あいーん!(1)
ムッシュ総合商社で働くわたし、谷塚(たにづか)ほまきは恋をしています。去年から。あの人に。わたし、ついに行動に移すことにしました。もう我慢できないのです。まずは下調べから始めることにしました。
リサーチ1、先輩、彼の同期(男性)。
「え、月島?ああ、あいつはいい奴だよ。…………ほまきちゃん…あいつなんかよりも…え?ああ、違う?そんなんじゃない?ああ、そう、そうか。ふうん。うん。月島は…昔っから変わらねえなあ。モテるんじゃないかだって?そりゃあモテるだろ。顔も性格も成績と同じで我が社のトップだ。女の噂?…うーん、そういやあいつから聞いたことねえなあ。聞かれることはあるけどね。今みたいに…今みたいに…ほまきちゃん、あいつもいいけど、あいつとまでは言わないけど、身近にそこそこの男が……………」
役立たず。
リサーチ2、4つ年上の先輩(女性、未婚)。
「月島さん?あんたあの人に興味あるわけ?いや顔を真っ赤にしてそんなんじゃないって言われても、まあ、わかるわあ。あんないい男探したって見つかるもんじゃないからねえ。あんたで16人目ね。え?ああ、月島さんのこと聞かれたの。まあ、我が社の通過儀礼みたいなもんよ。その16人?ああ、谷塚はあの世代だったっけ。え、ああ、ほら、あんたの上の世代に女子社員が少ないでしょ?それはね、三年前に事件があったのよ。まあ噂だけど、同期による骨肉の月島さん争いの末、みんな振られて泣く泣くってな具合に集団退職よ。だからあんたたちは就職試験が甘かったって噂。まああくまで噂だけどね。ああ、就職の部分が噂で骨肉の争いの部分は事実なんだけど。すごかったなあ。昼ドラみたいでさ。わたし?わたしは違うよ。わたしダメな人が好きだから。ああいうなんでもできますって人には興味ないの」
衝撃の事実。
リサーチ3、同期(彼の部下、男性)。
「おう、谷塚、頑張ってるか。なに?月島さん?どんな人かって、うーむ、なんつうかなあ、おれは幸せ者だよ。あんな人の部下になるなんて。そりゃ優しいよ。でも当然厳しくもあり、なんつうかなあ、見たまんまだよ。精錬された男っつうか、仕事できるしかっこいいしで、憧れるしかないよな。うん?ああ、そりゃ一緒に飲むことぐらいあるさ。こないだなんかうちに泊まってったし。いや、そんなことあるわけないだろ。ただ、仮に月島さんに抱かせてくれって言われたら、そりゃもう抱かれるしかないよな。いや、違う。そんな顔でおれを見るなよ。断じて違う。違うよ。そんな人だってこと。いや違う。違うって。そんな地球最後の日がやってきたみたいな顔になるなよ。月島さんも違うよ。そう、違う、そう、そう。でもそういや女のことは聞かないなあ。噂だけは耳に入るけど、本人そういうところニブいからなあ。ほら知ってる?おれたちの上の人たちの、ああうんそれそれ。あれも本人は気がつかなかったって言ってたよ。多分生まれてこのかたずっとモテてたから、そういう雰囲気を読む感覚が麻痺してるんだろうねえ。悪気があるわけじゃないんだろうけど、それが
普通、みたいな。今?おれの知る限りフリーだよ。月島さんの家?おれは行ったことないなあ。いや、月島さんの家は遠いから。うん?綾瀬だよ。いや、そっちの綾瀬じゃなくて足立区の。それに月島さん実家住まいだし。遠慮しちゃうだろ。好きなタイプ?ああ、聞いたことあるけど、好きになった人って言ってたぜ。役立たずってお前、おれに言うな。ちなみにおれの好きなタイプは…え、なに?家族構成?………お前、それは本人から直接聞けよ。は?それはねえよ。あの人ほど開けっぴろげな人はいねえ。聞きゃなんでも教えてくれるだろうよ。たださっき言ったように正攻法で攻めても柳に風って感じだろうけどね。そんなんじゃないってお前。まあ、おれも興味あるよ。違うって。あの人の恋愛に興味があるってこと。ま、頑張れよ。応援してやっから。お前が月島さんを落としたとなれば同期として鼻が高い。ああ、秘密にしとく。今度なんかおごれよ」
