なんとなく
「ふぇらはしても決して柿だけは食わない落ち武者」、は、もっと評価されていいと思っている、どうもおれろくでなしです。空想ジクザグにしてぶっ飛びたい。なんでだろう。辻褄を求めてる。なんでだろう。気がついたんだ。「コスもろ」にあって、その他にないもの。妄想だよ。妄想を書きなぐってないんだ。その他は事務作業だよ。リビドーが見えねえ。かといっておれがお相撲さんフェチというわけではないが。それだけじゃねえんだけど(多々あるどころの話じゃないレベル)、とにかく妄想が足りねえ。美人が好きじゃないというおれの好みも…まあいいか。おやすみよ。親愛なるサン・ダンサー共。
サン・ダンスで思い出したけど、そういや昔NHKで、アフリカのどこかのお祭りをドキュメントしてたんだけど、凄い祭りなんだよ。うろ覚えだけど、とにかく刃物で体を斬りつける。お互いであったり、自分自身を。その中でインタビューに応える明るいおじいさんが出てきて、「今はだいぶ落ち着いたけど、昔はもっとすごかったよ」なんて言い出した。そして、「わしゃ若い頃この祭りで手首を切り落としたが、拾ってすぐくっつけたら、ほれ、この通り、くっついた」って平然と言いのけてた記憶がある。あれはなんだったんだ?おれなんか数ヶ月前裸で猫と遊んでた時に引っかかれて、ぴいーっと一本裂けた背中の傷跡が今も消えないよ。野蛮じゃなくてさ、御柱祭りとかもそうだけど、改めて人間というものは死と痛みからの…………まあいいか。おやすみよ。親愛なる虚像アイドル共。
サン・ダンスで思い出したけど、そういや昔NHKで、アフリカのどこかのお祭りをドキュメントしてたんだけど、凄い祭りなんだよ。うろ覚えだけど、とにかく刃物で体を斬りつける。お互いであったり、自分自身を。その中でインタビューに応える明るいおじいさんが出てきて、「今はだいぶ落ち着いたけど、昔はもっとすごかったよ」なんて言い出した。そして、「わしゃ若い頃この祭りで手首を切り落としたが、拾ってすぐくっつけたら、ほれ、この通り、くっついた」って平然と言いのけてた記憶がある。あれはなんだったんだ?おれなんか数ヶ月前裸で猫と遊んでた時に引っかかれて、ぴいーっと一本裂けた背中の傷跡が今も消えないよ。野蛮じゃなくてさ、御柱祭りとかもそうだけど、改めて人間というものは死と痛みからの…………まあいいか。おやすみよ。親愛なる虚像アイドル共。
小さじいっぱいのマボロシ(5)
「僕の生徒の原田アカリについてですね」
朝立ちを利用して妻とセックスしていそうな担任は、栗田と名乗った。
「ははあ、まさか先生から名刺を貰うとは、どうも」
イザマは差し出された名刺を片手で受け取った。
「ここは私立ですし、今は自作で簡単に作れますからね」
数学担当と書かれた文面と喜色満面の顔写真、それと目の前で得意気な顔を二度見して、イザマはポケットへ無造作に名刺を突っ込むと、
「ああ、すみません。私はちょうど切らしていまして」
と、ささいな嘘をついて、さっさとソファーに座った。
「私のことは、原田さんから聞かれましたか?」
「ええ、探偵だと」
「ふうん。何か、ヤクザの事務所みたいな部屋ですねえ」
ぼんやりと宙を睨みながらイザマは言い、ポケットからタバコを出した。
「おっと、ここは禁煙ですか?」
「禁煙だったら、灰皿は置いてないでしょう」
それを聞いてイザマはタバコに火をつけ、ふかし、やたらごついガラスの灰皿に灰を落とした。早くも、というべきか、栗田はイザマが社会不適合者であることに感づいた。
その時、イザマの携帯電話が震えた。メール。差出人は高梨。「失礼」と言って、イザマはポチポチと返信した。
「そちらの業界を詳しく存じ上げていませんが、お忙しそうですね」
社交辞令も、
「早速ですが先生、アカリさんが家出をしたのは今回が初めてではないですよね」
イザマには無用なものだった。
「はい」
「警察は、話を訊きに来ませんか」
「彼女がうちに来てから初めての時は来ましたが、どうやら中学時代から繰り返していたようで。彼女は高校からうちに入って来たのですがね」
「そうみたいですね。ということは受験でしょう?ここは馬鹿が入れるような学校ではない。彼女の成績は良いとお母さんから聞きましたが、実際どうですか?」
栗田は少しはにかんで、
「ええ、たまに一週間程休む割に良いですよ。総合成績ではトップクラスとまでは行きませんが、彼女は数学が得意でね。学年で常に五本の指に入る」
「ふうん。数学がねえ」
「ええ、僕が教えてるのですが」
「よく休むが学校の授業にはついていけている、と。ふうん。教師としては、面目丸つぶれですな」
「…学校は、勉強をするだけの場所では無いですから」
明らかに栗田はイザマを「敵対人物」と判断した声の調子だった。それは自身が教師であるという自己欺瞞からくる敵対心だった。
「勉強だけではないと言いましたが、アカリさんの家出に関して、指導はせなんだですか?」
