小さじいっぱいのマボロシ(5)
「僕の生徒の原田アカリについてですね」
朝立ちを利用して妻とセックスしていそうな担任は、栗田と名乗った。
「ははあ、まさか先生から名刺を貰うとは、どうも」
イザマは差し出された名刺を片手で受け取った。
「ここは私立ですし、今は自作で簡単に作れますからね」
数学担当と書かれた文面と喜色満面の顔写真、それと目の前で得意気な顔を二度見して、イザマはポケットへ無造作に名刺を突っ込むと、
「ああ、すみません。私はちょうど切らしていまして」
と、ささいな嘘をついて、さっさとソファーに座った。
「私のことは、原田さんから聞かれましたか?」
「ええ、探偵だと」
「ふうん。何か、ヤクザの事務所みたいな部屋ですねえ」
ぼんやりと宙を睨みながらイザマは言い、ポケットからタバコを出した。
「おっと、ここは禁煙ですか?」
「禁煙だったら、灰皿は置いてないでしょう」
それを聞いてイザマはタバコに火をつけ、ふかし、やたらごついガラスの灰皿に灰を落とした。早くも、というべきか、栗田はイザマが社会不適合者であることに感づいた。
その時、イザマの携帯電話が震えた。メール。差出人は高梨。「失礼」と言って、イザマはポチポチと返信した。
「そちらの業界を詳しく存じ上げていませんが、お忙しそうですね」
社交辞令も、
「早速ですが先生、アカリさんが家出をしたのは今回が初めてではないですよね」
イザマには無用なものだった。
「はい」
「警察は、話を訊きに来ませんか」
「彼女がうちに来てから初めての時は来ましたが、どうやら中学時代から繰り返していたようで。彼女は高校からうちに入って来たのですがね」
「そうみたいですね。ということは受験でしょう?ここは馬鹿が入れるような学校ではない。彼女の成績は良いとお母さんから聞きましたが、実際どうですか?」
栗田は少しはにかんで、
「ええ、たまに一週間程休む割に良いですよ。総合成績ではトップクラスとまでは行きませんが、彼女は数学が得意でね。学年で常に五本の指に入る」
「ふうん。数学がねえ」
「ええ、僕が教えてるのですが」
「よく休むが学校の授業にはついていけている、と。ふうん。教師としては、面目丸つぶれですな」
「…学校は、勉強をするだけの場所では無いですから」
明らかに栗田はイザマを「敵対人物」と判断した声の調子だった。それは自身が教師であるという自己欺瞞からくる敵対心だった。
「勉強だけではないと言いましたが、アカリさんの家出に関して、指導はせなんだですか?」
「そりゃしましたよ。当たり前じゃないですか。うちにはスクールカウンセラーもいますしね」
「ほう、今はそんなものまで居るんですか」
「ま、今日は担当日ではないので居ませんが」
「ふうん。先生もアカリさんに指導したのですよね?どういった内容でしたか?」
「僕はカウンセラーじゃありませんけどね、いくら親御さんから頼まれたとしても、守秘義務ってもんがあります。大体あなた、人と喋る時は相手の目を見て喋れと小学校で教わりませんでしたか」
栗田の攻撃的な発言中、またしてもイザマの携帯電話が震え、イザマの視線は携帯電話に注がれた。それは栗田のイライラを増幅させるにはうってつけのタイミングだった。返信を終えるとイザマは、
「ははあ。確かに人の目を見て話せと教わりました。しかし、私は、どうもそれが苦手でね」
「失礼ながらあなたは礼儀がなっていないとお見受けしますが」
言葉は丁寧だが、呆けた生徒に説教を食らわすような、さっきまでの喜色満面の顔を真剣な顔に、油断してないコソドロみたいな顔に栗田はなっている。
「ああいや、私は何も喧嘩をしに来たわけではないのですよ。私が人の目を見て話さないことにも理由があるのです」
そう言うと、イザマは栗田と目を合わせた。栗田は内心ぎょっとした。イザマの捉えどころのない面妖な顔立ちもさることながら、その吸い込まれてしまいそうな深遠なる瞳を向けられると、己のすべてを見透かされてしまっているような気がしたからだ。
