からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -103ページ目

あっ

一応言っとくけど、あいーん!、の続きは書く予定ないからね。

あれは白紙のコミックを脳内でめくりながら読んでくれたらいいなと思ったり思ってなかったり。ま、どうでもいいやな。

一応、第3話の「目指せレンタル義姉さん!!」まで考えてはいたりいなかったり、ラジバンダリ!!、ラジバンダリぃ、ちょっと恋をしたり。


なんじゃそりゃ。

ああ、みだりに生きてー。

あいーん!(登場人物)

谷塚(たにづか)ほまき(24)………ムッシュ総合商社経理部勤務。英検2級。基本的に常識人だが、時折周りが見えなくなる。願えば叶う、と信じている反面、その願いというものが自分本位な妄想のために報われないことが多く、自分の部屋でひとり泣くことが多々ある。だが些細なことですぐに立ち直れる(それも妄想の力)。結構タフ。料理を得意としているらしい。流れに任せてその場しのぎの嘘をつくことがある。幸一と幸せな結婚生活を送るため(妄想)に月島家の面々をひとり立ちさせようと奮闘することに…。


月島幸一(つきしまこういち)(32)………ムッシュ総合商社営業部勤務。その容姿は女子社員を惹きつけてならない。が、本人にその自覚なし。性格は良くも悪くも偏見というものがない。営業成績はトップ。会社では完璧な人物であるが、その実、家庭では弟達から奴隷のように扱われ搾取されている。しかし、本人にその自覚はなく、それが普通だと思っている模様。一応、一家を支える大黒柱。通勤に2時間近くかかる。


月島幸二(こうじ)(26)………月島家次男。ニート。兄幸一を奴隷のように扱う。容姿はボサボサ頭でもっさいが血筋は争えず、垣間見える顔はイケメン。弟妹と比べると社交的?


月島さつき(22)月島家長女。ニート。兄幸一を奴隷のように扱う。やはり血筋は争えず、美人。ただし、普段おしゃれはしない。処女かどうかは誰も知らない。


月島幸三(こうぞう)(15)月島家三男。ニート。兄を奴隷のように扱う。最近高校を中退したらしい。やっぱり、隠れイケメン。幸一をいっちゃん、幸二をにっちゃん、さつきをさっちゃん、と呼ぶこと以外よくわからない。


月島幸隆(ゆきたか)(56)筋金入りのニートで、現在ひきこもり。生まれてこのかた社会に出たことがない。そのためかどうか、異様に若く見える。それどころか最近…………。何もしていない生活を送るために年齢以上に…………。


月島やよい(52)職業不明。幸一が入社するまで月島家を支えていた。夫の異常事態を止めるべく旅に出て、現在行方不明。反対されればされるほど突っ走るタイプ。月島家にあって数少ないまともなタイプの人間そうだが当時5歳の幸三の育児を放棄しているところを見るとやはりどこか変。彼女と幸隆が月島家のイケメン構成を形作った。どうやって幸隆と子作りをしたかは謎。夫とはそれなりに仲がいい模様だが…。

あいーん!(3)

その後、幸一さんから聞いた話では、お父さまはこの世に生を受けてからこのかた一度も社会に出たことがない生粋のニートであるらしいのです。生き様は顔に出ると言います。おそらく、社会に出たことのないお父さまは今まで一度も社会の苦汁をなめたことがないために、齢50を越えても(56歳)あんなに若々しい姿なのだろう、とは幸一さんの推測。しかし、およそ10年前、完全なひきこもり生活を始めてから謎の若返りをし始めたとのことです。30歳を越えた時点で非童貞だったため“魔法使い”になりそこねたお父さまが、60を境に“仙人”になろうとしているのではないかとはさつきさんの談。ですから、「若い頃(40代)」の写真を居間に飾り、標準の姿を忘れないようにしているとのことです。

