からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -11ページ目

勇者と段々崩壊していく世界

急いで非常階段をあとにする。何事もなくそれはできた。できたはいいけど、どうしよう。じっとしていられないけど、マリネの部屋近くをうろつくのは危険すぎる。さっき見た女の子が私の敵であったなら、マリネのように戦えない私には為すすべもない。さっき見た女の子がマリネの新しい女であったなら、私はどうすればいいのかわからない。確かめたい。全部をこの目でを確かめたい。でも、そのためにどうすればいいのか、わからない。いままでに私が抱えてきた悩みごとなら、誰かに相談すれば、解決した。さびしくなったら誰かに甘えて、さびしくなくなった。誰かとしゃべって、誰かに優しくされて、誰かに私をおおう嫌な気持ちを引っ掛ければ、すぐに気持ちを切りかえることができた。でも今度はそうできない。私が、ひとりで…。
駅まで戻ることにした。風俗店のスカウトと思われる男に声をかけられた。いっそついて行ってしまおうかと思ったけれど、その勇気はなかった。
駅でぼーっとしていると、いろいろなことが頭に浮かんでは消えた。人はみな、多かれ少なかれ悩みを抱えている。マリネはきっと、自分の悩みに比べれば私の悩みなんて極々ちいさなことだ、と認識している。その通りだと思う。でも私だって、私にとって、その悩みは決してちいさな問題じゃない。私はマリネに何をしたのだろう。マリネは私に何をしてくれただろう。マリネに服を買ってあげた。下手をするとマリネは何年も同じ服を着ているから。寒い時期には、私が選んだ帽子や手袋をあげた。マリネは、よく私をほめてくれていた。くだらない冗談を言っては、いつも何かにつけ私を笑わせようとした。私があげた服や帽子もすぐに身につけてくれた。私はうれしくなった。マリネはたまに期限が悪くなった。もちろん何もしゃべらなくなる前のマリネが、だ。
私の住む駅でマリネと待ち合わせをすることがよくあった。マリネは待ち合わせ時間の10分ぐらい前には到着していて、私を待っている。私は駅まで歩いて数分のところに住んでいるから、待ち合わせ時間のぎりぎりに家を出る。外で待つ、なんてことは無意味な時間だから、したくなかった。そういうことが何回も続くと、マリネの機嫌は段々と悪くなっていく。そして、私に文句をつける日がくる。文句を言った次のデートの時に、マリネは、ごめん、と謝ってくる。私は、マリネに言われたことをなおさず、またそれを繰り返し、マリネの機嫌が段々と悪くなっていく。
どうして君は俺の言うことを聞かない。もっとしゃべってよ、だと?、何を言っても無駄じゃないか。何をしゃべっても聞いてくれないじゃないか。何を言っても何もなおさないじゃないか。どうすればいいんだ?、俺はどうすればいいのか教えてくれよ。同じことされなきゃわからないのか?
待ち合わせの件などは一端で、私のわがままでマリネの機嫌が悪くなると、だいたい決まって同じことを言われた。私だって、私のわがままでマリネの機嫌が悪くなっているとは認識できていた。でも、マリネは、普段のマリネは、私のわがままを許容してくれていた。いま思えば、私のわがままを受け入れてくれるマリネだから私は好きになった、そのことをマリネはよく知っていたに違いない…。私のために、マリネは我慢をして、私はそんな状況でいることが、私だけ、とても都合が良くて心地の良い環境だった。たまに文句や、お前の将来が心配だから、と、注意を言われるけれど、次に会えば、マリネは笑って許してくれる。