「そりゃしましたよ。当たり前じゃないですか。うちにはスクールカウンセラーもいますしね」
「ほう、今はそんなものまで居るんですか」
「ま、今日は担当日ではないので居ませんが」
「ふうん。先生もアカリさんに指導したのですよね?どういった内容でしたか?」
「僕はカウンセラーじゃありませんけどね、いくら親御さんから頼まれたとしても、守秘義務ってもんがあります。大体あなた、人と喋る時は相手の目を見て喋れと小学校で教わりませんでしたか」
栗田の攻撃的な発言中、またしてもイザマの携帯電話が震え、イザマの視線は携帯電話に注がれた。それは栗田のイライラを増幅させるにはうってつけのタイミングだった。返信を終えるとイザマは、
「ははあ。確かに人の目を見て話せと教わりました。しかし、私は、どうもそれが苦手でね」
「失礼ながらあなたは礼儀がなっていないとお見受けしますが」
言葉は丁寧だが、呆けた生徒に説教を食らわすような、さっきまでの喜色満面の顔を真剣な顔に、油断してないコソドロみたいな顔に栗田はなっている。
「ああいや、私は何も喧嘩をしに来たわけではないのですよ。私が人の目を見て話さないことにも理由があるのです」
そう言うと、イザマは栗田と目を合わせた。栗田は内心ぎょっとした。イザマの捉えどころのない面妖な顔立ちもさることながら、その吸い込まれてしまいそうな深遠なる瞳を向けられると、己のすべてを見透かされてしまっているような気がしたからだ。
「私が人と目を合わせて話すと、私にその意思はないのですが、厄介なことに十中八九その人は怒り出すのですよ。昔からね。私に人の目を見て話せと言った小学校の先生までもです。困っちゃいますよ。ですから、お気になさらないでもらえたら」
「わかりました」
イザマの瞳に呑まれた栗田はそう言うしかなかった。
「差し障りのない程度にその時のアカリさんのことを話してくれませんかね?」
栗田は差し障りのない程度に指導内容を語った。まさしく差し障りのない程度だったので、そこから何かを得ることはなかった。
「ふうん。普段の学校生活、仲の良い友達なんかは?クラス内でのポジションなど」
「それが、彼女は、陰のある子、と言っていいでしょう。男女問わず仲の良い友達はいないと思いますね。どこかのグループに属しているわけでもない。ぼんやりとした子というかのほほんとした子というか、自分の意思を誰かに伝えるのが苦手な子で、と言っても話しかけると純真で、明るく受け答えしてくれるのですが。ですから、たまに家出なんかをして、鬱積した感情を放出させているのではないかと。お母さんには悪いですが、ここだけの話、あ、あなたに守秘義務はありますよね?」
こう見えて根は真面目だと、イザマは栗田に伝えた。
「ここだけの話、僕は彼女の家出を、必要悪、と捉えています。彼女なりに計算をしているのでしょうが、単位を割ることもありませんし、髪を染めたりピアスを空けたり、校則に抵抗するような不良というわけでもない。それどころかさっき言ったように成績も悪くない。正直に言いまして、いくら指導しても態度に変化が表れない無力感からそういう結論に至ったのかもしれませんが、ある程度、彼女を信頼して、自主性に任せるのもいいかと、最近思います」
この時、またしてもイザマの携帯電話が震え、今度は、「ちょっと失礼しますよ」と部屋を出た。
帰って来たイザマは何事もなかったかのように、アカリの行きそうな場所や学校外の生活を訊いた。だが、大した情報はなかった。
最後に、と、イザマは頭につけて、
「生徒からアカリさんの話を直接訊くというのはよろしいですか?」
と、言った。
「うーん、それはどうでしょう。なんせ、色々複雑な年頃ですから」
「わかります。やはり止めといた方がいいでしょうね。アカリさんの為にも」
「はい、出来れば」
「まあ、ただの家出人捜しにそこまでするのもねえ」
「はは」
よし、と言ったあとイザマは、わざとらしく、ああそうだ、と言った。
「ところで、先生、アカリさんは片親ですね。何でも10の頃に父親を亡くしたとか」
「ええ、聞いています」
「私は、お父さんの遺影を見たのですがね。どこか、いや、雰囲気とでも言いましょうか、あなたに似ていますね」
「はあ。それが何か」
「ああいった環境の娘さんは得てして誰かに母性、じゃない、父性を求めるものではありませんか。大概、一度は年上の人を好きになるものです」
「…なにが言いたいのですか」
「いやね、彼女は数学が得意なのでしょう?私も経験がありますが、どうも好きな先生の教科は得意になるものではありませんか?アカリさんはあなたに対し、特別な感情を抱いていたのではないですか?」
「そんな、確かに比較的友好な、しかしそんなこと思いもしませんでした」
「思いもしない?教師に恋慕するなど、よくある話じゃないですか。別に悪いと言ってるわけではありません。あなたぐらいベテランなら、今までに一度や二度あったでしょう」