「私が人と目を合わせて話すと、私にその意思はないのですが、厄介なことに十中八九その人は怒り出すのですよ。昔からね。私に人の目を見て話せと言った小学校の先生までもです。困っちゃいますよ。ですから、お気になさらないでもらえたら」
「わかりました」
イザマの瞳に呑まれた栗田はそう言うしかなかった。
「差し障りのない程度にその時のアカリさんのことを話してくれませんかね?」
栗田は差し障りのない程度に指導内容を語った。まさしく差し障りのない程度だったので、そこから何かを得ることはなかった。
「ふうん。普段の学校生活、仲の良い友達なんかは?クラス内でのポジションなど」
「それが、彼女は、陰のある子、と言っていいでしょう。男女問わず仲の良い友達はいないと思いますね。どこかのグループに属しているわけでもない。ぼんやりとした子というかのほほんとした子というか、自分の意思を誰かに伝えるのが苦手な子で、と言っても話しかけると純真で、明るく受け答えしてくれるのですが。ですから、たまに家出なんかをして、鬱積した感情を放出させているのではないかと。お母さんには悪いですが、ここだけの話、あ、あなたに守秘義務はありますよね?」
こう見えて根は真面目だと、イザマは栗田に伝えた。
「ここだけの話、僕は彼女の家出を、必要悪、と捉えています。彼女なりに計算をしているのでしょうが、単位を割ることもありませんし、髪を染めたりピアスを空けたり、校則に抵抗するような不良というわけでもない。それどころかさっき言ったように成績も悪くない。正直に言いまして、いくら指導しても態度に変化が表れない無力感からそういう結論に至ったのかもしれませんが、ある程度、彼女を信頼して、自主性に任せるのもいいかと、最近思います」
この時、またしてもイザマの携帯電話が震え、今度は、「ちょっと失礼しますよ」と部屋を出た。
帰って来たイザマは何事もなかったかのように、アカリの行きそうな場所や学校外の生活を訊いた。だが、大した情報はなかった。
最後に、と、イザマは頭につけて、
「生徒からアカリさんの話を直接訊くというのはよろしいですか?」
と、言った。
「うーん、それはどうでしょう。なんせ、色々複雑な年頃ですから」
「わかります。やはり止めといた方がいいでしょうね。アカリさんの為にも」
「はい、出来れば」
「まあ、ただの家出人捜しにそこまでするのもねえ」
「はは」
よし、と言ったあとイザマは、わざとらしく、ああそうだ、と言った。
「ところで、先生、アカリさんは片親ですね。何でも10の頃に父親を亡くしたとか」
「ええ、聞いています」
「私は、お父さんの遺影を見たのですがね。どこか、いや、雰囲気とでも言いましょうか、あなたに似ていますね」
「はあ。それが何か」
「ああいった環境の娘さんは得てして誰かに母性、じゃない、父性を求めるものではありませんか。大概、一度は年上の人を好きになるものです」
「…なにが言いたいのですか」
「いやね、彼女は数学が得意なのでしょう?私も経験がありますが、どうも好きな先生の教科は得意になるものではありませんか?アカリさんはあなたに対し、特別な感情を抱いていたのではないですか?」
「そんな、確かに比較的友好な、しかしそんなこと思いもしませんでした」
「思いもしない?教師に恋慕するなど、よくある話じゃないですか。別に悪いと言ってるわけではありません。あなたぐらいベテランなら、今までに一度や二度あったでしょう」
「はは、僕をよく見てくださいよ。モテると思いますか?僕は陰で悪口を叩かれるような嫌われ役担当なんですよ。言わば、はけ口なんです。それに結婚だってしてる」
「ほう」
イザマは不意に栗田と視線を交わした。
「なるほど確かに、異性から興味を惹くような方とお見受けはできませんね」
イザマの目に射抜かれた栗田は、はは、と苦笑いを浮かべるので精一杯だった。
