先日のNHKプロフェッショナルで吉原義人刀匠に密着して特集していました。

 

現代刀匠のトップと言っても過言ではない人です。

 

少し興味深い点があったので少し書いてみたいと思います。

 

これは本当は触れてはいけない事なのかもしれませんが、敢えて書いてみます。

 

平成12年の新作刀コンクールでの吉原刀匠の講評というのがみつかったので、まずそれを転記します。

 

重要と思う所を赤字にしました。

 

 『刀剣美術』第五二三 2000年8月号 P.29-30 審査員講評 吉原義人

 刀を作る時は、最初に地鉄の鍛錬から始まり、次に形を作り、焼きを入れ、最後に更に形を整えます。つまり、地鉄、姿恰好、焼きが日本刀の三要素なので、それぞれについてお話します。

 

 先ず地鉄ですが、今回も例年通り板目・柾目をはじめ地景を強調した相州風の物、また平安・鎌倉を想わせる古さを強調した物等、それぞれが大変よく出来ていました。

 

 ただ中には延ばす時の沸かしが強過ぎたか、大槌の効きが強過ぎたか、撓えの出た物がありました。反対に、沸かしが弱く、延ばし方が早いため、板目風に鍛えた地鉄が柾状に揉めている物も見受けられました。

 

 刀を作る工程で作り込みの後、延ばすことを素延べと勘違いしている人がいるのではないでしょうか。素延べとは延ばし終わった後の形を言うのであって、延ばすことは沸かし延べと言うのです。

 

 十分に沸かしを掛けながら少しずつ延ばさなければ、せっかく鍛錬した詰んだ板目も柾状に揉めて流れてしまいます。最後まで沸かしには十分気を遣って下さい。但し、細くなるとすぐ沸くので、沸かし過ぎには注意して下さい。

 

 次に刃紋と焼入れについて感じたことを話します。

 

 刃紋に関しては、入賞者、入選上位の人たちの丁子乱れ、互の目乱れ、互の目仕立ての丁子、濤乱刃、のたれ、直刃等、いずれもよく出来ていました。中には大変素晴らしい物もありました。ただほんの一部の人ですが、刃紋が形にならず、何乱れと表現できないような物もありました。刃紋の形をもっと勉強して下さい。

 

 それから例年の通り、焼き刃土を塗らない通称裸焼きも幾振りかありましたが、あの焼入れ方法は焼き刃の角度、すなわち真っ直ぐ上がる丁子乱れにするとか角度のついた逆丁子にするくらいしか、自分の意志が反映されません。炭素量の多い少ない、(素延べ後の地鉄の)表面の仕上げ状態、焼入れ温度、等による刃形の変化はありますが、殆どの部分が偶然の産物です。

 

 自分の美意識を反映させる刀作り、その中でも最も作者の個性を表す刃紋作りの作業で、いつも偶然任せとは毎年の展覧会の作品としては如何なものでしょう。

 

 その他、平造りの短刀でフクラから帽子の焼き幅が狭い物、大切先の刀で切先中の焼きの浅い物、古さを追求した地鉄のせいか帽子の焼きがよく見えない物も気になりました。昔の刀でも帽子の健全さによって価値が大きく変わります。新作刀なのですから焼きのしっかりした健全な帽子を心掛けて下さい。

 

 次に姿恰好の問題です。殆どの刀は大変良くなっております。ただほんの幾振りかですが、幅のバランスの悪い物、反りのバランスの悪い物、すなわち腰反りが強過ぎたり、切先だけ反りが無かったりする刀がありました。

 

 それから研ぎで横手が切ってあるのに刀の姿に横手が無い物もいけません。姿恰好は鍛錬や焼入れと違い、良い形を知ってさえいればどのようにでもなるのです。普段から良い形をしっかりと勉強して頭の中に叩き込んで下さい。

 

 最後になりますが、真に残念なことに、上位の入賞者も含めて刃こぼれのある刀がありました。

 

 私は刀の美しさは機能美であると固く信じております。刀が武器として生まれ、バランスの取れた使い易さの追求から姿の美しさが生れ、また折れず曲がらずよく切れる鋼の追求から綺麗な地鉄と美しい刃紋が生まれたことは疑いありません。その機能美を追求する刀が、研いでも刃が付かないような脆い物だったら如何なものでしょう。美しさを云々する前に刀として失格ではありませんか。刃紋の冴えを気にして焼き戻しを怠った結果でしょう。

 

 美術刀剣と申しますが、刀は絵や彫刻等最初から美しさだけを追求した純粋な美術品とは違い、武器としての機能美を見るものです。刀としての基本的な機能だけは絶対に欠けることのないよう心掛けることをお願いし、今回の講評と致します。

 

https://blog.goo.ne.jp/ice-k_2011/e/4b7d0e27648ac175b1d907901487119e
引用元

 

 

まず、上位入賞している刀に刃こぼれがあるという話。そして、それが焼き戻しを怠っているからとの事。

 

これは裏を返せば焼き戻しを甘くして刃文を冴えさせたような刀は上位入賞しやすいという事になります。刃こぼれがあれば見た目でわかりますが、研ぎ師が頑張って刃こぼれを出さずに刃がつけられていたら見た目では脆い事がわかりません。

 

次に、刀の姿恰好は焼き入れや鍛錬と違いどうにでも出来るという点。

 

焼入れ時に出来る刀身の反りは自由にはコントロールできない点です。ただし、焼き入れ後に反りを伏せたり足したりする事は可能です。

 

反りを浅くするには棟側をハンマーで叩いて反りを伏せていく。反りを足すためには棟側をバーナーで炙る。

 

焼入れ後に反りを伏せると姿が悪くなるとYouTubeで他の刀匠が話していた事を思うと、反りを浅めにしておいてバーナーで炙って任意の反りをつけるのが最適に思われます。

 

先日のNHKの番組内で、刀身をバーナーで炙っていたり焼き入れした後に刃文の出来が良くなかったので同じ刀身をもう一度焼き入れしたりしている所が放送されていたそうです。以前書いた「現代刀が脆くなる理由」の中にこの複数回の焼き入れと、焼き入れ後の反りの調整が含まれます。

 

 

テレビにも映していますし、吉原刀匠の弟子の刀匠のブログにも複数回焼き入れしている事が書かれていましたので、隠すような事ではないのでしょう。ひょっとしたら刀の強度には関係しないのかもしれません。でも、素人考えですが何度も焼き入れしたり、焼き入れ後にバーナーで炙ったりしたら刀身が弱くなってしまうように思われてなりません。

 

でも、コンクールで入賞するためには刀身の反りの調整や、納得いくまで刃文を焼き直す事は必須なのでしょう。

 

つまり、コンクールで上位入賞しやすい刀の作り方というのは、焼き戻しが甘くて刃がもろく、良い刃文が出来るまで同じ刀身を何度も焼き入れしなおして、焼き入れ後にバーナーで炙って良い形にする。

 

これがコンクールに入賞しやすい刀であるという事になってしまいます。

 

もう少し書くと、地鉄の肌を出すためにも何かしていそうな気がします。

 

なんだか、すごく脆くて曲がりやすそうな刀に思えてきました。

 

いや、日本刀は美術品なので武器としての強度を気にする私の方が頭がおかしいと言うべきか。

 

・・・・・・・

 

あくまでも刀にさほど詳しくもない素人の妄想ですので、真に受けないでくださいね。

 

もちろん、現代刀匠を批判したりするものでもありません。