「はは、僕をよく見てくださいよ。モテると思いますか?僕は陰で悪口を叩かれるような嫌われ役担当なんですよ。言わば、はけ口なんです。それに結婚だってしてる」
「ほう」
イザマは不意に栗田と視線を交わした。
「なるほど確かに、異性から興味を惹くような方とお見受けはできませんね」
イザマの目に射抜かれた栗田は、はは、と苦笑いを浮かべるので精一杯だった。
「先程、私は人の目を見て話すのが苦手だと言いましたね」
「はあ、人を怒らせてしまうと」
「怒らせてしまうこととというのは、結果であって理由ではないですよね。実はね、先生。私がなぜ人と目を話すことが苦手かと言いますと、必要以上の情報を相手から読み取ってしまうからなのですよ。感情や思考、相手が今どんなことを思っているのか考えているのか、人一倍わかってしまう。空気を読むという感覚に、これでも、優れているようで。まだまだ純粋な子供の頃はそれで怒られた。相手の思っていることをずけずけと言っちゃってね。これは結構、私みたいに臆病な人間には酷なことでありまして。普段は耳からしか相手の情報を読み取らないようにしておるのです」
「そんなこと、あるわけないじゃないですか」
栗田は一瞬顔を右に向けた。
「なにも私がテレパスやサトリの化け物だと言っているわけではないのですよ先生。例えば、わかりやす過ぎることですが、今あなたは瞳を軽く右上に動かした。心理学やら生理心理学やらでその行動をなんていうか知りませんがね。これは記憶を探っているのです。そしてさらに、あなたは顔を横に向けた。無意識下で辺りを警戒したんですよ。とまあ、こういったことのように、数学の天才には数字を色や図形として認識している人がいるというではないですか。複雑な計算の答えが、計算式を飛ばして一瞬で頭の中に浮かぶという、計算ではなく頭の中で図形が融合すると自然に答えが出てくるという人がね。それと似ています。私も、あまり説明出来ませんが、小さな挙動、瞳孔の輝きや大小や揺れ、瞼の動き、眉の動き、呼吸の粘り具合、僅かな顔の筋肉の動き、そういったものを見ると、結果だけ私に訴えてくる。今もまさにそうで、まあ、あなたが考えていること一言一句わかるわけじゃありませんが、あなたは人の吐く息に色があるということを知っていますか?今、先生、あなたの息は、赤い。すなわち、己の身にとって危険な環境の下にいる、ということです。ほら、ま
た、一層赤くなった」
続
朝立ちを利用して妻とセックスしていそうな担任は、栗田と名乗った。
「ははあ、まさか先生から名刺を貰うとは、どうも」
イザマは差し出された名刺を片手で受け取った。
「ここは私立ですし、今は自作で簡単に作れますからね」
数学担当と書かれた文面と喜色満面の顔写真、それと目の前で得意気な顔を二度見して、イザマはポケットへ無造作に名刺を突っ込むと、
「ああ、すみません。私はちょうど切らしていまして」
と、ささいな嘘をついて、さっさとソファーに座った。
「私のことは、原田さんから聞かれましたか?」
「ええ、探偵だと」
「ふうん。何か、ヤクザの事務所みたいな部屋ですねえ」
ぼんやりと宙を睨みながらイザマは言い、ポケットからタバコを出した。
「おっと、ここは禁煙ですか?」
「禁煙だったら、灰皿は置いてないでしょう」
それを聞いてイザマはタバコに火をつけ、ふかし、やたらごついガラスの灰皿に灰を落とした。早くも、というべきか、栗田はイザマが社会不適合者であることに感づいた。
その時、イザマの携帯電話が震えた。メール。差出人は高梨。「失礼」と言って、イザマはポチポチと返信した。
「そちらの業界を詳しく存じ上げていませんが、お忙しそうですね」
社交辞令も、
「早速ですが先生、アカリさんが家出をしたのは今回が初めてではないですよね」
イザマには無用なものだった。
「はい」
「警察は、話を訊きに来ませんか」
「彼女がうちに来てから初めての時は来ましたが、どうやら中学時代から繰り返していたようで。彼女は高校からうちに入って来たのですがね」
「そうみたいですね。ということは受験でしょう?ここは馬鹿が入れるような学校ではない。彼女の成績は良いとお母さんから聞きましたが、実際どうですか?」
栗田は少しはにかんで、
「ええ、たまに一週間程休む割に良いですよ。総合成績ではトップクラスとまでは行きませんが、彼女は数学が得意でね。学年で常に五本の指に入る」
「ふうん。数学がねえ」
「ええ、僕が教えてるのですが」
「よく休むが学校の授業にはついていけている、と。ふうん。教師としては、面目丸つぶれですな」
「…学校は、勉強をするだけの場所では無いですから」
明らかに栗田はイザマを「敵対人物」と判断した声の調子だった。それは自身が教師であるという自己欺瞞からくる敵対心だった。
「勉強だけではないと言いましたが、アカリさんの家出に関して、指導はせなんだですか?」
「そりゃしましたよ。当たり前じゃないですか。うちにはスクールカウンセラーもいますしね」
「ほう、今はそんなものまで居るんですか」
「ま、今日は担当日ではないので居ませんが」
