「排除の論理」が組織を壊すとき
――萩市議選に見る共産党の人材戦略の限界と民主主義の危機
特定社会保険労務士・作家 北出 茂
2026年4月26日に行われた山口県萩市市議会議員選挙は、地方政治の一事例でありながら、日本の政党政治が抱える根本的問題を浮き彫りにした象徴的な出来事であった。とりわけ注目すべきは、宮内欣二(きんじ)氏が、県議である大山奈々子氏の意見を「市民感覚に近い」と評したことなどを理由として、日本共産党から非公認とされた一件である。
そしてその結果として、同党が萩市議会において候補者を擁立できずに議席がゼロ議席になった。
これは単なる地方選挙の敗北ではない。組織運営のあり方、民主主義の実践、人材活用の根本に関わる重大な問題である。
1 「異論の排除」がもたらす組織の空洞化
まず冷静に整理すべきは、宮内氏の行為の性質である。彼は党の根幹政策を否定したわけでも、離党を扇動したわけでもない。ただ一人の政治家として、いわば「市民に近い意見である」と評価を述べたに過ぎない。
この程度の言論が許容されない組織は、果たして民主的組織といえるのか。
企業経営に置き換えれば理解しやすい。仮に優秀な社員が顧客視点から改善提案を行った際、「会社の方針と微妙に違う」という理由だけで処分されたとすれば、その企業はどうなるか。結論は明白である。現場の声は消え、組織は硬直し、やがて競争力を失う。
政治組織も同様である。むしろ政治こそ、多様な意見の調整こそが本質である以上、異論を許容できない組織は自壊に向かう運命にある。
2 議席減少は「偶然」ではない
今回の結果を偶然と見るべきではない。過去2回の選挙によって、議席が「2→1→0」と段階的に減少している点にこそ、本質がある。これは、支持の漸減ではなく「構造的衰退」である。
支持者は決して愚かではない。むしろ極めて現実的である。彼らは次のように判断している可能性が高い。
・現場の声を尊重しない組織
・内部の多様性を認めない体質
・外部との対話よりも内部統制を優先する姿勢
結局、この組織は「住民の利益」よりも「党中央幹部の利益」を優先しているのである。
「全体の利益」(=住民の利益)の上に「個人の利益」(=志位和夫らとその取り巻きの利益)を置く。
こうした組織に、地域の未来を託すことができるのか――その問いに対する答えが、議席ゼロという結果である。
3 「人材を活かせない組織」は衰退する
宮内きんじ氏は、長年にわたり地域に根ざし、農業、教育、福祉といった分野で具体的な成果を積み重ねてきた政治家である。いわば「現場型人材」である。
こうした人材は、企業でいえば現場を熟知した中核社員に相当する。彼らを排除する企業は、短期的には統制が強化されるように見えるが、中長期的には確実に衰退する。なぜなら、現場を理解する人材がいなくなるからである。
政治においても同様である。
理念を実装するのは現場の人間である。現場型人材を失った組織は、やがて理念すら空虚化する。
4 労働法的観点から見た「組織と個人」
ここで社労士として指摘しておきたいのは、「組織の統制」と「個人の尊重」のバランスである。
企業においても、就業規則や指揮命令権は重要である。しかし、それが過度に強化されれば、パワーハラスメントや不当解雇といった問題に発展する。
政治組織も同様である。党の方針は必要であるが、それが個人の言論や判断を過度に拘束する場合、それは民主主義の否定に近づく。
一方で、組織側の事情も理解すべきである。組織として一定の統制が必要であることは事実である。
しかし、それでもなお、今回の対応は「過剰防衛」であったと言わざるを得ない。
5 社会的弱者の視点から見た問題
本来、日本共産党は社会的弱者の権利擁護を掲げてきた政党である。その理念自体は重要であり、多くの人々にとって必要な存在である。
しかし、今回のように内部での異論を排除する姿勢は、弱者の声を拾い上げる能力そのものを損なう危険がある。
なぜなら、弱者の声とは往々にして「既存の枠組みからはみ出る声」であるからだ。
それを許容できない組織が、外部の多様な声を受け止められるとは考えにくい。
6 結論――民主主義とは「不完全さ」を許容することである
今回の萩市議選の結果は、単なる一地方の出来事ではない。日本の政党政治全体への警鐘である。
民主主義とは、完全な統一ではない。むしろ、不完全で多様な意見を抱えたまま、それでも前に進む仕組みである。
異論を排除することで組織は一時的に安定する。しかし、その代償として「現実との接点」を失う。
企業であれ、政党であれ、最終的に生き残るのは「現場の声を活かせる組織」である。
今回の結果は、その極めてシンプルな原則を、改めて示したものと言える。
そしてもし、この教訓が活かされないのであれば、同様の現象は他の地域、他の組織でも繰り返されるであろう。
民主主義の発展とは、単に制度を守ることではない。組織の中において、異なる意見をどう扱うか――その不断の実践にこそ、本質があるのである。
■参照情報
・2026年4月26日 山口県萩市議会議員選挙結果
・宮内きんじ氏 略歴資料
・日本共産党の組織運営に関する一般的知見
・労働法(組織統制と個人の権利に関する基本原則)