あのようなお父さま(容姿は完璧なのだけど)がなぜあんなに美しいお母さまと結婚できたのか。なんでも、超絶美少女だったお母さまは常に周りからモテてちやほやされていたとのことです。しかし、20歳の時、まったくそれが通用しない男性、つまりお父さまに出逢い、その様子に新鮮なときめきを抱いたようです。お母さまは周りに反対されればされるほど突っ走るタイプなようで、周囲の反対を押し切り、実の親から勘当されてまでもお父さまと結婚なさったそうです。その時、既成事実として生まれたのが幸一さんです。お母さまは大学を中退し、ちょうどその頃お父さまのご両親にご不幸があり、身よりのないお父さまと息子を養うためお勤めに。それからずっと家族を養ってきました。その間家族が増えているわけですから不思議としか言えません。しかしそれも10年前までの話。それからその役目は幸一さんに移った模様です。

そうそう。お母さまは鬼籍にお入りになったわけではありません。お母さまは10年前、お父さまが若返りし始めた時、「あの人だけ若返るのは反則!」と、幸一さんが無事就職したこともあり、“若返りの薬”もしくは“老いる薬”を探しに西へと旅に出たっきり行方がわからないそうです。居間の写真の横に置いてあった“鈴”は、「シャレ」と幸三くんは言います。

その日、わたしは自分の家に帰ると、しくしく泣きました。わたしも今はなき先輩方同様、「耐えられ」そうになかったからです。

次の日、休もうかとも思いましたが、わたしは出社しました。重い足取りで会社の廊下を歩いていると、デスクに向かっていつも通り働く幸一さんが見えました。幸一さんはわたしに気がつくと、屈託のない笑顔でわたしに手をふりました。その爽やかなことといったら。その姿を見て、わたしは、頑張ろう、と決心しました。

こうして、わたしと月島家との壮絶な闘いが始まったのです。



第1話、完


次回、幸二さんの恋、幸三くんの恋、変わった趣味編を予定。こうご期待!!

あいーん!(2)

