぞ」
『え?いやいや、中に人間が入ってるわけないだろ』
「入ってるだろ!直立二足歩行が出来る動物って人間だけなんだぞ!レッサーパンダだって立つだけだ!」
『人間じゃなくてジャガーが入ってんだよ』
「ジャガー入ってんの!?てっきり中の人などいない的なロマンチックな指摘だと思ってたんだけど!にゃんまげの中にジャガー入ってたら危険過ぎるだろ!それじゃ日光江戸村じゃなくて日光江戸サファリパークだよ!時折唸りを上げながら四つ足で江戸村をさまよい歩くにゃんまげなんてかわいくねえだろ!つい飛びついちゃったら麦茶の人状態になっちゃうぜ!?」
『そのジャガーじゃねえよ。それじゃ日光江戸村じゃなくて日光江戸サファリパークになっちゃうだろ』
「うわ、心が通じちまった」
『そのジャガーじゃねえよ、ジャギュアじゃねえよジャギュアじゃ』
「本格的な発音してどうなるってんだよ」
『オンサじゃねえって』
「ジャガー詳しいなお前」
『ましてやミック・ジャガーでもねえ。ははは。笑えよ』
「あんまり笑えないんですけど!」
『ジャガーだよジャガー!わかるだろ?』
「わかんねえよ」
『ジャガーさんだよ。千葉の』
「あ、ああ、あのジャガーさんね。少年ジャンプに連載してない方のジャガーさんね。つうかそのジャガーさんがにゃんまげの中に入ってるなら人間入ってるじゃん」
『人間じゃないだろジャガーは。ジャガー星からやってきた宇宙人なんだぜ?』
「にゃんまげの中には宇宙人が入ってました!」
『それにしても最悪だな、なにやってんだよ』
「うるさいけど話の内容が気になって注意出来ねえ」
『いいじゃねえかって?いや駄目だろ』
「だから何やったんだよそいつ」
『にゃんまげに喩えると』
「にゃんまげはもういいんだよ!」
『えっ、あっそう?にゃんまげはもういいって?』
「ナイス電話口の奴!」
『うちのおばあちゃんで喩えてくれって?』
「その発想はなかったわ。何言っちゃってんだよ電話口!知らねえし。おれこいつのおばあちゃん知らねえし!」
『それは…出来かねる』
「よし、まさかお前が断るとは思わなかったが、ナイス判断!って逆になんで出来ないんだ?ああもう!こいつに虜かおれは」
『ああ、あのな、おばあちゃん死んだんだよ』
「ああ…それは…」
『おれの中では』
「心の中殺人事件発生!今宵もドラマチックにドラマは進行しております!何故ならドラマだからだ!ってええ!?何それ!?おれの中では?つまりおれの外、現実では生きているってこと!?」
『ああ、昨日やった』
「しかも昨日!?時効まで程遠いな!」
『いやだってさ、おばあちゃん、おれの大事にしてたオレンジジュース飲んじまいやんの』
「それだけで!?オレンジジュースぐらい好きな分だけ飲ましてやれよ!むしろおばあちゃんにこそオレンジの栄養の恩恵を受けさせてやれ!」
『三年も大事にしてたのに』
「三年も!?オレンジジュースを!?大事にしてたってどういう風に大事にしてたんだよ。オレンジジュースは人形じゃねえんだぞ!」
『ああ、おばあちゃんはちょっと救急車で運ばれたけど大丈夫』
「ちょっとじゃねえだろ救急車で運ばれたんなら!」
『ま、おれの中では死んだけど』
「孫!おい孫!大事にしてやれよ!」
『え?お前なぁ、おれがオレンジジュースって言ったらそれはなっちゃんに決まってるだろ!』
「知らねえよ!初耳だ!って当たり前か」
『初耳だって?』
「電話口、お前もか!」
『いやぁ、おれなっちゃんのファンだからさ。あんなに大事にしてたのに飲まれちまいやんの』
「なっちゃんは人じゃねえだろ!それともなっちゃんのCMに出てたなっちゃんのファンなのか!?」
『はははは、おいおい、それは落花生ジュースのマスコットだろ?ったく』
「落花生ジュース!?さっきのジャガーさんといい、間違いねえ、こいつ千葉県民だ」
『だから!それは落花生ジュースのマスコットの自堕落ちゃんだろって』
「自堕落ちゃん!?マスコットキャラクターが自堕落ちゃん!?自堕落ちゃんは駄目だろ!自堕落ってお前、つうかそもそも落花生ジュースなんて飲みたくねえ」
『そうそう、部屋超汚いのに平気で男を連れ込んでやりたい放題』