生まれてこのかたずっとモテてたから恋してる女子の厚ぼったい視線に気がつかない。他の一般男性がそんなこと言ったならどん引きものですが、月島さんなら、さもありなん、といったところです。いいことを聞きました。正攻法で攻めても柳に風。では、絡め手から攻めてみては。しかし、おそらくその三年前に起こった泥沼の恋愛闘争時にありとあらゆる恋の権謀術数を受けたはずです。それでも彼女たち誰一人として彼をものにできなかった。彼女たちの中にタイプがいなかったから?恋愛を忌避してるから?まさかあっちの、いや、こっちの世界の住人だから?あんないい男が今フリーだって?女性経験は?謎は深まるばかりです。
営業先から帰ってきた月島さんがデスクで時に寡黙、時にニコニコと周りと談笑しながら仕事をこなす様を遠目から見ているわたし。胸(貧乳)は爆発寸前です。わたしは更なる調査とあわよくば良好な関係に発展するためにストーキングを決意しました。何をちらつかせても柳に風ならば根こそぎこっちに引き込む必要があるのです。恋愛という理想の関係を実現させるためには時に非常識なマキャベリズムも必要なのです。その昔、かの発明王エジソンは言いました。
「恋愛は1パーセントの閃きと99パーセントの張り込み」である、と!!(言ってません)。行動あるのみ!止まれません勝つまでは!!
名付けて、「赤丸急上昇中の、いい女(妄想の産物)と偶然地元で出逢っちゃって、なかなか見ることのできない普段の彼女の姿にちょっとドキッとしちゃう作戦」!!略して、「A(赤丸……)I(いい女…)N(なかなか…)作戦」!!
作戦遂行です。
仕事終わり、わたしは南こうせつの歌詞のよう、横丁の風呂屋の前であなたを待つわたし。芯まで冷えた髪を…………(以下妄想)。ああわたしって健気。
仕事を終えた彼は、幸運なことにまっすぐ家に帰るようでした。バレないよう細心の注意と変装をして(変装というか不審者。むしろ目立ってる)彼と同じ電車に乗り込むことに成功したわたし。電子マネー万歳。
彼の地元駅に着くと、彼はスーパーに立ち寄りました。ここだ、ここしかない。わたしが彼の前に突然現れた天使になるのは!うふふあはは(怖い)。たとえ軽くいなされても、ストーキングは続行できますしね☆(…………)
今日の夕食が含まれているであろうものをカゴいっぱいに詰め込む彼、セール品を吟味してる彼。せこい?ふふふ、違うの。彼って倹約家。そういえば家族と同居してるんだっけ。なるほどなー(なにがなるほどなーだ)。
意を決してわたしは彼の横に静かに近寄りお魚を物色するフリ。夢中で吟味を重ねる彼の伸ばす手と、わたしの手を重ねる!!
「きゃ、す、すみません」
「あ、どうも失れ…あ」
「え!?(うふふふふ)」
「……これ(赤身柵)、包装が破れてますよ」
「……………………え?」
「ああ、これ包装のビニールが」
「あ、ああ、はい、はい。…確認致しました」
なに言ってんだわたし!!それじゃ店員じゃねえか!!
「まあ、いっか。じゃあぼくはこれを引き受けますから。そっちの破れてない方をどうぞ」
「あ、それはどうも」
優しいー!!って違ーう!!
「では」
待ってえー!!違う!!違うの!!あたしよ!!天使よ!!(なにを考えてるんだこいつは)
「あ、あの」
「へ?なにか?」
「あの、月島さん、です、よ、ね?」
「え?そうですが」
「あの、わたし、わたしです」
「…確かにあなたはあなたでしょうが…」
「へ?」
「はあ」
うぜー!!気がつけよおおお!!はっ、違う。違うわ。彼は慎重を期すタイプなの!!石橋を叩いて渡るタイプなの!!
