勇者と段々崩壊していく世界
急いで非常階段をあとにする。何事もなくそれはできた。できたはいいけど、どうしよう。じっとしていられないけど、マリネの部屋近くをうろつくのは危険すぎる。さっき見た女の子が私の敵であったなら、マリネのように戦えない私には為すすべもない。さっき見た女の子がマリネの新しい女であったなら、私はどうすればいいのかわからない。確かめたい。全部をこの目でを確かめたい。でも、そのためにどうすればいいのか、わからない。いままでに私が抱えてきた悩みごとなら、誰かに相談すれば、解決した。さびしくなったら誰かに甘えて、さびしくなくなった。誰かとしゃべって、誰かに優しくされて、誰かに私をおおう嫌な気持ちを引っ掛ければ、すぐに気持ちを切りかえることができた。でも今度はそうできない。私が、ひとりで…。
駅まで戻ることにした。風俗店のスカウトと思われる男に声をかけられた。いっそついて行ってしまおうかと思ったけれど、その勇気はなかった。
駅でぼーっとしていると、いろいろなことが頭に浮かんでは消えた。人はみな、多かれ少なかれ悩みを抱えている。マリネはきっと、自分の悩みに比べれば私の悩みなんて極々ちいさなことだ、と認識している。その通りだと思う。でも私だって、私にとって、その悩みは決してちいさな問題じゃない。私はマリネに何をしたのだろう。マリネは私に何をしてくれただろう。マリネに服を買ってあげた。下手をするとマリネは何年も同じ服を着ているから。寒い時期には、私が選んだ帽子や手袋をあげた。マリネは、よく私をほめてくれていた。くだらない冗談を言っては、いつも何かにつけ私を笑わせようとした。私があげた服や帽子もすぐに身につけてくれた。私はうれしくなった。マリネはたまに期限が悪くなった。もちろん何もしゃべらなくなる前のマリネが、だ。
私の住む駅でマリネと待ち合わせをすることがよくあった。マリネは待ち合わせ時間の10分ぐらい前には到着していて、私を待っている。私は駅まで歩いて数分のところに住んでいるから、待ち合わせ時間のぎりぎりに家を出る。外で待つ、なんてことは無意味な時間だから、したくなかった。そういうことが何回も続くと、マリネの機嫌は段々と悪くなっていく。そして、私に文句をつける日がくる。文句を言った次のデートの時に、マリネは、ごめん、と謝ってくる。私は、マリネに言われたことをなおさず、またそれを繰り返し、マリネの機嫌が段々と悪くなっていく。
どうして君は俺の言うことを聞かない。もっとしゃべってよ、だと?、何を言っても無駄じゃないか。何をしゃべっても聞いてくれないじゃないか。何を言っても何もなおさないじゃないか。どうすればいいんだ?、俺はどうすればいいのか教えてくれよ。同じことされなきゃわからないのか?
待ち合わせの件などは一端で、私のわがままでマリネの機嫌が悪くなると、だいたい決まって同じことを言われた。私だって、私のわがままでマリネの機嫌が悪くなっているとは認識できていた。でも、マリネは、普段のマリネは、私のわがままを許容してくれていた。いま思えば、私のわがままを受け入れてくれるマリネだから私は好きになった、そのことをマリネはよく知っていたに違いない…。私のために、マリネは我慢をして、私はそんな状況でいることが、私だけ、とても都合が良くて心地の良い環境だった。たまに文句や、お前の将来が心配だから、と、注意を言われるけれど、次に会えば、マリネは笑って許してくれる。
男と遊んでも、浮気をしても、そんな私のわがままも、マリネなら許してくれるとどこかで思っていた。私がバカだった。マリネはもう私を愛してくれない。
マリネは私のことをよく知っていた。私の地元以外の場所で待ち合わせをすると、マリネが待ち合わせ時間までふらふらと暇つぶしをしている私を見つけ出すことがよくあった。私が何を考えているかもよく当てて、わかりやすすぎるよ、と、笑ってみせた。私はその逆で、マリネが何を考えているのかもわからなかった。マリネに文句を言われたり注意をされると、なんでマリネはこんなにキツいことを私に言うんだろう、と思った。好きな人にどうして優しくしないのだろう、と。