男と遊んでも、浮気をしても、そんな私のわがままも、マリネなら許してくれるとどこかで思っていた。私がバカだった。マリネはもう私を愛してくれない。
マリネは私のことをよく知っていた。私の地元以外の場所で待ち合わせをすると、マリネが待ち合わせ時間までふらふらと暇つぶしをしている私を見つけ出すことがよくあった。私が何を考えているかもよく当てて、わかりやすすぎるよ、と、笑ってみせた。私はその逆で、マリネが何を考えているのかもわからなかった。マリネに文句を言われたり注意をされると、なんでマリネはこんなにキツいことを私に言うんだろう、と思った。好きな人にどうして優しくしないのだろう、と。
本を読め、よく考えてから口にだせ、自分のことだけじゃなく、人の気持ちを少しは考えろ、世の中は危険に満ちているから危険から遠ざかる工夫をしろ、本を読め。マリネに言われたことを、マリネの前で私が実践することはなかった。本を読むのはつまらないし、マリネから薦められる本にはまったく興味がわかなかった。やっぱり考える前に口にでちゃうし、私は毎日なんだかんだ楽しいから世の中にそんなに多くの危険があるとは思わなかったし、私が危険な状況になるとも思わなかった。だけどいまの私はその危険に、命を危険にさらしているような状況に陥っている。私はバカだから、マリネの話をよく聞いておかなかったから、抗うすべをひとつも知らない。マリネから助言が欲しい。文句を言われても、あきれられても、怒られても、今度はマリネの本気をちゃんと受けとめられるのに、マリネはもういない。それができないから、必死でマリネなら身を守るため次にどう行動するかを考えようとするけど、私はマリネのことを、よく知らない…。
いまさら仕事に行く気はなく、家族に仕事に行かなかったことやらで何を言われるか考えると、家に帰る気にもなれない。一週間ほど旅行に行きます、とだけ書いた手紙を家に送って、私はとにかくマリネと行った場所を練り歩いた。何も手がかりのないまま夜になって、私は親友の家に泊まることにした。親友は、急にどうしたの?、ときいてきたけど、私ははぐらかした。
次の日、そういえばマリネは私と歓楽街に行きたがらなかったな、と、思いつきそこに何かあるのかと、一日中歓楽街にいたが何もなかった。
やっぱりマリネの部屋に行かなきゃ、マリネの最寄駅に居なきゃ、私の家の前に行かなきゃ、あの山に篭ったことがあるって言ってた、行かなきゃ、会いたいから、行かなきゃ。
親友の部屋を宿代わりに、私は一週間マリネを探した。けれど、マリネの影さえ見つからなかった。
もうトッツクポーリに向かったのだろうか。だとしたら、やっぱり私もトッツクポーリに向かわなければならないのだろうか。向かわなければいけないのだろうか、という私の思考を、私は呪い、私は向かうことに決めた。そんな時、勇気ある者の招集が再び公布された。もしかしたらマリネはこれに参加するかもしれない。私の前に一筋の光明が出現した。それに戦うすべをもたない私が、確実に、トッツクポーリへたどり着き、マリネを探すにはひとりでは無理な話に思えた。私は参加することに決めた。このことは親友にも、家族にも、誰にも言わなかった。