「あの、会社で、同じ会社で、谷塚と申します。経理部の」
「うん?(じろじろ)」
ええ!?まさかわたしの存在自体知らなかったパターン!?何度か話したことあるのに(職務上)。迂闊、そのパターン、迂闊だったわわたし!!周りがよく見えてなかったわ!!(今もだ)
「谷塚くん?…谷塚くんじゃないか。どうしたのこんなところで!」
「えっと(よっしゃあ!Bパターン回避Bパターン回避、Aパターン続行Aパターン続行!)」
「いや気がつかなかったなあ。君もこっちが地元なの?」
「はい、いや、そういうわけでは…」
「違うの?ふうん。そんな格好してるからてっきり地元かと思ったよ」
「え、格好?………(ふと我に帰る瞬間)」
………チーン。変装おおおおおぉぉぉ!!!(ただの不審者)…ふらり。
「え、おい、ちょっと、谷塚くん、大丈夫?谷塚くん!?」
「だい…じょぶ…でぇあ…(バタン)」
「谷塚くん!?谷塚くん!?谷………………………」
…………………。
…………………。
…………………。
…………………はっ!?(ぱちくり)……ここはどこ?わたしは一体…。ちらり。ああ、座ってるあの背中は(月島さん)。
「あの」
「(ビクッ)」
「…………あの月島…さん?」
「………」
「……あの」
「おい!!起きたぞ!!」
「ふぇ!?」
ドタドタドタドタ、バタン(ふすまが開く音)。
「ああ、よかったあー」
「…(月島さんがふたり!?いや、よくみればこっちが月島さんで、あっちは違う。あっちはもっさい)」
「いやあ、君がいきなり倒れるものだからびっくりしたよー」
「(倒れた?わたし?そういえば、あのミラクルファッションを見られて急に意識が…)はっ!?、こ、ここは?」
「ああ、ぼくの家だよ。スーパーで倒れて、その時たまたま近くに医者の先生がいてさ。ただの失神だっていうからひとまずうちに連れてきちゃったんだけど」
「あ、あの、すみません!ご迷惑おかけして、あの、ありがとうございました!」
「大丈夫?心配したよ」
「はい、大丈夫です。あの、よくあるんですよね。ははは…(初めて気を失いました)」
「そう、よくあるんだ。大変だね」
「え、あ、あはは、いやもう慣れっこで…(なに言ってんだわたしは!!……はっ、タオルケットの中ちらり、………くっ、現実って変わらないのね……)」
?「おい兄ちゃん、メシは」
「(兄ちゃん?、ああ弟さんか)あ、あのぉ、ご迷惑をおかけしました(ぺこり)」
弟「…ふっ」
鼻で笑われた!?
「ああいやそれがなあ、食材を買ってくる余裕がなくてなあ」
弟「ああ!?、なんでもいいから早く作れよ!」
「うむ、もちろんだ」
「…………(ポカーン。なんだこのパワーバランスは……月島家とは一体)」
「ああ谷塚くん、こいつは弟の幸二(こうじ)だよ(おれは幸一ね)」
「はあ、どうも」
二「………ふっ」
また鼻で笑われた!?
