からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -116ページ目

ちょっとむかつくセンスシリーズ

“えんぴつみがき”君は人の為に死ねるか-090608_0711~0001.jpg
的な。

マキャベリズムとポルチオ

時が僕を硬くするならば、僕は時間を止めたいよ。時が二人をつくりあげるならば、太陽見上げる魚の目になって。


よくさあ。海の水死体には○○が群がってる、海難事故があった場所で○○がよく穫れるって言うじゃない。シャコなんだけど。そんなの…当たり前じゃないですか。あのねえ、まあ気味悪くなる気持ちもわかるけどさ、おまえらシャコの気持ちになってみろよ!ええーそっちの方向で話を進めんのー生物学的な話じゃなくてー。あ、今、死体の揚がらぬ恋人を想い、その海域で穫れるシャコを延々と食い続ける女の物語を思いついたけど、どうする?とりあえずどうする?おれどうしたらいい?

どうもしない。シャコだけ取り上げられてるけど、なぜあいつらやあいつらはスルーされるのだ。怪しい奴らを含めれば、あいつらもあいつらもあいつらもあいつらもあいつらもあいつらも、水死体食うって。目の前に千円札落っこちてるのと一緒なんだから。あれで釣れる奴らは大概食うって。なぜ、なぜシャコだけなんだ。それはシャコが死体にくっついて揚がるらしいからです。

こんなどうしようもない話をしたいんじゃなくて、最近海ってすごいなあって思うんだ。海すごい。ウミ、ツゴイ。いや、海すごいよね。なにあの生物の数、密度。生き物だらけじゃん。すごくない!?うじゃうじゃいるじゃん。でっかいの小さいの。魚やらプランクトンやら亀やらヘビやら哺乳類やら貝やら虫やら植物やらタコやらイカやらやらがうっじゃうじゃでしょ。ありゃあどうかしてるだろ。イカね。イカは哀れだよ。うまいしタンパク質豊富だしで、みんなから狙われてさ。おまえら進化で何を得たんだよ。吐く墨さえ毒じゃないどころかうまいってどういうことだよ。進化の副作用ありすぎだろ。タコより頭良くないでお馴染みだし。イカ臭いでお馴染みだし。イカね。イカ。ほんと、未来に、進化したおまえらが地球の覇権を握ってくれていいよ。アフターマンかフューチャーイズワイルドに知能を持つかもしれないイカいたよな?その時まで地球はあるのかよ。心配だよおらあ…エコしなきゃ。イカの未来を守るためにエコしなきゃ…今のエコが人類絶滅後、何万年何億年後に有効なのかよ…イカ哀れだよ不憫だあ…おらあ心配だあ…

サルガッソー海に捕らわれてしまえ!

小さじいっぱいのマボロシ(7)

朝が来て、イザマの携帯電話が事務所の机の上でチチチチッと音を立てた。結局イザマはあの体勢のまま、いつの間にか寝ていた。それは普段からよくあることだった。画面に表示されている名前は高梨。ふあい、と、寝起きの声で電話に出ると、

「やっぱり寝てた」

と、高梨では無い声。

「あんたねえ、人に仕事を頼んどいてその生活ぶりは無いでしょ。あの子に…………」

イザマはうんざりして通話口から顔を離した。電話口の向こうではそんなことお構いなしにガミガミザアザアと、喚き散らしている。「いい気味だ」、そんな文句が聴こえた辺りで、イザマは通話を切り、電源を落とした。

あくびをしながら時計を見る。朝6時。「あああ」、そんな声にならぬうめきを上げると、奥の部屋で軽く支度をし、イザマは外に出た。とんたんと気だるげに階段を降りて行きながら、手にした甘めの缶コーヒーを飲み干す。「ああ、しまった。顔は洗わない方が良かったな」。

一階に設置されているゴミ箱に空き缶を放り込み、ビルから原付を出す。メットインからタバコを出して火をつけ、くわえタバコで、動き出そうとする街に繰り出した。

行き先は、敏子の家からの最寄り駅。

「ああ、いた」

ラッシュにはまだ遠い時間帯とはいえ、どこからともなく湧いて出た人達の中に、敏子はいた。傍目から見ると、他の通勤通学者と比べ敏子だけ“色”が違う。駅前で言い切り型のドグマが印刷された冊子を配る人のような、猫科の動物が獲物を狙っているような。

敏子のしている行動上、イザマが駅前ロータリーに入ってきた瞬間に敏子はイザマを見つけ出した。普通、遠くから互いを認識してしまった場合、気まずい雰囲気を漂わせながら進むものだが、イザマはぽてぽてと原付を押して、慌てることもなく、のろまな亀のように歩みを進めた。