かっこを

カギカッコを使わないかわりに段落をつけていたつもり、だったのですが、そうでもなかったことにいま気がつきました。

よみづれーだけじゃん
でもカギカッコつーかわーないー
なーおさーないー
( ´Д`)y━・~~

21回目の更新

数えてみたら21回目でした。

いちいち数えるぐらいだったら通し番号つけろ、と百万人の読者諸氏は思われるでしょうが、


いちいち書きくわえるのめんどくさいじゃん。
( ̄(工) ̄)

勇者と段々崩壊していく世界

マリネと別れたあと、家に帰って覆水盆に返らずの意味を調べた。マリネは今、命を狙われていて、逃げている。もう二度と会えない。けど、会いたい。会ったとしても、もう以前のようにマリネは笑ってくれないだろう。地にこぼれた水はもう二度と同じ場所に、同じ量で戻らない。だけどもう一度会って、ちゃんと謝って、マリネと話をしたい。また罵倒され続けてもいい。もう一度だけでいい。会いたい。マリネの顔を見たい。出来ればマリネに好きだと言って欲しい…。
マリネは今もどこかで誰かから逃げている。大丈夫だろうか。捕まってはいないだろうか、拷問されてはいないだろうか。やられてはいないだろうか。お金を持っていないのに、ご飯は食べているのだろうか。どこで寝ているのだろう。私が誰かに殺されるというのならマリネに殺されたい。マリネのためになって死にたい。
じっとしていられなくなって、夜中に家をでた。アパートの前にマリネがいるんじゃないか。駅前にいるんじゃないか。よく行った喫茶店にいるんじゃないか。ラブホ通りで私が出てこないか見張っているんじゃないか。どこかで私を探しているんじゃないか。
どこを探しても、マリネの姿を見ることはなかった。途方に暮れて、足を止めたとき、マリネが知り合いの盗賊に身分を都合してもらう、と言っていたことを思い出した。きっともう盗賊のところに行ったのだろう。マリネはちゃんと考えて動く人だから、むざむざ危険を冒しはしない。この町にマリネはいない。なら家に帰ろうと思った。家に向かって歩きはじめると、無意味に歩き続けて疲れたから家に帰りたくなっただけだろう?、と、私の中の誰かがいった。私は悔しくなって、また無意味にマリネを探した。朝まで駅でマリネを待ってみた。待つ、のはとてもつらかった。マリネがいないかずっとあたりをきょろきょろと見渡して、やっぱり家の前にいるんじゃないかと、何度も家の前と駅を往復した。一度の往復に数分しかかからなくて、でもその数分すらマリネとどこかですれ違っていないかと不安で、マリネがこの町にいないとわかっていても、絶対という証拠はないから、いるかもしれないと信じて、マリネを探し続けた。結局始発が出てしばらくしても、マリネの姿は見つからなかった。もう家に帰って、仕事に行かなくてはいけない…。
家族には何も言わなかった。言いたくなかったし、何をどう言えばいいかわからなかった。家に帰るとママが、毎日朝帰りで大変だね、と、皮肉をきかして言ってきた。普段なら言いかえすけど、些細なことでマリネと喧嘩した
日だって元気に何か言いかえしていたけど、私は何も返事をせず、無言で湯を浴びにいった。口をつぐんだ私をいぶかしむママの顔が、私をママが思っている以上に苦しめた。
準備をして、朝ご飯も食べた。味がしなかった。仕事になんか行きたくはない。だけど、行かなくてはならない。
駅の改札口まできた。一昨日までここから数駅先の駅で同期の彼と合流して、一緒に仕事場まで楽しくむかった。一緒に楽しく仕事をして、一緒に楽しく遊んで、一緒に飲んで、一緒にホテルにいった。
その間マリネはずっと私をどこかで、待って、いたに違いない。毎日毎日、私を待っていたに違いない。今日、私が待っていたように、ずっと苦しんで、苦しんで、待たせる私を、来ない私を憎んで、私がその時間に楽しんでいると知っていながら、それでも待ち続けていたに違いない。毎日、毎日。マリネに抱かれている時に私が顔をマフラーで覆うようになった理由さえ、マリネはわかっていたのだろうか。つらいなあ。それってつらいなあ。
気がつくと私は仕事場とは反対方面行きの馬カゴに乗っていた。マリネが、自分の部屋に戻ってくることは、あまり考えられるマリネの行動ではない。最後に会ったあの日には、すでに多くの荷物をリュックにつめていたし、逃亡中にむざと部屋に戻るようなバカなリスクを慎重なマリネはとらない。でも私はバカだから、マリネの部屋の前で待つことしか、マリネに会えるチャンス、がわからない。その結果私の身になにが起こるか、そんなことはバカだから考えない。私はバカだから、バカで死ぬことになってもかまわない。頭のどこかでマリネの、いい加減にしろ、という最後の声が聴こえたけれど、じっとしていられない。