「…どうぞ」

二「なんだこの得体の知れぬオーラを発している土鍋は…闇鍋どころか暗黒鍋だろ」

「(ううっ)」

「まあまあ、せっかく作ってくれたんだから」

「(月島さん…)」

「あれ?あのふたりは?」

二「いるだろ」

「じゃあ呼んでくるからちょっと待っててね」

「(ふたり!?まさか、まさか、ゴリョーシン!?忘れてた!あたいその存在忘れてた!まず真っ先に挨拶せにゃあならん存在だろお!!)」

二「…………」

「(つうかこいつとふたりきりって空気悪いな)……………あの、味は大丈夫ですから。はは…」

二「………」

無視。

「…………(もっさりイケメンがああぁ!)」

「お待たせ」

二「遅えーよ!!」

「は、初めましてわたくし幸一さん(きゃっ幸一さんだってうふふ)と同じ会社で働く谷塚ほまきと申します!(がばっ)」

?「…………」

「(ええ!?なんで無視ぃ!?)」

「ああ谷塚くん、おれの妹と弟だよ」

「えっ(見上げる)」

「うん、こっちが次男の幸二でしょ。そしてこっちが長女のさつき。こいつが三男の幸三」

「ど、どうも初めまして(このふたりももっさいくせに美形!磨けば光るダイアの原石だわ)」

さ「……ビッチ臭ぇ」

「へ?(ビッチって言ったかしらこの小娘。ちらり)」

三「………ふっ」

お前も鼻笑い族かあ!!
「へ、へえ、月島さんって4人兄弟なんですね。なんか意外ですぅ(あらゆる意味でな!)」

「よく言われるよ」

「は、はあ……みなさんの年齢って、みなさん歳はどのくらい離れてるんですか?」

弟達一同(以下一同)「(ぴくり)」

「(うっ、なんなのそのリアクションは…)」

「えっと、おれが32だから、幸二が26だよね」

二「…………ふっ」

「(26!!年上じゃない!でもよく考えれば月島さんの弟さんですもんね)」

「で、さつきが22か」
さ「…………」

「(こいつ年下じゃねえか!!なにいきなり人をビッチ呼ばわりしてんだよ!)」

そもそも初対面の人に向かってビッチ呼ばわりしないものだが。

「えっと、幸三が今15か」

三「…………」

「へ、へえ(ああ、わたしが聞いたのにうまい返しが見つからない。なんたる不覚)」

三「…いっちゃん(幸一)、そんで、頼んどいたDVDは借りてきたのか?」

「うん?ああ、彼女を運ぶので精一杯だったから。悪いな」

三「(きっ!)」

「うっ(睨んでる、ひえぇ、完全にお前のせいで扱いだあ)す、すみません、はい」

さ「ところで、なにこのボケた魔女が煮込んだようなグロテスクな鍋は」

「(ボケた魔女…グロテスク…)」

「これはありがたいことに谷塚くんが作ってくれたんだよ」

「(ありがたいだなんてそんなことないですよぉ)」

さ「…ふん、ビッチが欲望丸出しでてめえの○○なんか入れてねえだろうな」

どん引き。

「(○○ってあんた…)」

一同「ケラケラケラケラ」

「(なんなのこの兄弟……)は、ははは(なんで笑ったわたし)、なるほど、こ、幸二さんはお仕事何されてるんですか?」

二「………働いたら負けだろ」

「(ニート!!いや薄々そんな感じはしてたけど……しまった、話題チェンジ)はは、さつきさんは…」

さ「………なんだよ。こっち見るな」

「さつきも働いてないよね。ははは」

「(それ笑いごとなの!?)………(ちらり)幸三くんは高校生かしら」

「あれ?そういや幸三はちゃんと高校に退学届出したか?」

三「出したようるせえなあ」

「退…学…?(じゃあ今は無職…ニート……兄以外ニート……)」

兄以外ニート、兄以外ニート、兄(A)以外(I)ニート(N)…A…I…N…A!I!N!

「あ、あ、あ、あいーん(AIーN)!!!」

?????

「(はっ!しまったついわけのわからぬことを口走ってしまった!!)」
なんじゃそりゃ。

………………。

「(ど、どうしよう……)」

………………。

「…………あいーん(カクカク)。…なんちゃって…………」

………………。

「よし、じゃあ、いただこうか」

「(月島さんなにが“よし”なんですか!?わたしの“いただきまーす”はあいーんじゃないんですけどおおぉ!!)」

弟妹一同「…………」

チーン。

一同「お前から食えよ」
「(毒見役!?)で、では、いただきます。もぐもぐ。うん、おいしい!…ですよ、はい」

「あ、ほんとだ。見た目よりうまい」

「(月島さんも怪しんでたのね…)」

当たり前だ。

二「ほんとかよ。(ぱくっ)…………鍋って偉大なんだな」

「(調理法が評価された!!)」

ぱくぱくもぐもぐ。

「(会話…何か会話をしなきゃ…)あの、先程4人兄弟が意外だとよく言われると仰ってましたが、それってやっぱり家に連れてきた彼女さんから言われたりなんかして(ああ、この手の思考しか浮かばないぃ)」

「うーん、彼女というか、以前うちに何人か会社の若い子が入れ替わり立ち替わり来たことがあってさ」

「(あ!あの時のことだわきっと)」

「みんなそう言ってたね」

「(やっぱり“意外”よね。月島さんの兄弟がこんなだってのは)…………その後、その人たちとは…(なに訊いちゃってんのわたし!!)」

「いやあ、それがさ、なぜかみんな“わたしには耐えられない”って言って会社辞めちゃったんだよね」

「(??…はっ)」

一同「(ニヤリ)」

「(おまえらの仕業かあ!!なにをしたんだおまえら!!)」

「会社で何かイヤなことでもあったのかなあ、セクハラとか」

「(月島さんもどっかおかしいことに気がつきましたああぁ!!しかしなぜこいつらは兄の恋路の邪魔を…はっ、兄に恋人ができる→結婚する→子供ができる→兄から得られる金が激減する→食わせてもらえなくなる→現在のサルタンのような生活の終焉。チーン。なにこの悪魔の方程式!!ちらり)」