「やあ、お早いですね。いや、遅くまでご苦労様といったところですか」

イザマのかけた言葉に、

「私に出来ることは、これぐらいですから」

そう返した敏子は、髪はほつれ、顔だけ若干痩せたように見える程やつれ、とっくりみたいだ。徹夜明け、憔悴している様子だった。

「いやね、私も昨日の夜から繁華街を見張ってたりしたのですが、なかなか見つからないもんですねえ」

この男は平気で嘘をつく。イザマののほほんとした口調に慣れたのか、気にする様子もなく敏子は、

「学校の方で何かわかったことはありましたか」

と訊いた。

「ふうむ、それがですね。少し考えて見れば、学校から得られる情報なんて、原田さんから聞いた話以上のものは無いに決まってるのですよ。これは失敗だ。お恥ずかしい限りで」

「そんな、あなたそんなことでよく」

敏子の続きを遮り、「私は素人ですからね」とのたまる。敏子のはらわたがもんどりをうってのたうちまわり、反動で牙をむく前に、

「しかし、学校側が把握していない、と言いますか、あまり表沙汰にしたくない、特に原田さん、あなたには伝えづらい事実をひとつ、掴みました」

イザマの言う事実とは、担任の栗田とアカリとの関係ではない。イザマはそれと今回の家出、失踪とは、長引けば必ずあなたの家に警察がやってきますよと言われ顔面蒼白の栗田自身も強く否定したように、全く因果関係が無いことを確信している。否、イザマの目には始めから敏子以外見えていない。きっと、もう、既に。

「実はね原田さん。アカリさんはどうやら、いじめられていたようなのですよ」

この男は平気で嘘をつく。始めから敏子以外見えていない。ではなぜ、わざわざ学校に繰り出したり、今も高梨を使いに出していたりしているのか、それは、希望にあえいでいるからだ。母親が実の娘を殺すなど、イザマは考えたくもないのだった。

「…あまり学校のことを話したがらない子で、でも、たまに変なアザをつくったりして、薄々、感づいてはいましたが」

敏子の目に見る見るうちに涙が溜まり、一筋、こぼれ落ちた。

「変なアザですか?詳しく教えてもらえません?」

「ええ、腕や、体の至る所に、顔以外に、アザが、まるでぶたれたようなアザで、その都度私はどうしたんだと訊くのですが、体育の授業だとか、体育祭の練習で出来たとか、そんなことを並べ立てて、だけど、やはり…ああ、まさか、その子達が!?」

本物の慟哭に、イザマは手を焼いていた。

「まあ、前例はいくらでもありますね」

「ああ、そんな、早く、早く見つけてやらないと」

敏子は反転し、走り出そうとした。が、出そうとしたところでイザマに止められた。

「まあ落ち着いてくださいよ。前例はあるといっても、やはり稀なケースですよ」

「だけど、私が動かなければ、娘は、アカリは」

「それに、そんな突発的な事態だったら、どうして家を出る前に携帯電話を放っておいたのですか。なぜ家出の準備をしたのですか。そのような事態はまずありません」

イザマの論理的な説明に敏子は、びくんと肩を揺らし勢いを削がれると、少し落ち着いたようだ。

「少し休みましょう。なに、ほら、あそこの店の二階席なんか良いでしょう。ここより全体を見渡せますよ。もう少し陽が昇ったら、もう一度、あなたの家に行きたいですしね。なに、下心はありませんよ。ふふん」

それから、夫婦と言われたら反論出来ぬ年相の二人はハンバーガー屋に入り、しばし無言で駅前ロータリーを見つめていた。

その頃、高梨は言われた通り学校近くにいた。もう二度と正門前付近には立たないと堅い決意を秘めていたが、この学校の最寄り駅は三つあることから、正門付近に陣取るより他になかった。しかし、今日は安心だ。一人じゃない。それに隣にいるのは自分よりおばさんというに相応しいおばさんだからだ。出社前の荻原が立ち会ってくれていた。

「ふうん。あいつがそんなアドバイスを」

「そう!そうなの!意味わかんない。当たり前じゃないそんなの、ね。いじめていたかと訊いて、はいと答えたら、それはいじめていたということだなんて。アホらし」

二人は別段こそこそしているわけではない。

「あいつは初めてあった時からそんな感じだったわ。何か考えて黙っているのかただ単純に、ぼーっとしてるから黙っているのかわからないやつで。すぐに後者だとわかったけどね。きっと父親のダメな方の遺伝子だけ受け継いだのよ。それか、まあいいわ」