「ふうん。先生もアカリさんに指導したのですよね?どういった内容でしたか?」
「僕はカウンセラーじゃありませんけどね、いくら親御さんから頼まれたとしても、守秘義務ってもんがあります。大体あなた、人と喋る時は相手の目を見て喋れと小学校で教わりませんでしたか」
栗田の攻撃的な発言中、またしてもイザマの携帯電話が震え、イザマの視線は携帯電話に注がれた。それは栗田のイライラを増幅させるにはうってつけのタイミングだった。返信を終えるとイザマは、
「ははあ。確かに人の目を見て話せと教わりました。しかし、私は、どうもそれが苦手でね」
「失礼ながらあなたは礼儀がなっていないとお見受けしますが」
言葉は丁寧だが、呆けた生徒に説教を食らわすような、さっきまでの喜色満面の顔を真剣な顔に、油断してないコソドロみたいな顔に栗田はなっている。
「ああいや、私は何も喧嘩をしに来たわけではないのですよ。私が人の目を見て話さないことにも理由があるのです」
そう言うと、イザマは栗田と目を合わせた。栗田は内心ぎょっとした。イザマの捉えどころのない面妖な顔立ちもさることながら、その吸い込まれてしまいそうな深遠なる瞳を向けられると、己のすべてを見透かされてしまっているような気がしたからだ。
「私が人と目を合わせて話すと、私にその意思はないのですが、厄介なことに十中八九その人は怒り出すのですよ。昔からね。私に人の目を見て話せと言った小学校の先生までもです。困っちゃいますよ。ですから、お気になさらないでもらえたら」
「わかりました」
イザマの瞳に呑まれた栗田はそう言うしかなかった。
「差し障りのない程度にその時のアカリさんのことを話してくれませんかね?」
栗田は差し障りのない程度に指導内容を語った。まさしく差し障りのない程度だったので、そこから何かを得ることはなかった。
「ふうん。普段の学校生活、仲の良い友達なんかは?クラス内でのポジションなど」
「それが、彼女は、陰のある子、と言っていいでしょう。男女問わず仲の良い友達はいないと思いますね。どこかのグループに属しているわけでもない。ぼんやりとした子というかのほほんとした子というか、自分の意思を誰かに伝えるのが苦手な子で、と言っても話しかけると純真で、明るく受け答えしてくれるのですが。ですから、たまに家出なんかをして、鬱積した感情を放出させているのではないかと。お母さんには悪いですが、ここだけの話、あ、あなたに守秘義務はありますよね?」
こう見えて根は真面目だと、イザマは栗田に伝えた。
「ここだけの話、僕は彼女の家出を、必要悪、と捉えています。彼女なりに計算をしているのでしょうが、単位を割ることもありませんし、髪を染めたりピアスを空けたり、校則に抵抗するような不良というわけでもない。それどころかさっき言ったように成績も悪くない。正直に言いまして、いくら指導しても態度に変化が表れない無力感からそういう結論に至ったのかもしれませんが、ある程度、彼女を信頼して、自主性に任せるのもいいかと、最近思います」
この時、またしてもイザマの携帯電話が震え、今度は、「ちょっと失礼しますよ」と部屋を出た。
帰って来たイザマは何事もなかったかのように、アカリの行きそうな場所や学校外の生活を訊いた。だが、大した情報はなかった。
最後に、と、イザマは頭につけて、
「生徒からアカリさんの話を直接訊くというのはよろしいですか?」
と、言った。
「うーん、それはどうでしょう。なんせ、色々複雑な年頃ですから」
「わかります。やはり止めといた方がいいでしょうね。アカリさんの為にも」
「はい、出来れば」
「まあ、ただの家出人捜しにそこまでするのもねえ」
「はは」
よし、と言ったあとイザマは、わざとらしく、ああそうだ、と言った。
「ところで、先生、アカリさんは片親ですね。何でも10の頃に父親を亡くしたとか」
「ええ、聞いています」
「私は、お父さんの遺影を見たのですがね。どこか、いや、雰囲気とでも言いましょうか、あなたに似ていますね」
「はあ。それが何か」
「ああいった環境の娘さんは得てして誰かに母性、じゃない、父性を求めるものではありませんか。大概、一度は年上の人を好きになるものです」
「…なにが言いたいのですか」
「いやね、彼女は数学が得意なのでしょう?私も経験がありますが、どうも好きな先生の教科は得意になるものではありませんか?アカリさんはあなたに対し、特別な感情を抱いていたのではないですか?」
「そんな、確かに比較的友好な、しかしそんなこと思いもしませんでした」
「思いもしない?教師に恋慕するなど、よくある話じゃないですか。別に悪いと言ってるわけではありません。あなたぐらいベテランなら、今までに一度や二度あったでしょう」
「はは、僕をよく見てくださいよ。モテると思いますか?僕は陰で悪口を叩かれるような嫌われ役担当なんですよ。言わば、はけ口なんです。それに結婚だってしてる」
「ほう」
イザマは不意に栗田と視線を交わした。