一同「(ニヤリ)」

うわぁ…。

「どうかした?(ニコッ)」

「(ううう、でもかっこいい。恋心が止められないぃぃ。な、なにか、会話、会話を…キョロキョロ…うん?)あの、あそこにある写真って(若い美形男女)…」

「うん?ああ、あの写真。あれは若い頃のお袋と親父の写真だよ。あ!」

「え?」

「しまった忘れてた!写真見て思い出したよ。谷塚くん、悪いけどもう一膳用意してくれるかな」

「はあ………はっ(写真を見て思い出したよってまさか)、あの、ご両親のほうは(そうだ!あのふたりのせいでご両親のことすっかり忘れてたわ!!だけどこれって)」

一同「(ぴくり)」

「(ひえぇ)」

「ああ、そうだなあ、もう10年になるのか」

「あ、やっぱり。いやいや、すみません失礼なことをきいてしまって(テキパキ)」

「え?」

「申し訳ありませんでした。(よく見れば写真の横にも“鈴”が置いてあるじゃない!気がつけバカわたし!)………(ナンマイダー)チーン」

「えっ、いや、谷塚くん、そうじゃないよ!」

「へ?(何か御仏前に供える作法でもあったかしら?)」

「うちにそんな習慣ないよ」

「え?」

「そのご飯はオヤジ用だよ。よっ、と、じゃあ運んでくるからちょっと待っててね」

「え?ど、どこへ?」

「え?ああ、親父の部屋だけど」

「は?」

「親父はひきこもりだからね!ははは」

「???…あの、生きていらっしゃるのですか?お父さま…は?」

さ「ま、あんなカスはもはや死んでるも同然だろ。ひきこもりなんて。身内の恥よ」

二と三「そりゃそうだ」

「(おまえらが言うかぁ!?イケメンに生んでくれた親に少しは感謝しろよ!おまえらからイケメン要素とったらただのニートだぞ!)」

今もただのニートです。

「まあまあ、親父も好きでやってんだから」

「(なにそれ超甘い!!仏様かお前はぁ!!)…あ、あのお父さまはご在宅で?」

「うん」

「では、お母さまは?」

二「あの女はほんとにいねえ」

「あ…(そっちはほんとなんだ…」

待てよ。わたしが月島さんと結婚を前提にお付き合いを始めるにあたり(妄想)、やはり相手の父親と挨拶を交わすのが一般常識ではなかろか?どうやら家族仲は良好(?)なようだし、家まで来て挨拶もせずに帰るなんて、それはゆくゆくわたしたちの結婚(妄想)の障害になるのでは?障害になるのでは…障害になるのでは…なるのでは…なるのでは…なるのでは………………チーン。

「月島さん!!わたしが!!わたしがお父さまのところまでお運びします!!」

全員「(ドーン)」

「任せてください!!こう見えてわたし!英検二級を持ってます!!」

ひきこもりは外国の人ではない。

「いや、それはまずい。おれにも何が起こるかわからない!」

二「おれたちだって10年は親父の顔見てねえんだぞ」

さ「悪いことは言わないよ!やめときな!」

三「やべえ…やべえぜこれは」

なんだこれ…。

「……うわあああああ!!(ドタドタドタドタ)」

引くに引けなくなったパターン。二階に一直線。

三「逃げたぞ!!追え!!」

山狩りか!!

ほまき以外全員「ぎゃっ」

勢いよく扉で団子になって動けないパターン。ありえねー。

「はあはあ」

ゴゴゴゴゴゴゴ

「(なにこのまがまがしいオーラを放つ扉は!!きっとここだわ。間違いない!!)」

その頃

三「にっちゃんの足が邪魔なんだよ」

二「お前の腕がそんなとこにあるからだろ」

やいのやいの。

ゴゴゴゴゴゴゴ

「(ゴクリ)あ、あのお!お夕食をお持ちいたしましたぁ!!」

…………………

「(逃げちゃダメよほまき!!)」

カチャカチャ、ガチャリ

「(開いてる!!)」

そーっ

「お、お邪魔、しまーす」

二「待てえ!!」

抜け出せた模様。

「(やばい!!)」

追われる者の心理。

「ええーい!!」

ガチャ、ドン!!

もわわわーん

「え?」

一同「しまったあああ!!」

………………。

「(なんなの!?ばっちり目が合っちゃってるけど、この“美少年”は!?)」

二「親父…」

「え?」

二「親父が…親父が…」

全員「親父がまた若返ってる!!」

「…えええええ!?なにそれえぇ!!」

さ「どう見ても小学生じゃない…」

三「う、動くのか?おれ物心ついてから現物を見るのは初めてだぜ…」

「昨日のめしは食った跡があるから死んじゃいないだろう」

冷静?冷徹?

