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渡鹿野島遊び2016

2016年夏、渡鹿野島で女遊び(泊まり)をした際の記録。

 彼女は自らの汗ばんだ腕を、私の腕にからませ、体を密着させるようにして、暗い路地を案内していった。

 さきほどの服装とは違い、彼女は白い半袖の上着に、ジーパン生地の短パンという、夏らしく露出の多い出立ちである。


「暑いなァ…」

 と彼女は言いながら、さきほど私の部屋のティッシュからとった一枚で、しきりに顔の汗を拭っている。もしかすると彼女は、汗で化粧が落ちて印象が悪くなり、私から「チェンジ」を言いわたされるのを恐れているのかもしれなかった。まだ性的な行為に到っていないため、私が女の子を替えたい、あるいはキャンセルしたいと言えば、それも可能なわけである。

 

 そんな弱い立場に置かれている彼女に対し、私の本来の性格としては「優しさ」を感じるはずであったが、その時の私には心の余裕がなかった。娼婦に対する優しさよりも、相手が外国人であることへの不安の方が大きかったのである。


「アナタ、いくつか?」

 と彼女が問うてきたので、三十一だとこたえると、

「三十一!?エリー三十よ。近いなぁ!」

 彼女は源氏名をエリー(仮名)と言うらしかった。

 

 私は、まだ不安の残る頭の中で、

(三十か…。たしか、この子に似ていた例の水商売の女性も同じく、俺のひとつ下だったな…)

 などと、どうでもよい事を思い出している…。


 つづく

 二十時半に旅館にかえり、風呂に入る。二十二時に女の子が迎えに来るそうだから、それまでにゆっくりと仕度を(心の準備もふくめて)すればいい。私はそう思っていたのだが、時計が二十一時半をさしたころに、

 

 ドン、ドン!

 と扉が叩かれ、さっきの女の子が一人で入ってきた。

「行くよー」

 女の子は私を陽気な声で誘ったが、彼女の日本語にはどこか、片言の響きがある。


(そうか…日本人ではなく外国人だったか…)

 

 私はてっきり、彼女が日本人だと思いこんでしまっていたのだ。「顔見せ」の時にとくに会話を交わさなかったし、その上、私がむかし知り合いだった水商売の女性に雰囲気が似ていたことからつい、外国人である可能性を忘れてしまっていたのである。

 

 彼女は、私が冷房の設定温度を高めに設定していた部屋で、

「暑いなァ…。アナタ、暑くないか?一枚、もらうよ」

 と、汗を拭くためのティッシュを一枚拝借したりしている。外国人ならではの、独特なハイテンションで彼女は話した。


(はたして、俺はこのテンションについていけるのか…?)

 という大きな不安を抱きながらも、私は急いで仕度を終えなくてはならない。彼女が迎えに来た時間が早かったため、身仕度が整っていなかったのだ。

「行くヨ、はやく、行くヨ」

 と彼女に拉致されるかのごとく、私は旅館から出たのだった。


 つづく



 女性の顔見せも終わり、ようやく肩の荷が下りた私は、入浴前に少し島を散歩することにした。


「ちょっと散歩してきます。初めて島に来たんで、いろいろ見ておきたくて…」

 とお女将にことわると、


「どうぞ行っておいでなさい。何もない島で面白味がないでしょうけど…」

 と言っていたが、この散歩はなかなか面白かった。

 娼婦が男性客と深夜に食べに行く、という噂のラーメン屋の提灯に、すでに明かりが灯っているのを見つけたり、廃墟スナックの扉の中の暗闇を、おそるおそるのぞいてみたりした。

 

 最後に、海岸に出てみた。まだ二十時だが、すでに人気のない暗い海であった。はるか遠方に、夜釣りをしているらしい男性が一人、かろうじて見えるだけである。

 

 黒い水面に、オレンジ色の電灯の光が反射して、ゆらゆらと線香花火のような儚さで揺れていた。私はその様を飽くことなくながめながら、これからの一夜の方針を「一人会議」したりした。


(渡鹿野島の娼婦の年齢が高めだと聞いていたから、もし娼婦と一夜を過ごすことになるとすれば、年上の女性と心の交流をするような”しみじみした夜”になるだろう、と予想していたが…。さきほど俺が選んだ女の子は割と若そうだったし、よく喋りそうな子だったから、俺も少し方針を変えて、テンション高めな感じでいった方がよいかな…?)


 つづく


 もはや直感である。二人の女性が部屋に入ってきてから、わずか十秒間ほどで、私の心は決まっていた。しかし、二人を目の前にして「こっちで!」と指さすわけにもゆかない。お女将は部屋の外に出ているため、お女将に意思を伝えることもできない。

 

 気まずい沈黙が一分間ほどながれた。私が身の処し方に悩んでいると、白い服を着た方の、私の判断から既に外れてしまっている女性が、

「いったん外に出て、お女将に(どちらがいいか)言ってもらいましょうか。その方が…いいですよね…?」

 と私に確認した。私はその女性に、自分の選択が見透かされている気がして、なんだか申し訳なかった。

 

 二人が部屋から出て、お女将が入ってきた。私は二人の名前を聞かされていなかったので何と伝えればよいかわからず、


「えっと…ちょっとふっくらとした体型の方の…」

 というような説明しかできない。お女将は少し首をかしげていたが、

「黒い服を着た方の子かな…?」

「あっ!そうです」

「…では、お代金の方を、頂戴しても…?」

「はい、はい」

 

 私は財布から四万を出し、お女将にわたした。これで、今夜のだんどりは全て整ったわけである。

 

 それにしても奇妙な感じであった。写真から女性を選ぶのならともかく、目の前に二人の女性があらわれ、

「この二人から、今夜の相手を選んでください」

 などという状況に我が身をおくことは、人生において今までもこれからも、二度と(この島に再び遊びに来ようという気をおこさないかぎりは)無いだろう。

 

 廊下でお女将と二人の女性の声が遠ざかっていくのを聞きながら私は、

(申し訳なかった…)

 と、選ばなかった方の女性に心の中で頭を下げていた。

 

 彼女はあのような境遇にいる以上、いちいち気にしていないとは思うが、今ごろお女将から私の判断を聞いて、多少は傷ついているかもしれない。そう思うと、罪悪感が湧いた。


 「顔見せ」 了


 

ドン、ドン!

 と私の部屋の扉が叩かれ、お女将があらわれた。十九時四十分くらいである。

「女の子連れてきましたんでねぇー。気に入った子がいたら、ぜひ…」

 とお女将は言って、いったん廊下のほうへ出ていった。入れかわりに、女性二人が部屋に入ってきた。

 

 一人は、大胆に胸元のひらいた黒い服を着た、豊満な肉体をもつ女性で、明るい性格なのかニコニコしている。もう一人は、白い清楚な感じのする服装をしているが、先の女性と比べると笑顔がなく、控えめな印象である。

 二人は、座っている私の目の前に正座した。


(二人、だけか…)

 私は八人くらい女の子がずらりと並んで「この中から一人お選びください」と言われる光景を想像していたために、少し拍子抜けしてしまった。しかし、二人だけで十分と思えた所もあった。先の笑顔の女性を、私は一瞬のうちに気に入ったからである。

 

 肉づきのよい体をしていて、よく喋りそうな明るいオーラをもっている。テンション高めの会話をする夜の商売にはよく合っていそうな女性である。ひと晩一緒に過ごすなら、こういう相手がふさわしい。むかし私が気に入っていた、水商売をしていた或る女性に、やけに見た目が似ていた、という点も作用していた。


 つづく