【2023/2/26、6/25 追記有り】
「その手は桑名の焼き蛤」のしゃれ言葉でも知られるように、桑名といえばはまぐりが名産。ただ、中国産のはまぐりが市場を席巻する中で、桑名産のはまぐりはもう限りなく壊滅に追い込まれていると思っていた。
今回のその無知な思い込みを正すいい機会になった。
向かったのは、長良川の河口にある赤須賀漁港。海洋の漁港とはまた違ったタイプの漁船がずらりと並ぶ。
時間的にもう水揚げは終わった後のタイミングだったが、まだ少し漁師さんが残っていたので、少しだけ話を伺う。下の写真ははまぐりを獲るための道具。大きさが違うシジミとかまた違う道具になるらしい。
はまぐりの漁は長島スパーランドのその先の沖合まで獲りに行くのだそう。出航は毎朝5:30から。そして10時までに入札所に持ってくること。その間だけが漁を許されているらしい。下写真が入札所。
漁は通年やっているけれど、夏の産卵期を前にした5~6月が1年で一番おいしいとのこと。なのでちょうどいいタイミングだった。
ということで、桑名さんのはまぐりがいただける「はまぐりプラザ」に向かう。ここは行政主導でつくられたまちづくり拠点施設で、展示室、食堂などのほか、赤須賀漁港の事務所も併設されている。
建物の裏手側。ここにも漁船の駐留場所がある。
建物1階の展示物の一部。これは昔の漁で使われた道具。
また、地元産のはまぐりと、チョウセンハマグリ、輸入ハマグリの貝殻見本もあり、大きさや模様がかなり違うことが分かる。
ちなみに、チョウセンハマグリは朝鮮ハマグリではなく、汀線ハマグリと書く。基本は国内産で茨城や千葉などが主な産地。首都圏だと、九十九里浜産などとして提供されることが多い。
一方三重県では、輸入したものを国内で一定期間育てて出荷する「畜養」も盛んで、隣町の川越や鈴鹿などにいくつも畜養施設があるらしい。
展示物の中で印象的だったのがこのグラフ。激減ぶりもさることながら、その後の回復も目覚ましい。この1990年代前半頃の激減ぶりの記憶が、「桑名ではもうハマグリは取れなくなった」の情報のまま意識停止をしていたみたい。
隣県の岐阜出身の自分としては非常に申し訳なく、さきほど話をきいた漁師さんにも無知ぶりをお詫びするとともに、少しでも発信のお手伝いができればということを話した。
1995年以降の回復を可能にした「種苗生産」の説明
このような情報を入れて、先人に大きな感謝をした後、目的の食堂へ。ちなみに、営業は11時からだが、入り口は(この日到着した)9時半ころにはすでに開いており、入店受付はこの時点でもうしているそう。すでに紙には先客一名の名前があった。
訪問がGW期間の土曜日(5/7)だったので、通常の週末とは違うかもしれないけれど、開店ちょうどの時間に訪れたお客さんがギリギリ一回転目に間に合い、その後は順番待ち。
テーブル上でハマグリを焼いたりするのであまり回転は早くなく、その後に着いたお客さんはコンスタントに4-50分かそれ以上待っていたんじゃないかな。
メニューの看板は焼きはまぐり定食だが、前日までの予約&前日の6日まで休業中だったので、これは頼めず(でも聞いたら、休業中でも予約は受けていたらしい)
あさり炊込ご飯以外は内容は同じ「赤須賀定食」を中心に注文。周りの客さんもほぼみんな「赤須賀定食」だった。
ただこの基本メニュー以外にも単品提供が若干あり、その中からまずは「酒蒸し」を選ぶ。この日は「特大サイズ」でも提供ということで、貝の径は8センチ以上。これだけ大きなはまぐりは初めて食べる(ホンビノスとかは除く)
少し小さめ(といっても径6センチほどある)のはまぐりが3つ入ったはまぐりうどん
そしてこの日のメインの赤須賀定食。はまぐりのサイズは7センチ強ほど。アルミホイールに包まれた状態で提供。なので撮影用にいったん、中が見えるように。
再びアルミホイールに包みなおして、コンロの上に乗せる。言うまでもなく、貝汁がこぼれたり飛び跳ねたりしないようにするための対策。
味付けはしてなくても、そもそもの塩味で十分(むしろ少ししょっぱいくらい)。どのメニューもだけど、しっかり火を通しても、身がぷっくりしたままというのがさすが桑名産!! コストパーフォーマンス的にもあなりの満足度がある。