「ふうん。でもさ。立場が逆だったらお姉ちゃんがあんな風に」

「なるわけないでしょ!私はこの仕事好きでやってんだから。天職なんだから。それなのにあいつはまるで隠居した老人の道楽みたいに始めやがって。あてつけだわほんと。ヤな奴。ああ、ところで、リンちゃん」

「ほえ?」

「あの男見てみなよ。向こうのあの二列目の、こっちに来るコソドロみたいな、やっすいシャツをダレッと着こなしてる男。あいつ浮気してるわよ」

「へー」

「へーってリンちゃん。理由聞いてよ」

「なんで?」

「あいつ、ほら、きょろきょろしてるでしょ。指輪をつけてるのは言わずもがなだけど、イヤホン付けてるわけでも無いのに目で辺りを探ってるでしょ。通勤途中の通い慣れた道の筈なのに。ああいう奴は浮気してるのよ。知らず知らず警戒心が行動に現れてるの。覚えておきなさいよ。伊達に浮気調査を千回以上もしてないわ。ああいうきょろきょろしてる奴は9割方浮気してたのよ。しかもあいつ教師だわ。あのダサさは」

「あー、ほんとだ。入ってった。凄いね。でもさ」

「なに?」

「浮気調査を依頼されるような男って大概浮気してるんじゃないの?それなら、そのデータってあてにならなくない?浮気してる男は9割方お米を食べてる、みたいなさ。だって私よくきょろきょろするし、あいつが教師なら、通学路なんだから生徒に」

「リンちゃん、あんた、あいつに似てきたわね」

「へ?」

「そんなことよりほれ、目を離さない!捜す捜す!ね」

「はい。…ところでお姉ちゃん」

「なに?」

「お姉ちゃんはなんで探偵になったの?」

「…探偵の仕事って基本、浮気調査とか素行調査なんだけど、金をもらって他人の修羅場を見るって、こんな楽しいことはないわ。好きなのよ。他人のゴシップが」




小さじいっぱいのマボロシ(6)

「ねえ、どう?私どう?あの機転どう?名付けて、反対口たむろ捜し作戦」

興奮した様子の高梨。ひどく嬉しそうに裏道をイザマの原付と横並びで自転車をこいでいる。辺りは落日の情景に様変わりしようとしている。

「よくやってくれたよ」

イザマのほめ言葉に高梨は、

「わしゃしゃしゃしゃしゃしゃ」

と、高笑い。事実、高梨はよくやった。イザマにアカリと栗田が肉体関係を持っていたことを示唆したものは、断じて、栗田の挙動言動ではなく、高梨がもたらした情報からだ。

とろとろ進み行く2人と時間。9月のむせったい風が2人の頬を撫でる。

「あ、雨の味がする」

高梨が事務所方向の空を指す。

「あの雲だな。こりゃ早く帰らないと」

そう言ってイザマは法定速度を突破した。

「待てこら」

懸命に脚を回す高梨だったが、イザマはすぐに点になって消えた。

事務所に着いたイザマが携帯電話を覗くと、「ここはどこ?わたしはだれ?」と高梨からのメールが入っていたが、黙して殺した。

イザマが、いつものように、椅子に腰掛け、ぼーっと隣のビルの壁を見ていると、高梨が「最悪」と喚きながら帰還した。きゅっきゅっ、と鳴る靴の音に反応してイザマは、

「あれ?雨に降られたか」

と、訊いた。イザマは一度もビルの壁から視線を移していない。

「違う。雨じゃない。水かけババアにやられたのよ」

ぷんすかぷんすかしながら高梨は「入ってくるなよ」と言って、奥の部屋に消えた。

「妖怪かあ。いるんだな。まだ東京にも」

イザマは事務所でタバコを吸わない。あまり本数を費やすタイプではないことに加え、高梨がタバコ嫌いでうるさいからだ。

しばらくして、高梨は上半身にTシャツ、下半身にバスタオルを巻いたスタイルで登場した。

敏子が座った椅子にどっかと腰を据えると、

「あのババア、なんの水だと思う?雑巾揉み出した水よ!?何拭いてたんだその雑巾で、はっ、うんこ、うんこ!?」

そう言って、また、高梨は奥の部屋に消え、また現れた。

「だけどさあ、あんた、あんな口から出任せよく吐けるねえ。空気読める?人の心が読める?呼吸に色がある?あんたが?んなわけないじゃない」

高梨は、学校から見て駅の反対口のハンバーガー屋にたむろしていたアカリのクラスメート達から訊きだした情報をイザマに電話したのち、イザマに通話状態をキープしてくれと頼んでいたのだ。イザマは後々、高梨から確実に何を話していたか問い詰められることを懸案し、二度手間を避ける為それを認めた。