本を読め、よく考えてから口にだせ、自分のことだけじゃなく、人の気持ちを少しは考えろ、世の中は危険に満ちているから危険から遠ざかる工夫をしろ、本を読め。マリネに言われたことを、マリネの前で私が実践することはなかった。本を読むのはつまらないし、マリネから薦められる本にはまったく興味がわかなかった。やっぱり考える前に口にでちゃうし、私は毎日なんだかんだ楽しいから世の中にそんなに多くの危険があるとは思わなかったし、私が危険な状況になるとも思わなかった。だけどいまの私はその危険に、命を危険にさらしているような状況に陥っている。私はバカだから、マリネの話をよく聞いておかなかったから、抗うすべをひとつも知らない。マリネから助言が欲しい。文句を言われても、あきれられても、怒られても、今度はマリネの本気をちゃんと受けとめられるのに、マリネはもういない。それができないから、必死でマリネなら身を守るため次にどう行動するかを考えようとするけど、私はマリネのことを、よく知らない…。
いまさら仕事に行く気はなく、家族に仕事に行かなかったことやらで何を言われるか考えると、家に帰る気にもなれない。一週間ほど旅行に行きます、とだけ書いた手紙を家に送って、私はとにかくマリネと行った場所を練り歩いた。何も手がかりのないまま夜になって、私は親友の家に泊まることにした。親友は、急にどうしたの?、ときいてきたけど、私ははぐらかした。
次の日、そういえばマリネは私と歓楽街に行きたがらなかったな、と、思いつきそこに何かあるのかと、一日中歓楽街にいたが何もなかった。
やっぱりマリネの部屋に行かなきゃ、マリネの最寄駅に居なきゃ、私の家の前に行かなきゃ、あの山に篭ったことがあるって言ってた、行かなきゃ、会いたいから、行かなきゃ。
親友の部屋を宿代わりに、私は一週間マリネを探した。けれど、マリネの影さえ見つからなかった。
もうトッツクポーリに向かったのだろうか。だとしたら、やっぱり私もトッツクポーリに向かわなければならないのだろうか。向かわなければいけないのだろうか、という私の思考を、私は呪い、私は向かうことに決めた。そんな時、勇気ある者の招集が再び公布された。もしかしたらマリネはこれに参加するかもしれない。私の前に一筋の光明が出現した。それに戦うすべをもたない私が、確実に、トッツクポーリへたどり着き、マリネを探すにはひとりでは無理な話に思えた。私は参加することに決めた。このことは親友にも、家族にも、誰にも言わなかった。
駅まで戻ることにした。風俗店のスカウトと思われる男に声をかけられた。いっそついて行ってしまおうかと思ったけれど、その勇気はなかった。
駅でぼーっとしていると、いろいろなことが頭に浮かんでは消えた。人はみな、多かれ少なかれ悩みを抱えている。マリネはきっと、自分の悩みに比べれば私の悩みなんて極々ちいさなことだ、と認識している。その通りだと思う。でも私だって、私にとって、その悩みは決してちいさな問題じゃない。私はマリネに何をしたのだろう。マリネは私に何をしてくれただろう。マリネに服を買ってあげた。下手をするとマリネは何年も同じ服を着ているから。寒い時期には、私が選んだ帽子や手袋をあげた。マリネは、よく私をほめてくれていた。くだらない冗談を言っては、いつも何かにつけ私を笑わせようとした。私があげた服や帽子もすぐに身につけてくれた。私はうれしくなった。マリネはたまに期限が悪くなった。もちろん何もしゃべらなくなる前のマリネが、だ。
私の住む駅でマリネと待ち合わせをすることがよくあった。マリネは待ち合わせ時間の10分ぐらい前には到着していて、私を待っている。私は駅まで歩いて数分のところに住んでいるから、待ち合わせ時間のぎりぎりに家を出る。外で待つ、なんてことは無意味な時間だから、したくなかった。そういうことが何回も続くと、マリネの機嫌は段々と悪くなっていく。そして、私に文句をつける日がくる。文句を言った次のデートの時に、マリネは、ごめん、と謝ってくる。私は、マリネに言われたことをなおさず、またそれを繰り返し、マリネの機嫌が段々と悪くなっていく。
どうして君は俺の言うことを聞かない。もっとしゃべってよ、だと?、何を言っても無駄じゃないか。何をしゃべっても聞いてくれないじゃないか。何を言っても何もなおさないじゃないか。どうすればいいんだ?、俺はどうすればいいのか教えてくれよ。同じことされなきゃわからないのか?