「先程、私は人の目を見て話すのが苦手だと言いましたね」
「はあ、人を怒らせてしまうと」
「怒らせてしまうこととというのは、結果であって理由ではないですよね。実はね、先生。私がなぜ人と目を話すことが苦手かと言いますと、必要以上の情報を相手から読み取ってしまうからなのですよ。感情や思考、相手が今どんなことを思っているのか考えているのか、人一倍わかってしまう。空気を読むという感覚に、これでも、優れているようで。まだまだ純粋な子供の頃はそれで怒られた。相手の思っていることをずけずけと言っちゃってね。これは結構、私みたいに臆病な人間には酷なことでありまして。普段は耳からしか相手の情報を読み取らないようにしておるのです」
「そんなこと、あるわけないじゃないですか」
栗田は一瞬顔を右に向けた。
「なにも私がテレパスやサトリの化け物だと言っているわけではないのですよ先生。例えば、わかりやす過ぎることですが、今あなたは瞳を軽く右上に動かした。心理学やら生理心理学やらでその行動をなんていうか知りませんがね。これは記憶を探っているのです。そしてさらに、あなたは顔を横に向けた。無意識下で辺りを警戒したんですよ。とまあ、こういったことのように、数学の天才には数字を色や図形として認識している人がいるというではないですか。複雑な計算の答えが、計算式を飛ばして一瞬で頭の中に浮かぶという、計算ではなく頭の中で図形が融合すると自然に答えが出てくるという人がね。それと似ています。私も、あまり説明出来ませんが、小さな挙動、瞳孔の輝きや大小や揺れ、瞼の動き、眉の動き、呼吸の粘り具合、僅かな顔の筋肉の動き、そういったものを見ると、結果だけ私に訴えてくる。今もまさにそうで、まあ、あなたが考えていること一言一句わかるわけじゃありませんが、あなたは人の吐く息に色があるということを知っていますか?今、先生、あなたの息は、赤い。すなわち、己の身にとって危険な環境の下にいる、ということです。ほら、ま
た、一層赤くなった」
続
朝立ちを利用して妻とセックスしていそうな担任は、栗田と名乗った。
「ははあ、まさか先生から名刺を貰うとは、どうも」
イザマは差し出された名刺を片手で受け取った。
「ここは私立ですし、今は自作で簡単に作れますからね」
数学担当と書かれた文面と喜色満面の顔写真、それと目の前で得意気な顔を二度見して、イザマはポケットへ無造作に名刺を突っ込むと、
「ああ、すみません。私はちょうど切らしていまして」
と、ささいな嘘をついて、さっさとソファーに座った。
「私のことは、原田さんから聞かれましたか?」
「ええ、探偵だと」
「ふうん。何か、ヤクザの事務所みたいな部屋ですねえ」
ぼんやりと宙を睨みながらイザマは言い、ポケットからタバコを出した。
「おっと、ここは禁煙ですか?」
「禁煙だったら、灰皿は置いてないでしょう」
それを聞いてイザマはタバコに火をつけ、ふかし、やたらごついガラスの灰皿に灰を落とした。早くも、というべきか、栗田はイザマが社会不適合者であることに感づいた。
その時、イザマの携帯電話が震えた。メール。差出人は高梨。「失礼」と言って、イザマはポチポチと返信した。
「そちらの業界を詳しく存じ上げていませんが、お忙しそうですね」
社交辞令も、
「早速ですが先生、アカリさんが家出をしたのは今回が初めてではないですよね」
イザマには無用なものだった。
「はい」
「警察は、話を訊きに来ませんか」
「彼女がうちに来てから初めての時は来ましたが、どうやら中学時代から繰り返していたようで。彼女は高校からうちに入って来たのですがね」
「そうみたいですね。ということは受験でしょう?ここは馬鹿が入れるような学校ではない。彼女の成績は良いとお母さんから聞きましたが、実際どうですか?」
栗田は少しはにかんで、
「ええ、たまに一週間程休む割に良いですよ。総合成績ではトップクラスとまでは行きませんが、彼女は数学が得意でね。学年で常に五本の指に入る」