食後は近くの”しぐれ屋”さんを訪問。しぐれ(時雨)とは、はまぐりの保存性を高めるために、煮つけたもの。「貝新」のホームページには、「美濃の俳人名務支考により煮蛤を時雨(しぐれ)蛤と命名」との記載があった。
まず訪れたのは、「伊勢志ぐれ 本店」。新しくお洒落な外観で、商品もきれいなパッケージでお遣いもの向き。ただし、はまぐりは中国産(畜養ものでもない)で、しじみその他、すべての食材で桑名産のものはないとのことだった。
続いて、はまぐりプラザのすぐ横にある「貝増」を訪問。ここは昔ながらの店構えで、表でははまぐりそのものも売っている。
ショーケースには、はまぐりを使った商品がなかったので聞くと、冷蔵庫にいくつかあると。そして中国産だけではなく、桑名産もあるということで、そちらを購入。
両店で買い比べた商品の比較がこちら。桑名産のは”若炊き”を選んだので見た目の色合いが違いすぎるのが失敗だが、身のぷっくり感がまったく違うのがよく分かる。
口にしても、はまぐりを食べている実感が得られるし、「やっぱり国産だよなあ」と初めは思ったものの・・・
高齢の両親にとっては、国産のは大きすぎて噛むのが大変だと。そう言われると確かにそう。ご飯のお供と考えたら、小さくて嚙み切りやすいほうがいい。そこでふと思った。「無条件に、国産をありがたがるばかりでもダメだな」と。
消費者はよりレアなものを求めたがるけど、会社って希少価値だけでは生きていけない。仕入れの量も値段も不安定なものでお店はとても成立しない。
「国産(現地産)じゃなければまがいもの」という決めつけではなく、自分たちにできる範囲内で最善を尽くそうとする、その意欲やこだわりを理解する心、見極める力を持たなくてはいけなかったなと。それももう一つの反省になった。
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赤須賀漁港の周辺は観光地的要素も高く、桑名城天守跡がある「九華公園」には、非常に大きなお堀跡があり、その中を回遊する歩道が楽しく
その北端には、今やデパ地下の定番ともいえる「柿安ダイニング」を運営する株式会社柿安本店の本社があり
一階に設置された店舗にはひっきりなしに客が訪れる。
またその北側には、東海道五十三次の要所の一つ「七里の渡し」の船着き場跡もある。
対岸には「なばなの里」、長良河口堰、そして同地区の大型レジャー施設「長島スパーランド」も。※下写真は、「なばなの里」のベゴニアガーデン
3月ころは「白魚漁」もシーズンということで、今回食べられなかった白魚料理が次のターゲット。
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【2023/2/26】
ということで、再訪したのは翌年2月25日。先月からしらうお料理が提供されており、ちょうど近くを通る機会があったのでこれ幸いと顔を出すことに。
スケジュールの関係上、前回のように開店時間前には間に合わず、11:25くらいの到着。もうかなり先客がいて7-8組くらいが待機中。それでも30分ほどで名前が呼ばれて入店。
当然のように今回のお目当ては、地元産しらうお料理。この店で唯一出している「しらうお丼」がターゲット。卵に包まれて、ふんわりほんわかした味わい。
ただせっかくなら、もう一種類くらい違う食べ方があっても良かったかなと思ったものの、周りは全員はまぐり食べてるので、増やす意味もないのかな?
一つくらいはまぐり料理も食べないとと、前回頼まなかったはまぐりの串揚げも追加。ほぼほぼはまぐりのフライと同じ。
これで食べてないメニューは、予約限定の「はまぐり定食」にある、あさり炊込みご飯くらいかな。(はまぐりフライ丼は、はまぐりフライで代替したこととして)
【2023/6/25追記】
桑名を朝に通る機会があったので、漁でもしていないかなと赤須賀漁港に立ち寄り。思惑は当たって漁&市の立つ日で、漁船の出入りをしばらく眺めていた。
そして籠にいっぱいのシジミを積んで作業している漁師さんがいたので、写真撮影の許可とともに少しだけ話を聞く。シジミ漁は一度に籠5杯までと量が制限されていること。この日はその制限近くまで獲れていたこと。かなりの不漁だった昨年と比べると、今年の水揚げはまあまあだと。
前回来た時も思ったけど、赤須賀の漁師さんはみな丁寧に質問に答えてくれる。このあたりも素晴らしい漁港だなって思います。