「なるほど確かに、異性から興味を惹くような方とお見受けはできませんね」
イザマの目に射抜かれた栗田は、はは、と苦笑いを浮かべるので精一杯だった。
「先程、私は人の目を見て話すのが苦手だと言いましたね」
「はあ、人を怒らせてしまうと」
「怒らせてしまうこととというのは、結果であって理由ではないですよね。実はね、先生。私がなぜ人と目を話すことが苦手かと言いますと、必要以上の情報を相手から読み取ってしまうからなのですよ。感情や思考、相手が今どんなことを思っているのか考えているのか、人一倍わかってしまう。空気を読むという感覚に、これでも、優れているようで。まだまだ純粋な子供の頃はそれで怒られた。相手の思っていることをずけずけと言っちゃってね。これは結構、私みたいに臆病な人間には酷なことでありまして。普段は耳からしか相手の情報を読み取らないようにしておるのです」
「そんなこと、あるわけないじゃないですか」
栗田は一瞬顔を右に向けた。
「なにも私がテレパスやサトリの化け物だと言っているわけではないのですよ先生。例えば、わかりやす過ぎることですが、今あなたは瞳を軽く右上に動かした。心理学やら生理心理学やらでその行動をなんていうか知りませんがね。これは記憶を探っているのです。そしてさらに、あなたは顔を横に向けた。無意識下で辺りを警戒したんですよ。とまあ、こういったことのように、数学の天才には数字を色や図形として認識している人がいるというではないですか。複雑な計算の答えが、計算式を飛ばして一瞬で頭の中に浮かぶという、計算ではなく頭の中で図形が融合すると自然に答えが出てくるという人がね。それと似ています。私も、あまり説明出来ませんが、小さな挙動、瞳孔の輝きや大小や揺れ、瞼の動き、眉の動き、呼吸の粘り具合、僅かな顔の筋肉の動き、そういったものを見ると、結果だけ私に訴えてくる。今もまさにそうで、まあ、あなたが考えていること一言一句わかるわけじゃありませんが、あなたは人の吐く息に色があるということを知っていますか?今、先生、あなたの息は、赤い。すなわち、己の身にとって危険な環境の下にいる、ということです。ほら、ま
た、一層赤くなった」
続
小さじいっぱいのマボロシ(4)
「犯人?ただの家出娘捜しじゃないの?」
「ふふん。まあ、犯人、と言うには語弊があるか」
「ああ、お母さんが嫌だから家出してるのにってこと?」
「うーむ」
イザマは深くうつむいた。
「もうなんなのよ!むかつくなあ」
高梨は、タタン、と地団太による小気味よいステップを奏でた。
「そうだな。君は色の無い部屋で生活した経験はあるか?」
「はあ?なに?回りくどいのよ。こっちが面倒くさいよ」
「ふむ。では、娘さんの携帯電話を持ってきたあの母親を、君はおかしいと思わないのかね」
「でも、置いて出て行ったんでしょ?」
「うむ、しかし、娘さんは学校に行ったっきり帰ってきていないとも言っていただろう?ということは学校を出て行く前、朝から携帯電話を置いていったんだよ。なぜ携帯電話を置いていく必要がある。わざわざデータを消去してまで置いていくぐらいなら、電源を切って持ち歩いた方がいいじゃないか。娘さんの行動は、発作的な行動にしては計画的過ぎるし、計画的な行動にしては発作的過ぎる」
「ふふふ」
高梨はいたずら妖精のような薄笑いを浮かべた。
「うん?」
「なんでもありませんことよ」
「既に何かある言い回しだが」
「いいから続けなさいよ。そうだ、母親が娘の家出、というか失踪?に関わっているならなんでわざわざ警察はおろか探偵まで雇おうとするのよ?おかしいでしょ普通」
「ふむ。そりゃそうだ」
「当然、こっちに非協力的ってこともないわけでしょ?」
「むしろ進んで色々見せてくれたよ。包み隠さずな。今だって彼女の協力で不審者2名が治外法権の花園に向かうところだ」
「不審者はあんただけだ。で?」
「で?と、言われてもなあ。別に確信に至ったわけじゃなし。でも、なんだかこの件はとてもシンプルなラインに誰かが安っぽい文句で無粋な虚飾を施したかのように感じてならないんだよ」
イザマの目はどんよりと宙を見つめている。
「その誰かが母親だと。ふん。登場人物が探偵と助手を含めて三人なら、推理小説の犯人当ても簡単ね。そもそもただの家出でしょ?年頃の娘が、よくある話じゃない。あのおばさんキャラ濃いし」
「なるほど。確かにその通りだ」
「あらら」
「しかしなあ」
「ケータイだってさ。データなんか簡単に保存して移せるし、今までに何度か警察に届けを出されてるなら、警戒もするわ。電波で捜されちゃうんじゃないの?そのぐらい考えるんじゃないの?」
「おお。それは思いもよりませんでした」
イザマは抑揚なく言った。
「あんたさあ、私をバカにしてるわけ?」
むっとした高梨は顔の横の髪を口にはんだ。
「む、髪の毛傷むぞ」
「ほっとけ。切る。もう切る。今日切る。ぐだぐだに切り裂いてやるんだから」