「さてと、君本当に大丈夫?タクシー呼ぼうか?」
「えっと…(待てよ、落ち着けわたし。この状況、作戦は一応成功中なのではないか?このまま何も戦果を上げんと帰るというの?)」
二「んなことよりメシだメシ」
なんなんだこいつは。こっちを見やしないでまあ。本当にこの月島さんの弟なの!?メシメシってこいつ…はっ
「まあちょっと待ってくれよ」
「あの月島さん」
「え?」
「もしよかったらわたしに作らせていただけませんか、夕飯を(ナイス提案だろええ!?)」
「いやそんなことは、悪いよ」
「だけどこのままではわたし」
二「いいじゃねえか作らせて見ろよ。お前の作る料理にも飽き飽きしてんだよ」
「ええっ、本当!?ショックだなあそれ」
「(…口が悪いな。だけどチャンス)弟さんもそう言っていることですし、どうか」
「うーむ、わかったよ。じゃあお願いしようかな。でも食材が無いんだよね」
「こう見えて料理は得意なんです!なんとかします!!」
(冷蔵庫の扉開ける)……………………(扉閉める)…………ぞなああああ!!(意味不明)
なんとかなりませんでした。
続
リサーチ1、先輩、彼の同期(男性)。
「え、月島?ああ、あいつはいい奴だよ。…………ほまきちゃん…あいつなんかよりも…え?ああ、違う?そんなんじゃない?ああ、そう、そうか。ふうん。うん。月島は…昔っから変わらねえなあ。モテるんじゃないかだって?そりゃあモテるだろ。顔も性格も成績と同じで我が社のトップだ。女の噂?…うーん、そういやあいつから聞いたことねえなあ。聞かれることはあるけどね。今みたいに…今みたいに…ほまきちゃん、あいつもいいけど、あいつとまでは言わないけど、身近にそこそこの男が……………」
役立たず。
リサーチ2、4つ年上の先輩(女性、未婚)。
「月島さん?あんたあの人に興味あるわけ?いや顔を真っ赤にしてそんなんじゃないって言われても、まあ、わかるわあ。あんないい男探したって見つかるもんじゃないからねえ。あんたで16人目ね。え?ああ、月島さんのこと聞かれたの。まあ、我が社の通過儀礼みたいなもんよ。その16人?ああ、谷塚はあの世代だったっけ。え、ああ、ほら、あんたの上の世代に女子社員が少ないでしょ?それはね、三年前に事件があったのよ。まあ噂だけど、同期による骨肉の月島さん争いの末、みんな振られて泣く泣くってな具合に集団退職よ。だからあんたたちは就職試験が甘かったって噂。まああくまで噂だけどね。ああ、就職の部分が噂で骨肉の争いの部分は事実なんだけど。すごかったなあ。昼ドラみたいでさ。わたし?わたしは違うよ。わたしダメな人が好きだから。ああいうなんでもできますって人には興味ないの」
衝撃の事実。
リサーチ3、同期(彼の部下、男性)。
「おう、谷塚、頑張ってるか。なに?月島さん?どんな人かって、うーむ、なんつうかなあ、おれは幸せ者だよ。あんな人の部下になるなんて。そりゃ優しいよ。でも当然厳しくもあり、なんつうかなあ、見たまんまだよ。精錬された男っつうか、仕事できるしかっこいいしで、憧れるしかないよな。うん?ああ、そりゃ一緒に飲むことぐらいあるさ。こないだなんかうちに泊まってったし。いや、そんなことあるわけないだろ。ただ、仮に月島さんに抱かせてくれって言われたら、そりゃもう抱かれるしかないよな。いや、違う。そんな顔でおれを見るなよ。断じて違う。違うよ。そんな人だってこと。いや違う。違うって。そんな地球最後の日がやってきたみたいな顔になるなよ。月島さんも違うよ。そう、違う、そう、そう。でもそういや女のことは聞かないなあ。噂だけは耳に入るけど、本人そういうところニブいからなあ。ほら知ってる?おれたちの上の人たちの、ああうんそれそれ。あれも本人は気がつかなかったって言ってたよ。多分生まれてこのかたずっとモテてたから、そういう雰囲気を読む感覚が麻痺してるんだろうねえ。悪気があるわけじゃないんだろうけど、それが