「商売だからなあ」

イザマはぽつりとつぶやいた。

「でもさ、あれでゲロってくれたからよかったものの、もしか情報に間違いがあったらどうしてたのよ」

パタパタとバスタオル越しにふくらはぎを叩く高梨。

「そりゃあ、その時は、ごめんなさいして、それだけだな」

「ふうん。プライド無いのねえ」

「無いなあ。しかしよくもまあ、あんな秘密裏な情報を仕入れることができたもんだ。おれにはできそうにない」

「でしょでしょ!?見つけたのはいいけど、こまっしゃくれたガキ達でさでさ、タダで教えてあげるわけにはいかないでしょうだなんて、自腹でおごったわよ。ポテトやらコーラやらナゲットやらサラダやらタバコ買ってこいだ、ああ!このお金は?」

「領収証もらってないだろ?」

「だって、ハンバーガー屋じゃない」

「もらえないわけじゃないだろ。ふふん、お姉さんにでも払ってもらいなよ」

「そうね。そうするわ。あの人のせいよ。あの人のせい。私にふりかかる厄介事の大半はあの人のせい」

くるりと、イザマは振り向き、相対し、

「そんなことより、それで?どうやって訊き出した?」

「なに?興味あるの?珍しい」

自身の仕事ぶりに対して、の質問に、

「おれは人の噂話が好きなんだよ。根はおばさんなんだろうな」

と、答えたイザマ。

「私の頑張りは?おばさ…」

高梨は顔の横に垂れ下がる髪を口にはんだ。

「言われたか、おばさんと。まあ、相対的にそれは正しい」

「じゃあなに、あの人なんて私が子供の頃既にハタチ越えてたじゃん!でも、お姉ちゃんって未だに呼ぶじゃん。それってどうなの?40過ぎなんてババアじゃん。なによ!私まだピチピチじゃん。何?髪を噛むな?私のここの毛は砂糖より甘いのよ!」

はいはい、とイザマは呆れた調子で言うと、いきさつを促した。

「うーん、まあ、話は実に単純なんだけどね。おごった後、何か知らないかしらって訊いたら、彼女達が勝手に話してくれただけで」

「そんな不確かな情報をおれに、自信満々で伝えたのか?」

「ふふふ、でも本人からその話聞いたって楽しそうに言ってたわ」

「言ってたわって、それを不確かな、本人が言っていた?」

「なんでも、ああ、その子達はあんまりアカリちゃんと仲が良いわけでもなかったらしいんだけど」

「ふうん」

「うん、前回家出する前ぐらいに、ちょうど制服が夏服に替わる時ぐらいに、腕に変なアザがあったらしいのよ」

「ほう、変なアザとな」

「仲良かったわけじゃないけど、別段仲悪いわけでもなかったから何の気なしに、そのアザどうしたのって訊いたら、栗田の趣味だって答えたんだってさ。それで興味持ったあの子達はアカリちゃんからいきさつを訊いたら、嬉々として話してくれたんだって。だから、栗田との関係はみんな知ってるってさ」

「ふうん。サドか」

「栗田から聞いてないの?」

「プレイ内容までは聞いてないなあ。しかし、おかしい」

「え?」

「アカリさんは、栗田から聞く限り、そんなことをペラペラと喋るような子ではない」

「知らないのはいつも大人だけ、常識でしょ。そもそも栗田は、あの野郎人の心を利用してたぶらかしやがって、何が、つい、よ。こいつなら絶対ヤってもバレないって思っただけ。変態の自業自得よ。変態業変態得ね」

「ふうむ。しかしそれなら、学校裏サイトかなんかで暴露されてる筈だが、そして、栗田の目に耳に、必ず届く筈だが」

「何を聞きかじりの知識で。だから、知らないのはいつも大人だけって話。既にみんな知ってるって言ってたし。人を呪わば穴ふたつ、女の子達はえげつないのが好き。墓穴掘っただけよ。そもそも、そんなサイトあんの?」