うら若き乙女がその艶の色濃い髪を切り裂くと言うのに、ふうん、と呑気な相槌を打つイザマ。
「さて、では登場人物を増やしに行くかね」
「はあ。行きたくないなあ。絶対、おばさん扱いされる。ところで、学校ってどこなの?」
「朗報だ」
高梨の質問にイザマはせせら笑うように答えた。
「は?」
「娘さんの学校はD学園。知ってるだろ?ここからなら自転車で、大手町方面にまっすぐ進めば嫌でもわかる。良かったじゃないか。立ちこぎし続けて30分ってところだ」
「はあ!?」
「探偵は小回りが肝心だよ。自転車で向かうといい。都内は自転車で充分だ」
「汗まみれ…汗臭(あせしゅう)…汗臭」
高梨の口から漏れだした言葉は、無意識なのだろう。
「…タクシーとか、公共交通を利用してはいけないのですか!?」
「君はそのお金を誰が払うか知っているのか?母子家庭である原田親子の肩を持つなら、節約しなさい」
先程、敏子にタクシー代を払わせた男の発言とは思えない。
「はぁあ。もういいわ。いいわ。いいよもう。振り乱れて行って、色んなもの振り乱したババアが学校に向かって新たな七不思議に加わってやるわよ。夏汗臭ババアよ。体洗ったばかりなのに。はあ。だけど、だけどあんたもチャリンコで行くんでしょうね!?」
「おれは原付で行く。免許を持ってるからね」
「ひどくない?それひどくない?」
「暑いし」
「おい!」
「日焼けするし、おれは肌が弱いんだ」
「おい!立場逆だろ!」
「大体、頭脳労働と肉体」
「おい!いい加減に」
ふふん、と鼻を鳴らしたあと、イザマは少し真面目になって、
「まあ、寄るところがあるんだよ。大した用事じゃないがね。しかし、時間的に学校でぴったり落ち合うことになるだろう」
と、言った。そして、ここで終わっておけばいいだろうに、
「しかし、君がそんなにまでもおれとサイクリングに勤しみたいとは、気付かなかったなあ」
「いい加減にしろ!」
乙女の悲痛な叫びは、えんぴつビルの階段を伝い、地上口までこだました。
娘に関する必要な情報を写真の裏に書き込むと、「何か知ったら速やかに連絡すること」と言い残し、イザマは階段を降りていった。高梨はジャケットを着込むかどうかしばらく悩んだ。
イザマの寄るところとは、原田の家からの最寄り駅だった。いや、駅ではない。駅前の交番に用があった。
「ああ、すみませんね。ちょっとお訊きしたいことがありまして、昨日、ここいらでずっと何かを見張っていた太めのおばさんを見ませんでしたか?」
この問いに警官は、ああ原田さんね、と答えた。そして一日中、朝方まで立っていた旨を告げた。
「ああ、というと、うちの原田は、有名人、のようですね」
お宅は誰?つい、むざと個人的な情報を吐露してしまった警官はその言葉を呑み、毎回のことですからねえ、と答えた。イザマはコンビニで買った様々な飲料を陣中見舞いと称し、渡すと、
「ご迷惑と思いますが、ひとつよろしく」
と、言って交番をでた。交番を出ると携帯電話が震え、画面に「ここがどこかすらわからない」とだけ、殺風景な野原のように表示されたが、イザマは黙殺して、D学園へと向かった。
イザマがD学園に着いたのは、事務所を出て45分が経過したところだった。下校する生徒達がまばらに現れ、駅へと続く道に吸い込まれていく。正門前で原付を降りると、その時、ちょうど息せき切らし、毛の生えた部位をぐっしょり濡らした高梨が現れて、イザマを睨んだ。ママチャリのかごにはぞんざいにジャケットが詰め込まれていた。正門から見える校舎の中央に据え付けられた時計の針は4時半を指し示している。
「とりあえず、受付だな。おれは担任に話を聞いてくる。君は早速彼氏彼女らに訊き込みを開始してくれ」
「私は、はあ、受付しなくていいの?」
うつむき、日陰を求める高梨にイザマは、
「透明なグローブで隠し玉をする奴はいまい」
と、告げた。
「ああ、そうだ。思い出した。いいか、男はネクタイのモザイクが紺、女はスカーフの色が赤紫、それが高2だ」
「はあ。今更になってそんな重要なことを、落ち合えなかったらって…なんでそんなことを?まさか…あんたみたいな人間が校舎に入っていいわけ?」
「何をまさかと思ったか、考えたくもないが、原田さんから聞いたんだ。勝手に喋ったと言った方が正しいが」
そう言うとイザマは、ふふん、と笑った。
何か知ったら連絡を、どんな小さいことでもいい。そう言って原付を押して校内に入って行くイザマに高梨は小さく、「お前は連絡くれなかったくせに」とつぶやいた。
敏子からの連絡がしっかり通じていたようで、イザマはすんなりと来賓室に通された。来賓室は六畳程のこじんまりとした部屋だった。イザマは腰深く、やつれた革張りの椅子に座った。
「お待たせしました」
満面の笑みを浮かべ現れたアカリの担任は、油断したコソドロみたいな顔をして、いなたい洋品店のマネキンのような格好をした30代後半と見受けられる中肉中背の男だった。
「こちらこそ、お手間をかけまして」