待ち合わせの件などは一端で、私のわがままでマリネの機嫌が悪くなると、だいたい決まって同じことを言われた。私だって、私のわがままでマリネの機嫌が悪くなっているとは認識できていた。でも、マリネは、普段のマリネは、私のわがままを許容してくれていた。いま思えば、私のわがままを受け入れてくれるマリネだから私は好きになった、そのことをマリネはよく知っていたに違いない…。私のために、マリネは我慢をして、私はそんな状況でいることが、私だけ、とても都合が良くて心地の良い環境だった。たまに文句や、お前の将来が心配だから、と、注意を言われるけれど、次に会えば、マリネは笑って許してくれる。
男と遊んでも、浮気をしても、そんな私のわがままも、マリネなら許してくれるとどこかで思っていた。私がバカだった。マリネはもう私を愛してくれない。
マリネは私のことをよく知っていた。私の地元以外の場所で待ち合わせをすると、マリネが待ち合わせ時間までふらふらと暇つぶしをしている私を見つけ出すことがよくあった。私が何を考えているかもよく当てて、わかりやすすぎるよ、と、笑ってみせた。私はその逆で、マリネが何を考えているのかもわからなかった。マリネに文句を言われたり注意をされると、なんでマリネはこんなにキツいことを私に言うんだろう、と思った。好きな人にどうして優しくしないのだろう、と。
本を読め、よく考えてから口にだせ、自分のことだけじゃなく、人の気持ちを少しは考えろ、世の中は危険に満ちているから危険から遠ざかる工夫をしろ、本を読め。マリネに言われたことを、マリネの前で私が実践することはなかった。本を読むのはつまらないし、マリネから薦められる本にはまったく興味がわかなかった。やっぱり考える前に口にでちゃうし、私は毎日なんだかんだ楽しいから世の中にそんなに多くの危険があるとは思わなかったし、私が危険な状況になるとも思わなかった。だけどいまの私はその危険に、命を危険にさらしているような状況に陥っている。私はバカだから、マリネの話をよく聞いておかなかったから、抗うすべをひとつも知らない。マリネから助言が欲しい。文句を言われても、あきれられても、怒られても、今度はマリネの本気をちゃんと受けとめられるのに、マリネはもういない。それができないから、必死でマリネなら身を守るため次にどう行動するかを考えようとするけど、私はマリネのことを、よく知らない…。
いまさら仕事に行く気はなく、家族に仕事に行かなかったことやらで何を言われるか考えると、家に帰る気にもなれない。一週間ほど旅行に行きます、とだけ書いた手紙を家に送って、私はとにかくマリネと行った場所を練り歩いた。何も手がかりのないまま夜になって、私は親友の家に泊まることにした。親友は、急にどうしたの?、ときいてきたけど、私ははぐらかした。
次の日、そういえばマリネは私と歓楽街に行きたがらなかったな、と、思いつきそこに何かあるのかと、一日中歓楽街にいたが何もなかった。
やっぱりマリネの部屋に行かなきゃ、マリネの最寄駅に居なきゃ、私の家の前に行かなきゃ、あの山に篭ったことがあるって言ってた、行かなきゃ、会いたいから、行かなきゃ。
親友の部屋を宿代わりに、私は一週間マリネを探した。けれど、マリネの影さえ見つからなかった。
もうトッツクポーリに向かったのだろうか。だとしたら、やっぱり私もトッツクポーリに向かわなければならないのだろうか。向かわなければいけないのだろうか、という私の思考を、私は呪い、私は向かうことに決めた。そんな時、勇気ある者の招集が再び公布された。もしかしたらマリネはこれに参加するかもしれない。私の前に一筋の光明が出現した。それに戦うすべをもたない私が、確実に、トッツクポーリへたどり着き、マリネを探すにはひとりでは無理な話に思えた。私は参加することに決めた。このことは親友にも、家族にも、誰にも言わなかった。