最寄駅に着き、それとなくきょろきょろと辺りを見渡す。通勤客でいっぱいの、いつもの駅だ。マリネの部屋までは駅から20分ほど歩かなくてはならない。歩いているときも、できるだけ自然に辺りを見渡す。でも、マリネや、警官や、怪しい人物は見つからなかった。
マリネのアパートの前にたどり着く。私の予想に反して、アパートには警官もいなければ、立入禁止、の措置もとられてはいなかった。そこには住宅街の片隅にある寂れたアパートが、日常の中に息づいているだけだった。
マリネが死体を見つけたのは一昨日のこと。ひょっとしたら、まだ死体は陽の目を見ていないのかもしれない。積もった雪が、まだマリネを守っているのかもしれない。そう思って、ベランダが見える方に歩いた。マリネの部屋は一階だけど、さすがに通りからマリネの部屋のベランダの中まで見通すことはできなかった。アパートを囲む柵の上に立てば見えるだろうか、と考えながら、私はまた辺りを、今度は何か都合のいい高さを求めて、きょろきょろとした。きょろきょろと辺りをうかがってみるもので、ちょうどマリネのベランダが覗けそうな位置に、背の高いマンションの非常階段を見つけることができた。
腰ぐらいの高さの柵を乗り越えることで、容易に非常階段を登り始めることができた。
なるべく足音がたたないように、私は階段を登っていく。二階を過ぎたあたりで、私の顔の横を白いものが舞い落ちていった。雪に降られるのはいやだなと思い、空を見たが、どうやら雪ではない。手すりから少し身を乗り出して上を見ると、三階と四階の間の踊り場で誰かが手すりに肘を預けてタバコを吸っているのが見えた。さっきの白いのは灰だったのかと納得した。と、同時に、その人が私の方をちらりと覗きこんだ。フードをかぶったかわいい女の子だった。女の子の右手に何かが日の光を反射してキラリと光った。すると、女の子は姿を消した。
今日はじめてみる怪しい人物だった。だけど、さすがにあの女の子を警戒する必要もないだろうと、私は階段を登った。
女の子のいた踊り場には数本タバコの吸殻が捨てられていた。私の鼻にタバコの残り香がついた。よく知る匂いだった。吸殻を拾ってよく見ると、マリネと同じ種類のタバコだった。私ははっとして、女の子の行方を上下左右きょろきょろと探ったけれど、女の子は見つからなかった。
ついでに踊り場からマリネの部屋を見ると、ベランダの中まで見通すことができた。私はそれを確かめると、上の階に向かい、マリネの部屋をみた。上の階からだと、ベランダの中まで見えないこともないが、手前側に死角が生じていた。さっきの場所がベストポジションなのだ。あの女の子は、マリネの部屋を、ベランダを、見ていたに違いない。手の中で光ったものは、小さな遠眼鏡だ。
殺される?
私は怖くなった。膝が寒さだけのわけじゃなく、がたがたと震えた。
殺されてもいいって決めたのに…。
少し経つと私は恐怖よりも情けなさに打ち震えた。
私が勝手に震えているだけで、何も起こらないので、段々と頭が回りはじめた。そもそも本当に私の推測は合っているのか。女の子はただたまたまタバコをそこで吸っていただけじゃないのか。合っていたとして、なぜ女の子は姿を消したのか。私がマリネと恋人だったとマリネを追っている者は知らない?、あの女の子はひょっとしたら、マリネ側の人間?、マリネは女と一緒にいる?、マリネの新しい恋人?、やっぱりもう私は…。
ばたん、とどこかのドアが閉まる音がして、私は、そんなことを考えている場合ではないことを思い出した。こんなときにマリネだったらどうするか、やっぱりこの場から逃げることを考えるだろう。逃げる前に、何かひとつでも情報を得ようとするだろう。私は急いでベストポジションまで移動し、ベランダを覗き込むように見た。死体らしきものはなかった。何もなかった。他の部屋のベランダには雪が満遍なく積もっているのに、マリネの部屋のベランダは、所々雪がはげ、床さえ見える。バカな私でも、誰かが死体を運びだしたことはわかった。

続・まさかの

まさかのバトンタッチという…ね…


ほんとどうしよ…
(-.-;)y-~~~