イザマは立ち上がり、軽く会釈をした。担任は何を思ったか握手を求め、イザマを辟易させた。
その頃、高梨は校門前で、イザマの情報通りの生徒を捜していたのだが、通り過ぎ行く生徒達が皆、さようなら、と挨拶してくることに、これまた辟易していた。礼儀のなっている学生達だけど、如何せんこうも挨拶されるとなあ、しかし、その生徒達の挨拶は高梨の後ろにいて、植木の整備をしていた用務員に対して行われていることにはたと気付くと、高梨は所在なさげにふらふらと自転車に乗って駅方面へと向かった。
続
「ふふん。まあ、犯人、と言うには語弊があるか」
「ああ、お母さんが嫌だから家出してるのにってこと?」
「うーむ」
イザマは深くうつむいた。
「もうなんなのよ!むかつくなあ」
高梨は、タタン、と地団太による小気味よいステップを奏でた。
「そうだな。君は色の無い部屋で生活した経験はあるか?」
「はあ?なに?回りくどいのよ。こっちが面倒くさいよ」
「ふむ。では、娘さんの携帯電話を持ってきたあの母親を、君はおかしいと思わないのかね」
「でも、置いて出て行ったんでしょ?」
「うむ、しかし、娘さんは学校に行ったっきり帰ってきていないとも言っていただろう?ということは学校を出て行く前、朝から携帯電話を置いていったんだよ。なぜ携帯電話を置いていく必要がある。わざわざデータを消去してまで置いていくぐらいなら、電源を切って持ち歩いた方がいいじゃないか。娘さんの行動は、発作的な行動にしては計画的過ぎるし、計画的な行動にしては発作的過ぎる」
「ふふふ」
高梨はいたずら妖精のような薄笑いを浮かべた。
「うん?」
「なんでもありませんことよ」
「既に何かある言い回しだが」
「いいから続けなさいよ。そうだ、母親が娘の家出、というか失踪?に関わっているならなんでわざわざ警察はおろか探偵まで雇おうとするのよ?おかしいでしょ普通」
「ふむ。そりゃそうだ」
「当然、こっちに非協力的ってこともないわけでしょ?」
「むしろ進んで色々見せてくれたよ。包み隠さずな。今だって彼女の協力で不審者2名が治外法権の花園に向かうところだ」
「不審者はあんただけだ。で?」
「で?と、言われてもなあ。別に確信に至ったわけじゃなし。でも、なんだかこの件はとてもシンプルなラインに誰かが安っぽい文句で無粋な虚飾を施したかのように感じてならないんだよ」
イザマの目はどんよりと宙を見つめている。
「その誰かが母親だと。ふん。登場人物が探偵と助手を含めて三人なら、推理小説の犯人当ても簡単ね。そもそもただの家出でしょ?年頃の娘が、よくある話じゃない。あのおばさんキャラ濃いし」
「なるほど。確かにその通りだ」
「あらら」
「しかしなあ」
「ケータイだってさ。データなんか簡単に保存して移せるし、今までに何度か警察に届けを出されてるなら、警戒もするわ。電波で捜されちゃうんじゃないの?そのぐらい考えるんじゃないの?」
「おお。それは思いもよりませんでした」
イザマは抑揚なく言った。
「あんたさあ、私をバカにしてるわけ?」
むっとした高梨は顔の横の髪を口にはんだ。
「む、髪の毛傷むぞ」
「ほっとけ。切る。もう切る。今日切る。ぐだぐだに切り裂いてやるんだから」
うら若き乙女がその艶の色濃い髪を切り裂くと言うのに、ふうん、と呑気な相槌を打つイザマ。
「さて、では登場人物を増やしに行くかね」
「はあ。行きたくないなあ。絶対、おばさん扱いされる。ところで、学校ってどこなの?」
「朗報だ」
高梨の質問にイザマはせせら笑うように答えた。
「は?」
「娘さんの学校はD学園。知ってるだろ?ここからなら自転車で、大手町方面にまっすぐ進めば嫌でもわかる。良かったじゃないか。立ちこぎし続けて30分ってところだ」
「はあ!?」
「探偵は小回りが肝心だよ。自転車で向かうといい。都内は自転車で充分だ」
「汗まみれ…汗臭(あせしゅう)…汗臭」
高梨の口から漏れだした言葉は、無意識なのだろう。
「…タクシーとか、公共交通を利用してはいけないのですか!?」
「君はそのお金を誰が払うか知っているのか?母子家庭である原田親子の肩を持つなら、節約しなさい」
先程、敏子にタクシー代を払わせた男の発言とは思えない。
「はぁあ。もういいわ。いいわ。いいよもう。振り乱れて行って、色んなもの振り乱したババアが学校に向かって新たな七不思議に加わってやるわよ。夏汗臭ババアよ。体洗ったばかりなのに。はあ。だけど、だけどあんたもチャリンコで行くんでしょうね!?」
「おれは原付で行く。免許を持ってるからね」
「ひどくない?それひどくない?」
「暑いし」
「おい!」
「日焼けするし、おれは肌が弱いんだ」
「おい!立場逆だろ!」
「大体、頭脳労働と肉体」
「おい!いい加減に」
ふふん、と鼻を鳴らしたあと、イザマは少し真面目になって、
「まあ、寄るところがあるんだよ。大した用事じゃないがね。しかし、時間的に学校でぴったり落ち合うことになるだろう」
と、言った。そして、ここで終わっておけばいいだろうに、