普通、みたいな。今?おれの知る限りフリーだよ。月島さんの家?おれは行ったことないなあ。いや、月島さんの家は遠いから。うん?綾瀬だよ。いや、そっちの綾瀬じゃなくて足立区の。それに月島さん実家住まいだし。遠慮しちゃうだろ。好きなタイプ?ああ、聞いたことあるけど、好きになった人って言ってたぜ。役立たずってお前、おれに言うな。ちなみにおれの好きなタイプは…え、なに?家族構成?………お前、それは本人から直接聞けよ。は?それはねえよ。あの人ほど開けっぴろげな人はいねえ。聞きゃなんでも教えてくれるだろうよ。たださっき言ったように正攻法で攻めても柳に風って感じだろうけどね。そんなんじゃないってお前。まあ、おれも興味あるよ。違うって。あの人の恋愛に興味があるってこと。ま、頑張れよ。応援してやっから。お前が月島さんを落としたとなれば同期として鼻が高い。ああ、秘密にしとく。今度なんかおごれよ」
生まれてこのかたずっとモテてたから恋してる女子の厚ぼったい視線に気がつかない。他の一般男性がそんなこと言ったならどん引きものですが、月島さんなら、さもありなん、といったところです。いいことを聞きました。正攻法で攻めても柳に風。では、絡め手から攻めてみては。しかし、おそらくその三年前に起こった泥沼の恋愛闘争時にありとあらゆる恋の権謀術数を受けたはずです。それでも彼女たち誰一人として彼をものにできなかった。彼女たちの中にタイプがいなかったから?恋愛を忌避してるから?まさかあっちの、いや、こっちの世界の住人だから?あんないい男が今フリーだって?女性経験は?謎は深まるばかりです。
営業先から帰ってきた月島さんがデスクで時に寡黙、時にニコニコと周りと談笑しながら仕事をこなす様を遠目から見ているわたし。胸(貧乳)は爆発寸前です。わたしは更なる調査とあわよくば良好な関係に発展するためにストーキングを決意しました。何をちらつかせても柳に風ならば根こそぎこっちに引き込む必要があるのです。恋愛という理想の関係を実現させるためには時に非常識なマキャベリズムも必要なのです。その昔、かの発明王エジソンは言いました。
「恋愛は1パーセントの閃きと99パーセントの張り込み」である、と!!(言ってません)。行動あるのみ!止まれません勝つまでは!!
名付けて、「赤丸急上昇中の、いい女(妄想の産物)と偶然地元で出逢っちゃって、なかなか見ることのできない普段の彼女の姿にちょっとドキッとしちゃう作戦」!!略して、「A(赤丸……)I(いい女…)N(なかなか…)作戦」!!
作戦遂行です。
仕事終わり、わたしは南こうせつの歌詞のよう、横丁の風呂屋の前であなたを待つわたし。芯まで冷えた髪を…………(以下妄想)。ああわたしって健気。
仕事を終えた彼は、幸運なことにまっすぐ家に帰るようでした。バレないよう細心の注意と変装をして(変装というか不審者。むしろ目立ってる)彼と同じ電車に乗り込むことに成功したわたし。電子マネー万歳。
彼の地元駅に着くと、彼はスーパーに立ち寄りました。ここだ、ここしかない。わたしが彼の前に突然現れた天使になるのは!うふふあはは(怖い)。たとえ軽くいなされても、ストーキングは続行できますしね☆(…………)
今日の夕食が含まれているであろうものをカゴいっぱいに詰め込む彼、セール品を吟味してる彼。せこい?ふふふ、違うの。彼って倹約家。そういえば家族と同居してるんだっけ。なるほどなー(なにがなるほどなーだ)。
意を決してわたしは彼の横に静かに近寄りお魚を物色するフリ。夢中で吟味を重ねる彼の伸ばす手と、わたしの手を重ねる!!
「きゃ、す、すみません」
「あ、どうも失れ…あ」
「え!?(うふふふふ)」
「……これ(赤身柵)、包装が破れてますよ」
「……………………え?」
「ああ、これ包装のビニールが」
「あ、ああ、はい、はい。…確認致しました」
なに言ってんだわたし!!それじゃ店員じゃねえか!!
「まあ、いっか。じゃあぼくはこれを引き受けますから。そっちの破れてない方をどうぞ」
「あ、それはどうも」
優しいー!!って違ーう!!
「では」
待ってえー!!違う!!違うの!!あたしよ!!天使よ!!(なにを考えてるんだこいつは)
「あ、あの」
「へ?なにか?」
「あの、月島さん、です、よ、ね?」
「え?そうですが」
「あの、わたし、わたしです」
「…確かにあなたはあなたでしょうが…」
「へ?」
「はあ」
うぜー!!気がつけよおおお!!はっ、違う。違うわ。彼は慎重を期すタイプなの!!石橋を叩いて渡るタイプなの!!