「ふうん。数学がねえ」
「ええ、僕が教えてるのですが」
「よく休むが学校の授業にはついていけている、と。ふうん。教師としては、面目丸つぶれですな」
「…学校は、勉強をするだけの場所では無いですから」
明らかに栗田はイザマを「敵対人物」と判断した声の調子だった。それは自身が教師であるという自己欺瞞からくる敵対心だった。
「勉強だけではないと言いましたが、アカリさんの家出に関して、指導はせなんだですか?」
「そりゃしましたよ。当たり前じゃないですか。うちにはスクールカウンセラーもいますしね」
「ほう、今はそんなものまで居るんですか」
「ま、今日は担当日ではないので居ませんが」
「ふうん。先生もアカリさんに指導したのですよね?どういった内容でしたか?」
「僕はカウンセラーじゃありませんけどね、いくら親御さんから頼まれたとしても、守秘義務ってもんがあります。大体あなた、人と喋る時は相手の目を見て喋れと小学校で教わりませんでしたか」
栗田の攻撃的な発言中、またしてもイザマの携帯電話が震え、イザマの視線は携帯電話に注がれた。それは栗田のイライラを増幅させるにはうってつけのタイミングだった。返信を終えるとイザマは、
「ははあ。確かに人の目を見て話せと教わりました。しかし、私は、どうもそれが苦手でね」
「失礼ながらあなたは礼儀がなっていないとお見受けしますが」
言葉は丁寧だが、呆けた生徒に説教を食らわすような、さっきまでの喜色満面の顔を真剣な顔に、油断してないコソドロみたいな顔に栗田はなっている。
「ああいや、私は何も喧嘩をしに来たわけではないのですよ。私が人の目を見て話さないことにも理由があるのです」
そう言うと、イザマは栗田と目を合わせた。栗田は内心ぎょっとした。イザマの捉えどころのない面妖な顔立ちもさることながら、その吸い込まれてしまいそうな深遠なる瞳を向けられると、己のすべてを見透かされてしまっているような気がしたからだ。
「私が人と目を合わせて話すと、私にその意思はないのですが、厄介なことに十中八九その人は怒り出すのですよ。昔からね。私に人の目を見て話せと言った小学校の先生までもです。困っちゃいますよ。ですから、お気になさらないでもらえたら」
「わかりました」
イザマの瞳に呑まれた栗田はそう言うしかなかった。
「差し障りのない程度にその時のアカリさんのことを話してくれませんかね?」
栗田は差し障りのない程度に指導内容を語った。まさしく差し障りのない程度だったので、そこから何かを得ることはなかった。
「ふうん。普段の学校生活、仲の良い友達なんかは?クラス内でのポジションなど」
「それが、彼女は、陰のある子、と言っていいでしょう。男女問わず仲の良い友達はいないと思いますね。どこかのグループに属しているわけでもない。ぼんやりとした子というかのほほんとした子というか、自分の意思を誰かに伝えるのが苦手な子で、と言っても話しかけると純真で、明るく受け答えしてくれるのですが。ですから、たまに家出なんかをして、鬱積した感情を放出させているのではないかと。お母さんには悪いですが、ここだけの話、あ、あなたに守秘義務はありますよね?」
こう見えて根は真面目だと、イザマは栗田に伝えた。
「ここだけの話、僕は彼女の家出を、必要悪、と捉えています。彼女なりに計算をしているのでしょうが、単位を割ることもありませんし、髪を染めたりピアスを空けたり、校則に抵抗するような不良というわけでもない。それどころかさっき言ったように成績も悪くない。正直に言いまして、いくら指導しても態度に変化が表れない無力感からそういう結論に至ったのかもしれませんが、ある程度、彼女を信頼して、自主性に任せるのもいいかと、最近思います」
この時、またしてもイザマの携帯電話が震え、今度は、「ちょっと失礼しますよ」と部屋を出た。
帰って来たイザマは何事もなかったかのように、アカリの行きそうな場所や学校外の生活を訊いた。だが、大した情報はなかった。
