からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -114ページ目

小さじいっぱいのマボロシ(10)

「あの人に連絡はしたのか?」

「うん。今日は泊まるって」

「怒ってなかったか?」

「さあ。案外、近くに来てたりして」

「盗聴されてたりな」

「ねえ、そんなことよりやるなら早くしてよ。おかしくなっちゃいそう」

「なってもいいが、終わったあとにしてくれ」

アカリの通う制服に似るよう数枚のコスプレ制服からパーツを流用し出来上がった特製制服を着用し、アカリの髪型に似るよう器用にイザマがカットした黒髪のカツラをかぶり、横たわった高梨。そのたわわな胸が僅かに隆起している。

「早くしてよね」

「ああ。おい、腕をどけてくれ。いや、そのまま組んで、いやいや、やっぱりどけてくれ」

イザマは早速、床に横たわる高梨を上下左右から何枚もデジタルカメラに収めた。

「もういい?」

「デッサンもしておく。手に覚えさせることは大事なんだ。イメージと、体を、おっと、動くな。ああ、もう少しスカーフをひねる感じに、そうだ」

イザマは鉛筆とボールペンを使い、メモ帳に偽アカリを描き上げる。それはデッサンというよりも人体の設計図のようであった。イザマはすらすらとこなれた手つきでそれを書き上げた。

「よし、まあこんなものだな。起きていいぞ。おい、高梨君、おい」

どうやら高梨は寝入っていたようで、イザマを少し呆れさせ、また安堵に似た感情をもたらしイザマの精神的均衡に一役かった。

「終わった?」

「まだ始まったばかりだ」

「げげ、あー神様。狐が憑きませんように」

膝をつき腕を組み、天井に向け祈りを捧げる高梨に、

「狐憑きなら神道だろ。そのスタイルが効くかな。それに、それはもう脱いでいいぞ」

そう言うとイザマはすぐに作業に取りかかった。

「ねえ、私も何か作りたい」

「ふむ。じゃあコレとコレを混ぜて、この色に近づけてくれ、ああその色じゃないのだった。そうだなあ。あそこのビルの壁の色に近づけてくれ」

「ふうん。………………………………こんな感じ?」

高梨が差し出した小石大のものを受け取り、じろりと観察するとイザマはアメ玉みたく口にしゃぶりぺっと吐き出した。

「少し違うな。もう少し甘い感じを出してくれ」

「甘い?なにそれ、わかりかねます。砂糖でも混ぜろっての?食えんのこれ。うわっ、ちょっと!そんなもんよこすな!汚いなあ」

黙々と作業に没頭するイザマ。と高梨。作業に飽き始めた高梨は全くイザマの作業と関係のないものを作っている。時折イザマにちょっかいをだしながら。

「へえ、あんたにそんな才能があったなんて」

「これでも昔…ところで君は一体何を、なんだねそのおどろおどろしいものは」

「これ?これは愛の形なんだよへへへ」

「君には愛がそんな不気味な形に見えるのか」

「歪なパズルもあるんでしょ?」

「うん?」

「へへへ、あの人にあげよう」

「それならいいが。じゃあ一旦これをオーブンに。緑を確かめたい。プチトマトだなんて厄介なもの植えてやがって」

作業が終盤を迎えた頃にはすっかり真夜中になっていた。

「今更だけど、こんなもんでどうなるっていうの?ていうかさっさと」

高梨が言い終わる前にイザマは口を出した。

「おれは警察じゃないんだよ。それどころか犯罪者だ。死体なんか発見した日には色々と面倒だ。ただでさえ現場に足を踏み入れている。不審な足跡発見だ。下手をしたら、まさかおれが犯人になることは無いだろうが、2、3日ぐらいは拘留されるかもしれない。確固たる証拠もないし」

「無いの!?」

「無い。しかし確信はある。だから彼女には自首をしてもらう」

「ああ、そう。でも他にも方法があるでしょうに」

「うむ。確かにあまりスマートな方法ではないな。だが、ふむ、これはおれからのプレゼントさ。犯した罪を思い出してもらうね」

「ふうん。まあいいや。だけど、それ、色が変だけどそっくりね。すごいもんだわ」

「色はバッチリだったろ。イメージ通り出来た。1号機にしてはなかなかどうして、苦心した分自信作だ。心残りがあるとしたら、胸の形がなあ、君では再現不可能だったもので」

