今回は森見登美彦の小説「きつねのはなし」の感想です。
森見登美彦さんの作品というと、昔友人に進められて「夜は短し歩けよ乙女」を読んだことがあります。
他にも「四畳半神話大系」などはポップなテイストでアニメ化されていますよね。
森見登美彦作品って割と明るめな印象を勝手に持っていたのですが、この作品はどちらかというと暗くてホラー的な傾向が強い作品です。
「きつねのはなし」、その構成は
・怪しげな怪人物「天城」と、様々な物々交換をする羽目になる「きつねのはなし」
・人生経験豊富な大学の先輩の、とある隠された秘密を知ることになる「果実の中の龍」
・京都の町で、人々が正体不明の存在に次々と襲撃されていく「魔」
・主人公の祖父が亡くなり、その通夜の直後、先祖が屋敷の中庭に封印した「とある存在」が事件を巻き起こす「水神」
の4つの短いストーリーから成り立っています。
これら4つの物語は一見繋がりの無い話に見えますが、どの話にも謎の骨董屋「芳蓮堂」が登場することが共通していて、ひとつの世界観の中に収まっています。
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それぞれのストーリーで、怪異の正体や真相について詳しく描かれるということはありません。
身も蓋もない言い方をすれば、物語の詳細は結局不明瞭なまま、ストーリーは終わってしまいます。(それゆえに、人それぞれ考察したり想像を膨らませる余地が多分に残されていて面白いのですが。)
個人的に読んでいて、これら4つのストーリーに共通するテーマは、
「神聖なものは、本来目に見えてはいけないし関わってもいけない」
ということなのかな、と思いました。
ストーリーの1つ「魔」では、主人公は"胴の長い謎の獣"に出会ってしまうことをきっかけにして凶事へ巻き込まれていきます。
「水神」では、主人公の一族・樋口家の始祖・直次郎がかつて京都・琵琶湖疎水の建設工事に携わっていたことが語られています。(工事中には地面を掘削すると地下から水が湧いてしまい、かなり難航したという描写も。)
また、屋敷の中庭に祀られていた祠には、かつて工事に使用された排水ポンプが祀られていました。(この祠が、作中で大騒動を巻き起こすのですが...)
これは作中で名言されていないので僕の想像ですが、恐らく直次郎が工事中に、タイトルにもある「水神」と出くわしてしまったのではないでしょうか?
出くわしてしまった"モノ"の祟り(?)を鎮めるため、中庭に祀っているとか...?
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かつて、
「神様というのは本来人間の目に見えてはいけないもので、幽霊を見てしまうよりも神様を見てしまうことの方が怖ろしい」
という話を聞いたことがあります。
神社とかで御神体を移動させたりする時も、見えないように布で覆ったりしますしね。
現代創作都市伝説「八尺様」とかも、その存在が見えてしまった段階でアウトですよね。(しかもあれって死者とか幽霊の類じゃなくて、元々集落で祀られてた存在だったし。やはりあれも「神様」に分類されるのでしょうか?)
根底には「神様は目に見えてはいけない」という思考につながるものかもしれません。
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これを踏まえて思い返して見れば、「夜は短し歩けよ乙女」でも超人的な力を持った謎の人物「李白さん」が登場します。
作中では、彼が風邪を引くことで街全体に大きな災いをもたらしていました。
李白さんの正体もよく分からないままですが、ある意味では彼も超越的な力を持つ「神様」的な存在なのかもしれないですね。
彼が現れ、主人公たちが彼と関わってしまったことで、やがては大災害へつながっていくと。。。
そう考えると、「夜は短し歩けよ乙女」も一見大学生の青春小説っぽいですが、実は怖い話にも感じられます。
「聖なるものを見てはいけない・関わってはいけない」のタブーは、「きつねのはなし」のみならず、「夜は短し歩けよ乙女」にも共通するテーマなのかもしれません。