備前長船助光刀匠に依頼した注文打ち。ついに完成しました。

 

72.6cm・反り18mm

 

以下は鍛治研ぎ後の数値

 

元重8ミリ

先重ね5.8ミリ

幅は注文通りなら

元幅32ミリ

先幅23ミリ

ちなみに茎が長めで7寸5分

刀身重量が重くて908g

鞘を払って1255g

 

色々考えた結果、普通の寸法が一番と思いこういう感じになりました。重ねは少し厚め。そのため長さの割には重たいです。

 

研磨は思う所あって美術研磨の化粧研ぎ(刃取り)をしていません。いわゆる居合研磨です。

 

切れ味フェチなので刃物としてシャープに切れる方が良いけど、刀として正しい蛤刃が良いという私の無茶な希望をそのまま研ぎ師の方に伝えて頂いたようで、それをある程度なんとかして頂けたようです。

 

以下、刀匠から完成時に頂いたメール↓

 

研ぎは、肉を落とさす蛤風で、なるべく刃を立てる様に依頼しておりましたので、差し込み風になってました。
刃取りをしたら、刃が若干鈍ったそうで、結局研ぎ直して、居合研ぎの差し込み風になったそうです。

 

中略

試し斬りはされないとの事ですが、打ち下ろしで竹を沢山切って試してますので、いざと言う時は安心してお使い下さい!!

 

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この通り、竹が斬れる強度がありながら紙が結構シャープに切れるという絶妙な刃先に仕上げて頂きました↓

 

 

 

以下、刀の写真

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カメラも光も撮り方も悪いですし、美術研磨ではないので写真では肌や刃文が見えにくいのですが、肉眼だと結構よく見えます。

 

↑鍛え疵

これくらいなら美術研磨したら見えなくなるそうです。

 

これでお願いしたのですが、この価格でこのクオリティは素晴らしいというか、ちょっとありえない思います。

 

 

 

↑この刀の同じ部位の写真なのですが、光の当たり方で見え方が全く異なります。刀の写真を撮るのは難しいです。この写真の左側の画像のように上から下まで綺麗な刃文が並び、地鉄の肌も美しいです。上手く全体を撮れないのが残念です。美術研磨ではないので美観はそこまで期待していなかったのですが、むしろ美術研磨の化粧研ぎではわかりにくくなってしまうような美しさが伝わってきて良いかもしれません。

 

 

 

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柄は黒の正絹に鮫皮は黒漆塗の腹合わせ。柄材は朴木ではなく水目桜(梓)。刀匠の知り合いのコンクール特賞受賞経験者の作。頑丈な柄が良いという私の希望に合うものを作れる職人を知っているとの事でしたのでお任せしました。

 

鞘は普通の濃州堂の黒石目の鞘。

 

 

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↑この構成とほぼ同じでしょうか。柄を特注したり鍔をよそで買ったりしているので、その分価格が上がっています。

 

あと、一応白鞘とツナギも作りましたのでその費用も追加。それでも、、、有り得ないようなコストパフォーマンスだと思います。研ぎが美術研磨ではなく居合研磨なので安くなっているのですが、それでもこの品質でこの価格はすごい。

 

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↑蛇足的な外付けパーツとして、軍刀風の革カバーを鞘と柄に作りました。栗型が出ているのでこのまま腰に差せます。柄カバーも一応つけたまま使えますが、こちらは使う時には外した方が良いようです。

 

このお店で作成

 

野戦に出るわけではありませんが、ぶつけたり擦れたりして塗鞘にキズがつくのをふせげます。柄カバーは手垢で柄糸が汚れるのを防ぐためにつけました。体質のせいか、手持ちの刀の柄が手垢で汚くなってしまったので。

 

握り心地が良く柄カバーをしたままでも全く支障なく刀を使えると思うのですが、本当の意味で刀を使う時にはすべるので外した方が良いそうです。成瀬関次の本にそう書いてありますので。

 

 

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↑鯉口部分の鞘の木が変形して鯉口が緩くなってしまうのを防止するための「鯉口くん」というアイテムがあるのですが、似たようなものを自作してみました。革の端切れを切ってビニールの防水テープでぐるぐる巻きにしただけのものです。

 

 

しかし、これをはさむと当然ハバキ止めが効かなくなるのでそのまま真剣を入れておくのは危険です。

 

という事で、略式軍刀の外装からインスピレーションを受けて簡単なストッパーをつけてみました。プラスチックバックルを平たい紐(リボン)で結び付けただけのものです。

 