「バカ!」

隙だらけのイザマの後頭部に高梨の糸を引くようなナックルアローが炸裂した。

「ぐはあ。なにもそんなに、うん?ああ!腕が、腕があ!おれの自信作が…」

珍しく感情を吐露したイザマの手にあるそれの腕は、衝撃の瞬間イザマにぎゅむっと握られた為にあさっての方向に曲がってしまった。

「…高梨君、人を殴るのもいいが時と場所を考えてくれないか」

「今、目の前に、あんたが、いた」

「……くっ」

「なはははは。死体を弄ぶなどと神をも怖れぬ所業をしでかすから天に代わって罰と免罪を与えたもうたのだ!」

こうして長くも短くもある蒸し暑い夜は過ぎていった。明け方になり、ようやく全ての作業を終えたイザマ。と高梨。

「いいかい。これで最後だ。これから君に仕事を頼む。おそらく今日も原田さんは駅前に居る。君は原田さんの顔を知らないが、東口駅前に太ったおばさんがずっと立っていればそれが原田さんだ。ひょっとしたら駅の向かいにあるハンバーガー屋の2階にいるかもしれんが、きっと駅前に居る。見つけたら連絡してくれ。居なかったらその時はまたその時として、君は彼女をマークするんだ。彼女が家に帰るまで。まず君がそのハンバーガー屋に入った方がいいな。あそこは24時間営業だったはず。そして彼女が家に入る少し前におれに電話をするんだ。あとは追って指示する。おれ?おれはちょっと用がある。なに、大した用事ではないがね」

街は静かに目覚め始めていた。

原田発見。高梨からのメールを受信したイザマは用を果たすべく、誰もいなくなった原田宅へ出掛けた。原付を走らせ、住宅街の入口で徒歩に切り替える。朝のつぶらな光線が庭々の緑と統一感の無い家屋共を照らす。これからやることに、イザマは、それでも、陰鬱な気持ちになりながら、えっちらおっちら歩を進めた。敏子の家まであと少しというところで、9月のむわっとした風が吹きわたりイザマに吐き気を促した。それは熱帯夜から引きずる暑さと湿度と、そして悪臭を運ぶ風だった。いつからこの匂いが漂い始めたのだろうか。もう、街は動き出す。

「高梨君、作戦変更だ」

「変更もなにも、私知らないけど」

朝食をかじる高梨は急遽、帰宅を命ぜられた。

「なんで?おい、ちょっと!おい!…なんで………………うん?」

むげもなく通話を切られた高梨の眼下で、敏子は携帯電話を手にした。そして、駆け足でタクシーを捕まえた。



悲しみとはかくも愛おしきものか

それはねえよ。そんなことで人間をコントロールできるかよ。はいはい。もし次があるなら普通の文体に戻ろうと決意した梅雨入り。

さて、最近なぜ微笑シリーズが更新されないか、その由はおれが恋をしているからである(女芸人か)。あんなバカなことしてるとこあの子に見せたくない(女芸人か)。あまねくすべての物事がキラキラと虹色に輝いて見えるんだ。目がおかしくなっちゃった。やたら派手なクマがいるなと思ってよくみたらシロクマだった(んなわけあるか)。やたら派手なテレビ番組やってんなって思ってずっと観てたら、朝がきた(カラーバーか)。やたら派手な人がいるなと思ったら、志茂田影樹だった(…………)。ほら、こんな程度。普通でしょ。“素直じゃなくて逆につまらない”補正かけてないでしょ。これ、みんな恋のせい。あの子のことしか考えられない。キラキラしてないのはおれの精液だけだ。ストーカーにならぬようきつく戒めてあるのでそれは大丈夫。

小さじいっぱいのマボロシ(9)