「知らん。携帯で検索してみたがアカリさんに関するものは見つからなんだ」

「ケータイからしか!?あんた本当にアカリちゃん捜す気あんの?今だってこんなことしてるぐらいなら、渋谷とかを見張ってりゃ、そっちのがいいんじゃないの?」

「恐ろしいことを言うな君は」

「は?」

「夜の渋谷で立ってろ?怖いじゃないか」

「…はあ。なんでここにパソコン無いのよ、金は持ってんだから買えばいいじゃない」

「君が持ち運べるやつ買えばいいだろ?」

「それとこれとは話が別でしょ!」

「まあ、昔な、ある泥棒と話したことがあるんだよ。その人はもうじいさんだったが、八年前まで現役だった。その人が言うには、ハイテクだかコンピューターだか知らないが、おれ達が引っ掛けるのはいつの世も人の心の錠前だって言ってたんだ。なかなか小粋なじいさんでな。その人は空き巣なんかを賤しい仕事だと言ってね。お客さんになんらかの知性を感じさせなけりゃ、被害者を感心させるぐらいのことしなけりゃ商売じゃねえって、後味を良くしなけりゃ商売じゃねえって、そんなエンターテイメント泥棒だった。だが、五年前何を思ったか、力技で銀行強盗を強行して、刑務所の中で死んだ」

「はあ、それとパソコンと何か関係が?」

「…無いな」

「無いのかよ」

「ただな、ここでこうしてずっと壁を見てるおれと、ずっとオンラインゲームをしてるおれ、君はどっちがいい?」

「どっちも廃人じゃない」

イザマはくるりと回り、また壁の方を向いた。

「それもそうか」

「なに?いじけた?ひゃひゃひゃ」

「心の錠前の鍵穴は、常に自分と向き合っている。そんなことも、言ってたなあ」

「は?」

「錠前を開けるには、人が思っていることと、思っていないことを同時にやれ、そうも言ってたなあ」

「あんた、泥棒になりたかったの?まあいいわ。私帰るね」

「うむ、君、明日の朝もう一度その子達に会って、アカリさんがいじめられていたかどうかを確かめてくれ」

「はあ!?イヤだ。自分でやれば!?」

「おれはちょっと用がある。手間賃を出す」

「わかった。でもどうやって?」

「ふむ、いじめていたかを訊いて、いじめていたと答えれば、それはいじめていたということだ」

「当たり前じゃないよ!そんな簡単だったら警察いらない!探偵もいらない!」

そう興奮して言った衝撃で、高梨の腰に巻かれたバスタオルの結び目がほどけた。

「ふふん、言ったろう?そんな秘密をおれは訊き出せないと。君なら、きっとできる、気がする」

「おい!…はあ、お金は出してくれるんでしょうね…あーあ、こんなことして、次の日にしれっとアカリちゃん帰ってきたらどうすんのよ。私、恥ずかしい思いしてくたびれ儲け、やってられない。うん?うわっ」

高梨はつっけんどんに立ち上がった。その動きにバスタオルはついていけず、ももからしだれ落ちた。光の速さで屈伸運動をし、高梨はそそくさと奥の部屋に消えた。しばらくして、帰り支度を整えた姿で現れた。

「じゃあ、明日頼んだぞ。7時には駅からの通学路上にいてくれよ」

「はあいはい、と」

「あと、お姉さんにイヤミを言っといてくれ。久しぶりに仕事をさせてもらい心身共に充実しています、ありがとうございます、と」

「わかりましたよ。お姉さんにはあなたの弟さんが廃人になったと言っておきます」

ふふん、と苦笑したイザマに、

「それにしても、今日は珍しく忙しい日だったね。2回も人が訪ねてきたりさ」

と、無邪気に、構ってもらいたい子犬のように高梨は小さく言った。

「ああ。珍しい日だった。君の下半身を日に二度も見るとはな」

「…最悪」

つかつかと高梨は濡れそぼった靴で玄関と歩いて行った。

「明日、上半身を二回見せてくれれば、バランスがとれるのだが」

高梨の姿が見えなくなった頃そう付け足したイザマに、高梨は大声で、

「お姉ちゃんに言いつけるからね!しつこくセクハラしてくるって!貞操が危ういって!」

バタンと扉が閉められたのち、

「…まいったな。冗談が通じる人じゃないんだよなあ」

苦笑いしてつぶやく。高梨が出て行ったあと、折りよくバケツをひっくり返したような夕立が轟々と降り注ぎ、また苦笑い。何を思っているのか、イザマはそれからずっと、夜の街にアカリを捜しに行くこともせず、薄ぼんやりと自分の映る窓越しに隣のビルの壁を見つめていた。



発見

あっ、雨降りそうだったのに雨降らせてねえ!まあいいか。よくねえよ!わしゃしゃしゃしゃしゃ。少しだけとってつけたように直していい?