人気バラエティー番組「緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦」シリーズの撮影が行われる。撮影を誘致していた市は、番組が堀の一部の水を抜いて恒例の生き物調査を行う際、城の石垣の調査も行うことを計画している。長らくベールに包まれてきた堀の水面下。水を抜くことで何が明らかになるのか。
子供が市長に直談判
生き物に興味を持つ子供から大人まで幅広い世代が楽しんでいる人気番組。今回の番組誘致につながるきっかけは、令和5年1月に開かれた和歌山城に関するシンポジウムだ。
客席にいた小学生くらいの子供が「堀の水がきれいになるかもしれない」「何かいいものが見つかるかもしれない」として、パネリストの尾花正啓市長に対して「和歌山城の堀の水を抜いてほしい」と直談判。尾花市長は前向きな返事をしたという。
平成11年、二の丸にあった「北辺櫓群(ほくへんやぐらぐん)」の復元計画を示している。北辺櫓群の土台となっていたのは、堀に接する石垣。このため堀の水を抜くことができれば、普段は水面下にある石垣の現在の状況を調査することができ、復元計画がさらに前進する。こうした市の思惑と、ロケ地を探していたテレビ局側とのニーズが一致し、撮影が行われることになった。
市の担当者は「多少の水位を下げて調査をしたことはあるが、あまり参考にならなかった。堀の水を抜くことができれば、もっと下まで調査ができるのにと思っていた」と話す。
櫓の土台となる石垣、修復は必要か
「北辺櫓群」はどんな建物だったのか。江戸時代、紀州藩主が政治や生活の拠点としていた二の丸の北側にあり、3つの櫓(駿河櫓、物見櫓、月見櫓)やそれらをつなぐ土塀などからなる。堀を挟んで建っていた三の丸への侵入者を見張る目的などがあったとされている。
明治に入って和歌山城が廃城し、軍管理になると櫓は取り壊され、現在は石垣を残すだけとなった。櫓を復元しようとしてもすでに150年以上が経過し、取り壊される前に撮影された写真などの資料も限られているため、市は、復元に向けて市民に写真などの提供を求めている。
今回の調査は、復元に向け、櫓群の土台である石垣の状況を確認し、復元の際に修復が必要かどうかなど基礎的な資料とする方針。
市によると、水を抜くのは北堀のほぼ全体にあたる約9300~9400平方メートル。つながっている東堀との境近くにある比較的幅が狭い箇所に土囊(どのう)を積んで水をせき止め、ポンプで東堀に水を移す方法で行われる見通し。
費用はテレビ局側が負担する。市は、人気番組とあって撮影日に多くの市民らが訪れると見込み、周辺の安全を確保するための警備員を配置する費用や、予想されるごみの処理費用として計約57万円を予算計上している。
近年、堀全体の水を抜いたのは昭和40年代、堀にたまるヘドロ対策として広範囲にポンプを使った浚渫(しゅんせつ)工事を行った。また平成18年には、二の丸と西の丸を行き来する「御橋廊下(おはしろうか)」の復元工事の際、周辺の北堀の一部を抜いたことがある。