「はあ、だけど、それ、10年前のテストの問題ですよね?表面にそう書かれてましたが、それが何か今回のことに関係が?」

イザマに言われ、ふらりとモニターが視界に入らぬ前方へ移動した妻。このCDーRの中身をイザマは栗田から聞いていた。ここまでは妻によからぬ懐疑を抱かせたくない栗田の筋書き。自宅にある妻の知らぬ学校のデータが入った普段持ち運びをしないもの、というイザマの巧みな誘導的会話の中から挙げられた物品に当てはまるものはこれしか思いつかなかった。ここからはイザマの筋書き。

「ふふん。やはり聞いてませんか。これはね奥さん、そういうものではないのですよ。かといって、いやらしい画像が詰まっているわけではないですがね。ふふん。ご主人はスキー部の顧問をしていますよね」

「ええ」

「毎年、合宿に行くでしょう?」

「ええ、夏と冬に」

「これはですね、10年前に作られたその合宿のしおりの草案なのですよ。決定稿ではないのですがね。ご主人、どこでどう間違ったのか、題名の書き間違えをしたようでしてね。今、ご主人が持っている方とこれが逆になってしまっているのですよ」

もちろん、そんなものは入っていない。イザマは栗田に、本当にアカリを監禁または家出幇助をしていないか最終確認をする、と称し、こうして家までやって来ている。しかし、“犯人”は敏子である、とそれ以外眼中にないイザマだ。その実、栗田にSM趣味があるかどうかの調査であった。

「はあ、だけど、やっぱり、そんなものをなぜ?うちの栗田が原田さんの家出に」

一瞬にして青ざめる栗田の妻に、

「ああいや、全く関係ないですよ。この件に関しては、担任であるということ以外、関係ありません。この件、にはね」

と、含みを持たせて、イザマは言った。

「この件に関しては、ですか?」

「奥さんが私に浮気調査を依頼してくれると、私としては簡単に儲けられるのですがねえ」

今度は一瞬にして紅潮し、

「それはどういう意味ですか!?」

と、言った。イザマは、

「おっと、それ以上近付かれると、画面が見えてしまうでしょ。まあまあ、落ち着いて」

と、彼女が詰め寄る仕草を見せていないにも関わらず、制止させた。自宅内、すなわち、自身のテリトリー内で行動を制限される、ということは脳内に一握の混乱をもたらす。テリトリー内に突然出現した海のものとも山のものともつかぬイザマのテリトリーに、栗田の妻はとても歯痒く、しかし、どうしていいのかわからない。

「まあ、そう睨まないで。私は味方ですよ。ああ、出た。これだ。この合宿のしおりが大切なんです。ここに記されているある生徒の住所と電話番号がね。よし、あった。よかった。はああ、厄介だったあ。今回これが重要でしてね。まったく、まさか10年も遡らなくてはいけないヤマだとは思いませんでしたよ。こんなこともあるんですな」

「10年前の生徒?」

好奇心が僅かに混乱した脳に重なり、まるで言葉を繰り返す小鳥のよう、イザマの手のひらの上だ。

「ええ、家庭に問題のある生徒でね。いわゆるDVですか。その生徒は母親と一緒に、夫から逃れ、一時どこかに仮住まい、と言いますか、それをしていまして。しかし、その時の記録がどうしても見つからない。なんせ、隠れ住んでいるのですから。今現在、その親子がその場所にいる可能性が高いと踏んでいるのですよ。私の捜している娘さんと一緒にね。住んでいなくても、周りの人は何か知っているかもしれない。しかし、父親は簡単に見つかったのですが、行方を知っているはずもなく、同級生達に訊いても卒業以来会っていないと。調べて行く内に、その仮住まいにいた時期と、合宿の時期とが重なっていることに気がつきまして、またこの学校が休みの時期というのが一つネックで、通学圏でない可能性をはらみますからねえ。だがことはすんなり運ばず、決定稿では卒業アルバムと同じ住所が記載されていました。途方に暮れていたところ、ご主人からこのデータの存在を聞きまして、もしかしたらと、こうして、今ここに至ったわけです。そしてどうやら、うん。この住所が重要だったのですこの住所が。ああ、面倒だった。まったく、ねえ?」

早口で一気にまくし立てたイザマ。その声は独り言のようにぶつぶつと小さく低く、また人懐っこい微笑とも仏頂面ともとれる曖昧な表情により、イザマの言っていることをいまいち理解しきれなかった栗田の妻は“とりあえず”、

