高額転売ブームの裏で、ポケモンカードは新しい“通貨”になった。
2024年4月、東京で暴力団関係者がカードショップからトレーディングカードを盗み、逮捕された。
1枚数十万円の希少カード。だが、この事件が示したのは、単なる窃盗ではない。
かつて「シノギ」と呼ばれた裏社会の資金源が、
いまや子どもの遊び道具にまで手を伸ばさなければならないほど、崩れ落ちているという現実だった。
暴力団の“ビジネスモデル崩壊”
暴力団の資金源は、長く建設、飲食、風俗、賭博など“現金の動く産業”にあった。
しかし法規制と社会的排除の進行により、銀行口座の凍結や取引停止が進む。
結果、従来のシステムが回らなくなり、“現金商売”に依存せざるを得なくなった。
金が動かない組織は、もはや力を保てない。
今回の事件は、まさにその象徴だった。
トレカ市場という“新しい闇”
近年、トレーディングカード市場は爆発的に拡大した。
希少カードは1枚で車が買える値段になることもある。
そのため、カードショップや個人コレクターが新しい“狙い目”として浮上した。
中古市場の匿名性、メルカリなどでの転売ルート――。
これらが、闇市場の新しい資金循環を作っている。
裏社会が金の匂いを嗅ぎつけないわけがない。
暴力団の“末端化”と変質
今回逮捕された組員は、いわゆる幹部格だった。
それでも、やっているのは「カード泥棒」だ。
このギャップこそが現在の暴力団の実態を物語る。暴力も権威も通じず、資金もない。
組織の末期は、もはや“反社会勢力”ではなく“社会の周辺に取り残された人々”になりつつある。
その姿は、もはやアウトローではなく、生き残りを賭けた弱者そのものだ。
ポケモンカードを盗んだ暴力団員の姿は、単なる犯罪者として切り捨てられるものではない。
暴力団という存在は、かつて社会の“裏側の調整役”として機能していた。
グレーゾーンの取引を捌き、誰も手を出さない領域で責任を負ってきた時代が確かにあった。
だが、法規制と社会的排除が進み、その役割が完全に否定されたとき、
彼らは居場所を失った。
暴力を封じられ、資金も絶たれ、最後に残ったのは“社会に取り残された人間たち”という現実だった。
そんな中で、子どものカードを盗むという行為は、堕落ではなく、縮図だ。
裏社会という仕組みを社会が不要とした結果、
その“余剰”として取り残された者たちがどう生き延びようとしているのか。
それを、この事件は静かに映している。
暴力団を擁護する必要はない。
だが、彼らを生んだのもまたこの社会だという事実だけは、忘れてはいけないのかもしれない。