地震、豪雨、土砂災害。日本では毎年のように「助け」が必要とされる状況が生まれる。
行政、企業、ボランティア、市民。あらゆる人々が動き出し、支援の輪が広がる。
その光景は、社会の力強さを示すものでもある。
だが、その裏で必ず動く者たちがいる。
人々の善意が集まる場所には、必ず「利益」を嗅ぎつける影が現れる。彼らは力ずくではなく、合法の仮面をかぶって近づいてくる。反社会的勢力やそれに近い構造を持つ業者たちだ。
たとえば、最近報じられた悪質リフォーム業者の摘発事件では、災害を口実に「屋根が危ない」「すぐに直さないと保険が下りない」と高齢者宅を回り、高額な工事契約を結ばせていた。実態は、反社関係者とつながる下請けネットワークが資金を吸い上げる構造だった。
また、震災復興や土砂災害の解体工事現場では、無許可で工事を請け負い、代金をだまし取る例も後を絶たない。表向きは「地元業者」や「支援団体」を名乗りながら、その裏では廃棄物の不法投棄や補助金の不正取得が行われている。
かつての反社会勢力は、暴力と恐喝で金を動かした。しかし近年は、経済の中に溶け込む形へと変化している。
建設、運送、清掃、リサイクル、人材派遣――。
いずれも、災害時に必要とされる業種であり、現場では「助ける側」に見える存在だ。だが、その一部は資金洗浄や名義貸しのルートとなっている。
暴力団排除条例が全国で施行されたいま、彼らは“フロント企業”として合法業に擬態し、社会の善意を利用して利益を得る方向に舵を切った。
さらに近年目立つのが「トクリュウ」と呼ばれる匿名・流動型犯罪グループの存在だ。暴力団のような組織的序列は持たず、SNSを介して人を集め、短期間だけ動く。災害時の物資輸送や人員派遣を装いながら、詐欺や個人情報収集に転用するケースもある。
従来の“反社”の定義では捉えきれない新たなグレーゾーンが、支援現場にまで浸透しつつある
「支援団体」と名乗る者の中にも、問題は潜む。
寄付金の使途が不明瞭な団体、活動実態のない“幽霊ボランティア”、あるいはSNSで寄付を募りながら個人口座に資金を集めるケース。こうした行為は必ずしも暴力団の仕業ではないが、結果的に反社会的な資金流通に加担することもある。
善意の寄付は、透明性が確保されなければ「資金源」に変わる。
公的機関や自治体の認定、会計報告の有無を確認するだけでも、被害は減らせるはずだ。
被災地で活動する行政や企業、市民が持つべき視点は明確だ。
それは、「相手を信じる」ことと「確認する」ことを両立させる意識である。
ボランティア登録や業務契約を急ぐ前に、許可証や登記情報を確かめる。
寄付金を送る前に、その団体の活動実績を調べる。
たったそれだけで、“善意の出口”が悪用される可能性を減らすことができる。
行政の側でも、復旧事業の入札や補助金支給において「反社チェック」を形式的に終わらせず、下請け・再委託の段階まで監視する仕組みが求められている。
反社は法を恐れないが、仕組みと透明性を嫌う。
見える化の努力こそが、最大の防御になる。
ただし、人間というものはとにかく疑うことを嫌う。
「せっかく手を差し伸べてくれているのに」という気持ちに負けて、確認作業を怠ってしまうのである。悪徳業者らはこう言う人間らしい部分につけ込んでくる。
災害のたびに問われるのは、「どれだけ早く支援できるか」ではなく、「どれだけ正しく支援できるか」だ。
反社が入り込む隙は、制度の穴ではなく信頼の穴。
“助ける”という美しい行為を、誰かの食い物にさせないために――。
社会全体がもう一歩、疑う勇気と確認の習慣を持たなければならない。