「それでしたら、わざわざこれを持っていかせるより、主人から聞けばよかったじゃないですか」

と、言うより他になかった。

「ははあ、それがですね、私が誰を調べているか、ご主人には知られてはならんのです。さっき言ったように、私共には守秘義務が…………」

そう言って固まったイザマは、初めて彼女と目を合わし、大袈裟に目をまろくして、すぐにすんとした目尻に戻すと、

「奥さん、今私が言ったこと、ご主人には絶対に内緒でお願いしますよ」

ウインクこそしなかったものの、というイザマなりに精一杯愛嬌のある面形で応える。混乱、興味、秘密の共有。いつか、いなせな爺さん泥棒から聞いた人の心の錠前を解きほぐす、手順。しばらく、画面を見ながらメモを取ったり、彼女との他愛ない会話を続けたのち、

「まあ、ついでと言ってはなんですが、ご主人の素行を調査したいなと思った時には是非とも私に連絡を。これが私の電話番号です。なに、私も別件だということで証拠という証拠も持ち合わせてないのですがね、あなたの依頼があり次第…ああ、これではわざわざお金をかけて依頼するまでもないですな。奥さん、あなたは聞き上手だ。ついペラペラと、いやあ、まいったまいった。…最近の夫婦生活はどうですか?わかりやすい性癖なんかあると楽にことは進むのですがね」

栗田の家を出たイザマは、その足で敏子宅に向かった。敏子はイザマの思惑通り留守だった。きっと、今もどこかで娘を捜しているのだろう。イザマは庭に周り、畑になっている一画を数枚写真に収めた。畑には浅葱、ハーブ類、プチトマトが雑多になって植えられている。そして、畑の前でしゃがみこむと、その体勢で辺りを見渡すと、おもむろに畑の土をつまみ掬い、食った。イザマはとても、普段に増して、浮かない顔をたたえ、しばらく動かなかった。帰りしなに畑の土を両手一杯、ビニール袋に入れて持ち帰った。それから、自宅マンションに寄り、なにやら手提げ袋に詰め込んで、事務所へと向かった。もくもくと積もり積もった入道雲が、陽射しに灼けたアスファルトに落ちてくるのも時間の問題だろう。今夜もまた例年通り、熱帯夜だ。

「あらら、早かったじゃない」

「荷物は?」

「届いてるよ。ちょっと、入らないでよね」

高梨はまた手製のシャワーを使っているようだった。

「そうか、仕事が早いな。おれと違って」

「だけどさ、オーブンなんか買って何をする気なのよ。オーブンならあるし」

「ふふん。死体からパンの匂いがしたら嫌だろう?その逆もまた然り」

「は!?」

「水浴びをしているならちょうどいい。終わったら君が買ってきたものに着替えてくれ。今夜は帰りが少し遅くなるぞ」

「いぃ!?ちょっと、私にも…」、心の準備ってものが。………。




せん妄派不眠日記

己の知らぬところでプロフィール欄に追記されている。誰だよ。なにあれ。明日にでも消しますからね。

ああ、一応言っとくけど、データが入ってるものがCDーRであることには理由があるから。次回明らかになることでしょう。最終話?なんのこっちゃ。それにしても、ひどい。めんどくさがんなおれ。まあいいか。気にしない気にしない。じゃあおれは瞳を閉じるよ。ああ、知ってる?瞳を閉じると宇宙の果てに行けるんだよ。宇宙の果てに何があるかって?そこは瞳を閉じた世界と一緒なんだ。だから宇宙の果ては一人一人、オリジナルのシューティングゲームが存在するはずなんだ。見るものによって、見るもの次第で、千変万化する世界がそこにあるはずなんだ。ほら、避けろ。迫り来る拳を迎撃だ。むふふ。楽しくて眠れやしないよ。

松明はいつも(5)

色々あったが、人間なんてラララララララララ♪結局、その後ふたりは別れちゃったらしいよ。よく聞く話さ。巨大な物体?別れ話の理由だろそんなもん。ふたりが生み出した幻覚さ。別れの傷をなめあっただけさ。じゃあ、よろしく。バイバイ。



終わり。

作・よしだ☆たくろう(本名だからしょうがない!)