 

 

↑今回の刀は鯉口にこれくらい隙間がありました。濃州堂の鞘ははじめてですが、過去二振りの刀と比べると結構広い隙間です。ただ、何度も抜き差ししているとこの隙間はなくなっていきます。それを防ぐための「鯉口くんもどき」です。

 

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今日、一つ焦った事がありました。柄が固すぎて茎が入らないのです。

 

 

 

今までに2回柄を新作した事があり、毎回そのままでは固くて茎が入りませんでした。そこで、こんな感じでゴムシートで刀身を掴んで写真のゴムヘッドのハンマーで柄頭をコンコン叩いて入れていました。

 

武用の新作の柄は、一般的なイメージのように柄をいれて上をむけて手の上にトンと落とすくらいでは入りません。柄を抜く時も同様で、鍔をハンマーや木槌で叩かなければ抜けません。

 

それが今回は硬すぎて同じ方法でも全く入らないのです。

 

何度叩いても入らないので焦りましたが、かなり強く何度も叩いてようやく入りました。しっかり入ったのでカッチカチです。

 

今回のこだわりとして特に強固な柄材にしてもらったのですが、なんとなく朴木が一般化した理由がわかった気がしました。

 

 

今回の刀は「強さ」を目指した刀なので、元々一度柄を入れたらハバキ裏の錆など気にせず柄は抜かないつもりでいたので良いのですが、、、しかし柄が入らなかったらどうしようかと焦ってテンパってしまい嫌な汗をかきました。

 

定期的にハバキ裏に油を塗るには普通の朴木の柄が良いのかもしれません。

 

ただ、今日は雨なので湿度の影響で硬くなっていただけなのでしょうか。それにしてはめちゃくちゃ硬かったですが。

 

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後日追記

 

先日購入したsword frogが届きました。刀を洋服に装備するためのアイテムです。

 

Adjustable Leather Sword Frog Made to Order | Etsy 日本

 

↑これ。約15000円。

 

 

 

近所のコーナンで買った二連穴の太めのベルトを服の上にまいて装着してみました↓

 

 

 

 

当然、太刀佩きもできます↓

 

 

 

後日追記

 

手持ちの脇差の外装を大刀と合わせました

 

 

 

合皮で脇差の鞘カバーと大小の柄カバーを自作してみました↓

 

 

 

 

 

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以下は雑感。

 

私がこの刀を作るに際して考えた事など。

 

「最強の刀が欲しい」という中二病的発想から日本刀の注文打ちを思い立ちました。

 

そうは言っても日本刀は普通の炭素鋼の刀です。現代の鋼材のようにクロムもタングステンも含まれません。だから絶対的な意味での「最強の刀」などというものではあり得ません。

 

また、対象物・使用者・使用場所・用途・その他もろもろ前提条件が変われば最適な刀も異なります。また日本の法律に合致したものしか所有できません。それは私も大人なのでわかります。

 

と言う事で、刀身・外装ともに伝統的な製法で作られた日本刀であり、かつ十分な実用強度のある刀を注文打ちで作ろうと思い立った次第です。古い刀だと、過去に曲がった事があるかどうか、皮鉄がどの程度研ぎ減りしているか、等がわかりませんので新作・注文打ちになりました。

 

古い刀ではなく注文打ちにした理由↓

 

 

 

しかし、注文打ちも意外と難しかった。

 

まず「現代刀はもろい」という問題。

 

「鉄の焼物」「落としたら割れる」と揶揄されるくらい美しくもろいガラスのような美術刀剣が作られているという噂を聞いていました。そして、調べると本当にそういう刀が実在する事も知りました。

 

理由はいくつかあるのですが、代表的なものは以下の3点

 

・刃文が明るく冴えるようわざと焼き戻しを甘くする

・良い刃文が出るまで同じ刀身を何度も焼き入れする

・注文の反りの数値に合わせるために焼き入れ後に刀身を曲げる

 

現代刀の製作ではそういう事がなされる事も珍しくないようです。

 

 

色々調べて、そういうことのない丈夫な刀を作ってくれそうな刀匠を見つけた所から注文打ちの構想がスタートしたと言っても良いでしょうか。

 

※言うまでもない事ですが、よく斬れる刀を作られる現代刀匠はたくさんおられると思います。あくまでも私の知る範囲・縁あっての事で備前長船助光刀匠に作刀を依頼する事になったものです。