父「…………」

…………………ゴクリ。

父「……………カッ(目を見開いた)」

「ひいぃ」

父「…オオ…オオオ…」

「(な、なに?一体なにが起こるの…)」

父「お前は…」

「(ひいい)」

父「………やよいしゃん(妻の名前)」

一同「だけどボケてるぅ(縦線ざー)」

「?」



あいーん!(1)

ムッシュ総合商社で働くわたし、谷塚(たにづか)ほまきは恋をしています。去年から。あの人に。わたし、ついに行動に移すことにしました。もう我慢できないのです。まずは下調べから始めることにしました。

リサーチ1、先輩、彼の同期(男性)。

「え、月島?ああ、あいつはいい奴だよ。…………ほまきちゃん…あいつなんかよりも…え?ああ、違う?そんなんじゃない?ああ、そう、そうか。ふうん。うん。月島は…昔っから変わらねえなあ。モテるんじゃないかだって?そりゃあモテるだろ。顔も性格も成績と同じで我が社のトップだ。女の噂?…うーん、そういやあいつから聞いたことねえなあ。聞かれることはあるけどね。今みたいに…今みたいに…ほまきちゃん、あいつもいいけど、あいつとまでは言わないけど、身近にそこそこの男が……………」

役立たず。

リサーチ2、4つ年上の先輩(女性、未婚)。

「月島さん?あんたあの人に興味あるわけ?いや顔を真っ赤にしてそんなんじゃないって言われても、まあ、わかるわあ。あんないい男探したって見つかるもんじゃないからねえ。あんたで16人目ね。え?ああ、月島さんのこと聞かれたの。まあ、我が社の通過儀礼みたいなもんよ。その16人?ああ、谷塚はあの世代だったっけ。え、ああ、ほら、あんたの上の世代に女子社員が少ないでしょ?それはね、三年前に事件があったのよ。まあ噂だけど、同期による骨肉の月島さん争いの末、みんな振られて泣く泣くってな具合に集団退職よ。だからあんたたちは就職試験が甘かったって噂。まああくまで噂だけどね。ああ、就職の部分が噂で骨肉の争いの部分は事実なんだけど。すごかったなあ。昼ドラみたいでさ。わたし?わたしは違うよ。わたしダメな人が好きだから。ああいうなんでもできますって人には興味ないの」

衝撃の事実。

リサーチ3、同期(彼の部下、男性)。

「おう、谷塚、頑張ってるか。なに?月島さん?どんな人かって、うーむ、なんつうかなあ、おれは幸せ者だよ。あんな人の部下になるなんて。そりゃ優しいよ。でも当然厳しくもあり、なんつうかなあ、見たまんまだよ。精錬された男っつうか、仕事できるしかっこいいしで、憧れるしかないよな。うん?ああ、そりゃ一緒に飲むことぐらいあるさ。こないだなんかうちに泊まってったし。いや、そんなことあるわけないだろ。ただ、仮に月島さんに抱かせてくれって言われたら、そりゃもう抱かれるしかないよな。いや、違う。そんな顔でおれを見るなよ。断じて違う。違うよ。そんな人だってこと。いや違う。違うって。そんな地球最後の日がやってきたみたいな顔になるなよ。月島さんも違うよ。そう、違う、そう、そう。でもそういや女のことは聞かないなあ。噂だけは耳に入るけど、本人そういうところニブいからなあ。ほら知ってる?おれたちの上の人たちの、ああうんそれそれ。あれも本人は気がつかなかったって言ってたよ。多分生まれてこのかたずっとモテてたから、そういう雰囲気を読む感覚が麻痺してるんだろうねえ。悪気があるわけじゃないんだろうけど、それが
普通、みたいな。今?おれの知る限りフリーだよ。月島さんの家?おれは行ったことないなあ。いや、月島さんの家は遠いから。うん?綾瀬だよ。いや、そっちの綾瀬じゃなくて足立区の。それに月島さん実家住まいだし。遠慮しちゃうだろ。好きなタイプ?ああ、聞いたことあるけど、好きになった人って言ってたぜ。役立たずってお前、おれに言うな。ちなみにおれの好きなタイプは…え、なに?家族構成?………お前、それは本人から直接聞けよ。は?それはねえよ。あの人ほど開けっぴろげな人はいねえ。聞きゃなんでも教えてくれるだろうよ。たださっき言ったように正攻法で攻めても柳に風って感じだろうけどね。そんなんじゃないってお前。まあ、おれも興味あるよ。違うって。あの人の恋愛に興味があるってこと。ま、頑張れよ。応援してやっから。お前が月島さんを落としたとなれば同期として鼻が高い。ああ、秘密にしとく。今度なんかおごれよ」