「あの、会社で、同じ会社で、谷塚と申します。経理部の」
「うん?(じろじろ)」
ええ!?まさかわたしの存在自体知らなかったパターン!?何度か話したことあるのに(職務上)。迂闊、そのパターン、迂闊だったわわたし!!周りがよく見えてなかったわ!!(今もだ)
「谷塚くん?…谷塚くんじゃないか。どうしたのこんなところで!」
「えっと(よっしゃあ!Bパターン回避Bパターン回避、Aパターン続行Aパターン続行!)」
「いや気がつかなかったなあ。君もこっちが地元なの?」
「はい、いや、そういうわけでは…」
「違うの?ふうん。そんな格好してるからてっきり地元かと思ったよ」
「え、格好?………(ふと我に帰る瞬間)」
………チーン。変装おおおおおぉぉぉ!!!(ただの不審者)…ふらり。
「え、おい、ちょっと、谷塚くん、大丈夫?谷塚くん!?」
「だい…じょぶ…でぇあ…(バタン)」
「谷塚くん!?谷塚くん!?谷………………………」
…………………。
…………………。
…………………。
…………………はっ!?(ぱちくり)……ここはどこ?わたしは一体…。ちらり。ああ、座ってるあの背中は(月島さん)。
「あの」
「(ビクッ)」
「…………あの月島…さん?」
「………」
「……あの」
「おい!!起きたぞ!!」
「ふぇ!?」
ドタドタドタドタ、バタン(ふすまが開く音)。
「ああ、よかったあー」
「…(月島さんがふたり!?いや、よくみればこっちが月島さんで、あっちは違う。あっちはもっさい)」
「いやあ、君がいきなり倒れるものだからびっくりしたよー」
「(倒れた?わたし?そういえば、あのミラクルファッションを見られて急に意識が…)はっ!?、こ、ここは?」
「ああ、ぼくの家だよ。スーパーで倒れて、その時たまたま近くに医者の先生がいてさ。ただの失神だっていうからひとまずうちに連れてきちゃったんだけど」
「あ、あの、すみません!ご迷惑おかけして、あの、ありがとうございました!」
「大丈夫?心配したよ」
「はい、大丈夫です。あの、よくあるんですよね。ははは…(初めて気を失いました)」
「そう、よくあるんだ。大変だね」
「え、あ、あはは、いやもう慣れっこで…(なに言ってんだわたしは!!……はっ、タオルケットの中ちらり、………くっ、現実って変わらないのね……)」
?「おい兄ちゃん、メシは」
「(兄ちゃん?、ああ弟さんか)あ、あのぉ、ご迷惑をおかけしました(ぺこり)」
弟「…ふっ」
鼻で笑われた!?
「ああいやそれがなあ、食材を買ってくる余裕がなくてなあ」
弟「ああ!?、なんでもいいから早く作れよ!」
「うむ、もちろんだ」
「…………(ポカーン。なんだこのパワーバランスは……月島家とは一体)」
「ああ谷塚くん、こいつは弟の幸二(こうじ)だよ(おれは幸一ね)」
「はあ、どうも」
二「………ふっ」
また鼻で笑われた!?
「さてと、君本当に大丈夫?タクシー呼ぼうか?」
「えっと…(待てよ、落ち着けわたし。この状況、作戦は一応成功中なのではないか?このまま何も戦果を上げんと帰るというの?)」
二「んなことよりメシだメシ」
なんなんだこいつは。こっちを見やしないでまあ。本当にこの月島さんの弟なの!?メシメシってこいつ…はっ
「まあちょっと待ってくれよ」
「あの月島さん」
「え?」
「もしよかったらわたしに作らせていただけませんか、夕飯を(ナイス提案だろええ!?)」
「いやそんなことは、悪いよ」
「だけどこのままではわたし」
二「いいじゃねえか作らせて見ろよ。お前の作る料理にも飽き飽きしてんだよ」
「ええっ、本当!?ショックだなあそれ」
「(…口が悪いな。だけどチャンス)弟さんもそう言っていることですし、どうか」
「うーむ、わかったよ。じゃあお願いしようかな。でも食材が無いんだよね」
「こう見えて料理は得意なんです!なんとかします!!」
(冷蔵庫の扉開ける)……………………(扉閉める)…………ぞなああああ!!(意味不明)
なんとかなりませんでした。
続