 

今回の刀身の製作工程↓

 

 

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外装について。

 

主に成瀬関次の著書を参考に整えました。

 

成瀬関次の著書によると、軍刀故障のうち「柄の故障が実に6割」との事。柄6割・刀身3割・鞘1割。

 

成瀬によれば、刀の実用性は刀身よりもむしろ柄の強度による所が大きいようなので、そこにこだわりました。現代では柄材に適した木目の詰まった朴木がほとんど無いそうなので別の頑丈な木にしました。刀匠知り合いの職人によるミズメ(梓)の柄になりました。成瀬も柄材に良いと書いている木材です。

 

 

ハバキは銅一重。銀だと強度が弱いために斬撃によって切羽と接する部分が微細に変形して固定が不安定になり、柄木を変形させる要因になるそうです。二重ハバキは「二重になしたるものあれども破損し易し」とか「二重鎺に至ってはそのほとんど全部が故障を起こしていた」と書かれています。

 

 

縁金具は刀身の身幅に合わせた新物。茎のサイズに合っていないと柄木を破損させるとの事。刀の元幅により縁金具のサイズが変わり、縁金具のサイズにより柄の太さが決まります。つまり手の小さい人ほど元幅の広い刀は不向きとなります。

 

柄巻きは正絹。「純絹製には、相当手ずれありしも磨損の度少なく」とあるため。鮫皮は漆塗。短冊では補強にならないので一枚巻。漆塗の鮫皮(一枚巻)は多少ですが柄の補強になるようです。

 

革の柄巻き・柄糸に漆塗したものは滑りやすいから良くないというような感じで成瀬は書いています。

 

 

ただ、戦国時代の柄巻きは革巻に漆塗なので意見の分かれる所でしょうか。強度は絹より革の方が強そうな気がします。

 

 

鍔は表面に凹凸がなく平滑なもの。軍刀鍔は太刀風の装飾が手の皮膚をキズつけるとの事。

https://plaza.rakuten.co.jp/finlandia/diary/201202220000/

 

鞘は軍刀の鉄鞘は不具合が多く普通の木鞘を皮革で包む方が良いとの事。鞘については記載自体が少なく重要度は低そうです。普通の木鞘に革カバーをつけました。

 

「巻鞘など宜しかるべし」と、巻鞘が良いと書かれている部分があったので鮫皮巻の鞘にしようとも思ったのですが高価過ぎてやめました。でも鮫鞘はカッコイイので将来美術研磨に研ぎ直す機会があればその時にでも鮫鞘にしたいとも思うのですが、、、これは将来の経済状況次第ですね。

 

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色々調べて考えて作った刀ですが、私は武道をした事も人を殺した事もありません。武器マニアの私が妄想の中で構成した実戦刀です。童貞少年がネットで色々調べて作り上げた「究極の恋愛マニュアル」とかに近いものでしょうか(笑)

 

しかし一流の職人が作ったものなので、そんなにおかしな物ではないはずです。

 

むしろ革カバー等の外付け品を除けば、寸法・外装ともに「普通の刀」以外の何物でもありません。

 

この「普通」の形式が最良であったために「普通」つまりスタンダードな日本刀の形式になったのだと考えます。

 

長くすれば凡人には扱いにくく

身幅を広くすれば柄が太くなり

重ねを厚くすると重たくなり

派手な大切っ先は強度が落ちる

 

この普通の形状に寄せて刀を作るのか、それとも敢えてここから外して作るのかは各人の考えや好みによって違うものだと思います。百人いれば百様の考えがあるでしょう。

 

この刀が本当の意味で実戦的であるのかどうかは、今後も人間を斬殺する予定がないため永遠に不明です。

 

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↑この記事を書いたのが2020年の11月。完成まで約1年半。

 

このブログを書き始めたのが2020年3月。

 

この刀の完成は間違いなく私の刀剣趣味の一つのピリオドなので、この刀の完成を機にブログ書くのはやめて、このブログも消そうと思っていました。でも、やっぱりもう少しこのまま置いておこうと思います。今後も気が向いた時にたまに何か書こうと思います。

 

 

 

最後に、備前長船助光刀匠はじめこの刀の製作に携わって頂いた方々に心より感謝申し上げます。

 

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後日追記

 

日本刀を注文打ちするに際して調べた事などをまとめてみました。

 

柄・鞘・刀身について。

 

 

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注文打ちの脇差も完成しました↓