生まれてこのかたずっとモテてたから恋してる女子の厚ぼったい視線に気がつかない。他の一般男性がそんなこと言ったならどん引きものですが、月島さんなら、さもありなん、といったところです。いいことを聞きました。正攻法で攻めても柳に風。では、絡め手から攻めてみては。しかし、おそらくその三年前に起こった泥沼の恋愛闘争時にありとあらゆる恋の権謀術数を受けたはずです。それでも彼女たち誰一人として彼をものにできなかった。彼女たちの中にタイプがいなかったから?恋愛を忌避してるから?まさかあっちの、いや、こっちの世界の住人だから?あんないい男が今フリーだって?女性経験は?謎は深まるばかりです。

営業先から帰ってきた月島さんがデスクで時に寡黙、時にニコニコと周りと談笑しながら仕事をこなす様を遠目から見ているわたし。胸(貧乳)は爆発寸前です。わたしは更なる調査とあわよくば良好な関係に発展するためにストーキングを決意しました。何をちらつかせても柳に風ならば根こそぎこっちに引き込む必要があるのです。恋愛という理想の関係を実現させるためには時に非常識なマキャベリズムも必要なのです。その昔、かの発明王エジソンは言いました。

「恋愛は1パーセントの閃きと99パーセントの張り込み」である、と!!(言ってません)。行動あるのみ!止まれません勝つまでは!!

名付けて、「赤丸急上昇中の、いい女(妄想の産物)と偶然地元で出逢っちゃって、なかなか見ることのできない普段の彼女の姿にちょっとドキッとしちゃう作戦」!!略して、「A(赤丸……)I(いい女…)N(なかなか…)作戦」!!

作戦遂行です。

仕事終わり、わたしは南こうせつの歌詞のよう、横丁の風呂屋の前であなたを待つわたし。芯まで冷えた髪を…………(以下妄想)。ああわたしって健気。

仕事を終えた彼は、幸運なことにまっすぐ家に帰るようでした。バレないよう細心の注意と変装をして(変装というか不審者。むしろ目立ってる)彼と同じ電車に乗り込むことに成功したわたし。電子マネー万歳。

彼の地元駅に着くと、彼はスーパーに立ち寄りました。ここだ、ここしかない。わたしが彼の前に突然現れた天使になるのは!うふふあはは(怖い)。たとえ軽くいなされても、ストーキングは続行できますしね☆(…………)

今日の夕食が含まれているであろうものをカゴいっぱいに詰め込む彼、セール品を吟味してる彼。せこい?ふふふ、違うの。彼って倹約家。そういえば家族と同居してるんだっけ。なるほどなー(なにがなるほどなーだ)。

意を決してわたしは彼の横に静かに近寄りお魚を物色するフリ。夢中で吟味を重ねる彼の伸ばす手と、わたしの手を重ねる!!

「きゃ、す、すみません」

「あ、どうも失れ…あ」

「え!?(うふふふふ)」

「……これ(赤身柵)、包装が破れてますよ」

「……………………え?」

「ああ、これ包装のビニールが」

「あ、ああ、はい、はい。…確認致しました」

なに言ってんだわたし!!それじゃ店員じゃねえか!!

「まあ、いっか。じゃあぼくはこれを引き受けますから。そっちの破れてない方をどうぞ」

「あ、それはどうも」

優しいー!!って違ーう!!

「では」

待ってえー!!違う!!違うの!!あたしよ!!天使よ!!(なにを考えてるんだこいつは)

「あ、あの」

「へ?なにか?」

「あの、月島さん、です、よ、ね?」

「え?そうですが」

「あの、わたし、わたしです」

「…確かにあなたはあなたでしょうが…」

「へ?」

「はあ」

うぜー!!気がつけよおおお!!はっ、違う。違うわ。彼は慎重を期すタイプなの!!石橋を叩いて渡るタイプなの!!