「自堕落ちゃん自堕落だなぁ。そんな設定ありかよ」
『男連れ込むはタバコは吸うわパチンコはやるわアル中だはすっかすかになったTシャツ着てるはでさ。まったくな、ははは』
「自堕落過ぎるだろ自堕落ちゃん!マスコットの役割果たしてるのか!?」
『ま、うちのおばあちゃんの話はいいんだよ』
「お前のおばあちゃんの話だったのかよ!自堕落ちゃんじゃなくて!?おばあちゃん何やってんだよ、そりゃ孫に抹殺されるわ!」
『お前が最悪だって話だろ』
「そうだったそうだった」
『お前なぁ、いくら満員じゃなかったからって電車の中で携帯使ってわめいてたら駄目だろ』
「お前が言うなぁ!お前こそだろ!人のふりみて我がふり直せ!」
『当たり前だろ!マナーだよマナー!』
「どの口で言ってんだどの口で!」
『え?違うよ!マナーだよマナー!山本モナってお前、マナーはあるけどモナーはねってか!?』
「とんだとばっちりだよ。もういいか、注意してやれ」
『しかし、注意されたからってさ』
「一旦待機一旦待機」
『その良識に長けた人をボコボコにしちゃいかんだろ。最悪だよ』
「うわぁ、最悪問題再燃焼。注意やめ。うん、注意やめ」
『おれが万が一電車内で電話してたとして』
「現状を鑑みようぜ現状を」
『注意されたらちゃんと謝ってだな、すぐに通話切るよ』
「…本当かよ」
『え?』
「あ!しまった!つい口に出しちゃった!」
『なんですか?』
「うわ、こっち来た。どうしよ」
『何か言いましたかあなた』
「あ、いや、電車内で携帯を使うのはどうかと」
『ああ!?』
「うわぁ」
『何だよ!はっきり言えよ!ああ!?あ、ああ、あのな、今おれ電車に乗ってるんだけどさ』
「全てを無に帰す発言だけど」
『はあ!?』
「ああいや」
『今注意されてんだよ注意。電車ん中で電話すんなって』
「ああ、実況中継されてる…おれはこのまま実況中継されながらボコボコにされるのか?“おい、今おれの右ストレートがこいつの顔面を捉えたぜ”とかさ。ああ、誰か助けて」
『ちょっとあんた』
「はいぃ!」
『あんた今おれに携帯使うなって言ったよな?』
「あ、はい、あの、ご自身でも仰られたように」
『別にそこまでおしゃれじゃないけど』
「謙遜してんじゃねえよ!」
『…ありがとう』
「ああいや違う!仰られたって言ったのであっておしゃれとは言ってないです」
『ていうことはおれがおしゃれじゃないと』
「おしゃれです!もうすんごいおしゃれです!ピーコも真っ青です!」
『そうか。でもな』
「は、はい」
『ピーコは常に真っ青だろ』
「髭が!?」
『で、あんた何て言ったの?』
「はぁ、あの、ご自身でも仰られたように、電車内で電話をするのはどうかと」
『ああ!?おれに携帯使うなってか!?』
「ひぃ」
『何様だよてめえ!』
「いや、いや」
『ああ!?……ひょっとして…どちら様?』
「ひょっとしての使い方間違ってるだろ!」
『何だよ!』
「ああ、いや、つい」
『お前誰だよ!』
「わ、わたくししがない会社員でありまして、この不景気の中財布も侘びしい状態で、お金持ってません」
『しがない会社員だと』
「は、はい」
『じゃあお前、会ゃ員じゃん』
「どう発音すんだよそれ!しがないって“し”が使えないってことじゃねえよ!」
『ってるよ!』
「知ってるよだろ!なんでお前が“し”をのけた!」
『調子のってんじゃねえぞこの野郎!』
「調子の“し”は」
『うるせえぞこの野郎!』
「しまったつい」
『“し”をのけろぉ!』
「面倒くせえなお前!」
『ああ!?』
「あ、すいませんすいません」
『…あんた今さっきおれに携帯使うなって言ったよな?』
「はい、注意しました」
『注意だぁ?』
「ああ、いや、その」
『しかしだな。実はおれが携帯を使ってないとしたら?』
「…は?」
『おれ携帯使ってない』
「はあ、というと」
『ほら、この携帯をみてみな。おれ携帯料金払ってないからとっくに通話不能なんだよ』
「あ、本当だ。なんだ。ああ、良かった。ただのおかしい人で」
『ま、お前はボコボコにするけど』
「え?」



終わり。むなしい。