「しかし、君がそんなにまでもおれとサイクリングに勤しみたいとは、気付かなかったなあ」
「いい加減にしろ!」
乙女の悲痛な叫びは、えんぴつビルの階段を伝い、地上口までこだました。
娘に関する必要な情報を写真の裏に書き込むと、「何か知ったら速やかに連絡すること」と言い残し、イザマは階段を降りていった。高梨はジャケットを着込むかどうかしばらく悩んだ。
イザマの寄るところとは、原田の家からの最寄り駅だった。いや、駅ではない。駅前の交番に用があった。
「ああ、すみませんね。ちょっとお訊きしたいことがありまして、昨日、ここいらでずっと何かを見張っていた太めのおばさんを見ませんでしたか?」
この問いに警官は、ああ原田さんね、と答えた。そして一日中、朝方まで立っていた旨を告げた。
「ああ、というと、うちの原田は、有名人、のようですね」
お宅は誰?つい、むざと個人的な情報を吐露してしまった警官はその言葉を呑み、毎回のことですからねえ、と答えた。イザマはコンビニで買った様々な飲料を陣中見舞いと称し、渡すと、
「ご迷惑と思いますが、ひとつよろしく」
と、言って交番をでた。交番を出ると携帯電話が震え、画面に「ここがどこかすらわからない」とだけ、殺風景な野原のように表示されたが、イザマは黙殺して、D学園へと向かった。
イザマがD学園に着いたのは、事務所を出て45分が経過したところだった。下校する生徒達がまばらに現れ、駅へと続く道に吸い込まれていく。正門前で原付を降りると、その時、ちょうど息せき切らし、毛の生えた部位をぐっしょり濡らした高梨が現れて、イザマを睨んだ。ママチャリのかごにはぞんざいにジャケットが詰め込まれていた。正門から見える校舎の中央に据え付けられた時計の針は4時半を指し示している。
「とりあえず、受付だな。おれは担任に話を聞いてくる。君は早速彼氏彼女らに訊き込みを開始してくれ」
「私は、はあ、受付しなくていいの?」
うつむき、日陰を求める高梨にイザマは、
「透明なグローブで隠し玉をする奴はいまい」
と、告げた。
「ああ、そうだ。思い出した。いいか、男はネクタイのモザイクが紺、女はスカーフの色が赤紫、それが高2だ」
「はあ。今更になってそんな重要なことを、落ち合えなかったらって…なんでそんなことを?まさか…あんたみたいな人間が校舎に入っていいわけ?」
「何をまさかと思ったか、考えたくもないが、原田さんから聞いたんだ。勝手に喋ったと言った方が正しいが」
そう言うとイザマは、ふふん、と笑った。
何か知ったら連絡を、どんな小さいことでもいい。そう言って原付を押して校内に入って行くイザマに高梨は小さく、「お前は連絡くれなかったくせに」とつぶやいた。
敏子からの連絡がしっかり通じていたようで、イザマはすんなりと来賓室に通された。来賓室は六畳程のこじんまりとした部屋だった。イザマは腰深く、やつれた革張りの椅子に座った。
「お待たせしました」
満面の笑みを浮かべ現れたアカリの担任は、油断したコソドロみたいな顔をして、いなたい洋品店のマネキンのような格好をした30代後半と見受けられる中肉中背の男だった。
「こちらこそ、お手間をかけまして」
イザマは立ち上がり、軽く会釈をした。担任は何を思ったか握手を求め、イザマを辟易させた。
その頃、高梨は校門前で、イザマの情報通りの生徒を捜していたのだが、通り過ぎ行く生徒達が皆、さようなら、と挨拶してくることに、これまた辟易していた。礼儀のなっている学生達だけど、如何せんこうも挨拶されるとなあ、しかし、その生徒達の挨拶は高梨の後ろにいて、植木の整備をしていた用務員に対して行われていることにはたと気付くと、高梨は所在なさげにふらふらと自転車に乗って駅方面へと向かった。
続
そういや
ピースのインフィニティーでた頃、ロングピース買っても明らかにインフィニティー臭するやつあったよね?バニラ臭いさ。まあどうでもいいんだけど。そういやあの頃はまだタスポ導入前だったなあ。あれ?ひょっとして、今って6月?ウソやだマジそれホント!?うっひょー!6月じゃん6月!じゅーん!じゅんじゅーん!6月!6月!ひゃあこりゃたまげたわい!どおりで最近、「もう1年の半分が過ぎたかあ」「バカ、1から12を指折り数えてみろ」「へ?いちにいさんしいご、あ、今何時?」「6時」「しちはちきゅうじゅうじゅういちじゅうに。あれ、指が奇数!12ヶ月が奇数!ねえ、この場合6月はどうなるの!?6月はどうなるの!?6月はどう扱われるの!?ねえ!ねえ!」って言ってる人が増えたわけだ。天気みたく、白黒つかぬグレー、それが6月。トタン屋根を打つ雨の音が耳優しい季節。それが6月。
ああそうか
北斗晶ブログのトップ画像。あのデンジャラスメイクじゃない方、何かに似てんなあって思ってたら、拙著「アラクネ」に出てくる例の死に顔だね。例の、って言われてもわからないだろうから書くけど、顔に大蜘蛛がへば……まあ、おれのイメージはあんな感じでした。ごめんなさいね。ビバ平和の祭典。