最後に、と、イザマは頭につけて、
「生徒からアカリさんの話を直接訊くというのはよろしいですか?」
と、言った。
「うーん、それはどうでしょう。なんせ、色々複雑な年頃ですから」
「わかります。やはり止めといた方がいいでしょうね。アカリさんの為にも」
「はい、出来れば」
「まあ、ただの家出人捜しにそこまでするのもねえ」
「はは」
よし、と言ったあとイザマは、わざとらしく、ああそうだ、と言った。
「ところで、先生、アカリさんは片親ですね。何でも10の頃に父親を亡くしたとか」
「ええ、聞いています」
「私は、お父さんの遺影を見たのですがね。どこか、いや、雰囲気とでも言いましょうか、あなたに似ていますね」
「はあ。それが何か」
「ああいった環境の娘さんは得てして誰かに母性、じゃない、父性を求めるものではありませんか。大概、一度は年上の人を好きになるものです」
「…なにが言いたいのですか」
「いやね、彼女は数学が得意なのでしょう?私も経験がありますが、どうも好きな先生の教科は得意になるものではありませんか?アカリさんはあなたに対し、特別な感情を抱いていたのではないですか?」
「そんな、確かに比較的友好な、しかしそんなこと思いもしませんでした」
「思いもしない?教師に恋慕するなど、よくある話じゃないですか。別に悪いと言ってるわけではありません。あなたぐらいベテランなら、今までに一度や二度あったでしょう」
「はは、僕をよく見てくださいよ。モテると思いますか?僕は陰で悪口を叩かれるような嫌われ役担当なんですよ。言わば、はけ口なんです。それに結婚だってしてる」
「ほう」
イザマは不意に栗田と視線を交わした。
「なるほど確かに、異性から興味を惹くような方とお見受けはできませんね」
イザマの目に射抜かれた栗田は、はは、と苦笑いを浮かべるので精一杯だった。
「先程、私は人の目を見て話すのが苦手だと言いましたね」
「はあ、人を怒らせてしまうと」
「怒らせてしまうこととというのは、結果であって理由ではないですよね。実はね、先生。私がなぜ人と目を話すことが苦手かと言いますと、必要以上の情報を相手から読み取ってしまうからなのですよ。感情や思考、相手が今どんなことを思っているのか考えているのか、人一倍わかってしまう。空気を読むという感覚に、これでも、優れているようで。まだまだ純粋な子供の頃はそれで怒られた。相手の思っていることをずけずけと言っちゃってね。これは結構、私みたいに臆病な人間には酷なことでありまして。普段は耳からしか相手の情報を読み取らないようにしておるのです」
「そんなこと、あるわけないじゃないですか」
栗田は一瞬顔を右に向けた。
「なにも私がテレパスやサトリの化け物だと言っているわけではないのですよ先生。例えば、わかりやす過ぎることですが、今あなたは瞳を軽く右上に動かした。心理学やら生理心理学やらでその行動をなんていうか知りませんがね。これは記憶を探っているのです。そしてさらに、あなたは顔を横に向けた。無意識下で辺りを警戒したんですよ。とまあ、こういったことのように、数学の天才には数字を色や図形として認識している人がいるというではないですか。複雑な計算の答えが、計算式を飛ばして一瞬で頭の中に浮かぶという、計算ではなく頭の中で図形が融合すると自然に答えが出てくるという人がね。それと似ています。私も、あまり説明出来ませんが、小さな挙動、瞳孔の輝きや大小や揺れ、瞼の動き、眉の動き、呼吸の粘り具合、僅かな顔の筋肉の動き、そういったものを見ると、結果だけ私に訴えてくる。今もまさにそうで、まあ、あなたが考えていること一言一句わかるわけじゃありませんが、あなたは人の吐く息に色があるということを知っていますか?今、先生、あなたの息は、赤い。すなわち、己の身にとって危険な環境の下にいる、ということです。ほら、ま
た、一層赤くなった」
続