「あの、会社で、同じ会社で、谷塚と申します。経理部の」

「うん?(じろじろ)」

ええ!?まさかわたしの存在自体知らなかったパターン!?何度か話したことあるのに(職務上)。迂闊、そのパターン、迂闊だったわわたし!!周りがよく見えてなかったわ!!(今もだ)

「谷塚くん?…谷塚くんじゃないか。どうしたのこんなところで!」

「えっと(よっしゃあ!Bパターン回避Bパターン回避、Aパターン続行Aパターン続行!)」

「いや気がつかなかったなあ。君もこっちが地元なの?」

「はい、いや、そういうわけでは…」

「違うの?ふうん。そんな格好してるからてっきり地元かと思ったよ」

「え、格好?………(ふと我に帰る瞬間)」

………チーン。変装おおおおおぉぉぉ!!!(ただの不審者)…ふらり。

「え、おい、ちょっと、谷塚くん、大丈夫?谷塚くん!?」

「だい…じょぶ…でぇあ…(バタン)」

「谷塚くん!?谷塚くん!?谷………………………」

…………………。

…………………。

…………………。

…………………はっ!?(ぱちくり)……ここはどこ?わたしは一体…。ちらり。ああ、座ってるあの背中は(月島さん)。

「あの」

「(ビクッ)」

「…………あの月島…さん?」

「………」

「……あの」

「おい!!起きたぞ!!」

「ふぇ!?」

ドタドタドタドタ、バタン(ふすまが開く音)。

「ああ、よかったあー」

「…(月島さんがふたり!?いや、よくみればこっちが月島さんで、あっちは違う。あっちはもっさい)」

「いやあ、君がいきなり倒れるものだからびっくりしたよー」

「(倒れた?わたし?そういえば、あのミラクルファッションを見られて急に意識が…)はっ!?、こ、ここは?」

「ああ、ぼくの家だよ。スーパーで倒れて、その時たまたま近くに医者の先生がいてさ。ただの失神だっていうからひとまずうちに連れてきちゃったんだけど」

「あ、あの、すみません!ご迷惑おかけして、あの、ありがとうございました!」

「大丈夫?心配したよ」

「はい、大丈夫です。あの、よくあるんですよね。ははは…(初めて気を失いました)」

「そう、よくあるんだ。大変だね」

「え、あ、あはは、いやもう慣れっこで…(なに言ってんだわたしは!!……はっ、タオルケットの中ちらり、………くっ、現実って変わらないのね……)」

?「おい兄ちゃん、メシは」

「(兄ちゃん?、ああ弟さんか)あ、あのぉ、ご迷惑をおかけしました(ぺこり)」

弟「…ふっ」

鼻で笑われた!?

「ああいやそれがなあ、食材を買ってくる余裕がなくてなあ」

弟「ああ!?、なんでもいいから早く作れよ!」

「うむ、もちろんだ」

「…………(ポカーン。なんだこのパワーバランスは……月島家とは一体)」

「ああ谷塚くん、こいつは弟の幸二(こうじ)だよ(おれは幸一ね)」

「はあ、どうも」

二「………ふっ」

また鼻で笑われた!?

「さてと、君本当に大丈夫?タクシー呼ぼうか?」

「えっと…(待てよ、落ち着けわたし。この状況、作戦は一応成功中なのではないか?このまま何も戦果を上げんと帰るというの?)」

二「んなことよりメシだメシ」

なんなんだこいつは。こっちを見やしないでまあ。本当にこの月島さんの弟なの!?メシメシってこいつ…はっ

「まあちょっと待ってくれよ」

「あの月島さん」

「え?」

「もしよかったらわたしに作らせていただけませんか、夕飯を(ナイス提案だろええ!?)」

「いやそんなことは、悪いよ」

「だけどこのままではわたし」

二「いいじゃねえか作らせて見ろよ。お前の作る料理にも飽き飽きしてんだよ」

「ええっ、本当!?ショックだなあそれ」

「(…口が悪いな。だけどチャンス)弟さんもそう言っていることですし、どうか」

「うーむ、わかったよ。じゃあお願いしようかな。でも食材が無いんだよね」

「こう見えて料理は得意なんです!なんとかします!!」

(冷蔵庫の扉開ける)……………………(扉閉める)…………ぞなああああ!!(意味不明)

なんとかなりませんでした。